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第一幕 悪役公爵令嬢(闇魔法使い8歳)王宮書庫殺人事件
79. 王子の境遇
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食ってかかってきたハインリッヒに、お父様は諭すように答える。
「表向き、イザベラ様は王子が亡くなられたことに憔悴して自らも命を絶ったと」
「表向きということは、本当は違うのか?」
「女騎士に娘を殺すように命じたのがイザベラ様だということです」
「そんな馬鹿な! 母上はマリーを俺の婚約者にしようとしていたのだぞ」
「ロザリー様もニコラス様の婚約者にと考えていたようです」
「それは確かに……」
「ニコラス様に取られるくらいなら殺してしまえと」
「母上が、そこまでするとは思えない」
「しかし、王宮では既にそれで決着がついてしまっています」
ここへくる途中の馬車の中の話では、首謀者が誰かまだわからないと話し合っていたが、それは言わないつもりのようだ。
「つまり、俺に王宮での立場はないということか……」
王子は、母親が亡くなったというのに、思いのほか冷静だ。
日頃の王子教育のたまものだろうか? それとも、本人の資質?
子供とは思えない落ち着きようだが、他に何か理由があるのかしら?
「俺はどうなる?」
「イングラスの公爵令嬢を殺そうとしたのです。一歩間違えばまた戦争です。たとえ王子でも、生きているとわかれば、連座が適用されて死刑もあり得ますが、娘を助けようとしたことから、身分剥奪で国外追放といったところでしょうか」
「そうか、母上がしでかしたとされることを考えれば、それも仕方があるまい。しかし、不味いことになったな……」
「お父様、どうにかならないのですか?」
「そうだな……。王子に戻ることはできないが、このまま死んだことにすれば、我が家で匿うことはできる」
「娘を殺そうとした犯人の息子を匿うというのか?! なぜ、そんなことをする?」
「これは、話すべきではないのかもしれませんが、王宮ではイザベラ様が犯人だといっていますが、それが真実だとは限りません」
「公爵も母上は無実の罪を着せられたと思うのか!」
ハインリッヒは、イザベラ王太子妃は無実だと考えているようだ。自分の母親だ、それも当然だろう。
「その可能性もあるというだけです。王宮の言うようにイザベラ様が犯人かもしれません」
「母上はそんなことするはずがない! 俺が今から王宮に行って、無実を証明してみせる」
「今から王宮に行けば、みすみす殺されに行くようなものですよ」
「ではどうしろと!」
「ですから、今は死んだことにして身を隠し、動かぬ証拠をつかむのです。王宮に戻るのはそれからです」
「うむ、そうだな……」
王子はどうやらそれで納得したようだ。
「そうだ、マリー、お前も死んだことにしよう」
「え? 私も?」
なぜ私も死んだことにしなければならないのだろう?
「表向き、イザベラ様は王子が亡くなられたことに憔悴して自らも命を絶ったと」
「表向きということは、本当は違うのか?」
「女騎士に娘を殺すように命じたのがイザベラ様だということです」
「そんな馬鹿な! 母上はマリーを俺の婚約者にしようとしていたのだぞ」
「ロザリー様もニコラス様の婚約者にと考えていたようです」
「それは確かに……」
「ニコラス様に取られるくらいなら殺してしまえと」
「母上が、そこまでするとは思えない」
「しかし、王宮では既にそれで決着がついてしまっています」
ここへくる途中の馬車の中の話では、首謀者が誰かまだわからないと話し合っていたが、それは言わないつもりのようだ。
「つまり、俺に王宮での立場はないということか……」
王子は、母親が亡くなったというのに、思いのほか冷静だ。
日頃の王子教育のたまものだろうか? それとも、本人の資質?
子供とは思えない落ち着きようだが、他に何か理由があるのかしら?
「俺はどうなる?」
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「そうか、母上がしでかしたとされることを考えれば、それも仕方があるまい。しかし、不味いことになったな……」
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「そうだな……。王子に戻ることはできないが、このまま死んだことにすれば、我が家で匿うことはできる」
「娘を殺そうとした犯人の息子を匿うというのか?! なぜ、そんなことをする?」
「これは、話すべきではないのかもしれませんが、王宮ではイザベラ様が犯人だといっていますが、それが真実だとは限りません」
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ハインリッヒは、イザベラ王太子妃は無実だと考えているようだ。自分の母親だ、それも当然だろう。
「その可能性もあるというだけです。王宮の言うようにイザベラ様が犯人かもしれません」
「母上はそんなことするはずがない! 俺が今から王宮に行って、無実を証明してみせる」
「今から王宮に行けば、みすみす殺されに行くようなものですよ」
「ではどうしろと!」
「ですから、今は死んだことにして身を隠し、動かぬ証拠をつかむのです。王宮に戻るのはそれからです」
「うむ、そうだな……」
王子はどうやらそれで納得したようだ。
「そうだ、マリー、お前も死んだことにしよう」
「え? 私も?」
なぜ私も死んだことにしなければならないのだろう?
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