魔力は最強だが魔法が使えぬ残念王子の転生者、宇宙船を得てスペオペ世界で個人事業主になる。

なつきコイン

文字の大きさ
上 下
83 / 167
第二部 アダラ星編

第83話 覆面の正体

しおりを挟む
 シャトルレーサーレース大会の撤収作業が終わり、係の者たちは帰り支度を始めている。
「俺たちも早々に戻るとしよう」と、チハルに言って、ピザキャップに乗り込もうとしたら、何故か祝賀の輪の中に混じっていた、覆面王女と覆面将軍の二人に呼び止められた。

「ちょっと待って!」
「少しいいか?」
「何かな二人とも」

 二人は顔を見合わせて譲り合っている。二人一緒ではなく、別々の用事であるようだ。

 覆面王女はエリザベートだから後でもいいだろう。
 俺は覆面将軍と先に話をすることにする。

「少し二人だけで話がしたい」
「じゃあ、そこの隅のテーブルでいいですか?」
「まあ、いいだろう」

 俺はチハルと覆面王女以外は先に帰ってもらって、覆面将軍とテーブルに着く。
 すると覆面将軍は何かを取り出すと、テーブルの上にそれを置いた。

「遮音結界の発生装置だ。これで忌憚なく話ができる」
「へー。そんな物があるのですか。それで、そうまでしてする話とはなんです?」

「まず、話をする前に俺の正体を明かしておこうと思う。勘づいているかもしれないが、俺は帝国軍の将軍でゴルドビッチだ」
 まさかと思っていたが、本当に帝国軍の将軍とは。それも、ゴルドビッチといえば、あの男爵令嬢の婚約者で、シリウス皇国侵攻の責任者だったはずだ。

「驚かないところを見ると、矢張り知っていたか……」
「いえ、知りませんでしたけど、もしかしたらと思ってはいました」

「最初に謝っておくのが筋かな。元婚約者が迷惑をかけた。すまなかった」
「元婚約者? 男爵令嬢のことですよね? 元、なんですね」
「彼女との婚約は破棄した。今は帝国の牢獄の中のはずだ」
「そうなんですか……。なら、将軍が謝ることでもないでしょう」

「そう言ってもらえると助かる。それで、今回の襲撃だが、帝国軍は関与していない」
「将軍には助けられましたしね。信じますよ」

「ここからは推測だが、襲撃を命令したのは、皇国の第一王子だ」
「ほう。その情報はどこから?」

「俺と第一王子は裏で繋がっている。いや、繋がっていた。お前を消してくれと頼まれたが断ったよ」
「ちょっと、ちょっと! そんなこと俺に話していいんですか?!」

「構わないさ。向こうもこっちも、今までどおりの関係を続けるメリットがなくなった」
「そうなのですか。それで今度は俺に乗り換えですか?」

「そういうことだ。是非帝国に来て欲しい」
「裏のパイプとしてではなく、引き抜きですか……」
 これはまた、随分と思い切った提案をしてきたものである。

「皇国にいても命を狙われるだけだぞ」
「帝国に行ったら、実験動物か、種馬でしょ」

「女には不自由しないぞ。なんならお前の好きな太った女を揃えてもいい」
「いや、だから、俺はデブ専じゃないですから。俺はリリスがいればそれでいいんです」

「まあ、今すぐ来てくれとは言わん。それに、帝国に来てくれとは言ったが、帝国にお前を渡す気はない。俺と組んでくれ。一緒に帝国を潰して作り直そう」
「それはまた……。随分と大それた考えを持っているんですね」

「帝国の貴族は腐敗が進み過ぎた。このままでは帝国全体が腐ってしまう。一度切り捨てるしかない」
 帝国の貴族がみんな男爵令嬢のようなら、将軍の言うとおりだろう。

「そう言われても、俺は帝国について何も知らないし、シリウス皇国についてだってほとんど知りませんからね」
「だからこそ、皇国を見た後でいいから、帝国にも来て現状を見てくれ」

「見たとしても、俺には何の力もないですよ」
「そんなことはないだろう。皇家の紋章とハルク千型のプロトタイプを持ってるじゃないか」

 第一王子と繋がっていたんだ、そこはバレてるか。
 デルタのことを高く買っているようだが、オメガユニットについてはどうなんだ。
 下手に突いて藪蛇になっても困る。後でステファにどこまで話が漏れているか確認しないとな。

「俺は引き篭りですからね。事なかれ主義なんですよ」

「俺から見れば、皇国も帝国と然程変わらない。お前ならきっとどうにかしたいと感じるはずだ。その時は手を組んで一緒にやっていこうじゃないか」

 俺のどこをどう見ればそう感じるのだろう? 疑問だ。俺はただの引き篭りなのに……。

「期待には添えませんが、帝国に行く機会があれば連絡しますよ」
 俺はカードを取り出して将軍に示す。
「今はそれで十分だ」
 将軍もカードを取り出し、連絡先を交換する。

「俺はこれで帝国に撤退する。連絡を待っているからな」
「ええ、帝国に行く機会がありましたら連絡します」
 絶対に帝国には行かないことにしよう! 面倒だ。

 覆面将軍との話が終われば次は覆面王女だ。

「お待たせ」
「いえ、たいして待ていないわ」

「それで、話して何かな」
「まず話を始める前に、私の正体を明かしておきたいの。驚かないで聞いてもらいたいのだけど、実は私は……」

「エリザベートだろう」
「な、なんで知ってるのよ! どうやって調べたの? 誰にも教えていなかったのに」

「調べるも何も、最初からバレバレじゃないか」
「えー! そんなー! セイヤ様は特別な観察眼をお持ちなのですね。驚きました」

「いや、俺は特別な観察眼なんか持ってないから」
 それより、気付かれてないと思っていたことの方が驚きである。

「まあ、それはいいですわ。それで、話とはいうのは、私とセイヤ様の婚約についてなのですが……」
「それについては、何度も断ったはずだが」

「それについて、どうして私が受け入れてもらえないのかわかりました!」
「リリスがいるからだよ」

「そうですね。リリスさんは、以前は大変太っていたそうですね」
「確かに太っていたが、それは関係ないぞ」

「隠さなくてもいいのです。つまりセイヤ様は太っているお方がお好き」
「いや、普通にスタイルが良い方がいいけど」

「わかっています。セイヤ様にとっては、良いスタイルなのですよね。太っていることが……。ですが、私にはどうしてもこれ以上太れそうにありません」
「別に太る必要はないと思うけどね」

「そんなわけで、大変申し訳ございませんが、婚約の話は無かったことにしていただきたいのですが」
「それは構わないよ」
 というか、最初から断っているじゃないか。

「本当に申し訳ございませんでした。別にセイヤ様が悪いわけではないのですよ。私が太れないのが悪いのです」
「いや、俺はデブ専ではないからね」

「いいんですよ。わかってますから」
「いや、わかってないだろ!」
 なんで皆んな俺がデブ専だというのだろう。解せぬ。

 だが、ここで誤解を解いてしまったら、また、エリザベートに婚約を迫られることになりかねない。
 このまま、誤解させておいた方がいいのかもしれない。だが、納得がいかないな。

 それに、何か、俺の方が振られたみたいな話になっているが、どういうことなんだ?

 本当、女性は、男爵令嬢にしろ、ステファにしろ、エリザベートにしろ、人の話を聞かないわ、自分勝手だわ、ろくなもんじゃないな。
 まともなのはリリスだけだ。
 こんな話は早々に切り上げて、リリスの元に帰ろう。

「それで、話はこれで終わりでいいかな?」
「後もう一つ」

「何かな。手短にお願いするよ」
「はい、言いたいことは一言だけですわ。次の大会では負けませんわよ!」

 俺はもう大会に参加する気はないのだが、それを言うと、話が長くなりそうだ。黙っておこう。

 チハルといい、エリザベートといい、スピード狂なのか?
 チハルは「良心的な娘」のはずだし、エリザベートに至っては王女なんだけど……、こちらの世界はどうなっているんだ?

 エリザベートは、「次は負けませんわ」宣言をすると帰っていった。

 俺も、待っていたチハルと一緒にピザキャップで宇宙船に戻ったのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

処理中です...