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第一章
第4話 詰問
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「ただ今戻りましたお父様」
屋敷に帰ると最初に公爵の執務室で洗礼の報告を行う。
「お帰りエリー、洗礼はどうであった」
「無事に終わりました。鑑定の魔法を授かりました」
「そうか、それは良かった」
公爵はこちらに目を向けず、それでも少し安心したような表情を浮かべる。
「シリー、それで魔眼についてはどうなった」
「お嬢様が言うには、見ただけでも鑑定出来るということなので、やはり魔眼であったものかと、魔力操作に慣れれば、普段から見たもの全てに恐怖を与えることは無くなると思われます」
「そうか分かった」
今度は明らかに安心したような表情になり、こう続けた。
「エリー、普段から魔法の練習をするようにしなさい。だからと言って、悪い事には使っちゃダメだぞ」
「はい、分かりましたお父様」
一人きりの夕食を済ませ、自室に戻るとシリーを呼んだ。
「では早速質問に答えていただきましょうか、シリー」
「分かりました。お手柔らかにお願いしますね」
椅子に腰かけている私の前に立つシリー、少し表情が硬い。
「色々聞きたい事があるのですが、先ずはやはり何故シリーが、いや女神が私のメイドをしているのですか?」
「いきなりそこからですか。端的に言えば、あなたを支援するためです」
「私は、女神に支援されなければならない特別な存在だと言うのですか?」
驚きの声を上げる私にシリーは淡々と答える。
「そうですね、かなり特別な存在です」
「そうですか。それで具体的に言ってどんな支援をしてくれるのですか?」
落ち着き直して、こちらも淡々と質問する。
「エンジェルポイントの獲得支援ですね」
「エンジェルポイントですか? 何ですかそれ、集めるとオモチャの缶詰が貰えるとかですか」
「簡単に言ってしまえば、死んだ時エンジェルポイントが多ければ天国に行けますし、少なければ地獄に落とされます。マイナスになれば存在自体を消されてしまうこともあります」
「そういえば、天界でもチョコっとそれっぽいこと言っていましたね。それにしても、存在自体が消されてしまうなんてたいへんですね。それで、大体想像できるのですが、どうすればエンジェルポイントが獲得できるのですか?」
天界でのやり取りを思い返して思考を巡らせる。
「良い事をすれば増えますし、悪い事をすれば減ります。善悪の評価は人によって変わってくるものなので、その判断は神が行います」
「成る程、つまりは私に善行を積めと言うことですか」
「そうです、その通りです。しかも出来るだけ沢山」
話が核心に近づいて来た様だ。私はここで爆弾を投下する。
「でも、私の称号『悪役令嬢』ですよね。大丈夫なのですか?」
「大丈夫じゃないから私が支援に来ているのです!」
シリーが声を荒げた。
「はー、何となく分かりましたので、これについては置いておいて、次の質問です」
「えーまだ続くのですか」
不満を口にするシリー、だが、追及の手は緩めない。
「まだ、まだ、続きますよ。それでは、この異常に高い魔法のステータスは何なのですか?」
「それについては私にはわかりません。天界に来た時点から異常に高かったですから」
「本当ですか?」
「別に嘘は付いていませんよ。女神ですから」
てっきりシリーのせいだと思っていたが、本当に知らないらしい。
「あの時点で異常が無かったら、こんな所に転生させていません。多分、前世の地球は魔素が殆ど有りませんでしたから、自覚が無かったのだと思います」
あ、シリーが自爆した。
「そうなのですね。わからないなら仕方ないですね。ところで、『こんな所』ってどんな所なのですか」
「……」
「答えたくない、といったところですか。じゃあ、ステータスの種族に『ゲームキャラ』と有るのは何でです」
「……」
「まだ白を切るつもりですね。実は自分を鑑定した時に魔力を最大限に込めたのですよ。そうしたらなんと、自分を誕生から五年間育ててくれた環境、つまりこの世界の概要まで情報を得ることが出来ました。この世界『ゲームの中』なんですよね」
シリーは顔面蒼白である。
「しかも私は悪役令嬢役で、普通にしていたらエンジェルポイント無くなっちゃいますよね」
追い込む私にシリーは深々と頭を下げてからこう返してくる。
「返す言葉も御座いません。でもあの時点で、あの異常なステータスを見たら、こうするしか思い付かなかったのです。あの時は本当にこちらが消されるかと思ったのですから」
「消される? どういうことですか」
心当たりが無い理由に首をかしげる。
「あの時のお嬢様、あの時点ではハルさんでしたが、は、天界に充満している高密度の魔素を吸って、存在自体が巨大なものになっていたんです。天界なんてMPがあってなんぼみたいな所ですから。そんなハルさんに睨まれたら、こちらの存在自体が消されてしまいます」
「それは失礼しました。別に殺そうと思って睨んだ訳では無かったのですが」
とりあえず誤っておく。
「今は大丈夫なのですか」
「今は天界で溜め込んだMPを先ほどの鑑定で全て使い尽くした後なので大丈夫です。それに、旦那様にお伝えしたように、魔法を覚えたことにより今後は自分で調整できるようになるかと思います」
「そうですか」
試しに少し睨んでみる。
「ちょっと、だからって睨まないでください。普通に怖いです。兎に角、あれは必要な処置だったんです!」
逆ギレですか。
「まあこのことも置いておきましょう。要はエンジェルポイントが溜められれば問題無いということでしょう。それで、シリーの支援を受ければ悪役令嬢でも大丈夫なのですよね」
「さあー、それはどうでしょう」
「えっ、だってその為に支援に来たのですよね」
焦る私にシリーがぶっちゃける。
「まあそうなんですけどね。ハッキリ言って、よく分かりません。大体、私このゲームの中身はよく知りませんから」
「じゃあなんでシリーが派遣されてきたのですか。もっと適任者が居たのではないですか」
「あー、その辺はノーコメントで」
「何でノーコメント何ですか!」
捲くし立てる私にシリーはことも無げに。
「女神ですので、嘘は付けませんから」
私はあきれ返る。そしてふと思い当たる。
「そんなこと言って、あの時嘘ついたじゃないですか」
「あの時?」
首を傾げるシリー。
「天界で転生先を説明するとき、ゲームのような世界だって。『ゲームのような』でなく、まんま『ゲーム世界』じゃないですか」
どや顔の私に、呆れ顔のシリー。
「そんな細かいところを揚げ足を取るように。第一あの時は、『ゲームのようなファンタジー生物がいる』世界と言ったのであって、『ゲームのような世界』だなんて言っていません。居ますよ『ゲームのようなファンタジー生物』がこの世界に」
逆にどや顔のシリー。
「兎に角、このことはノーコメントで!」
「嘘は付かないけれど、必ずしも知っていることを全て教えてくれるわけではない、ということですか」
「いやー、そんなことより、私はこのゲームの内容よく知りませんが、今はお嬢様の方が情報持っているのではないですか?」
「そんなことよりって無責任な。でもそうですね。鑑定で得たゲーム情報は共有して置いた方が今後のことを考えると良いでしょうね」
私は鑑定で得たゲーム情報を書き出していくことにした。
屋敷に帰ると最初に公爵の執務室で洗礼の報告を行う。
「お帰りエリー、洗礼はどうであった」
「無事に終わりました。鑑定の魔法を授かりました」
「そうか、それは良かった」
公爵はこちらに目を向けず、それでも少し安心したような表情を浮かべる。
「シリー、それで魔眼についてはどうなった」
「お嬢様が言うには、見ただけでも鑑定出来るということなので、やはり魔眼であったものかと、魔力操作に慣れれば、普段から見たもの全てに恐怖を与えることは無くなると思われます」
「そうか分かった」
今度は明らかに安心したような表情になり、こう続けた。
「エリー、普段から魔法の練習をするようにしなさい。だからと言って、悪い事には使っちゃダメだぞ」
「はい、分かりましたお父様」
一人きりの夕食を済ませ、自室に戻るとシリーを呼んだ。
「では早速質問に答えていただきましょうか、シリー」
「分かりました。お手柔らかにお願いしますね」
椅子に腰かけている私の前に立つシリー、少し表情が硬い。
「色々聞きたい事があるのですが、先ずはやはり何故シリーが、いや女神が私のメイドをしているのですか?」
「いきなりそこからですか。端的に言えば、あなたを支援するためです」
「私は、女神に支援されなければならない特別な存在だと言うのですか?」
驚きの声を上げる私にシリーは淡々と答える。
「そうですね、かなり特別な存在です」
「そうですか。それで具体的に言ってどんな支援をしてくれるのですか?」
落ち着き直して、こちらも淡々と質問する。
「エンジェルポイントの獲得支援ですね」
「エンジェルポイントですか? 何ですかそれ、集めるとオモチャの缶詰が貰えるとかですか」
「簡単に言ってしまえば、死んだ時エンジェルポイントが多ければ天国に行けますし、少なければ地獄に落とされます。マイナスになれば存在自体を消されてしまうこともあります」
「そういえば、天界でもチョコっとそれっぽいこと言っていましたね。それにしても、存在自体が消されてしまうなんてたいへんですね。それで、大体想像できるのですが、どうすればエンジェルポイントが獲得できるのですか?」
天界でのやり取りを思い返して思考を巡らせる。
「良い事をすれば増えますし、悪い事をすれば減ります。善悪の評価は人によって変わってくるものなので、その判断は神が行います」
「成る程、つまりは私に善行を積めと言うことですか」
「そうです、その通りです。しかも出来るだけ沢山」
話が核心に近づいて来た様だ。私はここで爆弾を投下する。
「でも、私の称号『悪役令嬢』ですよね。大丈夫なのですか?」
「大丈夫じゃないから私が支援に来ているのです!」
シリーが声を荒げた。
「はー、何となく分かりましたので、これについては置いておいて、次の質問です」
「えーまだ続くのですか」
不満を口にするシリー、だが、追及の手は緩めない。
「まだ、まだ、続きますよ。それでは、この異常に高い魔法のステータスは何なのですか?」
「それについては私にはわかりません。天界に来た時点から異常に高かったですから」
「本当ですか?」
「別に嘘は付いていませんよ。女神ですから」
てっきりシリーのせいだと思っていたが、本当に知らないらしい。
「あの時点で異常が無かったら、こんな所に転生させていません。多分、前世の地球は魔素が殆ど有りませんでしたから、自覚が無かったのだと思います」
あ、シリーが自爆した。
「そうなのですね。わからないなら仕方ないですね。ところで、『こんな所』ってどんな所なのですか」
「……」
「答えたくない、といったところですか。じゃあ、ステータスの種族に『ゲームキャラ』と有るのは何でです」
「……」
「まだ白を切るつもりですね。実は自分を鑑定した時に魔力を最大限に込めたのですよ。そうしたらなんと、自分を誕生から五年間育ててくれた環境、つまりこの世界の概要まで情報を得ることが出来ました。この世界『ゲームの中』なんですよね」
シリーは顔面蒼白である。
「しかも私は悪役令嬢役で、普通にしていたらエンジェルポイント無くなっちゃいますよね」
追い込む私にシリーは深々と頭を下げてからこう返してくる。
「返す言葉も御座いません。でもあの時点で、あの異常なステータスを見たら、こうするしか思い付かなかったのです。あの時は本当にこちらが消されるかと思ったのですから」
「消される? どういうことですか」
心当たりが無い理由に首をかしげる。
「あの時のお嬢様、あの時点ではハルさんでしたが、は、天界に充満している高密度の魔素を吸って、存在自体が巨大なものになっていたんです。天界なんてMPがあってなんぼみたいな所ですから。そんなハルさんに睨まれたら、こちらの存在自体が消されてしまいます」
「それは失礼しました。別に殺そうと思って睨んだ訳では無かったのですが」
とりあえず誤っておく。
「今は大丈夫なのですか」
「今は天界で溜め込んだMPを先ほどの鑑定で全て使い尽くした後なので大丈夫です。それに、旦那様にお伝えしたように、魔法を覚えたことにより今後は自分で調整できるようになるかと思います」
「そうですか」
試しに少し睨んでみる。
「ちょっと、だからって睨まないでください。普通に怖いです。兎に角、あれは必要な処置だったんです!」
逆ギレですか。
「まあこのことも置いておきましょう。要はエンジェルポイントが溜められれば問題無いということでしょう。それで、シリーの支援を受ければ悪役令嬢でも大丈夫なのですよね」
「さあー、それはどうでしょう」
「えっ、だってその為に支援に来たのですよね」
焦る私にシリーがぶっちゃける。
「まあそうなんですけどね。ハッキリ言って、よく分かりません。大体、私このゲームの中身はよく知りませんから」
「じゃあなんでシリーが派遣されてきたのですか。もっと適任者が居たのではないですか」
「あー、その辺はノーコメントで」
「何でノーコメント何ですか!」
捲くし立てる私にシリーはことも無げに。
「女神ですので、嘘は付けませんから」
私はあきれ返る。そしてふと思い当たる。
「そんなこと言って、あの時嘘ついたじゃないですか」
「あの時?」
首を傾げるシリー。
「天界で転生先を説明するとき、ゲームのような世界だって。『ゲームのような』でなく、まんま『ゲーム世界』じゃないですか」
どや顔の私に、呆れ顔のシリー。
「そんな細かいところを揚げ足を取るように。第一あの時は、『ゲームのようなファンタジー生物がいる』世界と言ったのであって、『ゲームのような世界』だなんて言っていません。居ますよ『ゲームのようなファンタジー生物』がこの世界に」
逆にどや顔のシリー。
「兎に角、このことはノーコメントで!」
「嘘は付かないけれど、必ずしも知っていることを全て教えてくれるわけではない、ということですか」
「いやー、そんなことより、私はこのゲームの内容よく知りませんが、今はお嬢様の方が情報持っているのではないですか?」
「そんなことよりって無責任な。でもそうですね。鑑定で得たゲーム情報は共有して置いた方が今後のことを考えると良いでしょうね」
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