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第二章

第62話 情報交換

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「また使わせてもらうよ」
 第一王子が、図書館の司書のお姉さんに一声かけて奥に進んでいく。
 私も軽くお辞儀をし、後に続く。
 お姉さんは、こちらを少しだけ見て軽く微笑み、通常業務に戻った。

 あの笑みは何だろう。「お盛んなことで、ごゆっくりお楽しみください」だろうか。
「そんなんじゃないからね」
 大声で言ってやりたいところだがそうもいかない。
 仮に言えたとしても、言い訳にしか聞こえないだろう。

 私は、第一王子と、例の貴族がよく使うという、図書館奥の個室に来ていた。
 ガチャ。
 個室のドアの鍵を内側から第一王子が閉める。

「これで誰にも邪魔されずゆっくりできる。それでは早速始めようか」
 第一王子は上着を脱ぎ捨てる。

「そうですね。ですがなぜそこで上着を脱ぎ捨てるのですか」
「別に深い意味はないよ。リラックスしたいだけだ。個室で少し暑いし」
「左様ですか。ですが脱いだ上着はちゃんとハンガーに掛けてください。変に皺になると外に出た時怪しまれます」
 そう言って、私は王子が脱ぎ捨てた上着をハンガーに掛けた。

「今更だろ。ここに二人だけでいるだけで十分に怪しい。それに婚約者同士なんだ構わないだろう」
「それでもです」
 私が気にし過ぎだろうか。そんなことないよね。

「それで、帝国の皇子の様子はどうだい」
「授業中はこれといって怪しいところはありませんね」
「そうか。こちらは少し新しい情報がある」
 監視役からの報告書を見ながら王子が続けた。

「ヨークシャ商会に頻繁に出入りしているな」
「ヨークシャ商会ですか。同学年に会頭の息子がいますが学院で接触している様子は見ませんが」

「そうかい。ヨークシャ商会だが、侯爵令嬢も頻繁に出入りしているようだ」
「マリー様ですよね。そちらは学院内でも噂を聞いたことがあります」

「その侯爵令嬢は、弟の第二王子にぞっこんだってね」
「そうですね。マリー様なら第二王子のため、何でもするでしょうね」

「そうなると邪推だが、第二王子=侯爵令嬢=ヨークシャ商会=帝国皇子と繋がる可能性が出てきた。弟が変な気を起こしていなければいいのだけれど」

「ヨークシャ商会はあまりよい噂を聞きませんが」
「そうだな、利益のために手段を選ばないようだし、商売の規模の割に羽振りが良過ぎる話も聞く。帝国や侯爵家と組んで、裏で何かしているのかもしれないな。ヨークシャ商会にも監視を付けよう」

「そうしてもらえると助かります」
「何かあるのか」
「実は……」

  私は、ヒロインがヨークシャ商会や侯爵令嬢に狙われていることを王子に伝える。
 「そうか、そのサーヤという子も大変だな」
 「トレス様が日頃から気に掛けているようではありますが」
 「大公令嬢がか。どういった関係だ?」
 「それについては私からはなんとも。ただトレス様だけでは目が行き届いてないようです」
  
 「それで君も気にしているのか。君も案外お人好しだな」
 「案外は余計です。まあ、こちらの都合もあるのですけれど」
  
 「わかったよ。その娘が狙われる情報を掴んだら、すぐ君に知らせるようにするよ」
 「ありがとうございます。助かります」

 第一王子とそんなやり取りをしたのが昨日のお昼休みのことである。
 私が夕食後自室で寛いでいると、リココが慌てて手紙をもってきた。
「イライザお嬢様、第一王子から緊急のお知らせです」
「第一王子から?」

 私は手紙を受け取り、中身を確認する。
「サーヤさんが攫われたわ」
「サーヤさんがですか。どうして。どうしましょう」
 リココが慌てている。

「リココ落ち着いて、私とシリーで転移して助けに向かうわ。あなたはここに残って私たちが転移したことを悟られない様にして」
 転移は父に禁止されているが、そんなことを言っている場合ではない。
 事態は一刻を争う。既にサーヤさんが攫われてからかなりの時間が経っている。攫われた先はヨークシャ商会だ。となると犯人はキースだろう。あの男なら攫ったサーヤさんをその場で手籠めにしても不思議ではない。
 こうなると、緊急連絡の手段をもっと早く整えておくべきだったと悔やまれる。

「シリーお願い。ヨークシャ商会に転移して。出来るだけ目立たないように」
「畏まりました。それでは行きます」

『転移』

 私とシリーは、攫われたサーヤさんを助け出すため、ヨークシャ商会へと転移した。

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