魔眼の転生悪役令嬢は魔王エンドを目指す だめ神メイドと乙ゲー逆攻略

なつきコイン

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第一章

第19話 最初の迷宮情報収集

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 王都での、国王謁見パーティーも無事終わり、私とシリー、そしてリココは、公爵領に帰るため馬車に揺られていた。

「リココ、そういえば三年前に鍛えてくると言っていましたが、成果はどうでした」
「もうばっちりです。メイドとしての仕事は勿論、収納魔法も強化しましたから。ポーターとして迷宮だって付いていけます」
「そう、それは頼もしいわね。では早速迷宮にもぐってもらいましょうか。もうすぐ迷宮に着きますから」
「えー。ちょっと待ってください。この馬車、公爵領に向かっているのではないのですか!」
「最終的には公爵領の屋敷に向かいますけれど、折角王都まで来たのだから、途中、少し遠回りして、最初の迷宮によっていくのよ」
 最初の迷宮は王都から馬車で半日のところにある。公爵領から来るには三日かかることを考えれば、王都に来たこの時に、行ってみるのは当然のことである。

「ですが、何も準備していませんよ。それに、心の準備がまだ」
「ふふふ、心配しなくても迷宮にもぐるのは冗談よ」
「はあ、そうですか、びっくりしました。公爵令嬢が迷宮にもぐるわけがないですよね」
「あら、ゆくゆくはもぐるわよ。今回はその下見と情報収集よ」
「えっ、本当にお嬢様がもぐられるのですか! 当然、私もついていかなければならないですよね」
「当然、リココにもついてきてもらうわ。大切なポーターですもの」
 この時点でリココが専属メイドになってくれたことは大助かりである。

「下見と情報収集というと、冒険者ギルドに行って、ギルド職員や冒険者から聞き込みですか?」
「そんなめんどうくさいことしないわよ。鑑定魔法を使えばバッチリよ」
「鑑定魔法ですか?」
 リココは鑑定魔法をどう使うか理解できないようだ。
「まあ見ていなさい」

「ところで、お嬢様。冒険者ギルドには登録しないのですか」
 シリーが尋ねてくる。
「そうね、どうしようかしら。別に、ギルドに登録しなくても、迷宮にはもぐれるわよね。依頼を受けるつもりもないし」
「はい、迷宮にもぐるのに特に許可はいりません。ですが、魔物の素材やドロップアイテムを買い取ってもらえますし、ランクが上がれば、武器屋などで割引がきくなどの特典がありますよ」
「そうか、それなら迷宮にいった後、ギルドによって、詳しい話を聞いてから決めましょう」


 私たちは、お昼を少し過ぎた頃に迷宮に着いた。野原の真ん中に、石造りの小さな祠があり、そこが迷宮の入り口となっていた。

「お昼を過ぎてしまったけれど、まず迷宮を鑑定してしまいましょう。その後、近くの村で食事にして、その後ギルドかな」
「わかりました。それにしても、迷宮って、野原にいきなり祠が建っているものなんですね」
 リココが興味深げに祠を見ている。
「この祠は人が建てたものよ。迷宮の入り口自体はただの穴ね」
「そうなんですか。それで情報収集の鑑定はどうするんですか?」
「そうね。お腹も空いてきたことだし、さっさと済ませてしまいましょう」

 私は祠に近づき迷宮の入り口を覗き込む。

「ではいくわよ。『鑑定』。ハイ終わり」

「えっ、今ので終わりですか?!」
 リココが目を丸くして驚いている。
「そうよ。これでバッチリ。もう攻略が済んだようなものよ」
「どういうことですか?」
「この迷宮の攻略法を鑑定したのよ。鑑定結果は後で教えるわ。とりあえず食事に向かいましょう」


 私たちは再び馬車に乗り、近くの村へと移動した。
 村の名前は、最初の村。数件の食堂兼宿屋と武器屋、道具屋、雑貨屋、それとギルドの支部があるだけの小さな村だ。

 私たちは数件ある食堂の中から、一番清潔感のあるところを選び食事をとった。
 昼時を少し過ぎていたこともあり、他に客はなく、貸切状態だった。もっとも、混むのは夕食時で、昼時はほとんど客が来ないそうだ。大抵の冒険者は昼間迷宮にもぐっている。わざわざ昼飯を食べに出てこない。迷宮の中では昼飯抜きか、硬いパンと干し肉を齧るくらいが普通だそうだ。
 食堂で、私たちが注文したのは日替わり定食。鳥胸肉の香草焼に野菜が添えられたものと、野菜スープ、パン、それと四分の一に切られたオレンジであった。味は悪くなかった。

 食事を済ませた私たちは、予定通り冒険者ギルドに向った。
 この村の冒険者ギルドは、前世のコンビニくらいの大きさで、商品の棚の代わりに、テーブルと椅子がいくつか並べられている感じだった。

 コンビニでいえばレジに当たるところに、一人のお姉さんが暇そうにしていたので話を聞いてみた。
「すみません、少し話を伺ってもいいですか」
「はい、何でしょう」
「冒険者の登録について伺いたいのですが」
「そうですか。残念ながらここの支部では新規の登録は行なっていません。登録は王都の本部で行なっていますから、こちらで説明できるのは簡単なことだけになります。それでよければ質問にお答えしますが」
「登録は王都の本部でしかできないのですか?」
「そんなことはありませんよ。ここからは王都が一番近いですが、ある程度大きな都市のギルドなら大抵はできます」
「そうですか、そうすると登録するところで、説明を聞いた方がいいでしょうね」
「そうですね。二度手間になるかもしれませんし、そのギルド特有のルールがあるかもしれませんから、登録するところで説明を受けた方がいいでしょう」

 お姉さんはちょうどよい話し相手ができたと、こちらが聞いてもいないのに話を続けた。
「ここのギルドは、迷宮関係の仕事がほとんどなうえ、その迷宮も初心者向けですから暇なんです。主な仕事は魔物のドロップ品の買取ですね。ご存じかどうか分かりませんが、ここの迷宮はスライムしか出ませんから。素材が持ち込まれることはまずないんです。スライム倒すと溶けちゃいますからね。何も残らないんです。たまに落とすドロップ品もほとんどが小さな魔石ですから、うま味が少ないんですよ。しかも、ここのスライムは物理攻撃がほとんど効かないんです。物理耐性が高いっていうんですか。そのうえ八階層ある階層ごとに出てくるスライムの種類が違うため、効果のある魔法も階層ごとに変えなければならないんで、メンバーや魔道具を揃えるのが大変なんです。更に最終の八階層にいるラスボススライムは魔法も効かないんです。効かないだけじゃなく、魔力を吸い取ってどんどん大きくなるんですよ。ですから、まだ誰も倒したことがないんです。そんな感じだから、来るのは、経験値が欲しい初心者ばかりですね。サンドバッグ代わりに、剣で何度も切り付けて経験値を稼いでいるようです。スライムは動きが遅いですからね。時々は反撃してきますけどよけるのは簡単です。流石に1C回(64回)ぐらい切り付けると死ぬみたいですけど。ただラスボススライムだけは注意してください。大きさが大きいんです。小さな家ぐらいありますから。下手に近づくと飲み込まれてしまいますよ。もっとも、飲み込まれても死ぬことはないんですけどね。MPを根こそぎ吸い取られ、MPがなくなるとポイっと吐き出されます。死ぬような怪我をすることはまずないですけど、擦り傷ぐらいは覚悟しておいてくださいね。もし、怪我をしたらここに来ていただければ、治療も行なえます。あそこを見てください。祭壇があるでしょ。実は回復魔法が使える修道士が常駐しているんです。今は裏で昼寝してますけどね。ポーション使うより安くしておきますよ。それから、冒険者登録されて迷宮にもぐるんだったら、地図がありますからそれを使ってください。勿論有料ですけれど、罠の場所や休憩できる場所なども記入されている完全攻略版ですよ。あと、階層ごとのスライムの特徴を知りたい場合はこちら。『最初の迷宮もぐり方ガイド』がお勧めです。スライムごとの弱点と攻撃パターン、果ては、ドロップアイテムを増やすマル秘テクニック、なんてのも載っていてお買い得ですよ。ぜひ一冊、座右の書としてお持ちいただければ、きっと将来家宝として受け継がれるでしょう。」
 なんか最後の方は、怪しいツボ売りのセールスみたいになってきたよ。

「いろいろ教えていただきありがとうございました。もし次に来ることがありましたら宜しくお願いします」
「そうですか、またお越しくださいね。お待ちしております」
「それでは失礼します」
 そう言ってギルドを後にした。後ろではお姉さんが外まで出てきて手を振っていた。

「凄かったですね、お姉さん」
 リココがまだ呆気に取られて呆然としている。
「そうですね、なんか、わざわざ、迷宮を鑑定する必要なかった気がしますね」
 シリーが身も蓋もないことをいう。
「話を聞く限り、ドロップアイテムを売る気がない。攻略情報も持っている。ポーションいっぱい持っている。私たちが、ここのギルドにもう二度と来る必要はない気がするわね」
 私が、暗にもう二度とお姉さんと話したくないと告げると。
「そうですね。凄かったですね、お姉さん」
 リココは、まだ復活していないようだ。

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