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第二章

第61話 商売繁盛

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 聖女に関するごたごたも一段落し、私は久しぶりにゆっくり学園のカフェで昼食をとっていた。
「イライザお嬢様。いつもお世話になっているのに、ろくに挨拶にも伺わず申し訳ございません。この度同じ学院に入学しましたので、引き続きよろしくお願いします」
「あら、シロー君、久しぶりね。相変わらず商売の方は忙しいの」
 公爵領にあるレグホン商会の孫、シロー=レグホンである。

「はい、おかげさまでカードゲームの売り上げも順調で、第2月からは王都支店も開設しました」
「そう、王都にも支店を開設したの、それじゃあ今度から製品は王都支店に届けさせればいいわね」
「はい、そうしていただければ助かります。ところで、レアカードの作成は負担になっていませんか」

 そう、私は、レグホン商会の販売するカードゲームのレアカードの作成を一手に引き受けている。それというのも、レアカードは魔法カードであるからだ。
「大丈夫よ。最近は空いた時間にできる様に道具も工夫したから、さほど負担ではないわ。見ていてね」

 私は白紙のカードと魔法顔料が入ったペンを取り出し、さらさらさらと、一瞬で魔法カードを仕上げた。
「ほら、簡単でしょ。いい時間潰しになるわ」
「おー。凄いですね。ところで、このペンは?」
「これが工夫した道具よ。インク瓶と筆では作業できる場所が限られるでしょ。これなら、どこでもサッと取り出して描けるわ。魔法回路が描けるペンだから、名付けてマジックペンよ」

 マジックペンとはよく言ったもので、前世にあったマジックペンのインクを魔法顔料に変えただけのものである。
「マジックペンですか。これ、中身を魔法顔料でなく普通のインクにしたら一般の筆記用具として便利そうですね」
「あれ、同じようなもの無かった?」
「僕の知る限りありませんね」

 この世界にマジックペンが無かった。これ、商品化したら売れるよね。
「そう、ならレグホン商会で商品化してくれない」
「商品として売り出すのですか。売れるかな?」
「多分売れると思うからよろしくね」
「畏まりました。細かいことはまたシリーさんと詰めればいいですか」
「そうして頂戴」

 上手くいけば一儲けできそうだ。などと捕らぬ狸の皮算用をしていたら、カフェの入り口から怒鳴り声が聞こえる。

「なぜ、お前がこんな所にいる。ここは貧乏人の来るところじゃない。さっさと向こうに行け」
「そんなこと言われても、私ここで人に呼ばれているの」
「なに、俺に逆らうのか、俺の家から追い出された分際で」
「追い出されたって、元々あそこは私の家だったのに」
 ヒロインのサーヤが、キース=ヨークシャともめている。

「何事ですかね」
「何かもめているようね。助けた方がいいかしら」
 私は席を立ち、二人の所へ歩み寄る。

「どうかしましたか。カフェで大声を上げていると皆さんのご迷惑よ」
「イライザ様」
「イライザ様?」
 キースか振り返り私を確認する。

「申し訳ございません。この者が立場を考えずにカフェに立ち入ろうとしていたので、注意していたところです」
「そうなの、ですがカフェは誰が利用してもいいのよ」
「それは、利用料金が払えればということでしょう。この者に利用料金は払えません」
「確かに私では払えないかもしれませんが、私は呼ばれてきただけです」
「そう、誰に呼ばれたの」

 そこに丁度トレス大公令嬢が顔を出す。
「サーヤさん、遅れてごめんなさい。あら、イライザ様どうかされまして」
 大公令嬢がこちらを訝しげに睨んでくる。

「トレス様、イライザ様は別に何も、というか助けに入って下さいました」
「待ち人が来たようですね。でしたら私はこれで。皆さん、ごきげんよう」
 私は早々にその場を離れ、席に戻る。

「大丈夫でしたか」
「トレス様が来たから大丈夫でしょ」
「もめていたのはどなたですか、随分と美しい方でしたが」
「あらあら、うふふ」
「いや、そんなんじゃないですから」

 そういえばシローは攻略対象者だ、初イベントの邪魔をしてしまっただろうか。もっとも、イベント強制力もあるし気にする必要はないか。

「絡まれていた方はサーヤ=ランドレース。絡んできた方はキース=ヨークシャよ」
「ヨークシャ。あのヨークシャ商会のですか」
「そうね。ヨークシャ商会々頭の息子だったはず。因みにサーヤはヨークシャ商会に乗っ取られた、元ランドレース商会の会頭の孫娘よ」
「そうですか、ヨークシャ商会には家の王都支部を作るにあたり、何やかんやと邪魔されまして、いい印象は無かったのですが。それを聞いて余計印象が悪くなりました」
「確かに、余りいい噂は聞かなわね」

 私たちがヨークシャ商会の話をしていると、一人の女性がテーブルの脇に立っていた。会話が途切れるのを待っていたようだ。

「イライザ様、先ほどは助けに入っていただきありがとうございました。それと、教会でのことも、ちゃんとしたお礼を言えずじまいで申し訳ありませんでした。あの時は本当に助かりました」
「ああ、あの時のことは余り他人に知れたくないからここでは内密に」
「そうでしたね。すみません」

「あの。サーヤ=ランドレースさんですね。初めてお目に掛かります。僕、いや私は、北の公爵領にあるレグホン商会々頭の孫、シロー=レグホンです」
「レグホン商会というと、最近王都にも支店を出した。カードゲームが人気の」
「そうです。そのレグホン商会です。あのカードゲームもここにいらっしゃるイライザお嬢様の協力で、私が開発したものです」
「そうですか。イライザ様はそんなことまでされているのですか。流石は公爵令嬢様ですね」
「……。はい、イライザお嬢様にはお世話になりっぱなしです」

 ありゃー。シローは押せ押せなのに、サーヤさんはまるで関心が無いようね。正に暖簾に腕押しといった感じだ。ここは少し助け舟を出すとしましょう。

「そうだ、サーヤさん。不躾な話で申し訳ありませんが、もしお金にお困りなら、シロー君の所のレグホン商会でアルバイトをしてみてはいかがかしら。確か算術の講義も随分と熱心に聞いておられたし、そちらの方面に興味がおありなのではないですか」
「そうですか、でしたらぜひ、レグホン商会に。まだ王都支部ができたばかりで人手が足りていないのです。これからイライザお嬢様が考えた新しい商品の販売にも取り掛からなければならないので、助けると思って働いていただけませんか」
「突然言われても困りますが、イライザ様が考えた商品を販売するのですか。でしたら、前向きに検討させていただきます」

 私が考えた商品の方に関心があるようですね。まあ、でも仕事で顔を合わせる機会ができただけでもシローには感謝してもらいましょう。

「そうですか、働いていただけるようでしたら王都支部に来てください。話は通しておきます」
「分かりました。その際はよろしくお願いします」
「サーヤさん私からもよろしくお願いしますね」
「分かりました。それではこれで失礼します」

 これで、レグホン商会で働くようになれば、魔物刈に行く必要もなくなり、死亡する危険性が少しは低くなるだろう。後はシローには自分で頑張ってもらうとしましょう。

「イライザお嬢様。ありがとうございます。マジックペンの販売、頑張らせていただきます」

 シローには大変感謝されたようだ。

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