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第4章
ついに王都へ
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馬車を進め、フェンディル領を抜け、いよいよ王都のある中央領に入った。
ここから馬車で2日もすれば王都が見えてくる。いよいよ話し合いということで、みんなの口数が少しずつ減ってきた。
特にディランからは、なにか言いようのない暗いものが窺えた。みんなから感じる緊張ではなく、どこか剣呑なそれは、優しく冷静なディランから普段感じることのないものだった。
アナトリアはあれから少しずつ努力を重ねている。
言われてやる手伝いだけではなく、気を回してしっかりと役に立とうと動いていた。
並行してルーナに魔法を教わったり、レナに戦闘の動きを教わったりして、時折出てくるモンスターとの戦闘でも、みんなの邪魔をしないよう、かつナティーシャを守れるように動くことができるようになってきた。
今も休憩中に自分で入れた茶を振る舞って、ピリッとした空気を和らげるようにしている。
「はい。ルーナさん。」
「ありがとうございます。」
アナトリアの入れた茶はとても美味しいらしい。アナトリア自身が茶や菓子類が好きで、いつもおいしい茶と菓子を用意させていたようで、その関係で茶の良い悪いがわかるのだ。自身で入れるのはまだ慣れないらしいが、それでも誰が入れるよりおいしいらしい。
らしいというのは、もちろん私自身がまだ飲んでいないからである。
アナトリアやナティーシャが起きている間は勝手に動くことはできないし、まして茶を飲むなんてことはできない。
みんながおいしいおいしいと言っているのを、私たちはじっと眺めていることしかできないのだ。
(というか最近まともに食事すらできないんだよね。)
(ナティーシャがずっと抱えてるから、食べるとその分大きくなる私たちはむやみに食べられないしね。寝てる時も肌身離さずだし、かといってこのまま食べずにいると段々縮んでいくし。)
私たちは食べれば食べた分だけ大きくなる。栄養とかそういうもは一切関係なく、質量がそのまま加算されていくのだ。そして、エネルギーが消費されていくたびに、体はどんどん縮んでいく。いわばエネルギーの塊というわけである。
もちろん何もしていなくても少しずつエネルギーは消費されていくので、ご飯が食べられない私たちは日々縮んでいっている。比べないとわからないくらい少しずつだけれど、それも何日も続けばわかることだと思う。
こっそり異次元ポケットから食料を取り出してつまみ食いしたいところだけれど、いきなり大きくなっても怪しまれるので、なかなか量の加減が難しい。
ルーナに1日に一度引き取ってもらって、物陰でこっそりと食料を受け渡していて、その時に食べさせてもらっているのだけれど、精々ステーキ肉1枚分程度。ナティーシャが何とか抱えられている今の状況では急に大きくなるとナティーシャが持てなくなってしまうし、先ほどまでの間隔と差が生じても困るので、調整が難しいのだ。
そんな私たちは今もナティーシャが大事そうに抱えている。
まるでそこが定位置のように、ナティーシャの膝に抱えられている。そのまま縦に座らせるとナティーシャの顔が隠れてしまうということで、斜めに寝かせるような格好で抱えられている。
そんな私たちにちらっと視線を向けるルーナ。けれど、結局何も言わずにアナトリアに入れられた茶を飲んで視線を逸らす。
きっと私たちを膝に座らせたいけれど、ナティーシャから引き離すのもできないので手をこまねいているという感じなのだろう。
アナトリアさんはそれを薄々わかっていそうに困った表情をしているけれど、ナティーシャに返してあげてというのも、ルーナに返しましょうかと言うのも言い出せずにいた。
ルーナとしても、そんなことを言われるととても気まずいことこの上ないだろうから言わないであげてほしいとは思うけれど。
そんな感じで何事もなく旅は順調に進み、ようやく私たちはレゼシア王国王都ガルフィートに到着したのだった。
「ここがレゼシア王国の王都ですか。」
アナトリアとナティーシャが王都の外周を囲む巨大な壁を見上げて感嘆の声を上げた。
私たちも初めて王都を見た。いや、まだ正確には王都の壁しか見えていないのだが、ディランによると、この壁は隣国でも噂されるほど異様に高く、厚い壁として有名なんだとか。その威圧的なまでの大きさに舌を巻いた。
王都に入ろうと並ぶ馬車が10台ほど並んでいるのだが、その10台の馬車を縦に積んでもまだ壁の方が高いだろう。馬車の大きさが大体3メートルほどで、それを10台積めば約30メートル。単純な計算だけれど、壁の高さは30メートル以上と言うことになる。10階建てのマンションくらいの高さの壁が、視界いっぱいに伸びていると言えば理解できるだろうか。
そして、そのとてつもなく高い壁の上にまた更に物見やぐらが建てられている。これほど大きな建造物はこの世界に来てから一度も見たことがない。
「この壁を作るのにかなりの数の魔導士と魔法使いを動員したと聞く。それでも10年や20年で出来上がらないほどと言うからな。それに、壁の厚さもかなりのもので、壁の所々に施した仕掛けによって、ドラゴンに攻撃されても1日持ち堪えるとまで言われている。本当の事かは知らんがな。」
ディランが冗談交じりに言うけれど、本当にドラゴンの攻撃を1日耐えきれるくらいの頑丈さがありそうな気がした。
ただ高いだけではなく、壁の所々がどこか芸術的で、細かな装飾がされている部分も多く見られた。総工費はどれくらいなのか。聞きたいような聞きたくないような、そんな思いだ。
そして待つこと1時間。とてもゆっくりと丁寧な検問がされているようで、私たちの番になるのにこれほど時間がかかったけれど、私たちはほとんど調べられることなく通された。
なぜか。それは聞かなくてもわかることだろう。
「お、王子!?」
「王子が戻られたぞ!すぐに国王様にご連絡を!」
「騎士団に連絡して国王様に伝えるのだ!ディラン王子御一行ですね。すぐにお通しいたしますので、しばしお待ちください。」
こんな感じで門番の詰め所はごった返し、あれよあれよという間に手続きが終わって、無事に王都に入ることができたのだ。
「これからは機会があるごとに帰った方がいいのではないですか?」
「・・・考えておいた方がいいな。何とも頭の痛いところだが。」
ルーナにぼそっと言われ、ディランは額に手を当てて項垂れたのだった。
ここから馬車で2日もすれば王都が見えてくる。いよいよ話し合いということで、みんなの口数が少しずつ減ってきた。
特にディランからは、なにか言いようのない暗いものが窺えた。みんなから感じる緊張ではなく、どこか剣呑なそれは、優しく冷静なディランから普段感じることのないものだった。
アナトリアはあれから少しずつ努力を重ねている。
言われてやる手伝いだけではなく、気を回してしっかりと役に立とうと動いていた。
並行してルーナに魔法を教わったり、レナに戦闘の動きを教わったりして、時折出てくるモンスターとの戦闘でも、みんなの邪魔をしないよう、かつナティーシャを守れるように動くことができるようになってきた。
今も休憩中に自分で入れた茶を振る舞って、ピリッとした空気を和らげるようにしている。
「はい。ルーナさん。」
「ありがとうございます。」
アナトリアの入れた茶はとても美味しいらしい。アナトリア自身が茶や菓子類が好きで、いつもおいしい茶と菓子を用意させていたようで、その関係で茶の良い悪いがわかるのだ。自身で入れるのはまだ慣れないらしいが、それでも誰が入れるよりおいしいらしい。
らしいというのは、もちろん私自身がまだ飲んでいないからである。
アナトリアやナティーシャが起きている間は勝手に動くことはできないし、まして茶を飲むなんてことはできない。
みんながおいしいおいしいと言っているのを、私たちはじっと眺めていることしかできないのだ。
(というか最近まともに食事すらできないんだよね。)
(ナティーシャがずっと抱えてるから、食べるとその分大きくなる私たちはむやみに食べられないしね。寝てる時も肌身離さずだし、かといってこのまま食べずにいると段々縮んでいくし。)
私たちは食べれば食べた分だけ大きくなる。栄養とかそういうもは一切関係なく、質量がそのまま加算されていくのだ。そして、エネルギーが消費されていくたびに、体はどんどん縮んでいく。いわばエネルギーの塊というわけである。
もちろん何もしていなくても少しずつエネルギーは消費されていくので、ご飯が食べられない私たちは日々縮んでいっている。比べないとわからないくらい少しずつだけれど、それも何日も続けばわかることだと思う。
こっそり異次元ポケットから食料を取り出してつまみ食いしたいところだけれど、いきなり大きくなっても怪しまれるので、なかなか量の加減が難しい。
ルーナに1日に一度引き取ってもらって、物陰でこっそりと食料を受け渡していて、その時に食べさせてもらっているのだけれど、精々ステーキ肉1枚分程度。ナティーシャが何とか抱えられている今の状況では急に大きくなるとナティーシャが持てなくなってしまうし、先ほどまでの間隔と差が生じても困るので、調整が難しいのだ。
そんな私たちは今もナティーシャが大事そうに抱えている。
まるでそこが定位置のように、ナティーシャの膝に抱えられている。そのまま縦に座らせるとナティーシャの顔が隠れてしまうということで、斜めに寝かせるような格好で抱えられている。
そんな私たちにちらっと視線を向けるルーナ。けれど、結局何も言わずにアナトリアに入れられた茶を飲んで視線を逸らす。
きっと私たちを膝に座らせたいけれど、ナティーシャから引き離すのもできないので手をこまねいているという感じなのだろう。
アナトリアさんはそれを薄々わかっていそうに困った表情をしているけれど、ナティーシャに返してあげてというのも、ルーナに返しましょうかと言うのも言い出せずにいた。
ルーナとしても、そんなことを言われるととても気まずいことこの上ないだろうから言わないであげてほしいとは思うけれど。
そんな感じで何事もなく旅は順調に進み、ようやく私たちはレゼシア王国王都ガルフィートに到着したのだった。
「ここがレゼシア王国の王都ですか。」
アナトリアとナティーシャが王都の外周を囲む巨大な壁を見上げて感嘆の声を上げた。
私たちも初めて王都を見た。いや、まだ正確には王都の壁しか見えていないのだが、ディランによると、この壁は隣国でも噂されるほど異様に高く、厚い壁として有名なんだとか。その威圧的なまでの大きさに舌を巻いた。
王都に入ろうと並ぶ馬車が10台ほど並んでいるのだが、その10台の馬車を縦に積んでもまだ壁の方が高いだろう。馬車の大きさが大体3メートルほどで、それを10台積めば約30メートル。単純な計算だけれど、壁の高さは30メートル以上と言うことになる。10階建てのマンションくらいの高さの壁が、視界いっぱいに伸びていると言えば理解できるだろうか。
そして、そのとてつもなく高い壁の上にまた更に物見やぐらが建てられている。これほど大きな建造物はこの世界に来てから一度も見たことがない。
「この壁を作るのにかなりの数の魔導士と魔法使いを動員したと聞く。それでも10年や20年で出来上がらないほどと言うからな。それに、壁の厚さもかなりのもので、壁の所々に施した仕掛けによって、ドラゴンに攻撃されても1日持ち堪えるとまで言われている。本当の事かは知らんがな。」
ディランが冗談交じりに言うけれど、本当にドラゴンの攻撃を1日耐えきれるくらいの頑丈さがありそうな気がした。
ただ高いだけではなく、壁の所々がどこか芸術的で、細かな装飾がされている部分も多く見られた。総工費はどれくらいなのか。聞きたいような聞きたくないような、そんな思いだ。
そして待つこと1時間。とてもゆっくりと丁寧な検問がされているようで、私たちの番になるのにこれほど時間がかかったけれど、私たちはほとんど調べられることなく通された。
なぜか。それは聞かなくてもわかることだろう。
「お、王子!?」
「王子が戻られたぞ!すぐに国王様にご連絡を!」
「騎士団に連絡して国王様に伝えるのだ!ディラン王子御一行ですね。すぐにお通しいたしますので、しばしお待ちください。」
こんな感じで門番の詰め所はごった返し、あれよあれよという間に手続きが終わって、無事に王都に入ることができたのだ。
「これからは機会があるごとに帰った方がいいのではないですか?」
「・・・考えておいた方がいいな。何とも頭の痛いところだが。」
ルーナにぼそっと言われ、ディランは額に手を当てて項垂れたのだった。
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