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第3章

祈りの光

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 のーちゃんは甘すぎる。

 困っている人がいたらほいほい手を貸すし、すぐにいろいろな人と友達になりたがる。日本はなまじ平和だったからそれも許容できたし、何も言わなかったけど、この世界では考え方を変えなきゃいけない。

 人は簡単に裏切る。弱いからすぐに救いを求めてくるけれど、だからと言ってそれは信頼しているからじゃない。救ってくれるならだれでもいいから、だからすがってくるだけだ。

 のーちゃんは甘い。けれど、そんなのーちゃんに付き合っている私も相当甘いのだろう。

 私はのーちゃんが望むことなら何でもしたい。のーちゃんのために生きたい。それは今でも変わらない、あの時からの思い。

 のーちゃんに救われた時からの、願い。

 意識が表層に浮上する。目の前にはハーフエルフの少女がいる。驚いた表情。困惑した表情。畏れの表情。

 リィーネもルーナもレナも、みんな同じような表情を浮かべている。

 見慣れた光景だ。

 私が一人でいる時はいつもこんな顔をされた。

 得体の知れないものを見るような。まるで、別の生き物なんじゃないか。人の皮を被った化け物ではないか。

 のーちゃんがいた。それだけで私へ向ける視線は好意へと変わった。

 今はのーちゃんはいない。体が一つになってしまったから。隣にいてくれる愛すべき人はいない。支えてくれる人は自身の内に。

 それを考えたら胸が暖かくなるような気がした。

 大丈夫。慣れてるから。これくらいなんでもない。

 「ライム・・なのですか?」

 ルーナが懐疑的な視線を向けて私を探ってきた。

 いつもはのーちゃんが言葉を交わしていて、私はのーちゃんにどう話せばいいか内側で話していただけだ。こうして私自身の意思で話し、表情を変えることなんて初めてだ。

 だからいきなり変わった雰囲気に驚いているのだろう。

 「ルーナ。確かに今は、あなたが知っているライムではないわ。」

 私の返答にルーナは身構える。

 そうね。言い方が悪かったよね。

 「そう怖い顔しないで。私はライムの内に秘める者。普段のライムとは意思の疎通が取れているし、あなた達とは争うつもりはない。むしろ友好的ですらあるわ。だから杖をしまって。」

 「では、なぜ急にあなたが現れたのですか?ライムは無事なのですか?」

 「無事よ。何も問題ないわ。私が出てきたのは、頼まれたから。」

 「頼まれた?」

 私はルーナからレーンへと視線を移す。それだけでルーナは理解したようだった。やっぱりこの世界の魔術師はかなり頭の回転が速い。

 「私はあの子に、ここにいる人たちを救ってほしいと、そう頼まれたの。だから救うわ。私の持てる力を使って。」

 私は少しずつレーンの母親に近づいてく。レーンは母親を取られまいとしっかりとしがみつく。

 怖がられるのはやはり嫌なことだ。

 私が触れられるくらいの距離まで来た。そっと母親の額に触れる。

 「レーン。私が癒しを施したとして、元の母親にはならないかもしれない。それでも望む?」

 レーンが先ほど決意したことを、私は再度問い直す。

 これが戻ることのできる最後の選択であると、レーンに教えるために。

 自分の選択であると理解させるために。

 レーンは苦しそうに胸を抑える。けれど目端に涙をためながら、覚悟の決まった眼をする。

 それだけで私には彼女の思いが伝わった。

 「わかった。すぐに始めましょう。」

 私はのーちゃんに頼んで指を動かしてもらう。精密な作業はやはりまだ一人ではできない。魔法を発動するにはのーちゃんの助けがいる。

 けれど、それ以外は私の領分だ。

 意識を集中させ、体内の魔力を循環させる。速く。速く。血の流れが加速するイメージ。

 そして光を集める。外の魔力を光に見立てて。私の周囲を光で満たす。纏う。そして流し込む。

 慈愛の光。強い思いで相手を癒す力。けれど、私が思うのはただ一人。だから彼女がいる限り途切れることのない願い。

 祈りの光。それが私の使う光魔法。

 私の祈り。そしてのーちゃんの願い。それを叶えるために、光はレーンの母親を包み込み、そして次第に牢に閉じ込められた者たちへと広がる。

 薄暗い地下牢は私の魔法によって眩い光で満たされる。

 「これほどの魔法を使うとは・・・ライム・・あなたはいったい・・・。」

 「すごくきれい・・・暖かい・・・。」

 「これがライムの力だというのか・・・。」

 ルーナもレナもリィーネも、三者三様の反応を示し、驚きに満ちた表情をしている。

 光に包まれたものたちは次第に安らかな表情となり、唸り声をあげることもなくなり、血色も良くなった。

 祈りは、無事に届いたようだった。

 (これで、大丈夫だよね?)

 (ありがとう美景。)

 (私はのーちゃんに頼まれたことをしただけだから。)

 私はそっと微笑み。そしてのーちゃんに体を返した。
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