30 / 167
第一部 ライセンス取得編
第30話 非常事態
しおりを挟む
ビー! ビー! ビー!
船内に緊急事態を知らせるアラームが鳴り響き、非常灯が赤く点滅している。
ここはどこだ?
確か俺は、剣と魔法のファンタジーな異世界に転生したのに、魔法が使えず、いじけて、王宮の自室に引きこもっていたはず。
『船長の生命活動が停止しています。蘇生の可能性、現在八十パーセント」
ああ、男爵令嬢は死んだか。
『魔力の不足により、生命維持装置停止中。残り生存可能時間六十分。船長を蘇生させた場合四十分』
男爵令嬢のトリアージは黒だからな。優先されるのは俺の生命だろう。
『格納庫のハッチが破損。シャトルポッドが船外に放出されました』
ああ、そうだ。俺は宇宙船に乗ってたんだった。
『通信用アンテナが破損。救難信号送信が不可能です』
しばらく助けは来ないということか。
そうなる、最初にやるべきは、生命維持装置の復活か。その前に警報の解除だな。
「警報を解除」
『警報を解除します。船長の蘇生の可能性、現在七十五パーセント』
「魔力が回復すれば、生命維持装置は復活するのか?」
『生命維持装置に故障箇所はありません。船長の蘇生の可能性、現在七十四パーセント』
「魔力が回復すれば、航行可能か?」
『航行は可能ですが、速度は、最大ワープ2が限度です。船長の蘇生の可能性、現在七十三パーセント』
「……。わかったよ。男爵令嬢を蘇生させればいいんだろ!」
『船長を蘇生させた場合、残りの生存可能時間は三十八分』
「蘇生させたいのか、させたくないのか、どっちだよ!」
とは言ったものの、このまま見殺しにするのは心苦しいな。
しかし、蘇生させるとなると、心臓マッサージと人工呼吸か。
蘇生しても、後で何を言われるかわからないな。
それに、俺にはリリスという婚約者もいることだし。
人命には変えられないのはわかっているが、相手がこいつじゃな。
「そうだ。電気ショックを与えてみよう。それで駄目ならそれまでということで」
俺は護身用に短剣を取り出した。
それを男爵令嬢の胸に突き立てる。刺さらない程度にだ。
雷魔法いけ!
ビック!
電気が流れて男爵令嬢の身体が痙攣する。
それ、もう一度!
ビック!
『船長の蘇生を確認』
無事蘇生できたようだ。
「ヒィ。殺さないで!」
男爵令嬢が目覚めたようだ。だが、なぜ、殺さないで? 逆に生き返らせたのだが……。
「殺さないではないだろう。現状は理解できているか?」
「刃物を使って、私を襲おうとしているのでしょう。言っておきますが、私の婚約者はあのゴルドビッチ将軍ですからね。襲ったりしたらタダじゃ済まされませんわ」
「誰だそれ?」
「失礼ですわね。数々の武勲を挙げ、今もシリウス方面の最前線で活躍されているゴルドビッチ将軍を知らないなんて」
シリウス方面ってことは、シリウス皇国と戦争しようとしている奴か。
まあ、俺には関係ないがな。
「襲う気はないし、逆に助けたのは俺なんだけど、それはいいとして、生命維持装置が停止して、このままだと後三十八分で死ぬことになる」
『後三十五分です』
「だから言ったんです。生命維持装置を止めては駄目だと!」
「だが、魔力を防御シールドに回してこの有様だぞ、防御シールドがなければ即死だった」
「どうせ死ぬなら、即死の方が良かったですわ」
「諦めるのはまだ早いだろ」
「そうね。確かこんな場合は、シャトルポッドに退避するよう講習で習ったわ」
意外なことに講習はちゃんと聞いていたようだ。
「残念ながらシャトルポッドは使えない」
「何故ですの?」
「格納庫のハッチが壊れて、シャトルポッドが外に放出されてしまった」
「駄目じゃない。あんた、行って取ってきなさい!」
ああ、また無理難題か。
「無理だから!」
「使えないわね」
「それよりいい方法がある」
「何よ。そんな方法があるなら早く言いなさいな」
「船の魔導核に直接魔力を充填する」
俺の船ならキャプテンシートからできたのだが、この船にそんな機能はない。
「? どこから魔力を持って来るつもりなの?」
「俺の魔力を使う」
「人の魔力では、シャトルポッドは兎も角、船の生命維持は賄えないと言っていたわ」
「大丈夫だ。こう見えても魔力は高いんだ」
「どんだけ自意識過剰なのかしら。でもわかったわ。私も協力するから早くいきましょう。実は私も魔力が結構高いのですわ」
「よし、それじゃあ急ごう。時間がない」
『後、三十三分です』
ブリッジの入り口に立ったが扉が開かない。
「魔力不足で自動ドアが作動しないのか……」
俺は手動で無理やりこじ開ける。
「そうなると、エレベーターも動かないな」
「作業路のはしごを降りるしかないわ」
「それしかないか……」
俺は作業路入り口に向かい、その扉を開いた。中に入り、はしごを見つける。
うぉー。下に延々と続いているぞ。
「魔導核は三層下だったか」
「そうですわ」
「行くしかないか」
「早く行きなさいな」
高所恐怖症ではないが、それでも怖い。
俺は覚悟を決めてはしごを降りる。
男爵令嬢も続いて降りて来るようだ。怖いもの知らずか。
「きゃあ!」
「どうした?」
「このすけべ、下から見上げるんじゃないですわ。手が滑っただけですわ」
そんなお決まりのやりとりをしつつ、魔導核のある層に到着した。
心持ち息苦しくなってきた。
時間も迫っているので、直ぐに、俺と男爵令嬢は魔導核に手を翳し、魔力を込める。
俺の左手の甲に紋章が浮かび上がる。
「その痣、どうしたのですの?」
「紋章と呼んでくれ。魔力を込めると現れるんだ」
「厨二病なのですね……」
どうせ、引き篭りの厨二病である。
『魔力が回復しました。生命維持装置が復帰しました』
ふー。何とかなったようだ。
「やったわ。流石、私の魔力!」
まあ、そういうことにしておこう。その方が都合がいいだろうし。
取り敢えず、喫緊な生命の危機は回避できた様だ。
船内に緊急事態を知らせるアラームが鳴り響き、非常灯が赤く点滅している。
ここはどこだ?
確か俺は、剣と魔法のファンタジーな異世界に転生したのに、魔法が使えず、いじけて、王宮の自室に引きこもっていたはず。
『船長の生命活動が停止しています。蘇生の可能性、現在八十パーセント」
ああ、男爵令嬢は死んだか。
『魔力の不足により、生命維持装置停止中。残り生存可能時間六十分。船長を蘇生させた場合四十分』
男爵令嬢のトリアージは黒だからな。優先されるのは俺の生命だろう。
『格納庫のハッチが破損。シャトルポッドが船外に放出されました』
ああ、そうだ。俺は宇宙船に乗ってたんだった。
『通信用アンテナが破損。救難信号送信が不可能です』
しばらく助けは来ないということか。
そうなる、最初にやるべきは、生命維持装置の復活か。その前に警報の解除だな。
「警報を解除」
『警報を解除します。船長の蘇生の可能性、現在七十五パーセント』
「魔力が回復すれば、生命維持装置は復活するのか?」
『生命維持装置に故障箇所はありません。船長の蘇生の可能性、現在七十四パーセント』
「魔力が回復すれば、航行可能か?」
『航行は可能ですが、速度は、最大ワープ2が限度です。船長の蘇生の可能性、現在七十三パーセント』
「……。わかったよ。男爵令嬢を蘇生させればいいんだろ!」
『船長を蘇生させた場合、残りの生存可能時間は三十八分』
「蘇生させたいのか、させたくないのか、どっちだよ!」
とは言ったものの、このまま見殺しにするのは心苦しいな。
しかし、蘇生させるとなると、心臓マッサージと人工呼吸か。
蘇生しても、後で何を言われるかわからないな。
それに、俺にはリリスという婚約者もいることだし。
人命には変えられないのはわかっているが、相手がこいつじゃな。
「そうだ。電気ショックを与えてみよう。それで駄目ならそれまでということで」
俺は護身用に短剣を取り出した。
それを男爵令嬢の胸に突き立てる。刺さらない程度にだ。
雷魔法いけ!
ビック!
電気が流れて男爵令嬢の身体が痙攣する。
それ、もう一度!
ビック!
『船長の蘇生を確認』
無事蘇生できたようだ。
「ヒィ。殺さないで!」
男爵令嬢が目覚めたようだ。だが、なぜ、殺さないで? 逆に生き返らせたのだが……。
「殺さないではないだろう。現状は理解できているか?」
「刃物を使って、私を襲おうとしているのでしょう。言っておきますが、私の婚約者はあのゴルドビッチ将軍ですからね。襲ったりしたらタダじゃ済まされませんわ」
「誰だそれ?」
「失礼ですわね。数々の武勲を挙げ、今もシリウス方面の最前線で活躍されているゴルドビッチ将軍を知らないなんて」
シリウス方面ってことは、シリウス皇国と戦争しようとしている奴か。
まあ、俺には関係ないがな。
「襲う気はないし、逆に助けたのは俺なんだけど、それはいいとして、生命維持装置が停止して、このままだと後三十八分で死ぬことになる」
『後三十五分です』
「だから言ったんです。生命維持装置を止めては駄目だと!」
「だが、魔力を防御シールドに回してこの有様だぞ、防御シールドがなければ即死だった」
「どうせ死ぬなら、即死の方が良かったですわ」
「諦めるのはまだ早いだろ」
「そうね。確かこんな場合は、シャトルポッドに退避するよう講習で習ったわ」
意外なことに講習はちゃんと聞いていたようだ。
「残念ながらシャトルポッドは使えない」
「何故ですの?」
「格納庫のハッチが壊れて、シャトルポッドが外に放出されてしまった」
「駄目じゃない。あんた、行って取ってきなさい!」
ああ、また無理難題か。
「無理だから!」
「使えないわね」
「それよりいい方法がある」
「何よ。そんな方法があるなら早く言いなさいな」
「船の魔導核に直接魔力を充填する」
俺の船ならキャプテンシートからできたのだが、この船にそんな機能はない。
「? どこから魔力を持って来るつもりなの?」
「俺の魔力を使う」
「人の魔力では、シャトルポッドは兎も角、船の生命維持は賄えないと言っていたわ」
「大丈夫だ。こう見えても魔力は高いんだ」
「どんだけ自意識過剰なのかしら。でもわかったわ。私も協力するから早くいきましょう。実は私も魔力が結構高いのですわ」
「よし、それじゃあ急ごう。時間がない」
『後、三十三分です』
ブリッジの入り口に立ったが扉が開かない。
「魔力不足で自動ドアが作動しないのか……」
俺は手動で無理やりこじ開ける。
「そうなると、エレベーターも動かないな」
「作業路のはしごを降りるしかないわ」
「それしかないか……」
俺は作業路入り口に向かい、その扉を開いた。中に入り、はしごを見つける。
うぉー。下に延々と続いているぞ。
「魔導核は三層下だったか」
「そうですわ」
「行くしかないか」
「早く行きなさいな」
高所恐怖症ではないが、それでも怖い。
俺は覚悟を決めてはしごを降りる。
男爵令嬢も続いて降りて来るようだ。怖いもの知らずか。
「きゃあ!」
「どうした?」
「このすけべ、下から見上げるんじゃないですわ。手が滑っただけですわ」
そんなお決まりのやりとりをしつつ、魔導核のある層に到着した。
心持ち息苦しくなってきた。
時間も迫っているので、直ぐに、俺と男爵令嬢は魔導核に手を翳し、魔力を込める。
俺の左手の甲に紋章が浮かび上がる。
「その痣、どうしたのですの?」
「紋章と呼んでくれ。魔力を込めると現れるんだ」
「厨二病なのですね……」
どうせ、引き篭りの厨二病である。
『魔力が回復しました。生命維持装置が復帰しました』
ふー。何とかなったようだ。
「やったわ。流石、私の魔力!」
まあ、そういうことにしておこう。その方が都合がいいだろうし。
取り敢えず、喫緊な生命の危機は回避できた様だ。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界製作 〜転生しようと思ったら異世界作る側だった〜
寝占 羊
ファンタジー
死後、転生小説やアニメの皆のように、
「最弱モンスターに転生したはずが…?」
だとか、
「元々最強の力を持って転生…!」
だとか、
そんな世界を望んで転生!
と思ったら…
"異世界に転生する者"
ではなく、その者達の為の
"異世界を作製する者"
でした…?
記憶障害により、生前の事もはっきり思い出せない主人公、地大創夢(じだいそうむ)は、
その"異世界作製"の使命だけに従い、
気楽に(?)異世界を作っていきます。
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる