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第二章
第40話 高等学院入学
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「はぁー、やっと終わったわ」
私は、先ほど入学式典が行われた大講堂を後にし、他の入学生たちにまみれて大理石の廊下を歩きながら大きく伸びをした。
この後、講義室に移動して学院生活の細かいオリエンテーションがある予定だ。
だるい。
「お嬢様、公爵令嬢がみっともないですよ。きちっとしてください」
すぐ左斜め後ろから声がかかる。侍女のリココだ。
リココは、同い年であるが、割と小柄でちまちまとしたリスのような感じである。だが、なぜか体型に似合わず胸だけ大きい。茶色瞳にブラウンの髪の少女である。
とある事情で三年前から私の専属メイドをしている。
専属メイドにはもう一人とんでもないのがいるのだが、学院で学ぶ年齢ではないので、今頃は王都の別邸で仕事をしていることだろう。いや、昼寝をしているな。絶対!
そして私は、リココが言った通り、公爵令嬢、北の公爵ロレック=ノース=シュバルツの長女イライザ=ノース=シュバルツ、中肉中背、胸は……、普通ということにしておこう、ストレートの黒髪は首元で切りそろえられ、黒い切れ長の瞳がクールな美少女? である。
姿勢を正し、流し目を周囲に贈ってみる。
何故か目の前の人だかりがモーゼの神話の如く割れていく。皆視線を逸らしながら。
「お、お、お嬢様! め、目が怖すぎます!!」
なんですとー! そんなバカな。
人混みに邪魔されることなくスムースに移動できたため、程なくして講義室に到着した。中を見渡すと、うーんこれは、まあーそうだよね。128人程入れる講義室は後ろに行くにしたがって階段状に高くなっており、最奥の中央付近に明らかに他よりグレイ度が高い椅子と机が用意してある。というか、ソファーとテーブルだよねあれ。
そこに二人の少年を後ろに控えさせた、燃えるような赤髪の少年が座っている。
「イライザ嬢、其方もこちらにどうだ」
少年の右隣には金髪縦ロールの少女が座っている。空いている左隣を勧められた。
赤髪の少年は、ツヴァイト=セントラル=グリューンこの国の第二王子だ。緑色の瞳をこちらに向けている。
金髪縦ロールのいかにも貴族令嬢な少女はマリー=フラウム侯爵令嬢である。
「ツヴァイト殿下ありがとうございます。ですが私は外の景色も見たいので、あちらの窓側の席に致します。マリー様もごきげんよう」
深々と丁寧なお辞儀を返した後、右隣に座る少女にも声をかけ、リココを引き連れ最後列の窓際の席に向かう。
「兄の婚約者だからと言って気を使わなくても構わないのだぞ」
私は、第二王子の言葉に苦笑いを噛み殺して、彼の従者の脇を抜ける。
確か、ガタイのいいほうがアレクで、眼鏡をかけた痩せっぽちのほうがセバスだったはず、あれ、逆だったかしら、まあどちらでもいいや。
脇を抜けるときに、講義室の後ろの壁にも扉があることに気づく、私や他の人たちが入ってきている前側のドアとは明らかに作りが違う、その豪華な扉がゆっくり開かれ2人の少女が入ってくる。扉を開けたのは外にいた警備の衛兵のようだ。
「ごきげんよう、ツヴァイト殿下」
「おう、トレス嬢か」
大公令嬢のトレス=セントラル=ゲルプである。
「イライザ様とマリー様もごきげんよう」
「ごきげんよう、トレス様」
「ごきげんよう」
軽く会釈したのち、ウエーブがかかったサファイア色のロングヘアに手をやりながらしばし考え、その手で左手の窓際の席を指し示した。
「イライザ様はあちらですか、でしたら私たちはこちらにしましょう」
エメラルド色の瞳を右側に向け、後ろに控えていた侍女のルルを引き連れ、第二王子から離れて右手奥に腰を下ろした。私も左手奥窓際の席に腰を下ろす。
座ってみて気づいたが、この椅子も第二王子の座るソファーには比べるまでもないが、前方の椅子に比べるとかなり高級で、座り心地がとても良い。前方の椅子は板張りでクッションなどない。上級貴族向けの指定席のようなものかと考えていると。
「すみませんでしたお嬢様」
いきなりリココが謝罪の言葉を口にした。
「何のこと?」
私は、思い当たることがないので聞き返した。
「あの……、扉」
「扉? ああ、気にしなくていいのよ。今度からはそちらを利用しましょう」
リココは後ろの扉を気にしていた。
私たちが入ってきた前方のドアは、平民や下級貴族向けだったようだ。本来なら、上級貴族である私たちは、後方の扉から入らなければいけない。入口への誘導は侍女であるリココの仕事だ、そのための謝罪である。身分によって入り口を変えるなんて実に面倒くさい。
「謝罪は受け取ったから、リココもこちらに座りなさい」
「いえ、侍女がお嬢様と一緒に座るわけにはいきません」
「そんな決まりないと思うけど」
「ですが……」
リココはちらりと第二王子の方を気にしている。
そういえば彼の従者は立っているわね。侯爵令嬢が座っているため少し窮屈になるかもしれないが座るスペースがないわけでもないのに。
「いいのよ。よそ様はよそ様、うちはうちよ。さあ、座りなさい」
「わかりました。では失礼します」
リココが私の隣に座ろうとしたその時、後ろの扉が音を立てて突然開かれた。思わず振り返る私たち。そこにはピンク色のロングヘア、鳶色の瞳、華奢な体の女性が立っていた。
サーヤ=ランドレースこの物語の主人公、ヒロインである『平民』の少女であった。
え、主人公のヒロインはお前ではないのかですって、違いますよ。私はヒロインの邪魔をしていじめる役、この物語=ゲームの悪役、しかも女神によって異世界から転生させられた、元アラサーOLの悪役令嬢なのですから。
さあ、いよいよゲームのスタートです。転生してから今まで、ゲームエンディング後も生き残るために、できる限りの準備はしてきました。後は、魔王エンド『悪役令嬢が魔王になり、ヒロインたちはその奴隷となる』目指して突き進むだけである。
私は、先ほど入学式典が行われた大講堂を後にし、他の入学生たちにまみれて大理石の廊下を歩きながら大きく伸びをした。
この後、講義室に移動して学院生活の細かいオリエンテーションがある予定だ。
だるい。
「お嬢様、公爵令嬢がみっともないですよ。きちっとしてください」
すぐ左斜め後ろから声がかかる。侍女のリココだ。
リココは、同い年であるが、割と小柄でちまちまとしたリスのような感じである。だが、なぜか体型に似合わず胸だけ大きい。茶色瞳にブラウンの髪の少女である。
とある事情で三年前から私の専属メイドをしている。
専属メイドにはもう一人とんでもないのがいるのだが、学院で学ぶ年齢ではないので、今頃は王都の別邸で仕事をしていることだろう。いや、昼寝をしているな。絶対!
そして私は、リココが言った通り、公爵令嬢、北の公爵ロレック=ノース=シュバルツの長女イライザ=ノース=シュバルツ、中肉中背、胸は……、普通ということにしておこう、ストレートの黒髪は首元で切りそろえられ、黒い切れ長の瞳がクールな美少女? である。
姿勢を正し、流し目を周囲に贈ってみる。
何故か目の前の人だかりがモーゼの神話の如く割れていく。皆視線を逸らしながら。
「お、お、お嬢様! め、目が怖すぎます!!」
なんですとー! そんなバカな。
人混みに邪魔されることなくスムースに移動できたため、程なくして講義室に到着した。中を見渡すと、うーんこれは、まあーそうだよね。128人程入れる講義室は後ろに行くにしたがって階段状に高くなっており、最奥の中央付近に明らかに他よりグレイ度が高い椅子と机が用意してある。というか、ソファーとテーブルだよねあれ。
そこに二人の少年を後ろに控えさせた、燃えるような赤髪の少年が座っている。
「イライザ嬢、其方もこちらにどうだ」
少年の右隣には金髪縦ロールの少女が座っている。空いている左隣を勧められた。
赤髪の少年は、ツヴァイト=セントラル=グリューンこの国の第二王子だ。緑色の瞳をこちらに向けている。
金髪縦ロールのいかにも貴族令嬢な少女はマリー=フラウム侯爵令嬢である。
「ツヴァイト殿下ありがとうございます。ですが私は外の景色も見たいので、あちらの窓側の席に致します。マリー様もごきげんよう」
深々と丁寧なお辞儀を返した後、右隣に座る少女にも声をかけ、リココを引き連れ最後列の窓際の席に向かう。
「兄の婚約者だからと言って気を使わなくても構わないのだぞ」
私は、第二王子の言葉に苦笑いを噛み殺して、彼の従者の脇を抜ける。
確か、ガタイのいいほうがアレクで、眼鏡をかけた痩せっぽちのほうがセバスだったはず、あれ、逆だったかしら、まあどちらでもいいや。
脇を抜けるときに、講義室の後ろの壁にも扉があることに気づく、私や他の人たちが入ってきている前側のドアとは明らかに作りが違う、その豪華な扉がゆっくり開かれ2人の少女が入ってくる。扉を開けたのは外にいた警備の衛兵のようだ。
「ごきげんよう、ツヴァイト殿下」
「おう、トレス嬢か」
大公令嬢のトレス=セントラル=ゲルプである。
「イライザ様とマリー様もごきげんよう」
「ごきげんよう、トレス様」
「ごきげんよう」
軽く会釈したのち、ウエーブがかかったサファイア色のロングヘアに手をやりながらしばし考え、その手で左手の窓際の席を指し示した。
「イライザ様はあちらですか、でしたら私たちはこちらにしましょう」
エメラルド色の瞳を右側に向け、後ろに控えていた侍女のルルを引き連れ、第二王子から離れて右手奥に腰を下ろした。私も左手奥窓際の席に腰を下ろす。
座ってみて気づいたが、この椅子も第二王子の座るソファーには比べるまでもないが、前方の椅子に比べるとかなり高級で、座り心地がとても良い。前方の椅子は板張りでクッションなどない。上級貴族向けの指定席のようなものかと考えていると。
「すみませんでしたお嬢様」
いきなりリココが謝罪の言葉を口にした。
「何のこと?」
私は、思い当たることがないので聞き返した。
「あの……、扉」
「扉? ああ、気にしなくていいのよ。今度からはそちらを利用しましょう」
リココは後ろの扉を気にしていた。
私たちが入ってきた前方のドアは、平民や下級貴族向けだったようだ。本来なら、上級貴族である私たちは、後方の扉から入らなければいけない。入口への誘導は侍女であるリココの仕事だ、そのための謝罪である。身分によって入り口を変えるなんて実に面倒くさい。
「謝罪は受け取ったから、リココもこちらに座りなさい」
「いえ、侍女がお嬢様と一緒に座るわけにはいきません」
「そんな決まりないと思うけど」
「ですが……」
リココはちらりと第二王子の方を気にしている。
そういえば彼の従者は立っているわね。侯爵令嬢が座っているため少し窮屈になるかもしれないが座るスペースがないわけでもないのに。
「いいのよ。よそ様はよそ様、うちはうちよ。さあ、座りなさい」
「わかりました。では失礼します」
リココが私の隣に座ろうとしたその時、後ろの扉が音を立てて突然開かれた。思わず振り返る私たち。そこにはピンク色のロングヘア、鳶色の瞳、華奢な体の女性が立っていた。
サーヤ=ランドレースこの物語の主人公、ヒロインである『平民』の少女であった。
え、主人公のヒロインはお前ではないのかですって、違いますよ。私はヒロインの邪魔をしていじめる役、この物語=ゲームの悪役、しかも女神によって異世界から転生させられた、元アラサーOLの悪役令嬢なのですから。
さあ、いよいよゲームのスタートです。転生してから今まで、ゲームエンディング後も生き残るために、できる限りの準備はしてきました。後は、魔王エンド『悪役令嬢が魔王になり、ヒロインたちはその奴隷となる』目指して突き進むだけである。
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