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第4章

今後のお話し 1

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 レナが泣き止むまでしばらくゆっくりとした時間が流れた。メイリーンやポートはやれやれといった感じで薄く笑みを見せているし、リーノやラルゴス、エラルダはやっと落ち着けるとばかりに各々椅子に座って息を吐いている。ニーナはレナと同じく涙を浮かべていて、無事に解決してよかったと笑っていた。

 ディランの顔からも怒りは消えている。安堵の思いが表れていて、いつものように柔らかく優しそうな表情に戻っていた。

 「レナ。そろそろ泣き止んでくれないか?今はまだ、すべてが解決したわけではないんだ。」

 ディランがそう声をかけると、レナは渋々といった感じでルーナと私たちから離れて、布でひどい状態になっている顔を拭う。

 「さて、無事再会を果たしたというところで、まずは順を追って現在の状況を説明することにしよう。お前たちが離れている間にも事態は少し変化したからな。聞いておいてほしい。」

 そうしてディランからここ数日間のディラン達側の行動と、その中で知った全体の動きの説明が行われた。

 まず、ドラゴンに襲われて、私たちとルーナと別行動となってから、ディラン達はまず壊れた馬車を置き去りにして近くの村へと向かったようだ。荷物は怪我を奇跡的に免れた馬に乗せ、その荷物自体も少なかったので、幼いナティーシャを乗馬させて向かったそうだ。

 ただ、近くの村とはいえ歩いてとなると少し距離が遠く、日の傾き加減から一度は夜を明かさねばならなくなった。荷物のほとんどを私たちに預けたままの状態で、そのまま雪の積もる野原に野営することなどとてもできず、一行は洞穴のように簡単に野営できる地点を探した。

 なんとか小さな洞穴を見つけたあとは、ポートが道具がなくてもできる簡単な罠を張り、レナが冬眠している動物や冬にしか見つけられない木の実類などを見つけ、ディランとアナトリアが手分けして薪をかき集めた。

 今回いい活躍を見せたのはなんとアナトリアらしい。ルーナに予め魔法を教え込まれて大分扱いが慣れてきて、薪に火をつけたり調理に必要な水を出したり、調理器具を洗ったりと、何でもないように聞こえるけれどとても重要なことをルーナの代わりとしてこなしてくれたのだ。

 学校で魔法を教えられていたころには雪でしけった薪を燃やすだけでも相当魔力を使っていたのに、必要とされる場面で難なく魔法を使えるようになってきたアナトリアは、今回随分と奮闘してくれたのだそうだ。

 頑張ったのはアナトリアだけではない。いつも弱気で姉や私たちの陰に隠れがちだったナティーシャは、みんなが大変そうにしているのを見て少しでも役に立とうと動いてくれたらしい。それこそ、ルーナが抜けた穴を埋めるためにアナトリアとともに寝ずの番を買って出てくれたらしいし、今回のことで大きく成長で来ただろうとディランは言う。

 そうしてお互いが抜けた穴を必死で埋めつつ進み、村にたどり着いてからは小休憩を挟んだのちに抱えられるだけの食糧と馬数頭を買って皇都を目指した。

 とても人数分も馬を買うことはできず、馬車も村では売っていなかったため、女性を馬に乗せて男性は強歩というなかなか体育会系の動きで皇都を目指したそうだ。

 そしてついに昨日。私たちがもう少しで皇都にたどり着くというところでやっとディラン達は皇都に到着し、すぐさま皇王に謁見を求めたのだ。

 「さて、ここからが本題だ。なかなかに面倒な話でありながら、今回のドラゴン討伐とは全く関係がない話となるのだが、しかし後々どうしても障害となるだろう問題だからな。よく頭に入れておいてほしい。」

 そう前置きしたディランは、この場にいないアナトリアとナティーシャの話に移った。

 二人は予定通り皇王の名の下に身柄を保護されたのだが、その後にウェインバーク子爵家に使いを出したところ、その日のうちに緊急の封書をギルドの役員が息を切らして持ってきたのだという。

 その封書は使いに出した者からで、その内容は、ウェインバーク子爵家が魔王国との繋がりの疑いありというものだった。

 ここで問題となるのが魔王国である。他の国との繋がりがあるというならば、それが国を脅かすための謀を企てているのでなければ対して意識する必要もないし、他の貴族も自身の領と国の活性化のために多かれ少なかれ他国との繋がりは有している。

 しかし、それが魔王国となれば話は別だ。

 魔王国は現在、全人類と戦争状態にある。規模がおかしいと思うかもしれないが、その範囲は海を越え、人が主体の国家すべてに対して向けられたものである。

 魔王国は魔王が治める魔人のみの国。そして過去の出来事から魔人と人との間には埋めることのできない溝ができ、以来ずっと戦争状態にあるのだという。

 ゆえに、その魔王国と繋がりがあるということはほぼ確実に謀反の意思ありとみなされるのだ。

 今は魔王国側も国力の回復を優先するためと休戦状態になっているけれど、それは休戦であって終戦ではない。戦争はまだ続いているのだ。

 まだ確定事項ではないけれど、その疑いがあると使者から緊急の封書が届けば、皇王も静観してはいられない。二人の娘を捕らえようとしたことにも何か意味があるのだろうと考えた皇王は、保護を厳重にし、ほとんどの面会を謝絶した。

 「ウェインバーク子爵家が本当に魔王国と繋がりがあるのか。アナトリアとナティーシャからも事情を聴いているが、二人は何も知らないといっている。子爵家全体が繋がりを持っているわけではないのか、そもそも誰かの差し金なのかはわからないが、このことはここアスタリア皇国だけにとどまらず、世界全体の問題としてこれから表面化していくことになるだろう。今まで休戦でなりを潜めていた者が顔を出したのだ。直に大きく動き出すことになる。」

 ディランの言葉に全員が真剣な表情となってうなずく。私たちは知らないけれど、この世界の者たちならよく知っていることなのだ。魔人の強大さも、その影響力も、国一つで世界を震撼せしめられるほどに大きなものであるということを。
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