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第二章
第74話 混乱エルファンド神聖王国
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**********[神聖王国、国王視点]
「国王陛下大変です」
「何事だ。我は先日の事件の後処理で頭が痛いのだ、緊急でないなら担当大臣に報告しろ」
数日前、創世の迷宮で行われる表彰式に出席するため、我が国を訪れていた隣国ファルベス王国の王女一行が襲われた。幸い王女は無事に助け出されたが、警備にあたっていた者に多数の死傷者が出た。それだけでも問題なのに、その事件を起こしたのが事もあろうに、エルフ原理主義同盟と帝国軍であった。これは対処を誤るとファルベス王国と戦争になりかねない事態だ。
エルフ原理主義同盟については、首謀者と思われる八賢者の半数以上は捕らえることができたが、まだ三名が逃亡している。逃亡先は掴めているのだが、エルフ至上主義の連中から圧力をかけられ、捕縛に踏み切れない状態だ。我が国では、エルフ系の人間が国の要職に就いているため、国王であってもエルフ至上主義の連中を無視できない。
帝国軍に至っては足取りを完全に見失ってしまっている。これでは隣国から説明を求められても、返す言葉がない。
「それどころではございません。国王陛下。エルフ系の人間からエルフの特徴がなくなりました」
「お主はいったい何を言っているのだ。わかるように話せ」
報告の内容が要領を得ず、全く理解できなかった。いったいこの者は何を言いたいのだ。
「数トキ前になりますが、突然エルフ系の人間の耳が、一般人と同じになってしまったのです。耳以外のエルフの特徴も全て失われました」
「何と。そんなことが起こり得るのか。遽には信じられんな。それで、そのエルフの特徴を失ったのは誰だ。態々報告に来たのだ、重要な職に就いていた者なのだろう」
「いえ、それが、一人や二人ではないのです。今まで調べた限りでは、エルフ系人間の全てがその特徴を失っています」
「それは一大事ではないか」
「はい。ですからこうして報告に上がっています」
成る程、それで気が動転して報告が要領を得ないのか、異常事態だから致し方ないかもしれんが、異常事態だからこそ的確に報告してもらいたいものだ。
「それで、原因はわかっているのか。元に戻すことができるのか」
「それらについては現在調査中で、何もわかっていません」
「そうか、では、調査を進めてくれ。何かわかったら直ぐ知らせるように」
「畏まりました」
いったい何が起きている。人間の身体的特徴を簡単に変えることができるものなのか。それも一度に大量に。
魔法や呪いなら可能であろうか? しかし、全員となると神罰という可能性もあるか?
いや、待てよ。本当にエルフ系人間の全員がその特徴を失ったのなら、それは、我にとって福音なのではないだろうか。エルフ系の特徴があるというだけで、能力もないのに国の要職に就いている者たちを一掃できる絶好の機会でわないか。エルフ原理主義同盟も文句を言われることなく潰すことができる。そうすれば、隣国へも申し開きができるだろう。
それから暫くすると新たな報告が上がってきた。その報告によると、身体的特徴を失ったのは、エルフ系の人間だけではなかったようだ。獣人系の人間もその特徴を失っていたのだ。
優遇されていたエルフ系人間と違い、獣人系の人間は蔑まれている場合が多く、そのため大半が獣人系の特徴を隠していた。そのため事態の発覚が遅れ、報告が来るのが遅くなったようである。
しかし、これは王室にとっても重大事項となった。何を隠そう、第一王子のイーサクが獣人系であったのだ。そのため、王位の継承は絶望的だと言われていた。それが今回の件で王位継承権トップに急浮上することになるだろう。
「第一王子はどこにいる」
「第一王子は例の表彰式のため、創世の迷宮に行っておられますが。呼び戻しますか」
「そうであったな。直ぐにでも話し合いたいところではあるが、隣国の王女が来ているからな。この間の事件のこともあるし、蔑ろにはできんな」
「でしたら代わりの王族を派遣してはいかがでしょうか」
「そうだな、それで調整してみてくれ」
「畏まりました」
**********[神聖王国第四王女シルキー視点]
「シルキー王女殿下、外務大臣から、イーサク王子殿下の代わりに創世の迷宮に赴き、隣国の王女一行の対応をしてもらえないか、お願いが来ていますが、どういたしましょう」
「え。私にですか?」
私は、エルファンド神聖王国第四王女シルキー=ハート=パルガン。今年十一歳になったばかり。流石に隣国の王女の相手は荷が重いような気もしますが、第四王女の私のところに話が回ってきたということは、皆忙しいのでしょう。何やら皆走り回っていますし、何かあったのでしょう。
アレ? そういえば、私は一四歳だったと思っていましたが、思い違いだったでしょうか。まあいいです。そんなことより今は隣国の王女一行の件です。
「私に務まるでしょうか」
私は自信無さげに話を持ってきた侍女に聞いてみます。
「相手の王女殿下は十二歳で殿下よりも一つ年上になりますが、国外への訪問は今回が初めてのようです。王女の他は公爵令嬢が招待されています。我が国のニコラス=アウラン子爵が一緒にいらっしゃるようですから、然程心配する必要はないと存じます」
「そうですか。ニコラス様がいらっしゃるなら大丈夫かしら」
「ではそのように報告いたします」
隣国の王女への対応なんて私には無理な気もしますが、できる限り精一杯やり遂げましょう。最悪、子爵様に丸投げして私は微笑んでいればなんとかなるでしょう。
その後一トキも経たぬうちに私は創世の迷宮に出発することになりました。今はお父様の部屋へ出発の挨拶に来ています。
「それではお父様行ってまいります」
「うむ。其方には急な頼みで申し訳がないが、今は状況が混乱している。任せられるのは其方しかおらん。重責であるがよろしく頼む」
そう言った後、お父様は外務大臣に指示を出し、私の前に手紙のようなものが用意されました。
「それは我から隣国の王女に対する親書だ。国の命運がかかっていると言っても過言ではないものだ。必ず其方から隣国の王女に手渡してくれ」
「国の命運が……。わかりました。私の命に替えても必ず隣国の王女にお渡しします」
軽く受けてしまったが、殊の外重要な使命であったようだ。私は緊張した面持ちで親書を受け取ります。
「では、行ってまいります」
私が改めて出発の挨拶をした時に、部屋の扉が大きな音を立てて開かれました。
バタン。
「ちょっと待った。創世の迷宮には私が行きます」
入ってきたのは第二王子のシューサクお兄様でした。
「シューサク何事だ。行儀がなってないぞ」
「申し訳がございません。ですが、イーサク兄さんの代わりにシルキーが急遽創世の迷宮に行くと聞いて慌ててやってまいりました。どうかその役、何卒、私にご命じください」
「いや、お前にはここにいてもらわねばならぬ。呼び戻すイーサクも交えて今後の王位継承について話し合わなければならないからな」
「王位の継承でしたらイーサク兄さんに譲りますから、創世の迷宮に行かせてください」
「なぜそうまでして創世の迷宮に行きたがる。創世の迷宮に何があるのだ」
「それは……。想い女に会うために」
お兄さまの声が段々と小さくなっていきます。
「何、そちは隣国の王女が好きだったのか。しかし、会ったこともないはずだが」
「いえ、王女ではなく公爵令嬢の方です」
「公爵令嬢?」
「隣国の北の公爵令嬢です。私の誕生祝いに来ていただいた」
「ああ、あの目付きの鋭い公爵令嬢か、だが確か彼女は隣国の第一王子の婚約者だった筈だ」
「確かにそうなのですが。想いも告げずに、私は諦めきれません」
「だがな、これ以上隣国と揉める原因を作るわけにはいかん。シューサク、そちはここで待機だ。創世の迷宮には予定通りシルキーに行ってもらう。わかったな、二人とも」
「ううう」
「では行ってまいります」
あービックリした。シューサクお兄様が、隣国の公爵令嬢を好いていたなんて、初耳だわ。しかもその公爵令嬢は既に婚約していて、その相手は隣国の第一王子。
お兄様、そんな相手を好きになってはダメですよ。
しかし、王子二人から言い寄られるなんて、北の公爵令嬢とはどのような方なのでしょう。これはお会いするのが今から楽しみになってきました。私は思わず微笑みます。
「シルキー王女殿下、重大な使命を任されたことがそんなにも嬉しかったのですか。喜ばしい限りです」
「重大な使命? あっ。親書ですか。危ない、危ない。忘れるところでした」
「王女殿下……」
「国王陛下大変です」
「何事だ。我は先日の事件の後処理で頭が痛いのだ、緊急でないなら担当大臣に報告しろ」
数日前、創世の迷宮で行われる表彰式に出席するため、我が国を訪れていた隣国ファルベス王国の王女一行が襲われた。幸い王女は無事に助け出されたが、警備にあたっていた者に多数の死傷者が出た。それだけでも問題なのに、その事件を起こしたのが事もあろうに、エルフ原理主義同盟と帝国軍であった。これは対処を誤るとファルベス王国と戦争になりかねない事態だ。
エルフ原理主義同盟については、首謀者と思われる八賢者の半数以上は捕らえることができたが、まだ三名が逃亡している。逃亡先は掴めているのだが、エルフ至上主義の連中から圧力をかけられ、捕縛に踏み切れない状態だ。我が国では、エルフ系の人間が国の要職に就いているため、国王であってもエルフ至上主義の連中を無視できない。
帝国軍に至っては足取りを完全に見失ってしまっている。これでは隣国から説明を求められても、返す言葉がない。
「それどころではございません。国王陛下。エルフ系の人間からエルフの特徴がなくなりました」
「お主はいったい何を言っているのだ。わかるように話せ」
報告の内容が要領を得ず、全く理解できなかった。いったいこの者は何を言いたいのだ。
「数トキ前になりますが、突然エルフ系の人間の耳が、一般人と同じになってしまったのです。耳以外のエルフの特徴も全て失われました」
「何と。そんなことが起こり得るのか。遽には信じられんな。それで、そのエルフの特徴を失ったのは誰だ。態々報告に来たのだ、重要な職に就いていた者なのだろう」
「いえ、それが、一人や二人ではないのです。今まで調べた限りでは、エルフ系人間の全てがその特徴を失っています」
「それは一大事ではないか」
「はい。ですからこうして報告に上がっています」
成る程、それで気が動転して報告が要領を得ないのか、異常事態だから致し方ないかもしれんが、異常事態だからこそ的確に報告してもらいたいものだ。
「それで、原因はわかっているのか。元に戻すことができるのか」
「それらについては現在調査中で、何もわかっていません」
「そうか、では、調査を進めてくれ。何かわかったら直ぐ知らせるように」
「畏まりました」
いったい何が起きている。人間の身体的特徴を簡単に変えることができるものなのか。それも一度に大量に。
魔法や呪いなら可能であろうか? しかし、全員となると神罰という可能性もあるか?
いや、待てよ。本当にエルフ系人間の全員がその特徴を失ったのなら、それは、我にとって福音なのではないだろうか。エルフ系の特徴があるというだけで、能力もないのに国の要職に就いている者たちを一掃できる絶好の機会でわないか。エルフ原理主義同盟も文句を言われることなく潰すことができる。そうすれば、隣国へも申し開きができるだろう。
それから暫くすると新たな報告が上がってきた。その報告によると、身体的特徴を失ったのは、エルフ系の人間だけではなかったようだ。獣人系の人間もその特徴を失っていたのだ。
優遇されていたエルフ系人間と違い、獣人系の人間は蔑まれている場合が多く、そのため大半が獣人系の特徴を隠していた。そのため事態の発覚が遅れ、報告が来るのが遅くなったようである。
しかし、これは王室にとっても重大事項となった。何を隠そう、第一王子のイーサクが獣人系であったのだ。そのため、王位の継承は絶望的だと言われていた。それが今回の件で王位継承権トップに急浮上することになるだろう。
「第一王子はどこにいる」
「第一王子は例の表彰式のため、創世の迷宮に行っておられますが。呼び戻しますか」
「そうであったな。直ぐにでも話し合いたいところではあるが、隣国の王女が来ているからな。この間の事件のこともあるし、蔑ろにはできんな」
「でしたら代わりの王族を派遣してはいかがでしょうか」
「そうだな、それで調整してみてくれ」
「畏まりました」
**********[神聖王国第四王女シルキー視点]
「シルキー王女殿下、外務大臣から、イーサク王子殿下の代わりに創世の迷宮に赴き、隣国の王女一行の対応をしてもらえないか、お願いが来ていますが、どういたしましょう」
「え。私にですか?」
私は、エルファンド神聖王国第四王女シルキー=ハート=パルガン。今年十一歳になったばかり。流石に隣国の王女の相手は荷が重いような気もしますが、第四王女の私のところに話が回ってきたということは、皆忙しいのでしょう。何やら皆走り回っていますし、何かあったのでしょう。
アレ? そういえば、私は一四歳だったと思っていましたが、思い違いだったでしょうか。まあいいです。そんなことより今は隣国の王女一行の件です。
「私に務まるでしょうか」
私は自信無さげに話を持ってきた侍女に聞いてみます。
「相手の王女殿下は十二歳で殿下よりも一つ年上になりますが、国外への訪問は今回が初めてのようです。王女の他は公爵令嬢が招待されています。我が国のニコラス=アウラン子爵が一緒にいらっしゃるようですから、然程心配する必要はないと存じます」
「そうですか。ニコラス様がいらっしゃるなら大丈夫かしら」
「ではそのように報告いたします」
隣国の王女への対応なんて私には無理な気もしますが、できる限り精一杯やり遂げましょう。最悪、子爵様に丸投げして私は微笑んでいればなんとかなるでしょう。
その後一トキも経たぬうちに私は創世の迷宮に出発することになりました。今はお父様の部屋へ出発の挨拶に来ています。
「それではお父様行ってまいります」
「うむ。其方には急な頼みで申し訳がないが、今は状況が混乱している。任せられるのは其方しかおらん。重責であるがよろしく頼む」
そう言った後、お父様は外務大臣に指示を出し、私の前に手紙のようなものが用意されました。
「それは我から隣国の王女に対する親書だ。国の命運がかかっていると言っても過言ではないものだ。必ず其方から隣国の王女に手渡してくれ」
「国の命運が……。わかりました。私の命に替えても必ず隣国の王女にお渡しします」
軽く受けてしまったが、殊の外重要な使命であったようだ。私は緊張した面持ちで親書を受け取ります。
「では、行ってまいります」
私が改めて出発の挨拶をした時に、部屋の扉が大きな音を立てて開かれました。
バタン。
「ちょっと待った。創世の迷宮には私が行きます」
入ってきたのは第二王子のシューサクお兄様でした。
「シューサク何事だ。行儀がなってないぞ」
「申し訳がございません。ですが、イーサク兄さんの代わりにシルキーが急遽創世の迷宮に行くと聞いて慌ててやってまいりました。どうかその役、何卒、私にご命じください」
「いや、お前にはここにいてもらわねばならぬ。呼び戻すイーサクも交えて今後の王位継承について話し合わなければならないからな」
「王位の継承でしたらイーサク兄さんに譲りますから、創世の迷宮に行かせてください」
「なぜそうまでして創世の迷宮に行きたがる。創世の迷宮に何があるのだ」
「それは……。想い女に会うために」
お兄さまの声が段々と小さくなっていきます。
「何、そちは隣国の王女が好きだったのか。しかし、会ったこともないはずだが」
「いえ、王女ではなく公爵令嬢の方です」
「公爵令嬢?」
「隣国の北の公爵令嬢です。私の誕生祝いに来ていただいた」
「ああ、あの目付きの鋭い公爵令嬢か、だが確か彼女は隣国の第一王子の婚約者だった筈だ」
「確かにそうなのですが。想いも告げずに、私は諦めきれません」
「だがな、これ以上隣国と揉める原因を作るわけにはいかん。シューサク、そちはここで待機だ。創世の迷宮には予定通りシルキーに行ってもらう。わかったな、二人とも」
「ううう」
「では行ってまいります」
あービックリした。シューサクお兄様が、隣国の公爵令嬢を好いていたなんて、初耳だわ。しかもその公爵令嬢は既に婚約していて、その相手は隣国の第一王子。
お兄様、そんな相手を好きになってはダメですよ。
しかし、王子二人から言い寄られるなんて、北の公爵令嬢とはどのような方なのでしょう。これはお会いするのが今から楽しみになってきました。私は思わず微笑みます。
「シルキー王女殿下、重大な使命を任されたことがそんなにも嬉しかったのですか。喜ばしい限りです」
「重大な使命? あっ。親書ですか。危ない、危ない。忘れるところでした」
「王女殿下……」
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