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第一幕 悪役公爵令嬢(闇魔法使い8歳)王宮書庫殺人事件
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(近衛隊女騎士、ナディヤ視点)
カチャ!
僅かな音を感じ扉の方を確認すると、監視対象の少女が子供部屋の豪華絢爛な扉を開け、こっそりと外へ出て行った。
今は丁度、王子たちのお昼寝の時間である。今出て行った少女も、王子たちと一緒にお昼寝をしていたはずだ。
いったい、いつの間に起きだしたのだろう?
普通なら、世話役の者が気付きそうなものであるが、気付いた者は私以外いないようだ。
私も、王子たちの護衛をしながら、監視対象として注意していなければ気付かなかったかもしれない。
それ程、少女の気配は希薄なものだった。
近衛隊に採用されたばかりの新人とはいえ、女騎士である私の目を惑わすとは、やはり、王太子妃が言っていたように少女は闇魔法が使えるのかもしれない。
子供だからと侮っては、痛い目をみることになりそうだ。
私は、少女に気付かれないように細心の注意を払い、後を追うことにした。
しかし、何処へ行く気だろうか?
明らかに目的の場所があり、そこへ向かっている感じだ。
少女はキョロキョロと周りに気を配りながら、王宮の廊下を迷うことなく歩いていく。
少女は王子と同じ歳ということだ。
その割には大人びていて、話も行動もとても子供のものとは思えない。
幼いころから教育を受けている王子と比べてもそうなのだから、よほど厳しい教育を受けてきたのだろう。
容姿も、体形こそ年相応だが、艶やかな黒髪と整った顔は、人を魅了するものがあり、その吸い込まれるような黒い瞳は、私でも目が離せなくなる。
「イングラスの公爵令嬢は、王子を虜にして王国を乗っ取るつもりだ」
少女に会う前にそう聞かされた時には、年端のいかない少女に何を警戒しているのかと思ったものだが……。
イングラス島は、今でこそ我がフラスコット王国の一部であるが、私の父が生まれた頃は独立した一つの国であり、お互いに侵略しようと激しい戦争状態にあった。
そのため、戦争が過去のものとなった今でも、イングラスに悪感情を持つ者は多い。
だから、その噂は、そんな悪意ある者たちの戯れ言だと思っていたのだが、実際に少女に会ってみれば、その噂は妙に納得のいくものであった。
その少女の黒い瞳は、人を引き付ける一方で、その眼光の鋭さは、気の弱い者ではとても逆らえるものではなかった。あの瞳で睨まれた時の威圧感は半端なものではない。
それに加えて、本当に闇魔法が使えるのだとしたら、王子と結婚して王国を乗っ取ろうとしている、という話しも、まったくの絵空事ではないかもしれない。
そんな危機感を持って、後を付けて行けば、少女は鍵のかかっているはずの書庫に入っていった。
たまたま鍵が掛かっていなかった?
王宮の書庫なのに、そんなことがあるだろうか?
少女は明らかにここを目指して歩いてきた。偶然のはずがない。
怪しい!!
書庫で、何をするつもりだ?
少女に気付かれないように少し時間を置いて、私も書庫に入る。
少女は、書庫の奥で何か調べ物をしているようだ。
あそこにあるのは、闇魔法の禁書ではないだろうか?
「マリー様、何をされているのですか?」
私は少女の後ろから慎重に声をかけた。
「!」
少女は、まさか誰かいるとは思っていなかったのだろう。ビクリとしてこちらを振り返えった。
「少し……、読みたい本があって……」
私に睨まれ、怯えながらも、少女は何とか言葉を紡ぎ出したようだ。
「マリー様は既に、本が読めるのですか?」
「ええ、少しですが」
「少しという割には、難しそうな本を手に取られているようですが?」
「これは、絵が綺麗だったから……」
「ほぉー。闇魔法の魔導書ですか……。やはり、闇属性をお持ちなのですね」
「……闇属性? 何のことかしら?」
少女は、とぼけるが、それが嘘だと顔に出ている。
大人びているとはいえ、所詮、まだ子供だ。隠そうとしているが隠しきれていない。
「とぼけても無駄です。子供部屋を出るときにも闇魔法を使っていましたね」
「……」
だんまり、ということは、闇魔法を使ったと認めているようなものだ。
この歳で、闇魔法を自由に使いこなすとなると、この少女をこのままにして置いては危険だ。
最悪、私が泥を被ってでも王子を、そして、この国を守ならければ!
「闇魔法で王子を虜にして、この国を乗っ取るつもりですね。ですが、そうはさせません!」
「ど、どうしてそうなるの! 国を乗っ取るつもりなんてないわ!」
「イングラスの公爵令嬢の言葉など信じられません。王太子妃様は、そのことを大変に危惧されていました」
「王太子妃様が……」
そう、王太子妃様からは、少女を警戒し必要ならば処分するように言われている。
少女は公爵令嬢だ。その上、戦争で併合されていなければ、少女はイングラスの王女の地位を得ていただろう。男爵家の私とでは、その身分は雲泥の差だ。
だが、今はそれを気にする必要はない。王太子妃様から許可が出ているのだから。
それに、近衛隊長からも「王族に害をなす者は力ずくでも排除せよ。その時は、迷わずに剣を振れ」と指導された。
近衛隊に入ったばかりの私でもその覚悟はできている。人を殺す覚悟は……。
「イングラスに、この国を支配させるわけにはいきません。マリー様にはここで死んでいただきます。」
私は腰に差していたレイピアを抜いて少女に向けた。
「何で、何もしてないのに殺されなくちゃならいのよ!」
「ご覚悟を!」
うす暗い書庫の中、入口への進路を塞がれて逃げることができない少女は、少しずつ書庫の奥へと後退っていく。
私は、レイピアを構えたまま少女を追い詰める。
そして、終に少女は壁に突き当たった。
覚悟はできていたというものの、人を殺すのは初めてだ、流石に、レイピアを持つ手が震える。
私は、思い切って、目を瞑ってレイピアを壁際に追い詰めた少女目掛けて突き出した。
「やめろ!」
制止する声がかかったが、それはレイピアを突き出した後だった。
ひと思いに突き出したレイピアを咄嗟に止めることはできない。
突き出したレイピアには確かな手ごたえがあった。
「ぐうっ!」
「ぐぇっ!」
突き出した剣先から、二つのうめき声が聞こえた。
私は、恐る恐るきつく瞑っていた目を開く。
開いた目に飛び込んできたのは、レイピアに胸を貫かれて王子の姿だった。
「お、王子殿下?!」
何故王子が?
さっきの制止の声は王子のもの?
「王子殿下! 大丈夫ですか?!」
私は慌ててレイピアを引き抜いた。
「ゲホ!」
王子が大量の血を吐いて、倒れ込んだ。既に意識はないようだ。
「わ、わ、わたしは……」
私は気が動転してその場に座り込んでしまった。
「宮廷医を呼んで! ゴホッ!」
王子の陰に隠れていた少女が、宮廷医を呼ぶように叫んで血を吐いた。
どうやら、私のレイピアは、少女を庇った王子を貫いて、庇われた少女にも刺さっていたようだ。
これで、王太子妃様の憂いは晴れることだろう。
違う!
そうじゃない!
私は王子を刺したのだ!
そうだ、少女の言うように、王子を助けるために宮廷医を呼ばなければ。
しかし、私の身体は、初めて人を刺した、しかも、王子を刺したショックで思うように動かすことができない。
それどころか、声もうまく出せなかった。
私にできたのは、血まみれの王子と少女が事切れるまで、ただその場で傍観することだけであった。
(公爵令嬢、マリー視点)
「宮廷医を呼んで! ゴホッ!」
胸を刺された私は、女騎士に宮廷医を呼ぶように叫んだ。
だが、私たちを刺した女騎士は放心状態で動こうとはしない。
おまけに、叫んだ拍子に私も王子と同様に大量の血を吐いた。
刺された胸からも止めどもなく血が流れている。
私も立っていることができずに、王子に折り重なるように倒れこんだ。
このままでは時を置かずに、王子ともども、ここで死ぬことになるだろう。
なんで、こんなことになってしまったのだろう?
走馬灯のように過去を思い出す。
そうだ、私は悪役令嬢役として、スカウトされてここに来たんだ……。
だけど、サスペンスだとは聞いてないんだけど!
カチャ!
僅かな音を感じ扉の方を確認すると、監視対象の少女が子供部屋の豪華絢爛な扉を開け、こっそりと外へ出て行った。
今は丁度、王子たちのお昼寝の時間である。今出て行った少女も、王子たちと一緒にお昼寝をしていたはずだ。
いったい、いつの間に起きだしたのだろう?
普通なら、世話役の者が気付きそうなものであるが、気付いた者は私以外いないようだ。
私も、王子たちの護衛をしながら、監視対象として注意していなければ気付かなかったかもしれない。
それ程、少女の気配は希薄なものだった。
近衛隊に採用されたばかりの新人とはいえ、女騎士である私の目を惑わすとは、やはり、王太子妃が言っていたように少女は闇魔法が使えるのかもしれない。
子供だからと侮っては、痛い目をみることになりそうだ。
私は、少女に気付かれないように細心の注意を払い、後を追うことにした。
しかし、何処へ行く気だろうか?
明らかに目的の場所があり、そこへ向かっている感じだ。
少女はキョロキョロと周りに気を配りながら、王宮の廊下を迷うことなく歩いていく。
少女は王子と同じ歳ということだ。
その割には大人びていて、話も行動もとても子供のものとは思えない。
幼いころから教育を受けている王子と比べてもそうなのだから、よほど厳しい教育を受けてきたのだろう。
容姿も、体形こそ年相応だが、艶やかな黒髪と整った顔は、人を魅了するものがあり、その吸い込まれるような黒い瞳は、私でも目が離せなくなる。
「イングラスの公爵令嬢は、王子を虜にして王国を乗っ取るつもりだ」
少女に会う前にそう聞かされた時には、年端のいかない少女に何を警戒しているのかと思ったものだが……。
イングラス島は、今でこそ我がフラスコット王国の一部であるが、私の父が生まれた頃は独立した一つの国であり、お互いに侵略しようと激しい戦争状態にあった。
そのため、戦争が過去のものとなった今でも、イングラスに悪感情を持つ者は多い。
だから、その噂は、そんな悪意ある者たちの戯れ言だと思っていたのだが、実際に少女に会ってみれば、その噂は妙に納得のいくものであった。
その少女の黒い瞳は、人を引き付ける一方で、その眼光の鋭さは、気の弱い者ではとても逆らえるものではなかった。あの瞳で睨まれた時の威圧感は半端なものではない。
それに加えて、本当に闇魔法が使えるのだとしたら、王子と結婚して王国を乗っ取ろうとしている、という話しも、まったくの絵空事ではないかもしれない。
そんな危機感を持って、後を付けて行けば、少女は鍵のかかっているはずの書庫に入っていった。
たまたま鍵が掛かっていなかった?
王宮の書庫なのに、そんなことがあるだろうか?
少女は明らかにここを目指して歩いてきた。偶然のはずがない。
怪しい!!
書庫で、何をするつもりだ?
少女に気付かれないように少し時間を置いて、私も書庫に入る。
少女は、書庫の奥で何か調べ物をしているようだ。
あそこにあるのは、闇魔法の禁書ではないだろうか?
「マリー様、何をされているのですか?」
私は少女の後ろから慎重に声をかけた。
「!」
少女は、まさか誰かいるとは思っていなかったのだろう。ビクリとしてこちらを振り返えった。
「少し……、読みたい本があって……」
私に睨まれ、怯えながらも、少女は何とか言葉を紡ぎ出したようだ。
「マリー様は既に、本が読めるのですか?」
「ええ、少しですが」
「少しという割には、難しそうな本を手に取られているようですが?」
「これは、絵が綺麗だったから……」
「ほぉー。闇魔法の魔導書ですか……。やはり、闇属性をお持ちなのですね」
「……闇属性? 何のことかしら?」
少女は、とぼけるが、それが嘘だと顔に出ている。
大人びているとはいえ、所詮、まだ子供だ。隠そうとしているが隠しきれていない。
「とぼけても無駄です。子供部屋を出るときにも闇魔法を使っていましたね」
「……」
だんまり、ということは、闇魔法を使ったと認めているようなものだ。
この歳で、闇魔法を自由に使いこなすとなると、この少女をこのままにして置いては危険だ。
最悪、私が泥を被ってでも王子を、そして、この国を守ならければ!
「闇魔法で王子を虜にして、この国を乗っ取るつもりですね。ですが、そうはさせません!」
「ど、どうしてそうなるの! 国を乗っ取るつもりなんてないわ!」
「イングラスの公爵令嬢の言葉など信じられません。王太子妃様は、そのことを大変に危惧されていました」
「王太子妃様が……」
そう、王太子妃様からは、少女を警戒し必要ならば処分するように言われている。
少女は公爵令嬢だ。その上、戦争で併合されていなければ、少女はイングラスの王女の地位を得ていただろう。男爵家の私とでは、その身分は雲泥の差だ。
だが、今はそれを気にする必要はない。王太子妃様から許可が出ているのだから。
それに、近衛隊長からも「王族に害をなす者は力ずくでも排除せよ。その時は、迷わずに剣を振れ」と指導された。
近衛隊に入ったばかりの私でもその覚悟はできている。人を殺す覚悟は……。
「イングラスに、この国を支配させるわけにはいきません。マリー様にはここで死んでいただきます。」
私は腰に差していたレイピアを抜いて少女に向けた。
「何で、何もしてないのに殺されなくちゃならいのよ!」
「ご覚悟を!」
うす暗い書庫の中、入口への進路を塞がれて逃げることができない少女は、少しずつ書庫の奥へと後退っていく。
私は、レイピアを構えたまま少女を追い詰める。
そして、終に少女は壁に突き当たった。
覚悟はできていたというものの、人を殺すのは初めてだ、流石に、レイピアを持つ手が震える。
私は、思い切って、目を瞑ってレイピアを壁際に追い詰めた少女目掛けて突き出した。
「やめろ!」
制止する声がかかったが、それはレイピアを突き出した後だった。
ひと思いに突き出したレイピアを咄嗟に止めることはできない。
突き出したレイピアには確かな手ごたえがあった。
「ぐうっ!」
「ぐぇっ!」
突き出した剣先から、二つのうめき声が聞こえた。
私は、恐る恐るきつく瞑っていた目を開く。
開いた目に飛び込んできたのは、レイピアに胸を貫かれて王子の姿だった。
「お、王子殿下?!」
何故王子が?
さっきの制止の声は王子のもの?
「王子殿下! 大丈夫ですか?!」
私は慌ててレイピアを引き抜いた。
「ゲホ!」
王子が大量の血を吐いて、倒れ込んだ。既に意識はないようだ。
「わ、わ、わたしは……」
私は気が動転してその場に座り込んでしまった。
「宮廷医を呼んで! ゴホッ!」
王子の陰に隠れていた少女が、宮廷医を呼ぶように叫んで血を吐いた。
どうやら、私のレイピアは、少女を庇った王子を貫いて、庇われた少女にも刺さっていたようだ。
これで、王太子妃様の憂いは晴れることだろう。
違う!
そうじゃない!
私は王子を刺したのだ!
そうだ、少女の言うように、王子を助けるために宮廷医を呼ばなければ。
しかし、私の身体は、初めて人を刺した、しかも、王子を刺したショックで思うように動かすことができない。
それどころか、声もうまく出せなかった。
私にできたのは、血まみれの王子と少女が事切れるまで、ただその場で傍観することだけであった。
(公爵令嬢、マリー視点)
「宮廷医を呼んで! ゴホッ!」
胸を刺された私は、女騎士に宮廷医を呼ぶように叫んだ。
だが、私たちを刺した女騎士は放心状態で動こうとはしない。
おまけに、叫んだ拍子に私も王子と同様に大量の血を吐いた。
刺された胸からも止めどもなく血が流れている。
私も立っていることができずに、王子に折り重なるように倒れこんだ。
このままでは時を置かずに、王子ともども、ここで死ぬことになるだろう。
なんで、こんなことになってしまったのだろう?
走馬灯のように過去を思い出す。
そうだ、私は悪役令嬢役として、スカウトされてここに来たんだ……。
だけど、サスペンスだとは聞いてないんだけど!
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