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第二章

第53話 歴史地理 隣国王子

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 高等学院入学から三日目、今回は無事二日目を通過できたようだ。
 ヒロインの行動が前回と違うのが、原因と思われるが、これは、前回の記憶があり、それを回避していると見るべきだろう。
 そうなると、これから先は初めての経験となる。前回のようにいきなり死亡、ということのないよう、何とか切り抜けてもらいたいものである。
 こちらも、出来るだけ巻き込まれないように、それでいて、命の危険があれば助けられるよう、気を引き締めなければならない。
 そうはいっても、イベント強制力には逆らえないのだろうが。

 三日目、最初の講義は、歴史地理の講義だった。
 講師は、元家庭教師のニコラス=アウラン。隣国の子爵だ。

 隣国といても、このファルベス王国には隣国と呼べる国が四つある。
 ちょうど講師が説明を行なっている。
「ここ、ファルベス王国は四つの国に囲まれています。といっても南は海に面して陸続きの隣国というわけではありません」

 講師は用意してきた大きな地図を指し示しながら説明を続ける。
「海を挟んで、対岸にあるこの島が、南島公国。元々はこの国の一部でしたが、今は独立して公国を名乗っています」
 温暖な気候で、リゾート地として発展しているようである。以前、塩を作りに行った無人島も、この国の一部なのかもしれない。

「西にあるのが、エルファンド神聖王国。この国の友好国ですね。私もこの国の出身です」
 エルフを神聖視し、エルフ系の住民は優遇され、獣人系の住民は蔑まれている。まあ、エルフ系の住民も優遇される分、不自由な面もあるようだが。

「東にあるのが、東部連邦王国。小さな王国がまとまって連邦王国を名乗っています」
 連邦としての方針は、各国の代表者が集まり協議により決めているようだが、利権をめぐり、連邦内の国同士の対立が激しくなっている話も聞く。

「そして、北にあるのが、大北極帝国。この国の仮想敵国ですね」
 仮想敵国ではあるが、実際には、我が国との間に巨大な山脈があり、交易路が全くなく、軍事侵攻は現実的ではない。それでも、北の公爵領は、この帝国と接していることになり。重要な軍事拠点と位置付けられている。それは、帝国が軍事力により周辺の王国を占領し大きくなった歴史があるからに他ならない。


 そういえば、攻略対象者に隣国の王子がいたはず。同学年とは限らないが、創世の迷宮のこともあるので見つけておいた方が良いだろう。
 隠しキャラだから、自らは王子だと名乗っていない可能性が高い。そうなると、鑑定魔法を使うしかないか。

 私は講義室にいる全員を対象に鑑定魔法をかけた。

『鑑定』

 あれ。隣国の王子が四人いた。なぜ。お忍びの王子が四人もいる。
 勿論、我が国の王子は含めずに、四人もいたのだ。王子率高すぎ。びっくりである。

 まずは、エルファンド神聖王国第一王子イーサク。以前、第二王子とは会ったことがあるが、その兄である。彼が攻略対象者である可能性が一番高い。創世の迷宮のことを考えると多分そうだろう。

 次に、東部連邦王国内の山東王国第二王子ターケル。連邦内でも東の外れの一番小さな王国の王子である。この国からは一番離れた国の王子がよく来たものである。

 三人目が、南島公国の第五公子チャチャ。公子だけれど、立場的には王子と同格だろう。

 最後に、大北極帝国の第四皇子カミーユ。こちらは、皇子だけれども。
 そんなことより、なぜ、仮想敵国の皇子が正体を隠してここにいる。

 陰謀の匂いがプンプンする。要注意人物である。
 これは報告しないわけにはいかないだろう。誰に報告するべきだろう。
 以前、王宮の教育係に報告するよう求められたことがあるが、既に二年前のことである。王宮までわざわざ行くのも面倒くさい。

 王都に父親がいれば、よかったが、今は公爵領だ。
 そうなると、第一王子か。昼休みなら図書館にいるだろう。


 昼休みになった。私は昨日と同様に昼食をとった後、第一王子を探すべく図書館に向かった。帝国の皇子について報告しなければならない。

 図書館に入ると第一王子はすぐに見つかった。
「殿下少しお時間よろしいでしょうか」
「おや、君の方から来るなんて珍しいね。今度はどんな厄介ごとだい」

「私が厄病神みたいなこと言わないでください。でも、今回は厄介ごとかも知れません」
 第一王子は渋い顔をする。

「人に聞かれてはまずい話かい」
「はい」

「なら奥に行こう。上級貴族だけが使える個室がある」
「そんな場所があるのですか」
「貴族というものは、場合によって、いろいろ必要になるのさ」
「そうですか」
 私たちは奥の個室に移動する。

「防音魔法がかけられているからね。中で何をしても外には聞こえない」
「何をしてもですか」
「そういう使い方もあるということさ。それで、話はなんだい」

「実は、今年入った入学生に帝国の皇子がいます」
「帝国の皇子。それは本当かい」
「ええ、私が鑑定しましたから間違いありません」
「そうか」

 第一王子は考え込んでいる。
「その皇子、何か怪しいところがあったのか」
「いえ、今のところ特に怪しい様子はありません」

 第一王子は小首を傾げる。
「特に怪しいところもないのに鑑定したのか。もしかすると、君は誰彼構わず鑑定しているのか」
「そんなこと、あるはずがございませんことよ。オホホホホ」

 第一王子に疑いの眼差しを向けられてしまった。
「君は嘘を誤魔化す時その笑い方をするね」
「何のことでございましょう。オホホホホ」

「まあいい。それより帝国の皇子についてだ」
 第一王子は真剣な表情で言葉を続ける。

「取り敢えず、怪しいところが無いのならそのまま様子を見よう。一応、私の方でも監視を付けておくが、もし何か有ったらすぐ知らせてくれ」
「わかりました」

「言っておくが、無理に探ろうなどとしないでくれよ。それから、人を鑑定するのはほどほどにな」
「そんなことはいたしませんわ。オホホホホ」
「はあー」
 第一王子が大きな溜め息をついた。

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