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青々とした若葉が大地を覆い、土臭い独特の匂いが鼻腔を擽る。
空は吹き抜けのように高く、雲ひとつ無い完璧な晴天だった。
どれだけ頑張って手を伸ばしても、届きそうにない。

そんな、見渡す限り一面に広がる大自然の中、ぽつんと一つの小屋が建っていた。
丸太で組まれただけの、質素なものだ。
赤い屋根が印象的な、見ようによっては、可愛いと言える形をしている。
庭先ではロープに干された真っ白なシーツが風にはためいており、その下で一人の少女と、一羽のうさぎが駆けずり回っていた。

「こっちよ、ルーノ!」

甲高い笑い声を上げながら、少女がしゃがみ、両手を広げて、うさぎを呼ぶ。
毬のようにまん丸で、夏の雲のように真っ白なうさぎは、すんすんと鼻を鳴らして少女に駆け寄った。
そんなルーノを腕の中に収めるのかと思いきや、少女は一歩手前で手を引っ込め、逃げるように地面にうつ伏せに転がる。
そのまま、ごろりと仰向けになれば、シーツと同じくらい真っ白なワンピースの裾がめくれ、膝上まで露わになった。
焦げ茶色の髪に葉が絡みつき、土が手と服を汚す。
髪色と同じ焦げ茶色の瞳が悪戯っぽく笑った。
腕の中に飛び込もうと意気込んでいたルーノは、からかわれたことに腹を立て、短い足で少女の胴を叩いて抗議する。
それでも一向に少女が反省した態度を見せないことに、うさぎは業を煮やしたのか、白い手足で土を掘り返し、容赦無く浴びせかけた。
服はもちろん、身体中が泥だらけになる。
土を掘り返したルーノも、手足だけ見れば茶うさぎかと見まごう程に汚れてしまった。

「チヨ!それに、ルーノも!もう子供じゃないんだから、土遊びなんかしないで頂戴!」

小屋の中から、その様子を見ていた母親が、怒気も露わに窓際から声を投げる。
チヨとルーノは顔を見合わせると、くすりと微笑んだ。

「ごめんなさーい。でも、もう汚れちゃったから、今日はどれだけ転がっても一緒よ!」
「屁理屈ばっかり!そんなに暇なら、野いちごでも摘んでいらっしゃい!」
「はーい。行こう、ルーノ」

庭先に置いてあるバスケットを掠め取ると、チヨは軽やかに走り出す。
ルーノも負けじと足を動かし、一人と一羽は一緒に野いちご摘みに出掛けたのだった。

大自然の他には何もない、けれども満ち足りた場所。
母親と、少女と、うさぎは毎日を幸せに暮らしていた。
朝日と共に目を覚まし、洗濯に掃除に精を出す。
食卓に並ぶのは、チヨとルーノがとってきた果物や野菜に、母親が手を加えた優しい味のするご馳走。
暇になれば、父親が遺した山程の本に目を通したり、母娘で編み物をする。
ルーノが時折毛糸を転がして悪戯をするが、結局は身体中に糸が巻きついてチヨと母親に笑われるだけだった。
夜になれば、庭先で毛布に包まり、星を眺めながらマシュマロを入れたとろりとした温かいココアで喉を潤す。

「けど、それじゃぁ、つまらないのよ」

ね、とルーノに同意を求めれば、うさぎはその通りだとばかりに鼻をひくつかせた。
チヨは手元を見もせずに野いちごを摘み、バスケットに放り込みながら、頬を膨らませる。

「毎日、毎日、同じことばっかり!お母さんは退屈じゃないのかしら」

チヨは草原の地平線の彼方を見つめる。
目に映るのは、代わり映えのしない大地と空だけだったが、その奥にはまだ知らない世界が広がっているに違いない。
父親の遺した本に載っていた、魚が住んでいる海や、熊や狼が出るという山、それにたくさんの人が住んでいる街があるはずなのだ。

「ねぇ、ルーノ。草原のずーっと向こうまで駆けていけば、素敵なことが私達を待ってると思わない?」

うさぎは真っ赤に熟れた野いちごを選別して、バスケットに放ってから、チヨの目線の先を追う。
見たこともない世界を想像して、自然と尻尾がぴこぴこと動いた。

「行ってみたいなぁ」

バスケットから溢れた野いちごが一つ、地面に転がり落ちる。
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