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第一章

第30話 商売

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 父に転移魔法を禁止されてしまった。
 これでは、そう簡単には、隣国にある創世の迷宮に行くことはできない。

 なんとか行くことが出来ないか、色々探ってみるのだが、どれも芳しくない。
 父が隣国に用事があり、それに同行するのが一番簡単なのだが、そんな都合のいい話しがあるわけもなく、唯一、伝と言えるのは、元家庭教師である。

 元家庭教師は隣国出身であり、現在は実家のある隣国に戻っている。詳しい理由は聞いていないが、実家で揉め事があり、呼び戻されたのである。

 元家庭教師に招待され隣国観光、あたりが言い訳としては妥当なところだ。
 最悪、ただ観光に行く。でも構わないが、それにしても、先立つものが必要だ。
 隣国までとなれば、往復一月以上の日程となる。その間の旅費と滞在費を父に出してくれとは、流石に頼み難い。

 最初の迷宮を攻略した時の賞金もあるが、これだけでは、とても心許ない。
 独立独歩、なんとか自分で稼ぎたいところである。

 冒険者として稼ぐのも一つの手であるが、異世界転生で定番のお金稼ぎといえばこれでしょ。
 ジャアーン。リバーシ。

 私は早速、日頃、公爵家が利用しているレグホン商会に、これを売り込むことにした。


 私は、シリーを従え、レグホン商会を訪れていた。
 いつも屋敷に来る担当者にリバーシの原案を見せた。
「こんなゲームを考えてみたのですが、販売できないかしら」

「これは、エリーザ様が考えられたのですか? これと同じゲームでしたら、既に隣国で流行っており、最近王都の商会が独占販売契約を結んだようです」
「そ、そうですか、それは残念です」
 しまった。既に同じものがあったのか。

「お力になれず申し訳ございません」
「いえ、こちらこそお時間取らせてすみませんでした」

 私が肩を落とし、帰ろうとすると、声をかけてくる少年がいた。
「公爵令嬢のエリーザ様ですよね。もしよければ、僕とゲームの話をしませんか」
「坊ちゃん。ここには入らないように言われているのではないのですか」
「いいじゃないか、僕も来年には13になるんだから」
「ですから、来年、13歳になられてから、いらっしゃってください」
「そんな堅いこと言わなくても」
 何やら担当者ともめているが、知り合いのようだ。

「すみませんが、そちらの方は」
「申し遅れました、当商会会頭の孫にあたる、シロー=レグホンと申します」
「会頭のお孫さんですか」

 確か、攻略対象者の一人に、商会会頭の孫がいたはず。条件から考えてこの子が攻略対象者か。

「それで、会頭のお孫さんは、私とゲームの話をしたいのですか」
「シローとお呼びください。実は、前からお嬢様とお話をする機会を伺っていたのです。ゲームについての重要なお話があるのですが、ここではなんですから、場所を移しませんか」

 ゲーム。この世界について何か知っているのか。探ってみるしかないか。

「わかりましたわ。どちらですの」
「では、こちらに」

 私たちは応接室から、工房のような煩雑な部屋に通された。
「汚いところですみませんが、説明するのに、ここの方が都合がよかったものですから」

 私は勧められた椅子に座る。なにやら、色々なゲームが所狭しと置かれている。

「僕はここで、新しいゲームの研究をしておりまして、できればお嬢様にも、そのお手伝いをしていただけたらと思いまして」
「私にゲーム研究のお手伝いなんてできるのかしら」

「大丈夫です。というか、お願いしたいのは、その、魔法カードというのですか、それの技術供与でして」
「魔法カードですか。それとゲームがどう繋がるか理解できないのですが」
 この世界について何か知っているのかと、勘ぐってみたが、杞憂だったようだ。
 それにしても、魔法カードか、どこで嗅ぎつけてきたのやら。

「それが、今僕が考えているのが、カード型の対戦バトルゲームでして」
「カード型対戦バトルゲーム?」

「こういったものです」
 カードには、勇者や魔物などの絵が描かれ、HPやMP、攻撃力などの数値も書かれていた。前世でも男の子たちがよく集めていた、あれである。

「ここに描かれた数字を元に、交互に攻撃し、相手のカードを倒していきます」
 シローは実際にカードを並べ、ゲームの流れを説明する。

「ただ、これだけだと、すぐ他に真似されてしまう恐れがあります。そこで僕が考えたのが、実際に魔法の効果が発動するカードにしてはどうかというものです」
「それ、危なくないのですか」

「魔法の威力については、危なくないように威力を抑えるつもりです。あくまで玩具ですから。見た目だけの魔法効果があればいいのです」
「なんとなく、やりたいことは理解できましたが、それでしたら工房に頼まれた方がよろしいのではなくて」

「それが、現状、工房はどこも実用品の製造で手一杯で、玩具の製造なんか引き受けてくれません。付与方法さえわかれば、人手はなんとかなりますから、自分で製造できるのですが」
「なるほど、それで私なのですね」

「はい、工房に属しているわけでもないのに、次々と新しい魔法カードを作っていく。いったいどうやって作っているのですか」
「あら、私が作っているとは限りませんわよ。ただ、他から手に入れただけかもしれませんでしょ」

「私は商品を届けに、公爵様のお屋敷にもよく行きます。庭で実験なされていたらバレバレですよ。勿論、他に漏らすようなことは絶対にありませんが」
「迂闊だったわ。確かに私が作っていますが、作り方は教えられませんわ」

「そこをなんとか、秘密は絶対に守ります。一部だけでも構いませんので」
「そう言われましても」

「でしたら、週に数枚でもよろしいので、そちらで作っていただき、それを、こちらで買い上げるわけにはまいりませんか」
「その程度の枚数では商売にならないでしょう」

「いえ、当たりのレアカードとして、クジのような販売方法を取れば商売になります」
「確かに、その販売方法なら、数が揃わなくても大丈夫ですね。その上、レアカードの原価はいくら高くても元が取れますわね」

「これは手厳しい。では引き受けていただけるのですか」
「条件次第ね。細かいことは、このシリーに任せるわ。日を改めて連絡を頂戴」

「わかりました。それでは本日はありがとうございました」
「こちらこそ、有意義なお話だったわ」

 後日、シリーが契約関係の話を詰め、私は、カードの威力調整に四苦八苦した。

 発売されたカード型対戦バトルゲームの売り上げは好調で、生産が追いつかないほどであった。
 その主要因が、カードのゲーム性よりも、レアカードの収集目的であったことは言うまでもない。

 私も、当初の計画の四倍ものレアカードを生産させられるはめになった。

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