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第3章

死闘のその後。

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 ドルン山脈での壮絶な死闘から早2か月が経過していた。

 あれから私たちは何とか本当の意味で外につながる出入り口を見つけ、無事にドーラに帰ることができた。

 リーノ達リングルイのメンバーは当然のことながら私たちよりも先に帰ってきており、私たちが宿に帰ってきたのを見つけたときにはみんな大喜びで迎えてくれた。

 特にニーナなんかはルーナに抱き着いてしばらく離れずに泣き続けていたし、メイリーンもポートの近くに黙って侍っていた。

 リーノやエラルダさんはわりとさっぱりとした対応だったけど、それは周りの目を気にしてに違いない。リーノはディランに「帰ってくると思ったよ」と言って余裕そうな笑顔を見せてはいたが全く動揺を隠しきれていなかった。その点エラルダさんは素晴らしいもので、おくびにも出さずに紳士な態度で帰ってきてくれたことを喜んでくれた。

 ランベルはその豪胆ないつもの態度に反してというべきか相応しくというべきか、大きく破顔して泣きべそをかきながら全員をまとめて抱きしめて真っ先に歓迎してくれた。そのあとに個別に抱き着こうとしてレナに近づいた時には思いっきり吹き飛ばされていたが、それすらもうれしかったのか大笑いして再度チャレンジしていたくらいだ。

 そうしてしばらく生きて帰ってきたことを全員喜び、そのまま宴会に突入してドーラに帰ってきた一日は全て潰れた。

 ただ、宴会は早々に終わっていた。当たり前のことだが、エレアナのメンバーは私たち以外全員が満身創痍の状態といってもいいくらいボロボロだった。ディランやポートには無数の小さな切り傷があって血も消耗していたし、レナは疲れ果てたみんなの代わりに人一倍神経をすり減らして周りの気配を探っていたために精神的消耗が激しかった。ルーナに至っては魔力の使い過ぎで得意の風の障壁魔法すら満足に使うことができないほどだった。

 そんな彼らが少しでも宴会に出席できるほど体力を戻すことができたのは、ひとえに外に出たセーフゾーンでの最低限の見張りを私たちが引き受け、全員にたっぷりと睡眠をたらせたおかげである。

 その時にモンスターは出てこなかったが、洞窟の中で激戦を乗り越えてきた私たちなら問題ないと安心して任せてくれたディラン達に少々の気恥ずかしさを覚える。

 本当に信頼していなければ、例えセーフゾーンと呼ばれるほどに魔物が寄り付かない場所であっても任せっきりにしてはくれなかっただろう。少なくともこれまでは不寝番を預かったことなど一度としてなかったのだ。精神的な信頼だけでなく、武力面での客観的な信頼も勝ち得たといって相違ないだろう。

 そのことに私たちが喜ばないわけがない。それはそれは張り切って警戒網を敷いていた。結局は徒労に終わったことでも、初めてすべてを頼ってきてくれたみんなに報いるために不寝番をやり遂げたことは大きな自信となっている。

 何はともあれ、帰ってきた当日はそんな感じですぐに就寝し、次の日にリングルイと別れてからの出来事を話し合うことになった。

 リングルイのメンバーはしばらくどうにかしてエレアナを救い出すべく行動していたらしいが、丸一日かけても痕跡が見当たらなかったために捜索を断念し、エレアナが戻ってきた二日前にドーラに戻っていたのだとか。

 その話を聞いて心配をかけたと言ってから私たちの話を始めたが、さすがに私たちの能力である【誘惑】については今の段階でリングルイに話すことはできないとして火口での戦闘は少しぼかして話した。

 しかしその戦闘の事についての追求はさほどなかった。その理由はもちろん火口の湖付近で見つけたお宝を根こそぎ手に入れたという話をしたからだ。

 「それは本当なのか!?」

 「ああ。ライムが空間魔法を使ってすべて持ち運んでくれたからな。正直俺たちは楽しすぎたくらいだ。」

 そのディランの返答にリングルイ全員の視線がライムに殺到する。

 世にも珍しい空間魔法の使い手。それも今まで魔法を使うという個体自体確認されていなかった下級のモンスターであるスライムがそれを行い、宝を何のペナルティーもなしにすべて持ち運ぶなど、この世界で長く生きるものであればだれでも信じることができないような話だ。

 しかし「一部出して見せてくれ」というディランからのオーダーに応えて私たちがユミルンの手部分からにょきにょきとやけに精緻で豪華な短剣と驚くほど大きく見事にカットされた大粒の宝石を数個出して見せると、リングルイのメンバーは感嘆のため息を出して納得した。

 「ライムちゃんくれ!」

 「あなたにあげるわけがないでしょう。だいたいライムの事をずいぶんと警戒していたあなたが一体どの口でそんなことを言うのか。」

 「それはそれ、これはこれ。」

 リーノとルーナがまたも険悪な空気になっている傍らで、私たちはほかに何を手に入れてきたのかとランベルやメイリーンたちの質問に答えるように次々と運んできたお宝を出し入れしていた。

 ちなみにこんなことは当然ほかの人に見られるわけにはいかないので、ルーナとレナが泊まっている部屋で全員が集まって話し合っているわけなのだが、そのおかげで結構大きくて目立つものもホイホイと出したり収納したりできている。

 あらかたどんなものを手に入れてきたのかを見せたところで、ディランはこの宝をリングルイにも分配するという話に持っていく。

 ただ、これにはリーノですら遠慮する部分があった。

 そもそも今回は途中ではぐれた上に、問題なく脱出できたリングルイとは別に壮絶な死闘を潜り抜けてきたエレアナがその果てに手に入れた宝なのだ。そんなほとんど自分たちが関与していないところで得た宝を分配するなどまっとうな冒険者ならだれでも受け取ることを遠慮するはずだ。

 しかしディランは手に入れた宝の4割をリングルイに分配すると言い出したのだ。そもそも4割ですら運ぶためだけにしっかりした2頭引きの馬車が必要なほどの重量なのだが、それを払って余りあるほどの価値の宝であるために4割を分配するというわけだ。

 この提案にエレアナは全員快諾しており、あとはリングルイが受け取るかどうかとなっているのだが、やはり渋る。

 「・・・せめて1割にしてくれ。そうじゃないと受け取った俺たちが申し訳なさで潰れてしまうよ。」

 リーノはディランの何が何でも渡すという頑固な姿勢に根負けし、しばらく考えたうえで最低ラインを明示した。

1割といっても金貨にすればおそらく100枚はくだらないだろう量だ。金貨100枚といえば貴族の屋敷が余裕で建てられ、その上それなりの家具も用意できるだろう程の金額だ。

それに予想の範疇ではあるが歴史的な価値を含めればその数倍の値がついてもおかしくない宝である。それこそ一部の物は王家に置かれている最高級の調度品に並ぶほどの価値を秘めていると思われるのだ。それほどの値がついてもおかしくはないだろう。

 なのでそれでももらいすぎだと思いつつもリーノはその配分であるなら受け取ると言ったのである。

 普通は逆に取り分が足りないともめるものなのだが、今回まさにその逆をいっているわけである。何か変な思いがするものの成り行きを見ていたが、ディランもリーノが言っていることがわかったのでお宝の分配がなされた。

 そうしてお宝の分配を終えた後は二日ほどゆっくりと過ごし、その後エレアナはショープに戻ることにし、リングルイはもう少しドーラに残るということで別れることになった。

 「また会ったらよろしく頼むよ。」

 「こちらこそよろしく頼む。ライムの事を話せるのはお前たちだけだしな。」

 「ライムちゃんまた今度一緒に魔法の練習しようね!」

 『その時はまた面白い魔法を開発しておきます。』

 「また何かありましたらよろしくお願いいたします。」

 「こちらこそ。また一緒に戦える日を楽しみにしていますエラルダさん。」

 「ほらメイリーン。もうすぐ愛しの彼が行っちまうぞ!話さなくてもいいのかよ!」

 「そうだよポート!もう昔の事は水に流して二人で話してきなよ!」

 「「うるさい!ほっとけ(いて)!」」

 最後にポートとメイリーンの突っ込みで話は締めくくられ、朝と昼の間ほどの時間にエレアナはドーラを出発したのだった。

 そうして現在に戻る。

 秋の兆しが見え隠れするフォーリシア歴3078年赤の月7日。私たちは理由あってレナの師匠がいるエルフの住む森を目指して旅をしていたのだった。
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