上 下
9 / 12

08

しおりを挟む
森の出口まで無事に辿り着いた時、空は夕焼け色に染まっていた。
きっと、数刻もしない内に、月が顔を出すだろう。
そうすれば、ユウの願いが叶うのだ。

「帰ろう、レイモンド」

お城を見る気分では無かった。
このまま、家に帰ってルーノと一緒にベッドに丸まって、消えてしまいたいと思った。
堪らなくなったチヨは、レイモンドのたてがみに顔を埋める。

その時、複数人の話し声が耳に飛び込んできた。
ルーノもレイモンドももちろん、それに気付く。
そして、森の中へと後退りし、姿が見えないように闇に隠れた。

「探し出して、殺せ!いいか、何としても魔女のところへ行かせてはならない!」
「しかし、陛下。この暗がり森の中へ入るのは…」
「いいか、あいつが魔女の元へ行ってみろ。我々は殺されるに決まっている!」
「だから言ったんです、小さいときに始末すれば良かったと」
「あの時の儲けを貰っておいて、何を今更」

チヨとルーノには、ピンと来なかったが、レイモンドには彼らが何者なのかはっきりと分かった。
音を立てないように森の中へと方向転換する黒馬に、チヨは訳が分からず眉を顰めるが、異様な雰囲気を感じ取り、沈黙を守り続ける。

「黒い馬に乗って逃げたのでしょう?小さい女の子とうさぎも一緒だったという話ですが」
「一部始終を見てた連中の話しじゃ、どっかの田舎娘らしいし、そのガキ捕まえて吐かせる方が楽かもしれないな」
「魔女に頼んで、居場所を見つけてもらうのはいかがでしょうか、陛下?」
「対価が小さいものなら、それでも構わん」

さすがのチヨにも、彼らの言いたいことが分かった。
ルーノも身体を震わせて、真っ赤な目を見開いている。
彼らは、ユウを探しているのだ。
そして、殺してしまえと言っている。

彼らがこのまま、魔女の元へ向かうのだとすれば、日没前には辿り着くだろう。
月が昇っていないなら、ユウの願いは叶えられない。

「教えてあげなきゃ」

戻ろう、とチヨはレイモンドの背中を叩く。
言うまでもなく、黒馬は身を翻し、駆け出した。
蹄が地面に落ちた小枝を踏み折り、森を駆け抜ける音が響き渡る。
話し声が途端に止み、焦ったような叫び声が上がった。

「そこにいるのは誰ですか!?」
「追いかけろ!早く!」

チヨはルーノを抱いて、必死にたてがみにしがみつく。
暗い森の中は、昼間に入った時よりも、一層暗かった。
カラスたちも昼間に騒ぎすぎて疲れたのか、随分と大人しく、蜘蛛や毛虫は暗すぎて姿を見ることが出来ない。

背後から、馬の走る音が聞こえてくる。
もちろん、レイモンドの足音ではない。
振り返れば、明かりを持った人間が馬で追いかけて来ていた。

「レイモンド!急いで!」

距離が詰められる。
圧倒的に、明かりを持っている方が早かった。
足元をまともに見ることの出来ない状況では、優秀なレイモンドと言えど、本領を発揮することは難しい。
ついには、横に並ばれてしまった。

「黒い馬に、うさぎに、ガキ!ビンゴだ!」

髭面の男の手が、にゅ、と伸ばされる。
首根っこを掴まれる、とチヨが身を竦めたとき、ルーノが腕から飛び出した。
うさぎは華麗にジャンプして、隣の馬に飛び移ると、思い切り男の腕に齧りつく。

「痛てぇ!」

ルーノは、悲鳴を上げた男の手から飛び上がり、顔面に強力な後ろ足キックを繰り出して、再びチヨの元に舞い戻った。
蹴られた男は悶絶し、鼻を抑えて無様に馬の上で顔を伏せて止まっている。

「ルーノ、かっこいい!」

腕に飛び込んできたうさぎを、ぎゅっと抱きしめて、チヨが歓声を上げる。
照れくさそうにルーノは、鼻面でチヨの頬にキスをした。
これで振り切れたかと思ったが、追いかけてきているのは一人だけでは無かった。

真っ青になったチヨは、レイモンドに状況を伝える。
間違いなく、追いつかれるのは時間の問題だった。
このままユウの元に向かえば、敵に居所を教えてしまうことになる。

「このまま森を抜けて、逃げよう」

レイモンドは、力強く声を上げて嘶いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~

こげ丸
ファンタジー
世界を救った元勇者の青年が、激しい運命の荒波にさらされながらも飄々と生き抜いていく物語。 世の中から、そして固い絆で結ばれた仲間からも忘れ去られた元勇者。 強力無比な伝説の剣との契約に縛られながらも運命に抗い、それでもやはり翻弄されていく。 しかし、絶対記憶能力を持つ謎の少女と出会ったことで男の止まった時間はまた動き出す。 過去、世界の希望の為に立ち上がった男は、今度は自らの希望の為にもう一度立ち上がる。 ~ 皆様こんにちは。初めての方は、はじめまして。こげ丸と申します。<(_ _)> このお話は、優しくない世界の中でどこまでも人にやさしく生きる主人公の心温まるお話です。 ライトノベルの枠の中で真面目にファンタジーを書いてみましたので、お楽しみ頂ければ幸いです。 ※第15話で一区切りがつきます。そこまで読んで頂けるとこげ丸が泣いて喜びます(*ノωノ)

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...