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第一部 帰還編

第44話 曳航

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 貨物船の曳航準備を終えて、ハルクのブリッジに戻るとステファが待っていた。

「お疲れ様」
「そっちも留守番ご苦労様、しかし何も事件が起きなかったな……」
「事件て?」

「船内は宇宙怪物の住処になっていたとか。貨物は冷凍カプセルに入った美少女だったとか」
「なにそれ、そんなことを期待して見に行ったの?」

「いや、そればかりじゃないけどさ。せっかく武器を買ったのにまだ一度もまともに使えてないからさ」
 短剣はAEDの代わりに、銃はウォーターサーバーの代わりに使用したけど……。

「使わないに越したことはない」
「チハルちゃんの言う通りよ。無理に戦うべきではないわ」
「まあ、それはわかってるんだけどね」

 でも、武器を手にしたら一度ぐらいは使ってみたいじゃないか。
 貨物室に潜んでいた怪物に襲われて、チハルが危機一髪というところで、俺の魔導拳銃が火を噴いて怪物を斃して、チハルをかっこよく助け出す。みたいなシーンがあってもいいと思うんだ。

「キャプテン?」
 チハルに呼びかけられて我にかえる。妄想に浸りすぎていた様だ。

「何でもない。それじゃあ出発するか。チハル、最終チェックよろしく」
「了解。……。問題ない」
「それじゃあ、デルタ、セレストに出発」
『ワープ4でセレストに向かいます』

 俺たちは漂流していた貨物船を曳航しながら、ワープ4でセレストに向かった。
 無駄な時間を食ったが、迂回する必要がなかったので、セレストまで後四日半といったところだ。

「さてと、漂流船を手に入れたわけだが、どこかに報告するべきなのかな?」
「売却するならギルドに報告するべき」
「それなんだけど、少し待ってもらいたいのよ」
 ステファから待ったがかかった。

「構わないけど、どうしてだ?」

「それが、さっき報告した通り、あの船が行方不明になったのは、リゲル星系からベテルキウス星系に向かう途中なの。
 どうやら急いでいたらしくて、航路外を航行していたようで、そこはトラペジウムと呼ばれる、遭難が多い場所なのよ」

 支援物資の食料を積んでいたのだ、無理をしてでも急いでいたのだろう。だが、それが裏目に出てしまったわけだ。

「その、トラペジウムがどうかしたのか?」
「トラペジウムがあるのは、シリウス星系があるのと同じセクション2なの。
 セクション2で行方不明になった船が、セクション4で漂流しているなんて、二百五十年経ってもおかしいのよ」

「それは、距離的にありえないということなのか?」
「距離的にもそうだけど、セクション2からセクション4に来るには、先ず、ゲート2を使ってセクション2からエリアEに転移し、次にゲート2の出入口からゲート4出入口にエリアE内を通常航行で移動して、ゲート4を使ってセクション4に転移しなければならないのよ」

 ゲートと言われてもよくわからないのだが、まあ、トンネルみたいなものか。

 ちなみに、エリア全部で五つあって。それぞれの次のような国の支配下にある。

                                       エリアN「王国」
 エリアW「共和国」、エリアC「帝国」、エリアE「連邦」
                                        エリアS「帝国」
 エリアWとSの境界付近「神聖国」

 セクションは、今のところ、1から8まであって、ゲートでエリアと繋がっている飛び地である。

 セクション1(ドミニオンの支配下)、==ゲート1==、エリアC
 セクション2(皇国、連邦が半分ずつ)、==ゲート2==、エリアE
 セクション3(王国の支配下)、==ゲート3==、エリアN
 セクション4(セレストがある)、==ゲート4==、エリアE
 セクション5(開拓途上)、==ゲート5==、エリアW
 セクション6(開拓途上)、==ゲート6==、エリアEとSの境界付近
 セクション7(帝国の流刑地)、==ゲート7==、エリアS
 セクション8(神聖国の聖地)、==ゲート8==、エリアWとSの境界付近

 セクションはゲートの発見順に番号が振られている。番号が若い方が発展している。
 なお、今回示したのは大国のみ、その他に小国が多数存在する。

 セクション2は、リゲル星系とベテルキウス星系が連邦の支配下で、シリウス星系とプロキオン星系が皇国の支配下になる。
 セクション4は特定の大国の支配下にはない。一番発展しているのが、カノープス星系で独立系交易国家だ。



 話を元に戻そう。

「よくわからんが、ゲートを二回使わないと来れないということだな」
「そうなのよ。その上、ゲートは常に航宙管理局が管理しているから、漂流船が通れるわけがないの」

 航宙管理局は、国に関係なく、宇宙船の航路を管理している。各国出資の共同体である。
 ちなみに、ゲートの通過は有料だそうだ。

「なら、なんであの船はここにいたんだ?」
「一つの可能性なんだけど、航宙管理局に知られていないゲートが、こことセクション2の間を繋いでいるのかもしれないのよ」

「それがあれば、こことセクション2との行き来が楽になるな」
「そうなのよ。経済的にも軍事的にも価値が高いから、その情報は高く売れるわよ」
「ああ、ギルドでも、新しい航路を見つけたら買い取ってくれるって言っていたな」

「つまり、ここであの船の情報が漏れると、ゲートを探しに冒険者がたくさんやってきて、先にゲートを見つけられてしまうかもしれないということなのよ」
「俺たちがゲートを見つけるまでは、隠しておこうということか。だが、ゲートなんて本当にあるのか?」

「それはわからないけど、駆け落ちした王女もそのゲートを使ったかもしれないでしょ」
「そうか、そのゲートを使えば、シリウス星系から直に来れて、既存のゲートを使わないから、足が付くことがなかったわけか。筋は通っているな……」

「だから、ゲートを探しに行きましょうよ!」
「そのうち時間ができたらな」

「早い者勝ちなのよ!」
「こんな田舎、誰もこないんだろ」
「そうだけど、万が一ということもあるし」

「その時は諦めるさ」
「そんな欲がないことでどうするのよ!」
 借金はあるけど、現状お金に困っていないからな。

「ゲートは簡単に見つからない」
「ほら、チハルもこう言ってるじゃないか」

「でも、見つければ、一攫千金」
「ほら、チハルちゃんもこう言ってるわよ」
 チハルはどっちの味方なんだ?

「まあ、今はお荷物を引っ張っていることだし、後であの船の航行記録を分析すれば、場所が絞れるんじゃないか?」
「そうね、早速分析しましょう」
「それは無理」

「チハルちゃんどうしてよ」
「データは全て初期化された」
「え?」
「あ!」
「航行記録も残っていない」

「ちょっとセイヤ、なんてことしてくれたのよ!!」
「え、俺の所為?」

「他に誰の所為なのよ?」
「多分、脱出した船員?」
「そんな人、もう生きてないわよ!」
 確かに、上手く逃げ出せたとしても、既に二百五十年経っている。普通は生きていない。

「だからって、俺に当たられても困るんだけど」
「他に誰に当たればいいのよ!」

「まあ、落ち着けって。時間ができたら探しに来るからさ」
「絶対よ! 約束だからね」
「はいはい。約束、約束」

 はあ、なんて理不尽で我が儘な女ばかりなのだろう。その点リリスは違ったな。
 ああ、早くリリスに会って癒されたい。

 しかし、金儲けに繋がりそうで、なかなか繋がらないな。
 やはり、地道に稼いでいくしかないか。

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