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第16話 被害者
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途中、変な奴に絡まれたが、今日は街でお菓子を買って、お昼前にはヨナちゃんの家に着く。
少しは症状が改善されていればいいのだが。
「お母さんのただいま」
「お帰りヨナ」
「また、お兄ちゃんが来てくれたよ」
「お邪魔します。お加減はいかがですか」
「度々来ていただいてすみません。昨日に比べると嘘のように調子がいいのですが」
「そうですか、それはよかったです。ちょっと失礼しますね」
今日も昨日と同様に額を触り身体強化魔法をかける。この調子で、病気が治ってくれるといいのだが。
そう、暢気に考えていたら事態が急変した。
「やっぱり、あなた魔術師ですね!」
ヨナちゃんのお母さんは額に当てられた手を払い除け、ボクのことを睨みつけた。
「いえ、ボクは魔術師じゃないです」
「嘘おっしゃい! 昨日あなたに触られてから調子がいいのよ。今だって、凄く元気になった気がするわ」
どうやら、効果がありすぎて魔法をかけたことがわかってしまったらしい。
魔法を黙ってかけたことはよくなかった、誤った方がいいだろう。
「すみません。勝手に魔法をかけました。でも、病気が早く治るようにかけたもので悪意はありません」
「魔術師の言うことが信じられるわけないでしょ!」
「お母さん、なにを怒っているの?」
「ヨナ、魔術師というのはね、最初優しい顔をして親切そうに近付いてくるけど、最後には全てを奪っていくのよ。お陰であなたのお父さんも死ぬことになったのよ」
「お母さん……」
母親の言葉に、ヨナちゃんはどうしたらいいかわからず困ってしまった。
「旦那だけでは飽き足らず、今度はヨナまで奪うつもりかい! ヨナは渡さないよ。出て行って二度とヨナには近付かないでおくれ」
「すみませんでした。もう、ヨナちゃんには近付かないようにします」
「お兄ちゃん……」
ボクは、申し訳ないような、悔しいような、情けないような、複雑な心境に陥り、涙を堪えてヨナちゃんの家を出た。
「マレック様のせいではありません」
「ミキ、いいんだ。多分、ヨナちゃん一家は魔術師に騙されたことがあるんだろう。ヨナちゃんのお父さんが亡くなっているのに、勘当されたから関係ないとは言えないよ」
家を出るとミキが慰めてくれるが、簡単には立ち直ることはできない。
「それでも、マレック様のせいではありません」
路上だというのに、ミキが強く抱きしめてくれた。
その後は、ホテルの部屋に戻ってふて寝である。
お昼は食べる気がしなかったが、ミキがサンドイッチを用意してくれたので、それを無理矢理に胃に詰め込んだ。
昨日はやる気満々でマナの鍛錬をしたが、今日は全くやる気になれない。
今まで漠然と人を騙している魔術師に嫌悪感があり、そんな者にはなりたくなく家を追い出されるように行動してきたが、そこに被害者がいることは全く考えてこなかった。まして、それによって亡くなった人がいるなんて……。
金銭的な問題なら補償することができるかもしれないが、亡くなった人を生き帰らすことはできない。
それに、補償するとしても、その相手は一人や二人ではないだろう。
ボクがどんなに頑張っても、その全てに補償金を払うことができるとは思えない。
なら、せめて、今後は同じような被害者が出ないようにするべきなのだろうが、それすらボクにはできないだろ。
例え魔術が単なる手品だと暴露したとしても、アートランク伯爵家にもみ消されてしまうだけだろう。
何かを成そうとしても、今のボクには、お金も力もない。
いっそ、ミキの言ったとおり、自分の責任じゃないと割り切ってしまえればいいのだろうが、そこまで非情にもなれない。
それに、魔術を拒否しているのに、それと区別のつかない魔法は使っている。魔法のことが広がれば、区別のつかない魔術の真実味が増し、被害が増えるかもしれない。
それなのに、ボクは魔法を捨てられそうにない。何とも自分勝手な人間だ。
結局、ボクは何もできない、ダメダメな人間である。
「マレック様、考え過ぎてはいけません」
ミキがまたボクを抱きしめてくれる。というか、なんでミキは裸なんだ!
「マレック様、何も考えずに私と気持ちよくなりましょう」
いつものアロマキャンドルの匂いがする。
この現実とは思えない状況、ボクは、いつのまにか寝ていて夢を見ているのだろう。
なら、この気持ちの吐け口をミキに求めてもいいはずだ。
ボクは何度も何度も、その気持ちを吐き出した。ミキはその全てをその身体で受け止めてくれた。
そう、何度も何度も、ボクの中が全て空っぽになるまで……。
朝、目覚めるとボクは一人で寝ていた。
昨日のことが現実なのか夢なのかハッキリしない。ミキに聞こうかとも思ったが、それも恥ずかしい。
やはり、アロマキャンドルのせいなのだろうか? 気だるい体に鞭打ってベッドを出て支度を始める。
あれこれ考えていても何も進まない。とりあえず今は力を付けてお金を貯めよう。
そのためにも、今日は予定通りEランクの坑道に行くことにする。
「マレック様、お目覚めでしたか」
メイド服を着たミキが寝室の扉を開けて顔を覗かせる。
「おはよう、ミキ」
「朝食を召し上がりますか?」
「ああ、食べてから坑道に行こう」
「無理をされずに、今日はお休みされてはいかがですか?」
「いや、大丈夫だ。昨日は心配かけてすまなかった」
「いえ、私には何もできませんが」
「そんなことはないよ。ミキはボクの心の支えだ」
「そう言っていただけて嬉しいです……」
ミキが少し恥ずかしそうに俯いた。
その後、用意してもらった朝食を平らげてからボクたちはE2坑道に向かった。
少しは症状が改善されていればいいのだが。
「お母さんのただいま」
「お帰りヨナ」
「また、お兄ちゃんが来てくれたよ」
「お邪魔します。お加減はいかがですか」
「度々来ていただいてすみません。昨日に比べると嘘のように調子がいいのですが」
「そうですか、それはよかったです。ちょっと失礼しますね」
今日も昨日と同様に額を触り身体強化魔法をかける。この調子で、病気が治ってくれるといいのだが。
そう、暢気に考えていたら事態が急変した。
「やっぱり、あなた魔術師ですね!」
ヨナちゃんのお母さんは額に当てられた手を払い除け、ボクのことを睨みつけた。
「いえ、ボクは魔術師じゃないです」
「嘘おっしゃい! 昨日あなたに触られてから調子がいいのよ。今だって、凄く元気になった気がするわ」
どうやら、効果がありすぎて魔法をかけたことがわかってしまったらしい。
魔法を黙ってかけたことはよくなかった、誤った方がいいだろう。
「すみません。勝手に魔法をかけました。でも、病気が早く治るようにかけたもので悪意はありません」
「魔術師の言うことが信じられるわけないでしょ!」
「お母さん、なにを怒っているの?」
「ヨナ、魔術師というのはね、最初優しい顔をして親切そうに近付いてくるけど、最後には全てを奪っていくのよ。お陰であなたのお父さんも死ぬことになったのよ」
「お母さん……」
母親の言葉に、ヨナちゃんはどうしたらいいかわからず困ってしまった。
「旦那だけでは飽き足らず、今度はヨナまで奪うつもりかい! ヨナは渡さないよ。出て行って二度とヨナには近付かないでおくれ」
「すみませんでした。もう、ヨナちゃんには近付かないようにします」
「お兄ちゃん……」
ボクは、申し訳ないような、悔しいような、情けないような、複雑な心境に陥り、涙を堪えてヨナちゃんの家を出た。
「マレック様のせいではありません」
「ミキ、いいんだ。多分、ヨナちゃん一家は魔術師に騙されたことがあるんだろう。ヨナちゃんのお父さんが亡くなっているのに、勘当されたから関係ないとは言えないよ」
家を出るとミキが慰めてくれるが、簡単には立ち直ることはできない。
「それでも、マレック様のせいではありません」
路上だというのに、ミキが強く抱きしめてくれた。
その後は、ホテルの部屋に戻ってふて寝である。
お昼は食べる気がしなかったが、ミキがサンドイッチを用意してくれたので、それを無理矢理に胃に詰め込んだ。
昨日はやる気満々でマナの鍛錬をしたが、今日は全くやる気になれない。
今まで漠然と人を騙している魔術師に嫌悪感があり、そんな者にはなりたくなく家を追い出されるように行動してきたが、そこに被害者がいることは全く考えてこなかった。まして、それによって亡くなった人がいるなんて……。
金銭的な問題なら補償することができるかもしれないが、亡くなった人を生き帰らすことはできない。
それに、補償するとしても、その相手は一人や二人ではないだろう。
ボクがどんなに頑張っても、その全てに補償金を払うことができるとは思えない。
なら、せめて、今後は同じような被害者が出ないようにするべきなのだろうが、それすらボクにはできないだろ。
例え魔術が単なる手品だと暴露したとしても、アートランク伯爵家にもみ消されてしまうだけだろう。
何かを成そうとしても、今のボクには、お金も力もない。
いっそ、ミキの言ったとおり、自分の責任じゃないと割り切ってしまえればいいのだろうが、そこまで非情にもなれない。
それに、魔術を拒否しているのに、それと区別のつかない魔法は使っている。魔法のことが広がれば、区別のつかない魔術の真実味が増し、被害が増えるかもしれない。
それなのに、ボクは魔法を捨てられそうにない。何とも自分勝手な人間だ。
結局、ボクは何もできない、ダメダメな人間である。
「マレック様、考え過ぎてはいけません」
ミキがまたボクを抱きしめてくれる。というか、なんでミキは裸なんだ!
「マレック様、何も考えずに私と気持ちよくなりましょう」
いつものアロマキャンドルの匂いがする。
この現実とは思えない状況、ボクは、いつのまにか寝ていて夢を見ているのだろう。
なら、この気持ちの吐け口をミキに求めてもいいはずだ。
ボクは何度も何度も、その気持ちを吐き出した。ミキはその全てをその身体で受け止めてくれた。
そう、何度も何度も、ボクの中が全て空っぽになるまで……。
朝、目覚めるとボクは一人で寝ていた。
昨日のことが現実なのか夢なのかハッキリしない。ミキに聞こうかとも思ったが、それも恥ずかしい。
やはり、アロマキャンドルのせいなのだろうか? 気だるい体に鞭打ってベッドを出て支度を始める。
あれこれ考えていても何も進まない。とりあえず今は力を付けてお金を貯めよう。
そのためにも、今日は予定通りEランクの坑道に行くことにする。
「マレック様、お目覚めでしたか」
メイド服を着たミキが寝室の扉を開けて顔を覗かせる。
「おはよう、ミキ」
「朝食を召し上がりますか?」
「ああ、食べてから坑道に行こう」
「無理をされずに、今日はお休みされてはいかがですか?」
「いや、大丈夫だ。昨日は心配かけてすまなかった」
「いえ、私には何もできませんが」
「そんなことはないよ。ミキはボクの心の支えだ」
「そう言っていただけて嬉しいです……」
ミキが少し恥ずかしそうに俯いた。
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