17 / 23
第17話 E2坑道
しおりを挟む
「マレック様、Eランクの坑道にいるのはどんな魔獣なのですか?」
E2坑道の入り口のブースで、手荷物のチェックを受けながらミキが尋ねてきた。
「ワームだね」
「ワーム?」
ミキはワームを知らないようだ。ボクは更に詳しく説明を加える。
「ミミズの大きな奴だけど、全身硬い鱗に覆われていて、口には鋭い牙のような歯が幾つも生えているんだ」
「ミミズですか……」
ミキが身震いしているが、ミミズは苦手だろうか?
そうなると、ここでもポーターを雇った方がいいだろうか……。
E2坑道の入り口付近には、F3坑道のように子供のポーターを見かけることはなかった。
その代わり、ブースの壁にポーターを紹介する紙が貼られている。
そのほとんどがガタイのいい大人であったが、一人だけ女の子が混じっているので目を引いた。
どこかで見たことあると思ったらククリの紹介だった。この写真、修正しすぎだろう。
専属のポーターを持たない者は、その紙を見て事前に予約するのが普通のようだ。
Eランクより上の魔獣は、魔石だけ持ってくればいいため、日帰りならポーターがいなくても何とかなる。だが、泊まり込みで行く場合には荷物が多くなるので、ポーターが必要になってくる。
それともう一つ、ポーターがいた方がいい理由があるのだが……、それは、倒した魔獣から魔石を取り出す作業をポーターに任せる場合だ。
魔獣から魔石を取り出すには慣れが必要で、坑道の中で行うとなると、他の魔獣から襲われる可能性もあるので警戒も必要になる。そのため、魔石の取り出しをポーターに頼むハンターも少なくない。
もちろん、ハンターが自分でやることの方が多いのだが、ボクにそれができるだろうか? ミキに任せる? ミキには余計にできない気がする。
とにかく一度やってみないことにはわからない。何事も挑戦だ。
ブースでのチェックが済んだので坑道に入る。
今回も意識を集中して魔獣のマナを探る。
今回のワームはアングラウサギより大型で、魔石の大きさも大きい。体内に宿しているマナも多いようですぐに見つかった。
「ミキ、こっちだ」
「魔法というのは本当に便利ですね」
確かに、マナを感知できるようになるだけでも狩が格段に効率的になる。
これを広められればいいのだが、習得に何年もかかるからな……。
信じて鍛錬を続けられる者がどれほどいるだろうか?
ボクはマナを感じられる方向にどんどん進んでいく。
そして、坑道が広くなった所にいた。ワームだ。
「ミキは下がって!」
と、すぐ後ろを付いてきたはずのミキに声をかけたが、ミキは既に遠く離れた坑道の陰に隠れていた。
「マレック様、さっさとやっちゃってくださーい」
うん、まあ、安全に避難してくれて安心だね。
凶暴だが、さほど危険がなかったアングラウサギに比べると、ワームは齧られれば腕くらい簡単に持っていかれるし、頭から齧られれば当然生きてはいない。
巻き付かれて締められれば、肋骨が折れてしまうだろう。
ただ、動作は速くないので、慎重に当たれば攻撃されても避けるのは難しくない。
ボクは慎重に近付いてその胴体に剣を突き立てる。
しかし、ボクの持っている安い剣では鱗を貫くことができなかった。
「噂どおり随分と硬いな」
突かれて痛かったのだろう、体を捻って攻撃してくる。
ボクは慌てて距離を取る。
「同じ所を何度も突き刺せば刺さると思うが、その前に刃こぼれしそうだな」
なにぶん安売りの量産された剣だ。ワームを狩るのに使い捨てられていると聞く。
だが、ボクには秘策があった。
「さて、これで刺さってくれよ」
ボクは剣にマナを流し込む。付与魔法というものだ。
マナを触れたものに流すのは既にヨナのお母さんで実践済みだ。
人の場合マナにより身体強化されるが、剣にマナを流し込めば剣の切れ味と耐久性が向上する。
ボクは再びワームに近付くと付与魔法をかけた剣で突き刺した。
先程は跳ね返された剣であったが、今度は見事に突き刺さった。
ワームは先ほどより激しく体をくねらせて襲ってくる。
ボクは慌てて剣を引き抜いて再び距離を取る。
距離を取り、様子を見ていたが一度突き刺されたくらいでは死なないようだ。
それならばと、今度は付与魔法をかけて両断を試みる。
右上段から左下段に剣を振り切ると見事にワームが両断された。
それでも、すぐ死ぬことはなく、暫く体をくねらせていたが、やがて全く動かなくなった。
「ミキ、もう大丈夫だぞ」
「本当ですか……」
ミキが恐る恐る近付いて来たが、ある場所から動こうとしなくなった。
「マレック様、私は周囲の警戒にあたりますから、魔石の取り出しをお願いします」
そう言って、ミキはその場所で槍を構えた。
まあ、そうだよね。ミキには無理だと思っていたが、案の定だった。
ボクがやるしかないか……。
それにしても、あの槍、これを見越して買ったのだろうか?
ベタベタ、ドロドロになりながらなんとか魔石を回収する。
ハッキリ言って戦闘より大変だった。
やはりポーターをミキの他に雇うべきだろうか。
そうなると、ミキは連れて来なくてもよくなるのだが……。
ホテルに帰ってから相談かな。
魔石の取り出しに疲れてしまい、今日はこれで引き上げることにした。
ワームの魔石は一つ二万リングになったが、今までのアングラウサギの方がサクサク狩れてお金になった。ただ、アングラウサギには制限があるから、数が狩れるようになればワームの方がいいだろう。
「あ、マレックじゃないか。今日はこっちに来たんだ」
「ククリ」
「どうしたんだ、そんなにベタベタになって、ワームに苦戦したか?」
「いや、倒すには問題なかったんだが……」
「ああ、魔石の取り出しに苦戦したのか。解体のできるポーターを雇った方がいいんじゃないか?」
「どうしようか考えてる」
「あたしならお安くしとくぞ」
「ククリは解体もできるのか?」
「任せろ。バッチリだ」
「なら、明日からお願いできるか?」
「わかった。詳しい話は飲みながら詰めようぜ」
「ククリは飲んだら寝るだろ」
「あの時はたまたまだよ」
「また、寝ちゃって運ぶことにならないか?」
「それなら、ホテルの部屋で飲みましょう。それなら寝ちゃっても問題ありませんし、ホテルのお酒は高級ですよ」
「高級酒! ぜひそうしよう」
「ホテルの部屋か……」
「どのみちマレック様は着替えないわけにはいきませんし」
「まあ、そうだね」
「やったー! 高級酒、高級酒」
「飲み過ぎるなよ。仕事の打ち合わせなんだから」
ククリも合流し、三人でホテルの部屋に帰ることになった。
E2坑道の入り口のブースで、手荷物のチェックを受けながらミキが尋ねてきた。
「ワームだね」
「ワーム?」
ミキはワームを知らないようだ。ボクは更に詳しく説明を加える。
「ミミズの大きな奴だけど、全身硬い鱗に覆われていて、口には鋭い牙のような歯が幾つも生えているんだ」
「ミミズですか……」
ミキが身震いしているが、ミミズは苦手だろうか?
そうなると、ここでもポーターを雇った方がいいだろうか……。
E2坑道の入り口付近には、F3坑道のように子供のポーターを見かけることはなかった。
その代わり、ブースの壁にポーターを紹介する紙が貼られている。
そのほとんどがガタイのいい大人であったが、一人だけ女の子が混じっているので目を引いた。
どこかで見たことあると思ったらククリの紹介だった。この写真、修正しすぎだろう。
専属のポーターを持たない者は、その紙を見て事前に予約するのが普通のようだ。
Eランクより上の魔獣は、魔石だけ持ってくればいいため、日帰りならポーターがいなくても何とかなる。だが、泊まり込みで行く場合には荷物が多くなるので、ポーターが必要になってくる。
それともう一つ、ポーターがいた方がいい理由があるのだが……、それは、倒した魔獣から魔石を取り出す作業をポーターに任せる場合だ。
魔獣から魔石を取り出すには慣れが必要で、坑道の中で行うとなると、他の魔獣から襲われる可能性もあるので警戒も必要になる。そのため、魔石の取り出しをポーターに頼むハンターも少なくない。
もちろん、ハンターが自分でやることの方が多いのだが、ボクにそれができるだろうか? ミキに任せる? ミキには余計にできない気がする。
とにかく一度やってみないことにはわからない。何事も挑戦だ。
ブースでのチェックが済んだので坑道に入る。
今回も意識を集中して魔獣のマナを探る。
今回のワームはアングラウサギより大型で、魔石の大きさも大きい。体内に宿しているマナも多いようですぐに見つかった。
「ミキ、こっちだ」
「魔法というのは本当に便利ですね」
確かに、マナを感知できるようになるだけでも狩が格段に効率的になる。
これを広められればいいのだが、習得に何年もかかるからな……。
信じて鍛錬を続けられる者がどれほどいるだろうか?
ボクはマナを感じられる方向にどんどん進んでいく。
そして、坑道が広くなった所にいた。ワームだ。
「ミキは下がって!」
と、すぐ後ろを付いてきたはずのミキに声をかけたが、ミキは既に遠く離れた坑道の陰に隠れていた。
「マレック様、さっさとやっちゃってくださーい」
うん、まあ、安全に避難してくれて安心だね。
凶暴だが、さほど危険がなかったアングラウサギに比べると、ワームは齧られれば腕くらい簡単に持っていかれるし、頭から齧られれば当然生きてはいない。
巻き付かれて締められれば、肋骨が折れてしまうだろう。
ただ、動作は速くないので、慎重に当たれば攻撃されても避けるのは難しくない。
ボクは慎重に近付いてその胴体に剣を突き立てる。
しかし、ボクの持っている安い剣では鱗を貫くことができなかった。
「噂どおり随分と硬いな」
突かれて痛かったのだろう、体を捻って攻撃してくる。
ボクは慌てて距離を取る。
「同じ所を何度も突き刺せば刺さると思うが、その前に刃こぼれしそうだな」
なにぶん安売りの量産された剣だ。ワームを狩るのに使い捨てられていると聞く。
だが、ボクには秘策があった。
「さて、これで刺さってくれよ」
ボクは剣にマナを流し込む。付与魔法というものだ。
マナを触れたものに流すのは既にヨナのお母さんで実践済みだ。
人の場合マナにより身体強化されるが、剣にマナを流し込めば剣の切れ味と耐久性が向上する。
ボクは再びワームに近付くと付与魔法をかけた剣で突き刺した。
先程は跳ね返された剣であったが、今度は見事に突き刺さった。
ワームは先ほどより激しく体をくねらせて襲ってくる。
ボクは慌てて剣を引き抜いて再び距離を取る。
距離を取り、様子を見ていたが一度突き刺されたくらいでは死なないようだ。
それならばと、今度は付与魔法をかけて両断を試みる。
右上段から左下段に剣を振り切ると見事にワームが両断された。
それでも、すぐ死ぬことはなく、暫く体をくねらせていたが、やがて全く動かなくなった。
「ミキ、もう大丈夫だぞ」
「本当ですか……」
ミキが恐る恐る近付いて来たが、ある場所から動こうとしなくなった。
「マレック様、私は周囲の警戒にあたりますから、魔石の取り出しをお願いします」
そう言って、ミキはその場所で槍を構えた。
まあ、そうだよね。ミキには無理だと思っていたが、案の定だった。
ボクがやるしかないか……。
それにしても、あの槍、これを見越して買ったのだろうか?
ベタベタ、ドロドロになりながらなんとか魔石を回収する。
ハッキリ言って戦闘より大変だった。
やはりポーターをミキの他に雇うべきだろうか。
そうなると、ミキは連れて来なくてもよくなるのだが……。
ホテルに帰ってから相談かな。
魔石の取り出しに疲れてしまい、今日はこれで引き上げることにした。
ワームの魔石は一つ二万リングになったが、今までのアングラウサギの方がサクサク狩れてお金になった。ただ、アングラウサギには制限があるから、数が狩れるようになればワームの方がいいだろう。
「あ、マレックじゃないか。今日はこっちに来たんだ」
「ククリ」
「どうしたんだ、そんなにベタベタになって、ワームに苦戦したか?」
「いや、倒すには問題なかったんだが……」
「ああ、魔石の取り出しに苦戦したのか。解体のできるポーターを雇った方がいいんじゃないか?」
「どうしようか考えてる」
「あたしならお安くしとくぞ」
「ククリは解体もできるのか?」
「任せろ。バッチリだ」
「なら、明日からお願いできるか?」
「わかった。詳しい話は飲みながら詰めようぜ」
「ククリは飲んだら寝るだろ」
「あの時はたまたまだよ」
「また、寝ちゃって運ぶことにならないか?」
「それなら、ホテルの部屋で飲みましょう。それなら寝ちゃっても問題ありませんし、ホテルのお酒は高級ですよ」
「高級酒! ぜひそうしよう」
「ホテルの部屋か……」
「どのみちマレック様は着替えないわけにはいきませんし」
「まあ、そうだね」
「やったー! 高級酒、高級酒」
「飲み過ぎるなよ。仕事の打ち合わせなんだから」
ククリも合流し、三人でホテルの部屋に帰ることになった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?


スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!
クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』
自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。
最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる