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第二章
第51話 模擬戦
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私は迎えの馬車が来るまで、学院内の見学をすることにした。
中央に先程オリエンテーションがあった講義室棟、右手に、事務室や講師室がある、管理棟。左手が、入学式典が行われた大講堂。講義室棟の裏が中庭で、右手が食堂やカフェ、左手が図書館、中庭を挟んだ向かいが、実習室棟。その裏が訓練場である。
あちこち周って訓練場にたどり着くと、そこには人集りができていた。その中に見知った顔があった。
騎士団長の息子ケニーである。
その傍には、なぜかヒロインのサーヤさん。
しまった。私はすぐさま回れ右をするとその場を離れようとした。
しかし、そうは問屋が卸さないようである。
「エリーじゃないか。ちょうどいい、ちょっと来てくれ」
ケニーに呼び止められた。
「私は今、時間がないの、ごめんあそばせ。オホホホ」
そう言って立ち去ろうとした私の前を、別の人物が塞いだ。
「イライザ様、お待ちください」
「これは、マリー様。どうかされまして」
金髪縦ロールの侯爵令嬢、マリー=フラウムだ。
「そこの平民の娘が、勝手にケニー様に声を掛けて、訓練の邪魔をしているのです」
「そうなの、ケニー」
「いや、別に邪魔されていたわけではないのだけど」
ケニーは困った顔をし、言葉を濁す。
「それだけではないのです。こともあろうに、イライザ様より自分の方が強いと」
私は、ヒロインの方を見る。
「私は、そのようなことは」
「言ったでしょ」
侯爵令嬢が追い打ちをかける。ヒロインが縮みあがる。
「ケニー、どうなの」
「まあ、言ったか、言わないか、ということなら言ったのかな」
「ハッキリしないわね」
「彼女は冒険者もやっていて、魔物を狩るほどの実力者なんだそうだ。それで、俺の知り合いの令嬢も強いと話していたら、話の成り行きで、模擬戦をしてみたい。負けません。てな感じで、決意表明みたいなものかな」
「そう、どうしたものかしら」
どうやってこの場を丸く収めよう。
「イライザ様、ここは一発、ガツンとやっちゃってください」
おいおい、金髪縦ロール、あんた侯爵令嬢だろう。どこの下っ端チンピラだ。
「まあ、俺もお前との模擬戦を見てみたいな。それでこの場は収まるだろう」
ケニーまでもが、模擬戦を勧めてくる。
「あなたはそれでいい」
私の問いに、ヒロインはしばし困っていたが、周りの視線に耐えられず、仕方なく首を縦に振った。
「それじゃあ、審判は俺が務めよう。得物はどうする。木刀でいいか」
「私はそれでいいわ」
「私もそれで」
ケニーが審判を買って出た。
私たちは木刀を手に訓練場の中央で向き合った。
ケニーが模擬戦開始の合図をする。
「それでは、始め」
私は真っ直ぐ、ヒロインの間合いに踏み込み、相手の木刀を払いのけ、そのまま剣先を彼女の喉元へ突きつけた。
「勝負あり」
ケニーが模擬戦の終了を告げる。
私は、木刀を引き、同時にヒロインが崩れ落ちるようにしゃがみこむ。
しゃがみこんだヒロインの周りに水溜まりが出来ていく。
え、ちょっと。漏らしちゃったの。ここじゃまずいわよ。
訓練場の周りは野次馬で人集りとなっている。
どうしたものか。そうだ、折角だからあれを使ってみるか。
私は指環に魔力を込め、一枚の魔法カードを取り出す。そして、そのカードを天高く掲げ、叫んだ。別に叫ばなくても発動するけれど、叫んだ。
「出でよ『水龍』」
訓練場の上空に、巨大な水の龍がうねりをあげ出現した。
野次馬たちが目を奪われる。
ヒロインも上空を見て震えている。
「私、剣も嗜むけれど、主力は魔法なの。あなた、自分の言動にはもっと慎重になるべきよ。頭を冷やして反省しなさい」
そう言って、上空の水龍を霧散させた。
訓練場全面に降り注ぐ大量の水。
当然ヒロインはずぶ濡れ。
ついでに、審判として訓練場内にいたケニーもずぶ濡れである。全く、厄介ごとに巻き込みやがって、少しはお前も反省しろ。
私はというと、いつのまにかリココが傘をかざしてくれていた。昔から気が利いていたが、最近、神がかってきたな。
「リココ、そろそろ迎えの馬車も来ているでしょう。帰るわよ」
「はい、イライザお嬢様」
私は、みんなが呆気にとられている隙に、さっさとその場を離れたのであった。
私たちが学院正面の昇降口に辿り着くと、そこには既に迎えの馬車が着いていた。
中央に先程オリエンテーションがあった講義室棟、右手に、事務室や講師室がある、管理棟。左手が、入学式典が行われた大講堂。講義室棟の裏が中庭で、右手が食堂やカフェ、左手が図書館、中庭を挟んだ向かいが、実習室棟。その裏が訓練場である。
あちこち周って訓練場にたどり着くと、そこには人集りができていた。その中に見知った顔があった。
騎士団長の息子ケニーである。
その傍には、なぜかヒロインのサーヤさん。
しまった。私はすぐさま回れ右をするとその場を離れようとした。
しかし、そうは問屋が卸さないようである。
「エリーじゃないか。ちょうどいい、ちょっと来てくれ」
ケニーに呼び止められた。
「私は今、時間がないの、ごめんあそばせ。オホホホ」
そう言って立ち去ろうとした私の前を、別の人物が塞いだ。
「イライザ様、お待ちください」
「これは、マリー様。どうかされまして」
金髪縦ロールの侯爵令嬢、マリー=フラウムだ。
「そこの平民の娘が、勝手にケニー様に声を掛けて、訓練の邪魔をしているのです」
「そうなの、ケニー」
「いや、別に邪魔されていたわけではないのだけど」
ケニーは困った顔をし、言葉を濁す。
「それだけではないのです。こともあろうに、イライザ様より自分の方が強いと」
私は、ヒロインの方を見る。
「私は、そのようなことは」
「言ったでしょ」
侯爵令嬢が追い打ちをかける。ヒロインが縮みあがる。
「ケニー、どうなの」
「まあ、言ったか、言わないか、ということなら言ったのかな」
「ハッキリしないわね」
「彼女は冒険者もやっていて、魔物を狩るほどの実力者なんだそうだ。それで、俺の知り合いの令嬢も強いと話していたら、話の成り行きで、模擬戦をしてみたい。負けません。てな感じで、決意表明みたいなものかな」
「そう、どうしたものかしら」
どうやってこの場を丸く収めよう。
「イライザ様、ここは一発、ガツンとやっちゃってください」
おいおい、金髪縦ロール、あんた侯爵令嬢だろう。どこの下っ端チンピラだ。
「まあ、俺もお前との模擬戦を見てみたいな。それでこの場は収まるだろう」
ケニーまでもが、模擬戦を勧めてくる。
「あなたはそれでいい」
私の問いに、ヒロインはしばし困っていたが、周りの視線に耐えられず、仕方なく首を縦に振った。
「それじゃあ、審判は俺が務めよう。得物はどうする。木刀でいいか」
「私はそれでいいわ」
「私もそれで」
ケニーが審判を買って出た。
私たちは木刀を手に訓練場の中央で向き合った。
ケニーが模擬戦開始の合図をする。
「それでは、始め」
私は真っ直ぐ、ヒロインの間合いに踏み込み、相手の木刀を払いのけ、そのまま剣先を彼女の喉元へ突きつけた。
「勝負あり」
ケニーが模擬戦の終了を告げる。
私は、木刀を引き、同時にヒロインが崩れ落ちるようにしゃがみこむ。
しゃがみこんだヒロインの周りに水溜まりが出来ていく。
え、ちょっと。漏らしちゃったの。ここじゃまずいわよ。
訓練場の周りは野次馬で人集りとなっている。
どうしたものか。そうだ、折角だからあれを使ってみるか。
私は指環に魔力を込め、一枚の魔法カードを取り出す。そして、そのカードを天高く掲げ、叫んだ。別に叫ばなくても発動するけれど、叫んだ。
「出でよ『水龍』」
訓練場の上空に、巨大な水の龍がうねりをあげ出現した。
野次馬たちが目を奪われる。
ヒロインも上空を見て震えている。
「私、剣も嗜むけれど、主力は魔法なの。あなた、自分の言動にはもっと慎重になるべきよ。頭を冷やして反省しなさい」
そう言って、上空の水龍を霧散させた。
訓練場全面に降り注ぐ大量の水。
当然ヒロインはずぶ濡れ。
ついでに、審判として訓練場内にいたケニーもずぶ濡れである。全く、厄介ごとに巻き込みやがって、少しはお前も反省しろ。
私はというと、いつのまにかリココが傘をかざしてくれていた。昔から気が利いていたが、最近、神がかってきたな。
「リココ、そろそろ迎えの馬車も来ているでしょう。帰るわよ」
「はい、イライザお嬢様」
私は、みんなが呆気にとられている隙に、さっさとその場を離れたのであった。
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