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第5章

出発

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 昼食の後はすぐに部屋を後にしたディランはそのまま帰ってくることが無く、忙しく動き回っているようだった。しばらくそのまま忙しくしているといいさ。

 もちろん忙しいのはディランだけではなく、他のみんなも城の中をうろうろとしていたり、人と会っていたりした。ルーナは宮廷魔導士の知り合いと話して最近の情勢を聞いていたし、ポートやリーノもそれぞれの知り合いと会って情報を共有していた。エラルダだけは少し違って、離宮に勤めている人たちがいる城の一室で2,3人と何か打ち合わせをしていた。

 なぜここまでみんなの動きを把握しているのかというと、体がある程度大きくなったことで体の自由もきくようになったので、試運転もかねて城中に極細の触手を張り巡らせて視界を飛ばしているからである。

 結果は上々で、まだ隅々まで伸ばすことはできないけれど、十分みんなの動きを知ることはできた。ただ、城に張り巡らせれば本隊は豆粒くらいの大きさになってしまうので、まだ人の姿を保ってすることは出来なさそうだ。

 ある程度大きくなったので、人の姿になって動き回る練習も行った。走り回っていると少し足がもつれてしまうことがあるけれど、概ね良好といえた。本くらいの重さの物を持とうとするとまだ手の形を維持できないけれど、そこは体を大きくしていくしかない。このまま順調に回復すれば元に戻れそうだと安堵した。

 魔導書を読んだりリハビリしたりみんなの動きを見たりで時間が過ぎ、あっという間に夜になった。

 夕食を終えたディランが一度部屋に帰ってきて、私たちを入れた袋を抱えてみんなが集まっている部屋に向かう。

 「また怪しまれたりしませんか?」

 「怪しまれても相手にしなければいいだけだ。相手は王子や姫で、道理をわからないような者ではないからな。」

 ディランの言った通り、大きな袋を抱えるディランを不思議な目で見る人はいたけれど、誰も深く追求することはなかった。精々が「持ちましょうか?」とか「使用人に運ばせますが。」というようなものだった。

 前回のようにフェルノア姫に会うことも無く、他の王子とも会わずに無事部屋に辿り着いた。部屋に入ると、全員が席に座った状態で待ち構えていた。

 「待たせたな。」

 ディランは一言そう言って袋をみんなが囲む丸テーブルに降ろす。私たちが袋の中から出てくると、みんなが少し表情を和らげた。

 「体が少し元に戻りましたね。安心しました。」

 ルーナが私たちを撫でながらそう言う。他のみんなもルーナの言葉に頷いているので、余程心配をかけたのだとわかる。

 私たちは人型になってぺこりと頭を下げた。

 「ご心配おかけしました。この調子ならすぐに元に戻れると思います。」

 「ならレナのところでたらふく食えばいい。あっちなら少々多く料理を頼んでも不審がられることはないしな。」

 ポートがそう言って笑い、リーノとエラルダの笑みが少しだけひきつる。恐らくランベルがいるからという裏の声が聞こえてきたからだろう。ランベルはリングルイで一番お酒を飲むし、一番食べる。もしかしたらランベルにかかった今までの費用を思い出したのかもしれない。

 「まあ、そうだね。何はともあれ、すぐに回復しそうで良かったよ。」

 「ライムがすぐに回復しないと色々と不都合も起こりますからね。その可能性が消えてほっとしました。」

 私たちの話題はそこで終わり、すぐに気を張りなおした。これからの予定をおさらいし、今日の成果を共有する。

 ディランは今日のところは訪ねてくる貴族を捌くだけで精いっぱいだったようだが、それでもかなり多くの知己を得ることができたと言う。元々ウォルトス王子が声をかけて固めていたディラン派の貴族ばかりだったのでそれ程問題もなく、話し合いはとてもスムーズに終えたそうだ。

 ルーナは宮廷魔導士から話を聞き、最近の王族事情を聴いたそうだ。主だった動きまではわからなかったけれど、最近よくクライフ王子を訪れるアース連合の男女がいるそうで、最小限の側近だけ残して話しているそうだ。

 ポートとリーノは昔の伝手を使って貴族の情報を集めてきた。情報収集を生業としているポートの元同僚に聞いたので、かなり詳細な情報を聞き取れたそうだが、仕事柄国や国王に不満を持っている貴族に偏っているので幅はない。リーノはその逆で、色々な人に話を聞いてほとんどの貴族の話を聞いていた。公爵家の一員であるリーノは上から下まで幅広く知り合いがいるので、情報を得るのが容易だったこともあるだろう。

 エラルダは引き継ぎに関する事を秘密裏に行っていたらしい。副団長が怪しいという事なので、あくまでも最近の離宮の情報を得るためという名目で様々な書類に目を通し、既に実務を行える程度には引継ぎを終えたそうだ。元々副団長だったのでそこまで難しくはなかったという。

 「ああ、それから王太后様がライムに会って話したいことがあるそうです。お手数ですが、外での仕事が片付いた後に、こちらに向かってくれませんか?」

 そう言って渡した紙には簡単な地図が描かれていて、小さく丸が付いた場所をエラルダが示した。

 「これは・・・もしかして庭ですか?」

 「そうです。聞けばライムが王太后様に初めて会った場所だそうですね。側近は近衛騎士団長と侍女長のみで、他は声の届かない遠くまで下げるとのことです。会う時は人型でお願いします。」

 初めてコルネリア様に会った広い庭であってほしいらしい。エラルダの雰囲気から何となくあっておいた方がいいような気がしたので、私たちは了承しておいた。

 全員の報告が終わると、予定通りに私たちは窓から城を抜け出すことになる。

 「ライム。焦らず、慎重に動け。必ずレナたちと合流して、任務を成し遂げ、無事に帰って来い。」

 ディランの激励を背に浴びながら、私たちは窓の外に飛び出して夜の闇に紛れ込んだ。
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