上 下
38 / 167
第一部 帰還編

第38話 ステファの身の上話

しおりを挟む
 私は、ステファニア・A・シリウス。シリウス皇国の王女だ。
 王女といっても、第五王女で、しかも、私の母は王妃ではない。
 実は、母は王妃付きの侍女で、子爵家の娘だった。
 そんな母が、国王陛下の寵愛を受けて身籠ってしまったのだ。
 王妃からの叱責はひどいものだったらしい。

 周りは、代理の父親を用意し、国王陛下とは無かったことにしようとしたが、それは、上手くはいかなかった。
 それというのも、生まれた女の子、つまり私には、右手の甲に王家の紋章が現れてしまったからだ。

 王家の紋章はシリウス皇国の王族の証。王族以外には現れない。
 これでは、どうしても私を国王陛下の子供だと認めない訳にはいかなくなった。

 特に、ここ数代は王族に王家の紋章が現れることがなかった。
 血が薄まってしまった所為だろう言われているが、そんな中で現れた王家の紋章である。
 蔑ろにはできない。

 しかし、母の立場を考えれば、非常に微妙な立場に私は立たされることになった。

 多くの貴族からは蔑まれたが、王家の紋章は絶対だとする派閥もあった。
 お陰で、王位継承に危機感を覚えた、王妃や第一王子派閥から命を狙われることになった。

 できれば、辺境で静かに暮らしたかったが、それは、王家の紋章が絶対だとする派閥が許してくれなかった。

 そして、この状況をより混迷させたのが、帝国の侵攻である。

 帝国がシリウス皇国へ侵攻する目的の一つが、王家の紋章だったからである。

 王族の証である王家の紋章だが、伝説によると、王家の紋章を持つ者は、宇宙船を動かせる程の魔力があったと伝えられている。

 実際には私にそんな魔力はないのだが、私の子孫にそんな人物が現れる可能性がある。

 帝国はそれを狙っているのだ。

 宇宙船を動かせる程の魔力を持った者がいれば、どれだけの利益をもたらすか計り知れない。
 ましてや、その能力の秘密を解き明かすことができれば、軍事的にも商業的にも絶対的な優位に立てることだろう。

 帝国から王家の紋章を引き渡すように要求されると、シリウス皇国の中では様々な意見が出されて対立した。

 比較的単純なのが、戦争を回避するため私を帝国に引き渡してしまえと言う者。
 しかし、これは予想外に少数派である。

 大多数が引渡しに反対なのだが、その理由は一つではない。
 王家の紋章は絶対だ、国外に出すなど以ての外とする者。
 帝国の利益になり、ゆくゆくはまた侵攻されるだろうという者。
 私が帝国に行ったら、仕返しされると恐れる者。

 そして、それぞれの派閥の中に、穏健派と過激派があり、過激派は、私を帝国に渡すくらいなら殺してしまえと主張し、実際に私の命を狙ってきた。
 何度、事故に見せかけて殺されそうになったことか。

 そして、帝国への引き渡し派にも過激派はいたようである。

 その日、地方惑星の視察に向かっていた私は、予想だにしなかった襲撃を受けることになった。
 それは、帝国軍からのもので、誰かが、帝国に私の行動を漏らしていなければ、起こりえるはずがなかった。
 帝国に私を売った奴がいるのだ。

 私の乗っていた船は、ハルナ四千型だった。
 ハルク千型に比べると二回り小さいが、機動力に優れた船である。
 相手が帝国の軍艦であろうと、一対一なら逃げ切れたであろうが、六隻の船で待ち伏せされ、完全に包囲されてしまった。

 逃げ場を完全に失い、捕まって敵船に拉致された私だったが、幸いなことに、その敵船は帝国の軍艦ではなかった。
 帝国軍は、隠密行動のために軍艦ではなく、民間船を借り上げてこの作戦に利用していたのだ。

 しかも、私が連れて行かれた船は、シリウス皇国製のハルヤ五千型だった。
 私は船室に閉じ込められていたが、マスター権限を使えば、抜け出すのは簡単だった。
 ステーションに寄ったところで抜け出し、他の船に密航して上手いこと逃げ出した。

 そのまま国に帰れば、また命を狙われることになりかねないので、私はそのまま、行方を晦ますことにした。
 そして、その後も、密航を繰り返し、第2857ドックに辿り着いたのだった。

 ドックで宇宙船のライセンス講習を受けたのは、ただの気まぐれではない。

 帝国の男爵令嬢がその講習を受けると耳にしたからだ。
 その男爵令嬢は、帝国軍シリウス方面部隊の将軍の婚約者だとのことだった。
 お近付きになれれば、何かしらの情報を得られるかもしれないと考えたからだ。
 勿論、こちらから帝国の者に近付くのは危険を伴うが、虎穴に入らずんば虎子を得ず、というし、灯台下暗し、ともいう。相手はたかが男爵令嬢だ、それほど危険はないだろうと判断した。

 しかし、講習一日目の朝一番で、これは無駄なことだったと、情報の収集は諦めた。
 目標の男爵令嬢は大バカだったからだ。

 だが、ライセンス講習を受けたことは無駄ではなかった。
 セイヤに会えたからだ。

 セイヤは私から見ても、世間知らずで、向こう見ずである。
 普通、平民は貴族だとわかっていて言い返したりしない。
 それに、あの若さで宇宙船を持っているという。
 それも、ハルク千型のプロトタイプだということだ。

 プロトタイプをなぜ一般人が所有している? 普通ならありえない。
 普通なら開発した企業で所有しているはずだ。シリウス皇国では、宇宙船の製造は国営だ。つまり、プロトタイプは国が管理しているはずである。

 しかも、プロトタイプのデルタだという。
 ハルク千型のプロトタイプにデルタなんてあったとは知らなかった。

 調べてみたら、八百年前、ハルク千型の開発者が、その当時に王女をさらって、プロトタイプのデルタで逃げた記録があった。
 その後、王女も開発者も見つかっていない。プロトタイプのデルタもだ。

 ということは、セイヤはその人攫いの子孫なのだろうか?
 そうだとしても、事件を起こしたのは八百年前の祖先である。
 セイヤを責めるわけにはいかないだろう。
 それに、セイヤはどう見ても善人だ。人攫いをするようには見えない。
 チハルちゃんが懐いているところを見れば確信できる。

 だが、祖先は犯罪者なのだろう。
 セイヤにどこから来たのか聞いても言葉を濁して教えてくれない。
 明らかに人目を忍んで暮らしているようだ。

 もしかするとロストプラネットの可能性もある。
 ならば、そこへ逃げ込めば、まず発見される恐れはない。
 セイヤの言う、片田舎で、のんびり暮らすのも悪くないかもしれない。

 セイヤに一緒に行きたいとお願いしたが、断られてしまった。
 やはり、よほど人に知られたくないようだ。

 私は、王族の持つマスター権限を使い、セイヤの船に密航するのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...