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第一章
第31話 婚約 14歳
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その後もレアカードの売り上げは順調で、販売を始めて一年近く、創世の迷宮に遠征するには十分な資金が貯まった。
その間、エリクサーの開発は頓挫したままだった。ただ調合の腕前はかなり上がった。
魔術回路については、かなり研究が進み、既存の魔法を組み合わせた、オリジナルの魔法を作れるレベルとなってきた。
体力に関しては、地道な訓練と、時々は、ギルドの討伐依頼をこなし、短剣だけでなく、レイピアを使いこなせるようになった。
年齢も14歳となり、そろそろ創世の迷宮に出発かと考えていた時、再び父に呼び出されたのであった。
「お父様、何か御用でしょうか」
私は、シリーとともに父の執務室に来ている。
「まあ、お前も座れ」
父に勧められるままソファーに腰を下ろす。
正面には父と、珍しいことに母も一緒に座っている。何事だろう。思い当たる節がない。
「王宮より使いが参った。第一王子とお前の婚約が決まったそうだ。早々に王宮に出頭せよとのことだ」
あれ、私、逮捕されるの。何か、そんな悪いことしたかしら。コンニャクの刑ってどんな刑よ。まだ、そんなに悪役令嬢ぽいことしてないのに、学院に入学する前に捕まってしまうなんて、思いもしなかったわ。
「エリー、大丈夫? ちゃんと聞こえてる」
母が心配してこちらを覗いている。
「お嬢様、出頭といっても逮捕されるわけではありませんよ」
シリーが小声で耳打ちする。
あ、出頭といっても逮捕されるわけではないのね。ただ王宮に来いと。でもなんで?
「エリー、もう一度言うぞ、お前の婚約が決まった。相手は第一王子だ」
「私の婚約が決まった? 決まった? 私、初耳なのですけれど」
「初めて話すからな」
お父様、初めて話すからなって、それはないでしょ。私の婚約なのでしょ、決定する前に予め相談してくださいよ。
「婚約者候補、とかではなく、婚約者なのですか?」
「そうだ、婚約者だ。候補ではなく、決定だ」
「なぜ、予め教えていただけなかったのですか」
「エリー、私たちもさっき初めて知ったのよ」
母も困惑している様子だ。ということは王宮で勝手に決めたことなのか。そんなことあるだろうか?
シナリオ通りなら私は第二王子と婚約するはずだ。だから、この話が第二王子との婚約ならそれほど驚くことはない。だが相手は第一王子だ。誰が第一王子との婚約を勧めたのだろう。
「お前こそ、第一王子と何か約束したのではないのか」
「いえ、そんなことはないはずですが」
「第一王子とお会いしたことはないの?」
「第一王子とですか。でしたら、一年前に国王に謁見した時にお会いしました」
「謁見の間で顔を合わせただけか」
「いえ、書庫のようなところで、二人だけで」
「二人だけで会っていたのか」
「その時何を話したの」
「確か、友達になっていただけませんか。と。それと、聖剣とか魔剣の話を少し」
「お前からお願いしたのか。そうか、それでか」
これって、私のせいで第一王子との婚約が決まったの? 第二王子とは婚約したくなかったから、その点はよかったのだけど。
「ですが、殿下は私には全く興味がなかったようですが」
「私には、か」
「エリー、男ゴコロとはわからないものよ」
「それにしても、急に決まったと言われても困ります」
「あまり乗り気でないようだけれど、だれか他に好きな人でもいるの?」
「いませんけれど」
第一王子とは聖剣のこともありお近付きになりたかったけど、婚約者になりたかったわけではない。
それに、第一王子のバッドエンドでは、第二王子の婚約者だった悪役令嬢がなぜか第一王子と結婚していて、最終的には精神病で自殺している。
これって、その流れに近いのではないだろうか。ならば第一王子との婚約は避けたいところなのだが。
「どのみち、王宮からの正式の使者だ。私でも断れん。ある意味、自分で蒔いた種だ、諦めろ」
「そうですか……」
とても断れそうにない。聖剣のためとはいえ、第一王子に近づいたのは失敗だったか。まさかこんなことになるなんて。
「明後日にはここを出て王都に向かう。準備して置け。ああ、暫くは戻れないだろうからそのつもりでな」
「暫くですか。どれくらいです」
「場合によっては、一生ここへは戻れん。暫くは、王都別邸で暮らしてもらうことになるだろう」
「そうですか、わかりました」
私は、茫然自失のまま執務室をでる。
「おめでとうございます。お嬢様」
「ああ。ありがとうシリー」
「まさか、お嬢様が第一王子の誑し込みに成功するとは思いませんでした。御見それしました」
「酷い言われようね」
「先ほどから、あまり嬉しそうではありませんが」
「そうね、あまり嬉しくはないわね。なんだか第一王子のバッドエンドの流れになってるような気がして」
「そうですか? 私には聖剣を手に入れられる可能性が高くなって、魔王エンドに近づいたように思えますが」
「そうかもしれないわね」
シリーの考えもあながち間違いではない。もともとそのつもりで第一王子に近づいただから。ようは、魔王エンドにもっていけばいいのである。だが、なぜだか腑に落ちない。
翌日は、出発の準備と、暫く戻れそうにないので、知り合いへの挨拶や、身辺整理にあてた。
そして二日後、王都に向け屋敷を出発、もう戻れないかもしれないと思うと、こみ上げてくるものがあった。
今回は、シリーとリココだけでなく、父と母も一緒である。母が一緒なのは初めてである。弟のレオンを、一人残していくことになってしまったが、大丈夫だろうか、心配である。
王都に到着したのはそれから四日後、一年ぶりの王都別邸である。予定より、二年近く早い引っ越しとなった。
その間、エリクサーの開発は頓挫したままだった。ただ調合の腕前はかなり上がった。
魔術回路については、かなり研究が進み、既存の魔法を組み合わせた、オリジナルの魔法を作れるレベルとなってきた。
体力に関しては、地道な訓練と、時々は、ギルドの討伐依頼をこなし、短剣だけでなく、レイピアを使いこなせるようになった。
年齢も14歳となり、そろそろ創世の迷宮に出発かと考えていた時、再び父に呼び出されたのであった。
「お父様、何か御用でしょうか」
私は、シリーとともに父の執務室に来ている。
「まあ、お前も座れ」
父に勧められるままソファーに腰を下ろす。
正面には父と、珍しいことに母も一緒に座っている。何事だろう。思い当たる節がない。
「王宮より使いが参った。第一王子とお前の婚約が決まったそうだ。早々に王宮に出頭せよとのことだ」
あれ、私、逮捕されるの。何か、そんな悪いことしたかしら。コンニャクの刑ってどんな刑よ。まだ、そんなに悪役令嬢ぽいことしてないのに、学院に入学する前に捕まってしまうなんて、思いもしなかったわ。
「エリー、大丈夫? ちゃんと聞こえてる」
母が心配してこちらを覗いている。
「お嬢様、出頭といっても逮捕されるわけではありませんよ」
シリーが小声で耳打ちする。
あ、出頭といっても逮捕されるわけではないのね。ただ王宮に来いと。でもなんで?
「エリー、もう一度言うぞ、お前の婚約が決まった。相手は第一王子だ」
「私の婚約が決まった? 決まった? 私、初耳なのですけれど」
「初めて話すからな」
お父様、初めて話すからなって、それはないでしょ。私の婚約なのでしょ、決定する前に予め相談してくださいよ。
「婚約者候補、とかではなく、婚約者なのですか?」
「そうだ、婚約者だ。候補ではなく、決定だ」
「なぜ、予め教えていただけなかったのですか」
「エリー、私たちもさっき初めて知ったのよ」
母も困惑している様子だ。ということは王宮で勝手に決めたことなのか。そんなことあるだろうか?
シナリオ通りなら私は第二王子と婚約するはずだ。だから、この話が第二王子との婚約ならそれほど驚くことはない。だが相手は第一王子だ。誰が第一王子との婚約を勧めたのだろう。
「お前こそ、第一王子と何か約束したのではないのか」
「いえ、そんなことはないはずですが」
「第一王子とお会いしたことはないの?」
「第一王子とですか。でしたら、一年前に国王に謁見した時にお会いしました」
「謁見の間で顔を合わせただけか」
「いえ、書庫のようなところで、二人だけで」
「二人だけで会っていたのか」
「その時何を話したの」
「確か、友達になっていただけませんか。と。それと、聖剣とか魔剣の話を少し」
「お前からお願いしたのか。そうか、それでか」
これって、私のせいで第一王子との婚約が決まったの? 第二王子とは婚約したくなかったから、その点はよかったのだけど。
「ですが、殿下は私には全く興味がなかったようですが」
「私には、か」
「エリー、男ゴコロとはわからないものよ」
「それにしても、急に決まったと言われても困ります」
「あまり乗り気でないようだけれど、だれか他に好きな人でもいるの?」
「いませんけれど」
第一王子とは聖剣のこともありお近付きになりたかったけど、婚約者になりたかったわけではない。
それに、第一王子のバッドエンドでは、第二王子の婚約者だった悪役令嬢がなぜか第一王子と結婚していて、最終的には精神病で自殺している。
これって、その流れに近いのではないだろうか。ならば第一王子との婚約は避けたいところなのだが。
「どのみち、王宮からの正式の使者だ。私でも断れん。ある意味、自分で蒔いた種だ、諦めろ」
「そうですか……」
とても断れそうにない。聖剣のためとはいえ、第一王子に近づいたのは失敗だったか。まさかこんなことになるなんて。
「明後日にはここを出て王都に向かう。準備して置け。ああ、暫くは戻れないだろうからそのつもりでな」
「暫くですか。どれくらいです」
「場合によっては、一生ここへは戻れん。暫くは、王都別邸で暮らしてもらうことになるだろう」
「そうですか、わかりました」
私は、茫然自失のまま執務室をでる。
「おめでとうございます。お嬢様」
「ああ。ありがとうシリー」
「まさか、お嬢様が第一王子の誑し込みに成功するとは思いませんでした。御見それしました」
「酷い言われようね」
「先ほどから、あまり嬉しそうではありませんが」
「そうね、あまり嬉しくはないわね。なんだか第一王子のバッドエンドの流れになってるような気がして」
「そうですか? 私には聖剣を手に入れられる可能性が高くなって、魔王エンドに近づいたように思えますが」
「そうかもしれないわね」
シリーの考えもあながち間違いではない。もともとそのつもりで第一王子に近づいただから。ようは、魔王エンドにもっていけばいいのである。だが、なぜだか腑に落ちない。
翌日は、出発の準備と、暫く戻れそうにないので、知り合いへの挨拶や、身辺整理にあてた。
そして二日後、王都に向け屋敷を出発、もう戻れないかもしれないと思うと、こみ上げてくるものがあった。
今回は、シリーとリココだけでなく、父と母も一緒である。母が一緒なのは初めてである。弟のレオンを、一人残していくことになってしまったが、大丈夫だろうか、心配である。
王都に到着したのはそれから四日後、一年ぶりの王都別邸である。予定より、二年近く早い引っ越しとなった。
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