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第二章
第56話 バグ
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**********[ヒロイン、サーヤ視点]
大きく音を立てて開かれた扉に、講義室内に居た新入生全員の視線が私に刺さります。
13回目です。この扉を開いたのは。
せめてあとほんの僅かでも戻る時間が早ければ、この扉を開けないという選択もあったかも知れないのに。
私は思わず心の中で愚痴ります。
「おい、お前何者だ」
騎士さんが私の右腕を掴んで詰問します。
私は力任せに、無理矢理拘束から逃れます。何度も生き返って能力が上がっていますから、これくらい楽々です。
と、思ったのがいけなかったのでしょう。私は、反動でそのまま仰向けに転んでしまいます。
そこに、私たちを止めようと、踏み出していた公爵令嬢の侍女の足が踏み下ろされます。
「グエ」
私はお腹を踏まれ、変な声を出してしまいます。
周りからボソボソと、ひそひそ話をする小声が聞こえてきます。
「うわー。足蹴にしているよ」
「公爵令嬢の侍女か」
「主人に命令されたのかしら」
「見ろ、あの令嬢、目つき悪」
「最初の犠牲者か」
「可愛そう」
「はー」
深い溜息と共に辺りが静まり返りました。
「リココ足を退けなさい」
「あ、すみませんでした」
私を踏みつけていた侍女が、公爵令嬢の言葉に我に返り、私に謝ってくれます。
公爵令嬢は、こちらには興味がないといった感じに視線を前に向け「これがイベント強制力かあ」と小さな声で意味の分からないことを呟いていました。
「大丈夫か」
私が立ち上がれないでいると、第二王子が歩み寄り、手を引いて立たせてくれます。今まで静まり返っていた講義室に今度は黄色い悲鳴が響きます。
「君、可愛いね。名前は何て言うの」
「え、えーと、サーヤ=ランドレースと言います」
「サーヤね。俺はツヴァイト=セントラル=グリューン第二王子だ、気軽にツヴァイトと呼んでくれて構わない」
「助け上げて頂いてありがとうございました」
私は深々と頭を下げます。
「そうだ、サーヤもここに座るがいい」
自分が座っていたソファーを指し示す王子様。途端に再び響き渡る黄色い悲鳴。そんな中、私は眼前の空中に、いつものように選択の文字列が映し出されます。
1 王子と座る
2 前の席に孤独に座る
3 大公令嬢と仲良くなる
4 公爵令嬢を蹴飛ばす
この選択も13回目です。今まで2と3は選んだことがありますが、1と4についてはまだ選んだことがありません。
今回、私は、一つの勝負に出てみることにしました。
4は流石に無理なので、畏れ多いですが、1の王子と座る。を選ぶことにしました。
1 で。
ビー、ビー、ビー
私が、1を選択した途端に頭の中でサイレンが鳴り響きます。
続いて、目の前の空中に文字列が流れていきます。
バグ発生。
システムエラー。
修正が必要です。
デバッグモードに移行します。
バグ内容、公爵令嬢が第二王子の婚約者ではない。
修正内容、公爵令嬢の役割を侯爵令嬢が行うように変更。
実行しますか。
はい
いいえ
これは、よくわからないけれど実行した方がいいのよね。
はい。実行で。
サイレンの音が止みました。
目の前の空中に文字列が浮かびます。
バグの修正に成功。
通常モードに戻ります。
これで、公爵令嬢からの虐めから解放されたのかしら。
ホットしたのも束の間、第二王子の隣に座っていた、金髪縦ロールのご令嬢様がこっちを睨んでいます。
公爵令嬢に比べれば全然だけど、それでも怖いです。
**********[侯爵令嬢、マリー視点]
私の名前は、マリー=フラウム、誇り高きフラウム侯爵家の長女。
巷では、私のことを、金髪縦ロール、などと嘲笑する者もいますが、この髪型は、フラウム侯爵家に伝わる、格式高い、伝統の髪型なのです。
それに、ツヴァイト第二王子殿下に褒めていただいた、大切な思い出の髪型でもあります。そう簡単に変えるわけにはいきません。
あれはそう、もう7年前になります。7歳になる私は母に連れられて、初めて王宮のお茶会に参加していました。
子供たちも何人か参加していましたが、皆さん私より年上で、初めて参加した私は、なかなか会話の輪に入れませんでした。
その時話しかけてくださったのが、ツヴァイト様でした。
「お前はフラウム家のものか」
「はい、フラウム侯爵家のマリーといいます」
「そうか、その髪型ですぐにわかったぞ。貴族の伝統に則った、素晴らしい髪型だ。今では、フラウム家の者以外滅多に見ないが、お前はその髪型がよく似合っているな」
「ありがとうございます。殿下」
「俺のことは、ツヴァイトでよい」
それまでの私は、この古臭い髪型が好きではありませんでした。しかし、ツヴァイト様に褒めてもらってからは、常にこの髪型にすることにしたのです。
「お前の髪型は目立つな。パーティー会場でもすぐ見つけられる」
「ツヴァイト様、お目を掛けていただきありがとうございます」
ツヴァイト様は、私を見つけるとすぐに話し掛けてくださいます。
私が、ツヴァイト様の虜になるまでには然程時間がかかりませんでした。
それからというもの、私はツヴァイト様のため、生きて来たと言っても過言ではありません。
ツヴァイト様を狙う雌豚がいれば、ある時は侯爵家の権力で、また、ある時は裏から手を回し、全て排除してきました。
幸いなことに、最大のライバルと見ていた公爵令嬢が、ツヴァイト様に全く関心がなく、今では第一王子の婚約者です。
それに関しては、とりあえずは一安心ですが、もし、第一王子と組んでツヴァイト様の王位継承を邪魔するようであれば、全力で捻り潰します。
そして、今日、新たな雌豚が現れました。
平民の分際で、ツヴァイト様に話しかけ、事もあろうに隣に座るなんて、信じられません。
その場で串刺しにしてやろうかと思いましたが、知識のない平民なので、事の重大さに気づいていないのでしょう。後でゆっくりとその身に覚えさせてあげるとしましょう。
さて、明日から忙しくなりそうです。
大きく音を立てて開かれた扉に、講義室内に居た新入生全員の視線が私に刺さります。
13回目です。この扉を開いたのは。
せめてあとほんの僅かでも戻る時間が早ければ、この扉を開けないという選択もあったかも知れないのに。
私は思わず心の中で愚痴ります。
「おい、お前何者だ」
騎士さんが私の右腕を掴んで詰問します。
私は力任せに、無理矢理拘束から逃れます。何度も生き返って能力が上がっていますから、これくらい楽々です。
と、思ったのがいけなかったのでしょう。私は、反動でそのまま仰向けに転んでしまいます。
そこに、私たちを止めようと、踏み出していた公爵令嬢の侍女の足が踏み下ろされます。
「グエ」
私はお腹を踏まれ、変な声を出してしまいます。
周りからボソボソと、ひそひそ話をする小声が聞こえてきます。
「うわー。足蹴にしているよ」
「公爵令嬢の侍女か」
「主人に命令されたのかしら」
「見ろ、あの令嬢、目つき悪」
「最初の犠牲者か」
「可愛そう」
「はー」
深い溜息と共に辺りが静まり返りました。
「リココ足を退けなさい」
「あ、すみませんでした」
私を踏みつけていた侍女が、公爵令嬢の言葉に我に返り、私に謝ってくれます。
公爵令嬢は、こちらには興味がないといった感じに視線を前に向け「これがイベント強制力かあ」と小さな声で意味の分からないことを呟いていました。
「大丈夫か」
私が立ち上がれないでいると、第二王子が歩み寄り、手を引いて立たせてくれます。今まで静まり返っていた講義室に今度は黄色い悲鳴が響きます。
「君、可愛いね。名前は何て言うの」
「え、えーと、サーヤ=ランドレースと言います」
「サーヤね。俺はツヴァイト=セントラル=グリューン第二王子だ、気軽にツヴァイトと呼んでくれて構わない」
「助け上げて頂いてありがとうございました」
私は深々と頭を下げます。
「そうだ、サーヤもここに座るがいい」
自分が座っていたソファーを指し示す王子様。途端に再び響き渡る黄色い悲鳴。そんな中、私は眼前の空中に、いつものように選択の文字列が映し出されます。
1 王子と座る
2 前の席に孤独に座る
3 大公令嬢と仲良くなる
4 公爵令嬢を蹴飛ばす
この選択も13回目です。今まで2と3は選んだことがありますが、1と4についてはまだ選んだことがありません。
今回、私は、一つの勝負に出てみることにしました。
4は流石に無理なので、畏れ多いですが、1の王子と座る。を選ぶことにしました。
1 で。
ビー、ビー、ビー
私が、1を選択した途端に頭の中でサイレンが鳴り響きます。
続いて、目の前の空中に文字列が流れていきます。
バグ発生。
システムエラー。
修正が必要です。
デバッグモードに移行します。
バグ内容、公爵令嬢が第二王子の婚約者ではない。
修正内容、公爵令嬢の役割を侯爵令嬢が行うように変更。
実行しますか。
はい
いいえ
これは、よくわからないけれど実行した方がいいのよね。
はい。実行で。
サイレンの音が止みました。
目の前の空中に文字列が浮かびます。
バグの修正に成功。
通常モードに戻ります。
これで、公爵令嬢からの虐めから解放されたのかしら。
ホットしたのも束の間、第二王子の隣に座っていた、金髪縦ロールのご令嬢様がこっちを睨んでいます。
公爵令嬢に比べれば全然だけど、それでも怖いです。
**********[侯爵令嬢、マリー視点]
私の名前は、マリー=フラウム、誇り高きフラウム侯爵家の長女。
巷では、私のことを、金髪縦ロール、などと嘲笑する者もいますが、この髪型は、フラウム侯爵家に伝わる、格式高い、伝統の髪型なのです。
それに、ツヴァイト第二王子殿下に褒めていただいた、大切な思い出の髪型でもあります。そう簡単に変えるわけにはいきません。
あれはそう、もう7年前になります。7歳になる私は母に連れられて、初めて王宮のお茶会に参加していました。
子供たちも何人か参加していましたが、皆さん私より年上で、初めて参加した私は、なかなか会話の輪に入れませんでした。
その時話しかけてくださったのが、ツヴァイト様でした。
「お前はフラウム家のものか」
「はい、フラウム侯爵家のマリーといいます」
「そうか、その髪型ですぐにわかったぞ。貴族の伝統に則った、素晴らしい髪型だ。今では、フラウム家の者以外滅多に見ないが、お前はその髪型がよく似合っているな」
「ありがとうございます。殿下」
「俺のことは、ツヴァイトでよい」
それまでの私は、この古臭い髪型が好きではありませんでした。しかし、ツヴァイト様に褒めてもらってからは、常にこの髪型にすることにしたのです。
「お前の髪型は目立つな。パーティー会場でもすぐ見つけられる」
「ツヴァイト様、お目を掛けていただきありがとうございます」
ツヴァイト様は、私を見つけるとすぐに話し掛けてくださいます。
私が、ツヴァイト様の虜になるまでには然程時間がかかりませんでした。
それからというもの、私はツヴァイト様のため、生きて来たと言っても過言ではありません。
ツヴァイト様を狙う雌豚がいれば、ある時は侯爵家の権力で、また、ある時は裏から手を回し、全て排除してきました。
幸いなことに、最大のライバルと見ていた公爵令嬢が、ツヴァイト様に全く関心がなく、今では第一王子の婚約者です。
それに関しては、とりあえずは一安心ですが、もし、第一王子と組んでツヴァイト様の王位継承を邪魔するようであれば、全力で捻り潰します。
そして、今日、新たな雌豚が現れました。
平民の分際で、ツヴァイト様に話しかけ、事もあろうに隣に座るなんて、信じられません。
その場で串刺しにしてやろうかと思いましたが、知識のない平民なので、事の重大さに気づいていないのでしょう。後でゆっくりとその身に覚えさせてあげるとしましょう。
さて、明日から忙しくなりそうです。
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