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第4章

皇国部隊との合流

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 クライフ王子の件はひとまず置いておいて、今はドラゴン討伐に集中することとなった。

 レゼシア王国側にも前もって皇国とディランが立てた案を前もって伝えておいたところ、部隊長をはじめとして多くの兵士や騎士が安堵の息をつく。

 「ホーステリア帝国との関係が悪くなりそうではありますが、ドラゴンから被るであろう被害を考えれば実にありがたいことです。第2陣に控えているリアナ様へも進軍再開の報とともにお伝えしましょう。恐らく賛同してくださると思います。」

 明朝、リアナ率いる第2陣へ進軍再開の旨を伝えるために早馬を出し、第一陣は進路を国境門に向けて進めた。

 オークラットへも調査のために数人残しているが、もともと戦力としては薄く、情報収集の方が得意である者を残しているので、作戦自体にはほとんど支障はない。ドラゴン討伐ないし撃退が成功した後の帰還時に回収する予定のため、それまではじっくりと調査を進めてもらうようになっている。

 「クライフ王子のことは後の問題となるとはいえ、無視はできませんからな。証拠が見つかった場所は秘密裏に作られたものなので、他にもよくよく探せば新たな証拠が見つかるかもしれません。」

 用心深いと言われるクライフ王子のことだから、もう新たな証拠は見つかることがないとは思うけれど、何も目に見えるものだけが証拠というわけでもない。オークラットへ何度も足を運んでいたのならそこに住む者たちから何か聞き出せるかもしれないし、オークラットからの移動先もわかるかもしれない。一度証拠が見つけられたのだから、今度はこそこそとせず堂々と情報を集められるので、作業は比較的スムーズに済むだろう。

 混成部隊を率いて国境門まで着くのにはエレアナとリングルイだけで移動するよりもかなり時間がかかった。私たちだけならば1日で着く距離でも、全員が馬や馬車に乗っていない部隊単位では倍以上も移動に時間がかかる。まだ部隊を3つに分けて動いている分、統制が取れやすく比較的早く移動できているとはいえ、じれったい気持ちでいっぱいだ。

 部隊は大きくなればなるほど移動が難しくなる。いつ会敵しても戦闘に移れるように最低限は陣が崩れないように歩調を合わせなければならない。そうなると、騎乗していない歩兵などの速さで動かなければならないために、かえって普通に徒歩で旅をするよりもやや遅い進行となってしまうのだ。

 今まで馬をガンガン走らせて移動していた分、私たちからすると亀の歩みのようにノロノロとした動きに見えて仕方がない。

 けれど、だからと言って歩兵のペースを上げれば、いざという時に体力切れとなっていてまともに動けないという状況になりかねない。

 じれったい気持ちになってしまうのは仕方がないけれど、ここは冷静になってみんなの進行に合わせなければ。

 国境門までやっとのことでついたのは、進軍を再開して2日目の夕方ごろのことだ。

 その頃には既に第2陣が王都を出発したという情報も届いていて、次の日には第3陣も出発した。

 第1陣が出発してかなりの時間を要しているのは、別に第2陣以降にトラブルがあったというわけではなく、第1陣が足を止めて野営しているところに第2陣も合流してしまえば、食料の消費が莫大となってしまうからだ。

 王都でいるのと外で野営するのとでは体力の消耗が段違いだ。ゆっくりと眠れる居住スペースで休息するのと違って、交代で見張りを置きつつ真の意味で心休まることがない天幕の中で寝るのでは雲泥の差がある。持ち出せる食料も決して多くはないし、冬ということで外にいるだけでガンガンと体力が削られる中の行軍停止である。そこに第2陣が合流すればどうなるかは言わずとも知れることだ。

 第2陣の物資がただ消費されるだけとなるよりは、王都にとどまって行軍が再開されるのを待って、最低限の物資を送り続ける方がいいだろう。だから第2陣の出発にこれだけの時間がかかったのだ。

 国境門を抜けた後は皇国の南東、国境門からはやや東寄りの北東にある街レギィルへと向かう。国境門からはこのペースで行って3日程の距離にあるそうなので、最終的にドラゴンの下に向かうのは1週間ほど後になるだろう。

 そんなに悠長にしていていいのだろうかとも思うかもしれないけれど、これでもこの世界では急いでいる方なのだ。車や電車や飛行機などがある私たちの世界では、国を渡るのでさえ数時間ほどで済んでしまうけれど、この世界ではそういう交通機関がほとんど発達していない。

 魔動車があるのでもう少しすれば移動の時間も大幅に短縮できるようになるかもしれないけれど、まだまだ高価で供給も非常に少ない。とても軍事運用するには足りないのだ。

 この世界では脅威となるものの存在が多すぎる。陸はもちろん、空も海も、とても安全と呼べる場所がないのだ。電車も飛行機も船も運用するのは難しいだろう。

 このうち船だけは発達しているけれど、それでも鉄製ではなく木製だ。海難事故もかなり多いと聞く。海を渡るために何人もの優秀な魔法使いや魔導士が護衛につかなければならず、それでもまともに海を渡ることができるのは本当に近い距離のみで、大陸間を渡ろうものなら10隻中7から8隻は海の藻屑となるらしい。

 (そう考えると、この世界でまともに飛行したのって私たちが初めてなんじゃない?)

 (あれをまともに飛行したというのかは難しいけど、そもそも私たちは人じゃないからね。)

 人じゃなければ飛んでいるものは他にもいるし、そもそもあれは飛んだというよりは吹き飛ばされたというのが正しいだろうと美景は言う。確かにあれを飛んだと言ったらライト兄弟にぼこぼこにされる気がする。

 時間だけはたっぷりとあるのでどうでもいいことばかりを考えていると、すぐにレギィルの街にたどり着いた。

 レギィルは村と言われても頷いてしまえる程に小規模な街で、辛うじて貴族が住んで統治しているから街という体を保っていられるだけだった。

 住居は1階建てのものがほとんどで、隣同士は1軒分ほども離れているためにすかすかのように見える。今は集まっている皇国の騎士と兵士で大いに賑わっているけれど、普段はこれほどの人を見ないためか住人は家の中から外を眺めているだけだし、商人は対応に慌てふためいている。

 「この街はかなり小規模ですね。」

 私たちがそうルーナにだけ聞こえるように耳元まで細い触手を伸ばして囁くと、ルーナも視線を不用意に動かさないように小さな声で返してくれる。

 「本来は貴族が街を発展させるために色々とやりくりをして人口を増やし、産業を活性化させるのですが、あたりの状況から考えて、ここの貴族は少々問題がありそうですね。」

 これだけ統治する街が小さくなれば、それだけ貴族に入る税も減る。近隣の村からの税はほぼ全てが農作物なので、税金は治めている街からしか得られないのだ。だから多くの商人を呼び、商品を買う住民を集め、商品を買うための金を稼がせ、その金の一部を税として納めさせる。うまく街を発展させることができればそれがそのまま統治する貴族に還ってくるように働きかけるのだ。

 しかし、これほど寂れていれば当然税収も少なくなり、活気がない街からは商人も出ていき、どんどんと負の連鎖が始まるのだ。

 それなのに、この街の中心にほど近い場所にはえらく大きくて豪華な建物が一つだけ存在している。遠くから見ても他の住居と見比べて明らかな違いを見せるその建物は、ついている大きな庭から手の届きにくい屋根の上まで手入れが行き届いているようで、とても寂れた街の貴族が住む家とは思えなかった。

 「あまり他国の貴族に干渉することはできませんが、少し話をしておいた方がいいような気がしますね。」

 何か裏があることは間違いないだろうけれど、それを面と向かって言うことは他国の人間には許されていない。それが例え王子であったとしても、実害がない限りは口を出すことができないのだ。

 けれど、こそっとアスラあたりに言っておくことはできるだろう。レゼシア王国の者がアスタリア皇国の者に口出すことは難しくても、アスタリア皇国の者がアスタリア皇国の者に口を出す分には何の問題もないのだから。

 そうこうしているうちに中央広場に集まっていた私たちの前に、皇国側の指揮官連中を連れてアスラが歩み寄ってきた。

 「なんとか大きな被害が出る前に合流できたの。」

 「ええ。こちらもあと数日で全員がそろいます。それまで作戦のすり合わせをしたいと思いますが。」

 「わかっておる。部隊長らを連れてこちらに。」

 アスラに連れられて一軒の空き家に向かい、そこで正式なレゼシア・アスタリア両国の合同会議が開かれるのだった。
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