街角で悪役令嬢役にスカウトされた件 【OKしたけど、異世界でサスペンスだとは聞いてない！】

第一幕 悪役公爵令嬢(闇魔法使い８歳)王宮書庫殺人事件

57. 指令

（メイド、ユキ視点）

　屋敷の掃除をしていたらサラが慌ててやって来た。
　お嬢様とカフェに出かけていたはずだが、何かあっただろうか？
　昨日も、学園見学に行ってトラブルがあったようだし、サラだけでなく私も付いて行くべきだっただろうか。
　お嬢様を襲撃から守るには、肉体系のサラが向いているだろうが、トラブルを避けるには、頭脳系の私の方が向いている。

「ユキ、お嬢様からの指令よ。グスコウ男爵家を調べて来て」
「指令って、お嬢様に裏組織『クロネコ』のことを話したの！」

『クロネコ』は公爵家を裏から支える特殊部隊だ。諜報から暗殺まで非合法な活動をしている。それは、お嬢様に知られていいことではない。

「そんなこと話せるわけがないじゃない」
　ほっ。流石にサラでもそこまではお嬢様に話してはいないか。
　我々『クロネコ』は公爵様に仕えているのだが、サラだけはお嬢様にべったりなので、心配してしまった。

「じゃあ、何でお嬢様からの指令なのよ」

　私は、お嬢様から指令が出た経緯をサラに確認する。

「成る程、お嬢様はそのカナリ様を心配してお願いされたのね」
「わかった？　なら、さっさと調査してきて」
　調査が必要なのはわかったが、なんでサラが上から目線で命令してくるのか、そこが納得いかない。

「お嬢様のお願いだから、もちろん行ってくるけど、他の仕事もあるんだよね」
「お嬢様の指令だもの、何はさておき最優先で処理するのは当然でしょ」

「それはそうだけど、この仕事を放って置くと、お嬢様の生活水準が下がることに……」
「それは駄目よ！」
　サラはお嬢様第一だから、お嬢様を理由にすればコントロールは難しくない。

「そうよね。お嬢様の生活水準を下げるわけにはいかないわよね。でも、お嬢様の指令も急がなければいけないし……。誰か代わりに屋敷の掃除やってくれないかしら？」
「くっ。わかったわよ。屋敷の掃除は私がやっておくから、調査に行って来て」

「それじゃあ、サラ、屋敷の掃除をお願いね。ついでに倉庫の片付けもやっておいて」
「何で、倉庫の片付けまで！」

「それもお嬢様のためよ」
「お嬢様のため？」

「それじゃあ、任せたから」
「あっ！　ユキちょっと」

　私はサラに屋敷の掃除と倉庫整理を押し付けると、呼び止めるサラを無視して、さっさと調査に向かったのだった。