街角で悪役令嬢役にスカウトされた件 【OKしたけど、異世界でサスペンスだとは聞いてない！】

第一幕 悪役公爵令嬢(闇魔法使い８歳)王宮書庫殺人事件

40. ジャンクキラー

　少女の家に有った宝石が盗品ではないかと疑われたのには、身分不相応という他に理由が当たようだ。

「他の理由？」
「マリー嬢はジャンクキラーについて知らないようだが、ジャンクキラーは無差別に人を殺している訳ではないんだ」

「殺す標的が決まっているということ？」
「今までジャンクキラーに殺されたのは、法で裁けない悪人ばかりだった」

「だから、今回も被害者が何か悪いことをしていただろうということですか？」
「まあ、そういうことだ」
　そんな噂が広がれば、少女は街で生きていけないだろう。王都に連れて行くのはそれもあるのか。

「前回までがそうだからと、今回もそうだとは限らないでしょ。相手は殺人者なのですよ」
「まあ、そうだな」

「だいたい、殺人鬼のくせに正義の執行官気取りですか！」
　それって、悪役令嬢役の私には、最悪の相手じゃない。目を付けられて殺されるなんて真っ平ごめんだわ。
「そんな危険人物さっさと捕まえてくださいな」

「まあ、そのために日夜頑張っているんだが……」
　日夜頑張っていると言われても、なんとも頼りないかぎりだ。

「まあ、それに、今回はジャンクキラーの犯行でない可能性が高いと俺は思っている」
「その割には、宝石類を盗品と疑っているようですが？」

「刑事は疑うのが仕事なんだよ」
「そんな開き直り方をされても迷惑ですわ。公明正大に先入観を持たずに捜査してもらいたいものですわ」

「あはははは、マリー嬢は随分と真っ直ぐなのだな」
「笑って誤魔化さないでくださいまし。それよりも、なぜ、ジャンクキラーの犯行でない可能性が高いと思うのです？」

「そうだな、まず、ジャックキラーは今まで王都でしか犯行を行わなかった。いきなり、海を越えたポートハンドで犯行に及んだというのは不自然だ」
「王都では捜査が厳しくなったので、他に移っただけではないのですか？」

「まあ、その可能性もある」
　モリス刑事は、事も無げに私の言葉を肯定すると話を続けた。

「第二に、今までの犯行現場は全て屋外だった。今回は室内だからその点も不自然だ」
「なるほど、でも、それはたまたまだったかもしれないですわ」

「犯行声明を書いたメモが残されていた」
「それは『ジャンクキラーが正義の鉄槌を下した』みたいな感じ？」

「まあ、そんな感じだ」
「それは、ジャンクキラーの犯行の証拠じゃないの？」

「今まで、ジャックキラーが犯行声明を出したことはない」
「急に売名行動に目覚めたのかもしれないわね」

「チッ。ことごとく反論しやがって」
　最初は事も無げにしていたが、何度も否定されてイラっときたようだ。

「一番は刑事としての俺の勘だ！　文句あるか！」
「なんですか、その理由は！」
　ついに切れたらしい。まあ、暴れられても困るので、からかうのはこれくらいにしておこう。

「じゃあ、逆にジャンクキラーの仕業だと思われているのはなぜ？」

「それは、犯行声明があったかというのが一番だが、ナイフで喉を切るという殺害の手口がいつもと同じだ」
「へーえ。ナイフで喉をね……」
　声を立てないようにするためかしら？

「それに、ジャンクキラーは殺しはするが盗みはしない。今回も、室内に宝石があったのに盗まれていない」
「単なる物取りではないということね」

「ジャンクキラーは、今までも現場に子供がいても、子供は殺していない」
「そうなの……」
　現場で寝ていた少女が殺されなかったのは疑問だったが、ジャックキラーが犯人ならそれが普通ということか。