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第二章
第60話 聖女
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私はシリーと二人、教会の応接室で寛いでいる。
「はー。ヒロインを助けるために後を付けていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまったわ」
前回ヒロインが死亡したのは、学院外での出来事で、私の目の届く範囲外であった。
そこで仕方なく、死亡予定の今日、シリーと二人で、ヒロインの後を付けていたのである。
「ぷぷぷ」
「シリー、何が可笑しいのよ」
「そりゃ可笑しいですよ。魔王を目指していた悪役令嬢が聖女ですよ。これを笑わず、何を笑うのですか」
「笑い事じゃないわよ。あの聖杯の力どうするの、私の魔力があれば国一つくらい簡単に消し去ることができそうじゃない」
「お嬢様が悪の国と認定すれば、できるでしょうね。国を一つ滅ぼすなんて、正に、聖女という名の魔王ですね」
「簡単に言ってくれるわね。こんなこと世間に知れたら大問題よ」
「それにしても、期せずして、聖杯が手に入りましたね。もう聖剣は要りませんから、第一王子との婚約は解消しますか」
「それは……。何時聖杯に見限られるか分からないから、現状を維持しましょう。というか、こちらからは何ともできないわ」
「では、そういうことにしておきましょうか」
シリーがこちらを見ながらニヤニヤしている。
「何か引っかかるけど、まあいいわ。ところで、何とか聖女をやめる方法はないかしら」
「先ほどお嬢様がおっしゃったとおり、聖杯に見限られればいいのではないでしょうか。その場合当然聖杯は失いますが」
「そうなるわよね。聖剣が手に入る見込みが立たないうちに、聖杯を失うのは得策ではないわよね」
「それもそうですが、聖剣も聖杯と同等のものと考えるべきだと思うのです。そうなると、聖剣を手にしたお嬢様はきっと勇者になるのではないでしょうか」
「そういえば、以前、第一王子に聖剣の話をしたら、君は勇者になりたいのか、って言われたわ。あれは皮肉ではなかったのね」
「そうなるとほぼ確定ですね」
「聖女の聖杯と勇者の聖剣、どちらがましかしら」
「いっそ、両方手に入れてみたらどうです」
「魔王化に必要なければ、どちらもいらないと言いたいところよ。それにしても、魔王になるのに、聖杯か聖剣が必要っておかしくない。普通に考えれば必要なのは魔剣でしょ」
「どうでしょうね。出会った魔族を倒して配下にするのに聖剣が必要なのかもしれませんし、正義と悪は、立場が違えば正反対になることもありますからね」
「なるほどね。そう言われればそうかもね」
「ところで、聖女って周りから言われるだけなのですか、それともステータスの称号から変わってますか」
「どうだろう。ちょっと待ってね今鑑定する」
『鑑定』
「ステータスの称号が、聖女、になっているわね。あれ、悪役令嬢、は消えているのね。上書きされたのかしら」
「普通、併記されるのものではないのですか」
「最近、ステータスの称号なんか、確認してなかったから、上書きされたのか、その前に既に無かったのか、判断がつかないわ」
「ステータスの称号がエンディングに影響するでしょうか」
「影響するなら、もう、魔王を目指す必要がなくなるわね」
「ですが、その場合、悪役令嬢の称号が何故無くなったかは重要となってきますね」
「そうね、消えた原因が分からないと、いつまた復活するかも知れないものね」
「そうなりますと、引き続き魔王を目指すということでいいのでしょうか」
「リスク回避を考えると、そうならざるを得ないわね」
元転生悪役令嬢は聖女になっても魔王を目指す。
私とシリーは教会の応接室から会議室に案内された。
ここでは聖女の扱いをどうするか会議が行われている。
「先ずは、今後聖女をどう扱うかだが」
枢機卿が議題の提案を行う。
「あの悪役顔で、本当に聖女なのか。何かの間違いではないのか」
太った司教が発言する。この司教は現場にいなかった様だ。
「聖杯が聖女だと認めています」
ラン司祭が答える。
「そもそも、その聖杯が擬人化したこと自体信じられん」
「ですが、私たちは確かに見ました」
「そうです。羽根の生えた少女の姿は、まさに伝説通りでした」
若い司祭たちが次々と答える。
太った司教は、話だけでは信じられないようすだ。ラン司祭が私に願いでる。
「エリーザ嬢、ここは一つ、聖杯を呼び出してもらえないかな」
「そうですな、私も実際に見てみたいものだ」
太った司教もそれに同調する。
どうすれば呼び出せるのだろうか。聖杯は心に念じろと言っていた。
「わかったわ、やってみるわね」
私が両手を前方に掲げ、心に念じた。
『聖杯来い』
両手の上に聖なる光が集まり、聖杯の形を形作っていく。そして、光が尚も集まり収束していく。
ポン。
羽根の生えた少女が空中に現れた。
「ななな、これは」
太った司教が驚嘆している。
「悪は誰、誰を滅するの」
聖杯が周りを見回す。
出てきていきなりそれかい。物騒だな。
「今のところ悪はいないわ。ただ、ちゃんと呼び出せるか確認しただけ。戻っていいわよ」
「あいや待たれよ。いくつか確認したい事がある」
私の命令で聖杯が戻ろうとすると、それを止めようとする者があった。先ほどから何度も私に突っかかって来た太った司祭である。
「はー。ヒロインを助けるために後を付けていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまったわ」
前回ヒロインが死亡したのは、学院外での出来事で、私の目の届く範囲外であった。
そこで仕方なく、死亡予定の今日、シリーと二人で、ヒロインの後を付けていたのである。
「ぷぷぷ」
「シリー、何が可笑しいのよ」
「そりゃ可笑しいですよ。魔王を目指していた悪役令嬢が聖女ですよ。これを笑わず、何を笑うのですか」
「笑い事じゃないわよ。あの聖杯の力どうするの、私の魔力があれば国一つくらい簡単に消し去ることができそうじゃない」
「お嬢様が悪の国と認定すれば、できるでしょうね。国を一つ滅ぼすなんて、正に、聖女という名の魔王ですね」
「簡単に言ってくれるわね。こんなこと世間に知れたら大問題よ」
「それにしても、期せずして、聖杯が手に入りましたね。もう聖剣は要りませんから、第一王子との婚約は解消しますか」
「それは……。何時聖杯に見限られるか分からないから、現状を維持しましょう。というか、こちらからは何ともできないわ」
「では、そういうことにしておきましょうか」
シリーがこちらを見ながらニヤニヤしている。
「何か引っかかるけど、まあいいわ。ところで、何とか聖女をやめる方法はないかしら」
「先ほどお嬢様がおっしゃったとおり、聖杯に見限られればいいのではないでしょうか。その場合当然聖杯は失いますが」
「そうなるわよね。聖剣が手に入る見込みが立たないうちに、聖杯を失うのは得策ではないわよね」
「それもそうですが、聖剣も聖杯と同等のものと考えるべきだと思うのです。そうなると、聖剣を手にしたお嬢様はきっと勇者になるのではないでしょうか」
「そういえば、以前、第一王子に聖剣の話をしたら、君は勇者になりたいのか、って言われたわ。あれは皮肉ではなかったのね」
「そうなるとほぼ確定ですね」
「聖女の聖杯と勇者の聖剣、どちらがましかしら」
「いっそ、両方手に入れてみたらどうです」
「魔王化に必要なければ、どちらもいらないと言いたいところよ。それにしても、魔王になるのに、聖杯か聖剣が必要っておかしくない。普通に考えれば必要なのは魔剣でしょ」
「どうでしょうね。出会った魔族を倒して配下にするのに聖剣が必要なのかもしれませんし、正義と悪は、立場が違えば正反対になることもありますからね」
「なるほどね。そう言われればそうかもね」
「ところで、聖女って周りから言われるだけなのですか、それともステータスの称号から変わってますか」
「どうだろう。ちょっと待ってね今鑑定する」
『鑑定』
「ステータスの称号が、聖女、になっているわね。あれ、悪役令嬢、は消えているのね。上書きされたのかしら」
「普通、併記されるのものではないのですか」
「最近、ステータスの称号なんか、確認してなかったから、上書きされたのか、その前に既に無かったのか、判断がつかないわ」
「ステータスの称号がエンディングに影響するでしょうか」
「影響するなら、もう、魔王を目指す必要がなくなるわね」
「ですが、その場合、悪役令嬢の称号が何故無くなったかは重要となってきますね」
「そうね、消えた原因が分からないと、いつまた復活するかも知れないものね」
「そうなりますと、引き続き魔王を目指すということでいいのでしょうか」
「リスク回避を考えると、そうならざるを得ないわね」
元転生悪役令嬢は聖女になっても魔王を目指す。
私とシリーは教会の応接室から会議室に案内された。
ここでは聖女の扱いをどうするか会議が行われている。
「先ずは、今後聖女をどう扱うかだが」
枢機卿が議題の提案を行う。
「あの悪役顔で、本当に聖女なのか。何かの間違いではないのか」
太った司教が発言する。この司教は現場にいなかった様だ。
「聖杯が聖女だと認めています」
ラン司祭が答える。
「そもそも、その聖杯が擬人化したこと自体信じられん」
「ですが、私たちは確かに見ました」
「そうです。羽根の生えた少女の姿は、まさに伝説通りでした」
若い司祭たちが次々と答える。
太った司教は、話だけでは信じられないようすだ。ラン司祭が私に願いでる。
「エリーザ嬢、ここは一つ、聖杯を呼び出してもらえないかな」
「そうですな、私も実際に見てみたいものだ」
太った司教もそれに同調する。
どうすれば呼び出せるのだろうか。聖杯は心に念じろと言っていた。
「わかったわ、やってみるわね」
私が両手を前方に掲げ、心に念じた。
『聖杯来い』
両手の上に聖なる光が集まり、聖杯の形を形作っていく。そして、光が尚も集まり収束していく。
ポン。
羽根の生えた少女が空中に現れた。
「ななな、これは」
太った司教が驚嘆している。
「悪は誰、誰を滅するの」
聖杯が周りを見回す。
出てきていきなりそれかい。物騒だな。
「今のところ悪はいないわ。ただ、ちゃんと呼び出せるか確認しただけ。戻っていいわよ」
「あいや待たれよ。いくつか確認したい事がある」
私の命令で聖杯が戻ろうとすると、それを止めようとする者があった。先ほどから何度も私に突っかかって来た太った司祭である。
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