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第二部 皇王就任編

第116話 ハルク vs ハルク

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 ハルクに戻った俺は、急ぎ出発の準備に入る。

 交渉は決裂だ。それならこんな所に長居は無用。さっさとトンズラするのに限る。
 その後、この国がどうなろうとも俺の知ったことじゃない。
 まともに交渉しようとしなかった国王が悪いのだ。

 全員の乗船を確認すると、セレストに帰還すべくハルクを発進させる。

 全員? あれ。
「ステファ、なんでお前も乗っている」
「え? 当然私もセレストに行くけど」

「ステファは残った方がいいんじゃないのか」
「いやよ、そんなの!」
「はあー。まあいいか」

 敵が、ステファを取り戻しに来るかもしれないが、敵はセレストの位置を知らない。逆に、セレストの位置を知っているステファを残して行くよりも、連れて行った方が安全かもしれない。
 それに、連れ戻しに来る者がいれば、引き渡していい約束になっていたはずだ。

「キャプテン、針路を塞がれた」
「なに、初動が早いな。躱せるか?」
「やってみる」

 チハルはデルタとシンクロし、淡く輝く。
 これを見るたびに、チハルがアンドロイドであることを実感させられる。

 チハルの操船により針路を塞いだ艦の横をすり抜ける。
 しかし、邪魔してくる艦は一隻ではなかった。逃亡に備えて、予め配置されていたのであろう、次から次へと敵艦が現れてくる。

 チハルはそれをすんでのところで避けていく。まだ、攻撃を受けていないから、無傷のままこちらを止める気でいるのだろう。

「キャプテン。前方にカエデとモミジ」
「しまった! 誘導されたか」

 カエデとモミジは防御特化型で広域シールドにより艦隊を護ることができる。だが、逆に、広域シールド内に敵船を捕獲することもできるのだ。

「カエデとモミジが広域シールドを展開」
「セイヤ、どうするのよ。このままじゃ捕まっちゃうわよ」

 ここから逃げ出すには、方法は二つ。
 次元魔導砲で、カエデとモミジを機能停止させるか、次元シールドで、異次元に逃げ込み、広域シールドを抜け出すかだ。

 ハルクの次元魔導砲では、一度に一隻しか機能停止にできない。となると、次元シールドの方がいいか。

「次元シールドで敵艦から隠れて進もう」
「了解。次元シールド稼働」

 歪むような独特な感じに包まれ、異次元に潜行する。

「このまま潜航して広域シールドを抜けるぞ」
 次元シールドは魔力の消費が激しい。使用するのは三十分が限度だ。その間に包囲網を突破しなければならない。

「キャプテン、広域シールド突破」
「よし、まだ、時間はあるな。このまま敵の包囲網も抜けてしまおう」

 包囲網を突破してしまえば、後は、無補給で逃げることができる。簡単には追いつかれることはないだろう。

「キャプテン、後方から、敵艦が急速に接近中」
「こちらの位置を捉えているのか」
 異次元を潜航中のこちらを見つける方法があったのか?

「あれは、ハルク1000B! キャプテンまずい!!」
 珍しくチハルが慌てている。

「どうした。1000Bということは、プロトタイプのベーターだろ」
「あれには、次元シールドはないが、次元魔導砲は装備されている」

 次元魔導砲は、異次元との壁に亀裂を生じさせ、異次元の高い魔力を噴出させることにより、魔導ジェネレーターをオーバーロードさせる兵器だ。

 異次元との壁に亀裂が入れられるということは、異次元を潜航中のこちらも攻撃できるということか?

「やばい!」

 気付いた時には、ベーターから次元魔導砲の攻撃を受けていた。

『魔導ジェネレーターが過負荷により、停止。次元シールドが維持できません』

 デルタの警告直後、俺たちは異次元から放り出されるように、現次元に引き戻された。
 最悪、異次元でシールドが消えれば、船ごとぺちゃんこになりかねないところであったが、それなりの安全装置が働いたのだろう。強制的に現次元に戻された感じだ。

『魔導ジェネレータークールダウン中。再稼働可能まで十分』

 幸い、魔導ジェネレーターは壊れるまではいかなかったようだ。ただ、十分間は無防備となってしまった。
 何とかその間時間を稼がないと。

「チハル、ベーターに通信を繋げ」
「了解」

 スクリーンに第一王女が大写しに映し出された。

『セイヤさん、降参か?』
「アマンダルタ。君か。どうしてこちらの場所がわかった?」
『あの後、対策を考えていたからね。次元の歪みを感知する道具を、マゼンタ教授から借りておいたまでさ』

「わざわざ、ベーターまで用意したのか」
『この船はまだ現役だったさ。アルファは博物館に展示されているが」

「しかし、次元シールドが破られるとは、やられたよ」
『秘密兵器はここ一番で使わないとな。秘密でなくなったら対策されてしまう』

「そのとおりだな。あそこで君に次元シールドを見せたのは間違いだった」
『まあ、あの場では仕方なかっただろう』

「そうか、なら、ここは新たな秘密兵器を出すべきだと思うか」
 言葉に気を付けないとな。相手は嘘が見抜ける。

『そんな物があるのか?』
「さあ、どうだろう。あるといえばあるし、ないといえばない」

『なんだ、その答えは。ああ、時間稼ぎをしているのだな』
 チッ、バレたか。

『そんなことをしても無駄だぞ。無傷で捕まえようと思ったが、仕方がない。ビーム砲用意』
 魔導ジェネレーター復帰まで、まだまだじゃないか。何か手はないか。

「キャプテン、ワープアウトしてくる」
「秘密兵器が間に合ったようだぞ」
『なに?!』

『お待たせ。間に合ったか?』
「カイト、時間ぴったりだ!」

 ワープアウトしてきたのは、カイトのジェミニスII、に先導された、オメガユニットであった。
 これで、形勢逆転だ。

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