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第3章

同行者

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 孤児院から旅立って2日が経った。

 悪路でも問題なくそうこうすることのできる特殊な馬車に揺られながら私たちはイレーヌの南に位置するレゼシア王国テラリクス領の山道を通っていた。

 目指すはディランがこの件に関して当てにできると言う人物の住む街トークルである。

 トークルは兵士と平民を合わせても1000に届くかどうかというほど人口の少ない穏やかな街らしいが、土地に恵まれているらしく、豊富な糧を得ることができ、国外に輸出する特産品なども多く扱っているところらしい。

 その街の長がディランが信頼する人物である。

 かなりの権力を持つクライフ王子の懐を探るにはそれなりに用意がいる。

 下手に動けばディランたちが厳しい立場に立たされてしまうだろうし、最悪イレーヌへの進行の大義名分が成立してしまうため、考えなしに関わっているだろうカルミュット子爵らを刺激するようなことはできないのである。

 リィーネが居なければそれもできたかもしれないが、任務からリィーネを外すことはできない。リィーネはそうでなくても王は完全にディランの事を信頼しているわけではないのである。リィーネが監視役も担っている以上、おいていくわけにもいかない。

 ディランはレゼシア王国の王子である。たとえ継承権が低かろうが関係なく、敵と思しき国に所属する要人であることには変わりない。

 万が一イレーヌに不利になる情報を受け渡す素振りなどすればすぐにリィーネに滅されるだろう。

 だからリィーネが来ることに関しては何も思わない。そうするよりほかなかったのだから。それを含めての時間の引き延ばしだろうし。

 しかし、私たち、いや、私が認められないこともあった。

 「護身用のためにこのナイフを渡しておく。扱いはまた夜に。」

 そう言ってリィーネは少女に包丁ほどの大きさのナイフをベルトのついた鞘ごと渡す。

 少女は一つ頷いた後にベルトを腰に巻き、ナイフを抜く。

 全く扱ったことのないだろう手付きでナイフの刃をじっくりとみている。その眼はまるで目的に一歩ずつ近づいている事を確かめるように念入りに刃を映し、怪しく光るようだった。

 彼女、レーンがこの馬車に乗り込んでいることに気づいたのはイレーヌを離れてしばらくたち、日が暮れてきたところで野営の準備をしようと馬車に詰めてていた荷物を確かめていた時だった。

 レーンはいつの間にかリュックなどが邪魔にならないように設計された座席の収納の中に紛れ込んでいた。リュックなどをそこに入れ、孤児院に別れの挨拶をしていた時にこっそり入ったに違いない。

 私たちはそれに気づかずにイレーヌからだいぶ離れた場所でやっと発見したのだった。

 ほとんど防寒対策のしていない格好のままそんな場所にいたことから凍えてしまっていたが、発見してすぐに毛布などで温めたことで大事に至ることはなかったが、最悪凍死することもあり得たため、レーンにはリィーネがかなりしかりつけたのだが、あまり聞く耳を持ってはいなかった。

 夜であり、戻っている時間的余裕もなかったため、仕方なく今こうしてともに馬車に揺られて目的地に向かっているのである。

 しかしは私は当初反対した。レーンが馬車に潜り込んできた理由ははっきりしている。それを回避するためにもイレーヌに帰すべきだ。そう言った。

 しかし時間的余裕がない今この状況で引き返すことをディランはためらい、レーンがハーフエルフであることからエルフの身体的特徴である耳の長さがぱっと見では人間とそれほど変わらないことから、最悪でもトークルの長の家に預けることもできるということで同行を許可したのだ。

 私はそれでも危険であると主張したかったが、時間が過ぎて戦争状態になってしまうかもしれないこの状況でそれ以上言い募ることはできず、しぶしぶという形で了承したのだ。

 私はせめて彼女の監視だけは怠らないようにしようと心に決める。

 街に置いていけるかどうかはわからない。場合によっては連れて行かなければ危険であるかもしれない。外見的に変わらないように見えてもよく見ればわかることではあるし、それでなくてもこの容姿なら誘拐にあってもおかしくはない。

 連れてきてしまった責任として彼女を守らないと。

 (レーンが来たくて来たんだからほっといたらいいのに。)

 (そうはいかないでしょ。レーンは復讐しに来たんだよ。そんなこと絶対にさせないし、こうなった以上危ない目にも合わせない。)

 (・・・もう忘れたらいいのに。)

 (・・・)

 美景の言葉に私は昔の事を思い出す。

 当時10歳の私。

 場所は刑務所の面会室。

 目の前にいたのは・・・仲良くしてくれた親戚のお姉さん。
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