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第4章

ドラゴンについて

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 2日かけてレテルーナ領の中央あたりまで進んだ私たちは、一度ちゃんとした休憩をとるために野営の準備をしていた。

 ちゃんとしたといったものの、今まで馬車を走らせた中で寝ていたのが防寒対策がなされたテントで寝ることになっただけなので、心底休めるというわけではない。

 レテルーナ領に入ってからは寒さも激しさを増し、見渡す限り銀世界というような状況で、テントを張っている今など風と雪が激しくてなかなか厳しい。

 ルーナと私たちで障壁を作り、寒さと風をやわらげてはいるものの、完全に遮断することができないので男女に分けて大きめのテントを張っているみんなは風にあおられながらも一生懸命だ。

 テントを張るだけではない。雪がかからないような位置取りをして火をともし、暖をとれる状態を作ったり、馬車の馬を凍死させないために単位的な厩舎を作ったり、いつも通り周りに罠を張ったり。激しい雪の中でするにはかなり困難な仕事が山積しているのだ。

 だが、そこはベテランのリングルイとエレアナである。様々な場所で活動してきた実績があり、こういった作業も手馴れている。

 「くっそ、また糸が切れた。ディラン、俺のリュックとってくれ!」

 「あーもう!雪が料理についちゃった!ランベルさんもう少し屋根を右に作ってくださいよ!」

 「リーノ!油打っていないで早く留め具を固定してください!テントが張れないでしょう!」

 慣れているとはいっても喧騒は飛び交う。飛び交っていてもみんな忙しく動いて着々と準備は進んでいる。みんな仲がよさそうで何よりである。

 そうこうしているうちに吹雪も収まってきて、これ幸いと一気に進度が進み、日が沈む前にはすべての作業を終えることができた。

 男女が眠るためのテントは厚手の布が使われていて風を遮り、軽量で頑丈という鉱石を使った骨組みは魔力を通すことで重みを増し、風にあおられても微動だにしない。

 かがり火のある場所は屋根だけがあるタープテントで、四隅には簡易障壁を張ることができる魔動具を設置しており、かがり火の熱をあまり逃がさず、風をある程度遮断するようになっている。テントの中では火を使うことができないので、ここで暖を取ったり料理をしたりするわけだ。

 厩舎は馬車の帆を取り外して、骨組みに追加の骨をつなぎ合わせて簡易の厩舎を作っていた。かなり貧弱そうに見えるものの、これも魔動具を利用しているらしく、しっかりと厩舎としての役目を果たしている。干し草などはあらかじめ馬車に積んでいたので馬もゆっくり休むことができると思う。

 「結構時間かかっちゃったけど、これでゆっくりできるね。」

 レナが料理を盛った皿をみんなの前に置いていく。

 「これだけ雪が降るなんて想定外だけどね。明日は普通に動けるといいけど。」

 リーノがノーク山があるであろう方角を向いて肩を落とした。

 実は今回の休憩は全く予定になかったものである。出発当時と変わらず走っていると、昼から徐々に雪が降りだし、風も出てきたのである。時間がたつごとにだんだんと激しさを増す雪にディランは野営を提案し、リーノが渋々認めて休憩することになったのである。

 吹雪の中馬が走り続けるのは難しい。魔法で動ける状態にして、なるべく雪を近づけないように障壁を張り続けたとしても寒さに体力を奪われ続けるのは変わらず、吹雪で前が真っ白になり、方向感覚がマヒするために、これ以上進み続けるのは危険だと判断したのだ。

 「急いでるってのに、運がねえな~。」

 「まあ結構無理しての行軍なんだから、動けないなら動けないなりにしっかり休息をとるのが必要よ。」

 ぼやくランベルに落ち着くようにゆったりとしながら言うメイリーン。

 メイリーンの言う通り、焦って進み続ければ余計に悪くなってしまう可能性が高い。急がば回れとは偉大な教えだと思う。

 「そういえばまだ聞いてなかったが、今回の指揮はだれがとっているんだ?」

 ディランが温めたルンブルのミルクを飲みながらリーノに問いかけた。

 「今回の指揮はアスラがとってるよ。彼はドラゴンとは因縁があるからね。喜々として参加したって聞いたよ。」

 「アスラですか。ならば騎士団の上層部も舞台に入っていると予想したほうがいいでしょうね。」

 ルーナはアスラを知っているらしい。というかポートとディランも頷いているあたり、皇国の貴族なのかなと思う。

 「察しの通り、今回はかなり皇国も力を入れている。冒険者は全員上級を入れているし、傭兵もドラゴンと遭遇したことのある有名どころを揃えているらしい。兵士はえりすぐりで騎士もアスラの部隊を中心に戦闘に特化した奴を投入している。それだけの金と資源、人脈を使って揃えなければいけないほどの強敵であると認識したほうがいい。」

 リーノは真剣な表情でみんなを見回す。あまり気張った表情を見せなかったドルン山脈の時とは打って変わって、今のリーノには余裕があまりないように見えた。

 「それだけの準備を備えるということは、一度会敵したということか?」

 ディランの質問にすぐに答えず、目を伏せてしばらく考えるようにした。そしてポツリポツリとリーノは語りだす。

 「最初は、ノーク山の中腹あたりにいるトラットという珍しいモンスターの素材を求めて探索していた上級冒険者が出会ったのだそうだ。小山のように大きな体躯のドラゴンが頂上から降りてきて、目の前でパーティーのほとんどを丸のみにされたらしい。」

 リーノの語る情景を想像して目を覆いたくなる衝動に駆られる。

 「逃げることに必死で転がりながら山を下りた冒険者だが、残ったのは自分一人だけ。それも無事ではすまず、ドラゴンの吐く青の炎にまかれて右手と右足が動かなくなったそうだ。その次は報告を受けた騎士団が投入した50人が食われ、一人が命からがら生還したようだ。その次は騎士と兵士の混合100人。これも1人を残して全員が食われたらしい。」

 リーノが話しているうち、ディランの表情がどんどんと厳しくなっていく。

 「それはつまり、毎回ドラゴンから一人が生還しているということか?」

 ディランの問いにリーノは首肯する。

 「ならば決まりだな。今回のドラゴンは知恵のある面倒なドラゴンだ。」

 「私たちもそう思いました。強力なドラゴンから生還することは非常に難しい。それこそ、かなりの運が必要になるでしょう。そんな幸運が何度も続くとは思えません。それに、規模が大きくなっても必ず一人が口を利ける状態で生還するのはかなり不自然でしょう。ほぼ確実に、ドラゴンが宣伝のために逃しているのでしょう。」

 エラルダの考察は全員も考えるところなのだろう。エラルダの話に全員が頷き、どうしたものかと頭を働かせている。

 「ただ力任せに暴れているだけなら策も多かったんだがな。半端に知恵があれば厄介なことこの上ないだろうな。」

 「どれだけの賢さにもよるだろうよ。ポートの言うように半端な知恵しかなけりゃ罠にはめることもできるだろうが、人間以上に頭が回る奴ならどうしようもないぞ。」

 「魔法を使えるかにもよるよね。ドラゴンは魔力が豊富だから普通の魔法でも大損害になりかねないよ。」

 話し合いはするけれど、こちらに回っている情報が少なすぎてあまり有効な手立てが思い浮かばない。アスラの部隊と合流することができれば多少は情報がもらえるだろうということで、とりあえずそれまで作戦は保留と言うことになった。

 「・・・ドラゴンはなぜノーク山に住み着いているのですか?」

 私たちの問いはあまり考えたことがなかったのか、全員が上を向いて考える。

 「そうだな・・・聞いた話によると、ドラゴンは宝を貯める習性があるらしい。もしかしたら隠されていた宝が眠っているのかもな。」

 「私は卵を産んで育てるために活火山の火口に住み着くって聞いたよ。」

 「ドラゴンの生態は謎が多いですからね。数が少ないうえに強力で、知恵があるかないかでドラゴンも多数に分けられるみたいですし。」

 「ドラゴンとドラゲールの違いってやつ?ドラゴンは知恵のある神聖な獣で、神聖さが抜け落ちて暴れまわる知恵のないドラゲールはモンスターであるって話。」

 「昔はドラゴンを神として信仰してたっていうしね。山の頂上に住み着くドラゴンを畏れて祀るのはわからなくはないし。」

 いろいろな話は出たけれど、結局はわからないというところに落ち着くらしい。

 (もしも卵を産むためとかだったら、山に近づかなければいいんじゃないかな?)

 (たぶん冬の雪山だから卵を産むための体力を蓄えるために周辺の動物とか村の人たちとか無差別に食い荒らそうとすると思うよ。)

 (それはまずいね。)

 (人を逃がしてわざわざ大量の人を招いてるってことは、たぶん食料がほしいってことなんだと思うけど、さすがにご飯を献上してもダメなんだろうね。)

 皇国側も認めないだろうし、と美景は考えているので、おそらくそうだろうと思う。

 100人もぺろりと食べてまだまだ足りないなんて言うドラゴンを満足させるだけの食料なんて捻出できるはずがない。冬を超えるための食料はちゃんと計算されて蓄えられている。ある程度余裕を持たせてはいるだろうけど、それは冬が長引いたりモンスターや獣に取られたりしても大丈夫なようにしているのであって、ドラゴンにあげる余裕などではない。

 国が無茶を言って食料を献上したとして、それがいつまで続くかもわからず、被害が出ないともわからない。結果民衆に恨まれるだけになる可能性が高い。

 私たちが考え込んでいる間に就寝の準備がなされ、私たちがルーナとレナに挟まれていつも通り眠れない夜を明かした。
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