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第2章
衛兵の疑問
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赤木にディラン達のパーティーであるエレアナの尾行を依頼された衛士コートは、暗くなっていく街の中、それでも肩をぶつけずに歩くことが困難なほどにぎわっている中で、必死に尾行していた。
そもそもこれ程賑わっている場所で満足な尾行をするなど、特殊な訓練を受けていないコートにはできるはずもなく。
しかしそこが重要であるため、下手に隠れながら尾行するより素直についていくことにしたコートだったのだが。
「なぜ向こうはああもあっさり進んでいけるのだ。気を抜けばすぐに見えなくなってしまう。」
ついていくのもやっと。これが今のコート他数人の尾行に参加している衛士たちの心の声だった。
人混みをかき分けるように進むコートたちをあざ笑うかのように、ディラン達4人は、大きな荷物を背負いながらもするすると人の合間を縫ってずんずん進んでいくのだ。
特殊な訓練を積み、国王のお膝元で特殊部隊の任務をこなしていたポートだけならまだわかる。だが、実際は一番大柄なディランでさえ難なく進んでいく。
進行スピードは強歩に近く、何かと人にぶつかってスピードをあげられないコートたちは、それでも必死についていっていった。
そのおかげで見失うことにはまだなっていないが、それも時間の問題なのではと思えてくる。
「まさか。いや、やっぱりというべきか。彼らは気づいているのだろうか。」
こんな素人よりも下手くそな尾行が気づかれていないはずはないとは思うものの、様々な店を見て談笑している彼らを見る限りそうとも思えず、結局どちらにしろ尾行をやめるわけにはいかないコートは、せめて見失わないようにするくらいはとスピードを速めようとする。
「しかし、いったい彼らのどこに変なところがあるというのだろうか。」
尾行をする前から感じていた疑問。それは至極当然のものだった。
ポートは言うに及ばず、元男爵家令嬢で魔導士であるルーナや、元大商会の娘であった第一級弓術士のレナ。この三人だけでも大物であることこの上ないのだ。
そこにさらに彼までもいるエレアナ。そんな彼らがアース連合に目を付けられるようなことをするはずがない。
「そもそもディラン様がいるのだぞ。問題などあるはずがないだろうに。」
ディラン=フォン=ヴァインシュタット=レゼシア。
レゼシア王国国王の側室の三男であり、王位継承権第6位という肩書を持つ彼がいる。
それだけでコートには問題があるようには思えなかった。
王族でありながらも、まっすぐで真剣に民のことを思い、剣の実力はかのアース連合の剣豪篠原真(しのはらまこと)の折り紙付き。頭の回転も速く、王都や周辺の街の治安問題も改善させてきた実績を持ち、その温和な性格から民からの信頼も厚い。
王位継承権第6位とは言ったものの、実際は他のご子息よりも王位に最もふさわしいと民たちは噂しており、実際貴族たちも彼を支持するものが多い。
しかしながら彼自身にその気がないのか、なぜか冒険者になって世界中を回るようになってしまわれた。
もちろんその時の国民は揺れに揺れたが、しかし今では民の気持ちをより理解するために、その身を危険にさらしてまで冒険者になっておられるのではという噂が立っているほどである。
その彼が作った冒険者パーティーこそエレアナである。
彼自身が王族であるということを意識しないでほしいと公言しているからこそ、国民も気を使わずに話したりしているが、今でも雲上人であるという認識は確かに誰もが持っており、また国王になってほしいと願っている。
そんな彼や彼らが不穏な動きを見せるなどあり得ぬこと。
コートは遠目に彼らを見ながらも、自分のしている行動が不敬にあたるのではないかと悩み、このままアース連合の言う通りに動いていいものなのか考え始めた。
「最初こそ何かあるのかとも思ったが・・・赤木殿の勘違いではないのか?」
尾行を開始してから何も問題を見つけられないでいたコートは後を尾行をやめるかどうか思案しだした時、ディラン達は一つの宿に入っていった。
「これはまた・・・カラナックですか。」
コートはその高級宿の前まで来ると、中でディラン達がチェックインを済ませるところを外からうかがう。
カラナックは上級冒険者御用達の高級宿で、1晩泊まるだけで銀貨10枚、つまり通常の宿1か月分の料金がかかるのだ。
ほとんどの客は食堂だけを利用しており、泊るというところまでいくものは商人であれ冒険者であれよほどの実力者でしか利用しないのだ。
ちなみに貴族、大商会の娘、王族とそろっている彼らは家の金を全く使っておらず、全て冒険者稼業で稼いだ金である。それはつまりそこまでの実力があるという証明でもあるわけで。
「本当に流石ですね。」
コートはそうつぶやくと、まるでカラナックの出入り口が自分を拒絶しているかのように思え、尾行を切り上げようかと周囲を見渡す。
「さて、他のものはどこにいるのか。」
しばらくあたりを見回してみたが、一緒に連れてきた仲間の衛士が見当たらない。
人混みにでも流されたのかと思ってもうしばらく見回していたのだが、肩をたたかれた気がして後ろを振り返る。
そこには変装も全くしていない赤木が立っていた。
「お疲れさん。あんたたちはここまででいいよ。あとは俺たちでやるから。」
そういうと赤木はまた人混みの中に消えてゆき、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「いったい俺たちは何のために尾行していたんだ。」
尾行というよりはただディランの後をついていっていただけ。
しかしそれを労い、さらにはこれで依頼達成というのだから訳が分からない。
赤木は一体何のためにこんな素人にも満たない衛士たちを尾行に出したのだろうか。
「まさか、尾行がいるというということを知らせたかった。いや、それじゃあ本当に意味が分からん。」
コートは考えてみるも、やはり赤木のしたかったことが理解できず、そのまま東門に帰っていくのだった。
そもそもこれ程賑わっている場所で満足な尾行をするなど、特殊な訓練を受けていないコートにはできるはずもなく。
しかしそこが重要であるため、下手に隠れながら尾行するより素直についていくことにしたコートだったのだが。
「なぜ向こうはああもあっさり進んでいけるのだ。気を抜けばすぐに見えなくなってしまう。」
ついていくのもやっと。これが今のコート他数人の尾行に参加している衛士たちの心の声だった。
人混みをかき分けるように進むコートたちをあざ笑うかのように、ディラン達4人は、大きな荷物を背負いながらもするすると人の合間を縫ってずんずん進んでいくのだ。
特殊な訓練を積み、国王のお膝元で特殊部隊の任務をこなしていたポートだけならまだわかる。だが、実際は一番大柄なディランでさえ難なく進んでいく。
進行スピードは強歩に近く、何かと人にぶつかってスピードをあげられないコートたちは、それでも必死についていっていった。
そのおかげで見失うことにはまだなっていないが、それも時間の問題なのではと思えてくる。
「まさか。いや、やっぱりというべきか。彼らは気づいているのだろうか。」
こんな素人よりも下手くそな尾行が気づかれていないはずはないとは思うものの、様々な店を見て談笑している彼らを見る限りそうとも思えず、結局どちらにしろ尾行をやめるわけにはいかないコートは、せめて見失わないようにするくらいはとスピードを速めようとする。
「しかし、いったい彼らのどこに変なところがあるというのだろうか。」
尾行をする前から感じていた疑問。それは至極当然のものだった。
ポートは言うに及ばず、元男爵家令嬢で魔導士であるルーナや、元大商会の娘であった第一級弓術士のレナ。この三人だけでも大物であることこの上ないのだ。
そこにさらに彼までもいるエレアナ。そんな彼らがアース連合に目を付けられるようなことをするはずがない。
「そもそもディラン様がいるのだぞ。問題などあるはずがないだろうに。」
ディラン=フォン=ヴァインシュタット=レゼシア。
レゼシア王国国王の側室の三男であり、王位継承権第6位という肩書を持つ彼がいる。
それだけでコートには問題があるようには思えなかった。
王族でありながらも、まっすぐで真剣に民のことを思い、剣の実力はかのアース連合の剣豪篠原真(しのはらまこと)の折り紙付き。頭の回転も速く、王都や周辺の街の治安問題も改善させてきた実績を持ち、その温和な性格から民からの信頼も厚い。
王位継承権第6位とは言ったものの、実際は他のご子息よりも王位に最もふさわしいと民たちは噂しており、実際貴族たちも彼を支持するものが多い。
しかしながら彼自身にその気がないのか、なぜか冒険者になって世界中を回るようになってしまわれた。
もちろんその時の国民は揺れに揺れたが、しかし今では民の気持ちをより理解するために、その身を危険にさらしてまで冒険者になっておられるのではという噂が立っているほどである。
その彼が作った冒険者パーティーこそエレアナである。
彼自身が王族であるということを意識しないでほしいと公言しているからこそ、国民も気を使わずに話したりしているが、今でも雲上人であるという認識は確かに誰もが持っており、また国王になってほしいと願っている。
そんな彼や彼らが不穏な動きを見せるなどあり得ぬこと。
コートは遠目に彼らを見ながらも、自分のしている行動が不敬にあたるのではないかと悩み、このままアース連合の言う通りに動いていいものなのか考え始めた。
「最初こそ何かあるのかとも思ったが・・・赤木殿の勘違いではないのか?」
尾行を開始してから何も問題を見つけられないでいたコートは後を尾行をやめるかどうか思案しだした時、ディラン達は一つの宿に入っていった。
「これはまた・・・カラナックですか。」
コートはその高級宿の前まで来ると、中でディラン達がチェックインを済ませるところを外からうかがう。
カラナックは上級冒険者御用達の高級宿で、1晩泊まるだけで銀貨10枚、つまり通常の宿1か月分の料金がかかるのだ。
ほとんどの客は食堂だけを利用しており、泊るというところまでいくものは商人であれ冒険者であれよほどの実力者でしか利用しないのだ。
ちなみに貴族、大商会の娘、王族とそろっている彼らは家の金を全く使っておらず、全て冒険者稼業で稼いだ金である。それはつまりそこまでの実力があるという証明でもあるわけで。
「本当に流石ですね。」
コートはそうつぶやくと、まるでカラナックの出入り口が自分を拒絶しているかのように思え、尾行を切り上げようかと周囲を見渡す。
「さて、他のものはどこにいるのか。」
しばらくあたりを見回してみたが、一緒に連れてきた仲間の衛士が見当たらない。
人混みにでも流されたのかと思ってもうしばらく見回していたのだが、肩をたたかれた気がして後ろを振り返る。
そこには変装も全くしていない赤木が立っていた。
「お疲れさん。あんたたちはここまででいいよ。あとは俺たちでやるから。」
そういうと赤木はまた人混みの中に消えてゆき、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「いったい俺たちは何のために尾行していたんだ。」
尾行というよりはただディランの後をついていっていただけ。
しかしそれを労い、さらにはこれで依頼達成というのだから訳が分からない。
赤木は一体何のためにこんな素人にも満たない衛士たちを尾行に出したのだろうか。
「まさか、尾行がいるというということを知らせたかった。いや、それじゃあ本当に意味が分からん。」
コートは考えてみるも、やはり赤木のしたかったことが理解できず、そのまま東門に帰っていくのだった。
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