街角で悪役令嬢役にスカウトされた件 【OKしたけど、異世界でサスペンスだとは聞いてない！】

第一幕 悪役公爵令嬢(闇魔法使い８歳)王宮書庫殺人事件

73. 刺殺

　王宮の書庫に潜り込んで闇の魔導書を見ていたら、女騎士に見つかり、国賊の濡れ衣を着せられ命を狙われた。

　レイピアを構えて迫ってくる女騎士に、徐々に後退して逃げようとした私であったが、無情にも書庫の奥の壁に突き当たり、これ以上逃げられなくなってしまった。

　そんな私めがけて女騎士はレイピアを突き出した。

「やめろ！」

　女騎士と私の間に一つの影が割って入った。
　だが、女騎士は咄嗟にレイピアを止めることができなかった。
　なんと、女騎士はキツく目を瞑っていたのだ。おい、おい。人を刺すのは初めてですか？

「ぐうっ！」

　レイピアはその影を貫いた。

「ぐぇっ！」

　そのうえ、レイピアはその影を貫通し、私まで串刺しにした。
　お陰で、私たちは串団子状態だ。

「お、王子殿下？！」

　女騎士がやっと目を開いて、割って入った影の存在に気づいたようだ。
　そう、影の存在は、ハインリッヒだった。

「王子殿下！　大丈夫ですか？！」

　女騎士は慌ててレイピアを引き抜く。
　串刺しにしておいて大丈夫はないだろう。
　それに、ここでレイピアを抜いたら出血多量で死ぬわよ。

「ゲホ！」

　ハインリッヒが血を吐いて、意識を無くした。ほら見たことか。

「わ、わ、わたしは……」
　女騎士はその場に座り込んでしまった。

「宮廷医を呼んで！　ゴホッ！」

　助けを呼ぶように叫んだが、その拍子に私も血を吐く。お陰で王子は頭から血まみれだ。
　私も立っていることができずに、王子に折り重なるように倒れた。

　これは、このまま王子ともども、ここで死んでしまうのか？
　なんで、こんなことになってしまったのだろう？
　走馬灯のように過去を思い出す。

　そうだ、私は悪役令嬢役として、スカウトされてここに来たんだ……。
　私は女優になるんだ。こんなところで諦めてはいけない。

　私は先程まで見ていた闇の魔導書にあった闇魔法を思い出す。
　これならなんとかなるのではないだろうか。

『ヨミの眠り』

　私は自分と王子に魔法をかける。

　これは、ただの眠りを誘う魔法ではない。体の全機能を止め、仮死状態にしてしまうものだ。
　体の全機能を止め仮死状態にすることにより、体中の全エネルギーを回復に回し、仮死状態の間に怪我や病気の回復を行なうのだ。

　その代わり、一度かけてしまえば、完全無防備状態。女騎士が正気を取り戻し、とどめをさされれば、私はそれきりだ。

　それまでに、誰か助けに来てくれることを願うしかない。