65 / 80
第二章
第63話 ヨークシャ商会
しおりを挟む
王子から手紙でヒロイン攫われたことを知った私は、シリーと二人ヨークシャ商会の裏口に転移した。
「周りに人はいない」
「はい、大丈夫です。転移を目撃されませんでした」
「よかった」
緊急事態なので仕方なく使用したが、転移できることが他人に知られるといろいろ厄介だ。父親にも禁止されている。
「先ずはヒロインの居どころね」
私はヨークシャ商会の建物を鑑定し、ヒロインの居場所を探る。
「いた、地下室のようなところね。このまま乗り込むわよ」
グアシャン。
裏口のドアを蹴破り、そのまま廊下を建物の奥に進む。
「何事だ、止まれ、貴様ら何処から入ってきた」
「構っている暇はないわ」
「うっ」
現れた従業員の男性に当身を食らわせ、構わず先に進む。
「おい、誰か警備隊を呼んで来い。二人組の女の盗賊だ」
後ろの方で声がするが、そんなものは構わない。警備隊が来て困ることになるのは、むしろお前たちの方だ。
私は次々に扉を蹴破り、地下室への階段を駆け下り、地下室の扉の前に辿り着いた。中に攫われたヒロインがいるはずだ。私は息を呑んで扉を開け中に入った。
地下室は異様な雰囲気に包まれていた。拷問部屋のような、SM部屋のような、監禁部屋のような、そんな道具や器具が散乱し、鉄格子でできた檻まである。異様な匂いが部屋中に充満していた。
なにこの匂い。
まずい。
私はとっさに指環の収納から解毒薬を取り出し飲み干した。
「流石ですね。とっさに解毒剤を服用するとは」
物陰から、キース=ヨークシャがヒロインを引き摺って現れた。
髪を持たれ引き摺られるヒロインは、裸にされ全身痣だらけである。意識が朦朧としており、目の焦点が合っていない。薄ら笑いを浮かべている。
「帝国製の痺れ薬に既存の解毒薬がどこまで効きますか」
ヒロインの有り様に怒り心頭ではあるものの身体が自由に動かない。
「シリー、取り敢えず撤退よ」
「後ろのメイドさんなら、倒れていますが」
後ろを確認するとシリーが倒れていた。いざとなれば転移で逃げられると思ったが甘かった。こうなれば出たとこ勝負、神頼みだ。いや、神は後ろで伸びているか。
「サーヤさんになにをしたの」
「見ての通り、教育的指導を少しね。本番はこれからですがね」
キースはヒロインを転がし、腹を踏みつけた。股間から何か溢れ出ている。
「なんて酷いことを」
「本人は気持ちよくて夢心地じゃないかな。この帝国製の薬はよく効くんだ。もっとも帰っては来れないけどね」
瓶に入った謎の黒い液体を揺らして見せる。
「帰ってこれないってどういうこと」
「ずっと夢の世界に行ったままってことさ」
「もとには戻せないの」
「そういうこと。もっとも伝説のエリクサーでもあれば、なんとかなるかも知れないけどね」
そう言ってキースは笑った。
怒りがこみ上げる中、私は冷静に考えを巡らしていた。シリーの支援魔法、思考加速と並列処理のおかげだろうか。
ヒロインがずっとあのままだった場合どうなる。いっそここで死んでやり直した方がいいか。そうすれば、体の傷は奇麗さっぱり無くすことができる。その場合記憶はどこまである。記憶が戻った時に受ける心の傷はどの程度だ。それは、エリクサーを手に入れて治療した場合でも同じか。なら、死んだほうがましか。
「これから君にも使ってあげるから喜んでよ。高いんだよ。この薬」
「そんな薬をどうやって手に入れた」
「帝国から密輸したのに決まってるだろ。いろいろ伝手があってね」
「第四皇子か」
「ほう。そんなことまで知っているのか。流石は公爵令嬢」
声は後方からした。階段を降り、地下室に一人の男が入ってきたのだ。
「親父」
「あなたが会頭か」
「お初にお目にかかります。バーグ=ヨークシャ。ヨークシャ商会の会頭をしております。以後お見知りおきを、公爵令嬢」
バーグは、いかにも、何事もないような挨拶をよこす。こちらから挨拶を返す気はない。
「あなたには、一つ聞いておかなければならないことがある」
「何でしょう。どうせここからは二度と出られないのです。一つならお答えしますよ」
「帝国とはいつから繋がっていた」
「そうですね。ランドレースが死ぬ少し前からです」
そんな前から帝国と繋がっていたのか。死に戻るようなことがあれば、早々に潰しておかないと危険だな。
「サーヤの祖父も関わっていたのか」
「あの人がそんな違法行為をするわけがないでしょう。知られたら警備隊に突き出されますよ」
「なら、サーヤさんの祖父が死んだのはあなたの仕業なのか」
「お答えするのは一つといいましたが、既に三つ目ですよ。まあいいでしょう、貴族のお嬢様ですからね。特別サービスですよ」
いかにも貴族のお嬢様は、我が儘で困ったものだと言いたげな口調だ。
「残念ながら、自然死ですね。商会を乗っ取るために、そこの孫娘と一緒に死んでもらう計画だったのに、実行前に、心不全で死んでしまいました。お陰で商会を乗っ取るのに余計な時間と手間をかけさせられました。まさか、商会を引き継いだ孫娘が直ぐ死んでしまったら不審に思われますからね。ですが息子にはいいおもちゃができたようです」
「そう。おもちゃなの」
「それではあなたにも、この薬を飲んで夢の国に行ってもらいましょうかね。そこのメイドもご一緒に。お、これは流石、公爵家のメイド、美しさが違いますな。十分に楽しめそうだ」
もういい、女性をおもちゃだと思っているやつらに生きる資格はない。こいつらは悪だ!
「グラール来い!」
私の呼びかけに答えて、グラールが空中に現れる。
「召喚魔法使いなのか」
「そんな少女を呼び出してなにになる」
「悪はどこ?」
「グラール、こいつらは悪だ」
「こいつらは悪、滅していいの?」
嬉しそうなグラール。
「何をする気だ」
バーグが声を荒げる。
「幼女もいいな」
キースは馬鹿だ。
「構わない。滅してしまえ!」
「こいつらは悪、滅する」
グラールがそう言った瞬間、二人はこの世から消えさった。
「周りに人はいない」
「はい、大丈夫です。転移を目撃されませんでした」
「よかった」
緊急事態なので仕方なく使用したが、転移できることが他人に知られるといろいろ厄介だ。父親にも禁止されている。
「先ずはヒロインの居どころね」
私はヨークシャ商会の建物を鑑定し、ヒロインの居場所を探る。
「いた、地下室のようなところね。このまま乗り込むわよ」
グアシャン。
裏口のドアを蹴破り、そのまま廊下を建物の奥に進む。
「何事だ、止まれ、貴様ら何処から入ってきた」
「構っている暇はないわ」
「うっ」
現れた従業員の男性に当身を食らわせ、構わず先に進む。
「おい、誰か警備隊を呼んで来い。二人組の女の盗賊だ」
後ろの方で声がするが、そんなものは構わない。警備隊が来て困ることになるのは、むしろお前たちの方だ。
私は次々に扉を蹴破り、地下室への階段を駆け下り、地下室の扉の前に辿り着いた。中に攫われたヒロインがいるはずだ。私は息を呑んで扉を開け中に入った。
地下室は異様な雰囲気に包まれていた。拷問部屋のような、SM部屋のような、監禁部屋のような、そんな道具や器具が散乱し、鉄格子でできた檻まである。異様な匂いが部屋中に充満していた。
なにこの匂い。
まずい。
私はとっさに指環の収納から解毒薬を取り出し飲み干した。
「流石ですね。とっさに解毒剤を服用するとは」
物陰から、キース=ヨークシャがヒロインを引き摺って現れた。
髪を持たれ引き摺られるヒロインは、裸にされ全身痣だらけである。意識が朦朧としており、目の焦点が合っていない。薄ら笑いを浮かべている。
「帝国製の痺れ薬に既存の解毒薬がどこまで効きますか」
ヒロインの有り様に怒り心頭ではあるものの身体が自由に動かない。
「シリー、取り敢えず撤退よ」
「後ろのメイドさんなら、倒れていますが」
後ろを確認するとシリーが倒れていた。いざとなれば転移で逃げられると思ったが甘かった。こうなれば出たとこ勝負、神頼みだ。いや、神は後ろで伸びているか。
「サーヤさんになにをしたの」
「見ての通り、教育的指導を少しね。本番はこれからですがね」
キースはヒロインを転がし、腹を踏みつけた。股間から何か溢れ出ている。
「なんて酷いことを」
「本人は気持ちよくて夢心地じゃないかな。この帝国製の薬はよく効くんだ。もっとも帰っては来れないけどね」
瓶に入った謎の黒い液体を揺らして見せる。
「帰ってこれないってどういうこと」
「ずっと夢の世界に行ったままってことさ」
「もとには戻せないの」
「そういうこと。もっとも伝説のエリクサーでもあれば、なんとかなるかも知れないけどね」
そう言ってキースは笑った。
怒りがこみ上げる中、私は冷静に考えを巡らしていた。シリーの支援魔法、思考加速と並列処理のおかげだろうか。
ヒロインがずっとあのままだった場合どうなる。いっそここで死んでやり直した方がいいか。そうすれば、体の傷は奇麗さっぱり無くすことができる。その場合記憶はどこまである。記憶が戻った時に受ける心の傷はどの程度だ。それは、エリクサーを手に入れて治療した場合でも同じか。なら、死んだほうがましか。
「これから君にも使ってあげるから喜んでよ。高いんだよ。この薬」
「そんな薬をどうやって手に入れた」
「帝国から密輸したのに決まってるだろ。いろいろ伝手があってね」
「第四皇子か」
「ほう。そんなことまで知っているのか。流石は公爵令嬢」
声は後方からした。階段を降り、地下室に一人の男が入ってきたのだ。
「親父」
「あなたが会頭か」
「お初にお目にかかります。バーグ=ヨークシャ。ヨークシャ商会の会頭をしております。以後お見知りおきを、公爵令嬢」
バーグは、いかにも、何事もないような挨拶をよこす。こちらから挨拶を返す気はない。
「あなたには、一つ聞いておかなければならないことがある」
「何でしょう。どうせここからは二度と出られないのです。一つならお答えしますよ」
「帝国とはいつから繋がっていた」
「そうですね。ランドレースが死ぬ少し前からです」
そんな前から帝国と繋がっていたのか。死に戻るようなことがあれば、早々に潰しておかないと危険だな。
「サーヤの祖父も関わっていたのか」
「あの人がそんな違法行為をするわけがないでしょう。知られたら警備隊に突き出されますよ」
「なら、サーヤさんの祖父が死んだのはあなたの仕業なのか」
「お答えするのは一つといいましたが、既に三つ目ですよ。まあいいでしょう、貴族のお嬢様ですからね。特別サービスですよ」
いかにも貴族のお嬢様は、我が儘で困ったものだと言いたげな口調だ。
「残念ながら、自然死ですね。商会を乗っ取るために、そこの孫娘と一緒に死んでもらう計画だったのに、実行前に、心不全で死んでしまいました。お陰で商会を乗っ取るのに余計な時間と手間をかけさせられました。まさか、商会を引き継いだ孫娘が直ぐ死んでしまったら不審に思われますからね。ですが息子にはいいおもちゃができたようです」
「そう。おもちゃなの」
「それではあなたにも、この薬を飲んで夢の国に行ってもらいましょうかね。そこのメイドもご一緒に。お、これは流石、公爵家のメイド、美しさが違いますな。十分に楽しめそうだ」
もういい、女性をおもちゃだと思っているやつらに生きる資格はない。こいつらは悪だ!
「グラール来い!」
私の呼びかけに答えて、グラールが空中に現れる。
「召喚魔法使いなのか」
「そんな少女を呼び出してなにになる」
「悪はどこ?」
「グラール、こいつらは悪だ」
「こいつらは悪、滅していいの?」
嬉しそうなグラール。
「何をする気だ」
バーグが声を荒げる。
「幼女もいいな」
キースは馬鹿だ。
「構わない。滅してしまえ!」
「こいつらは悪、滅する」
グラールがそう言った瞬間、二人はこの世から消えさった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜
ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。
沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。
だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。
モブなのに魔法チート。
転生者なのにモブのド素人。
ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。
異世界転生書いてみたくて書いてみました。
投稿はゆっくりになると思います。
本当のタイトルは
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜
文字数オーバーで少しだけ変えています。
なろう様、ツギクル様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる