上 下
13 / 23

第13話 ヨナ

しおりを挟む
 相変わらず、朝起きた時に疲れが残っているが、今までこんなに体を動かしたことはなかったので仕方がないのかもしれない。それとも二日酔いだろうか。
 それにしても、昨夜も夢を見たような気がする。ククリのお尻が出てきたような気がするが、内容までは覚えていない。

 昨日、夕食を食べ損ねたので、ガッツリ朝食を食べミキと坑道に向かう。

 もうすぐ坑道の入り口という所で、ククリを見つけた。ここに来るなら一緒に来ればよかったのに。

「おはようククリ、大丈夫だったか?」
「マレック! 心配してくれてありがとう、足腰が立たなくなったけど、大丈夫だ」

「無理しないで休んだ方がいいんじゃないか?」
「あたしはそうするつもり、ただ、この子が……」
 ククリは何か困っているようだ。この子と言った時に、そばに小さな女の子がいることに気がついた。

「そうだ。マレック、また、ポーターを雇ってくれない?」
「休むんじゃなかったのか」

「あたしでなく、この子なんだけど」
 ククリはそばにいた女の子を前に押し出した。

「ヨナです。よろしくお願いします」
「ヨナはモノホンの幼女だから襲うなよ」
「いや、偽者でも襲わないよ」

「私のことは襲ったくせに……」
 おぶったけど、襲ってはないよな?

「えー。モノホンって、それにしたって小さすぎない?」
「少し訳ありで、ヨナのお母さんが病気中なんだ」
 訳ありということは、母子家庭なのかな? それで母親が病気になって、この子が稼がなければならないということか。

「でもなー」
「マレックなら安全に任せられるし、それに昨日、お尻を痛くしてまでサービスしてあげただろ」

「まあ、確かに」
「ちょっと待ちなさい! こんな小さな子に、お尻が痛くなるサービスって、あなた、何をさせたの!」
 ボクとククリの会話に割って入ってきた者がいた。アリサである。
 彼女たちも昨日に引き続きこの坑道にきたのだろう。

「アリサ、レナさん、おはよう」
「おはようじゃないわよ」
「おはようございます、マレック様」

「別にそんな酷いことしてないぞ。それにククリはもう、大人だし」
「そう、お尻が痛くなるサービスさせられて、無理矢理、大人の階段を登らされてしまったのね。なんて鬼畜な」

「お兄ちゃん、このお姉ちゃん何を言っているの? ヨナわかんない」
「ボクもよくわかんないな」
「なっ! 今度はその幼女に手を出す気なのね」

「いや、手を出す気はないから」
「お兄ちゃん、ヨナのこと買ってくれないの?」
「な、な、な! お巡りさん、ここに犯罪者がモゴモゴ」
 ボクは咄嗟にアリサの口を塞いだ。

「ちょっとアリサ、誤解だから、大声を上げるのやめてよ」
「ヨナ、それを言うなら、買ってでなく、雇ってだぞ」
「あ、そうだった。お兄ちゃんヨナのこと雇ってください」

 ヨナちゃんに可愛くお願いされて断ることができる人は、この世にいないだろう。
「わかった、雇ってあげるよ」
「わーい! ありがとう、お兄ちゃん」
「モゴモゴ」

 アリサが何か言いたいようだが、シスコンと罵られても、甘んじて受け入れることにしよう。

 今日も入り口で一悶着あったが、坑道に入った後は極めて順調だ。
 マナ感知でアングラウサギがいる場所がわかるボクは、次々にそれらを狩っていく。

「スゴい、スゴい! お兄ちゃん、どれも一撃だね」
「まあ、ボクにかかればアングラウサギなんてこんなもんさ」

「これでもう六トウだから、もう帰れるの?」
「そうだよ。ヨナちゃんはお母さんのことが心配なのかな?」

「うん」
「そうか、なら急いで帰ろうな」

「やったー」
 ヨナちゃんは跳び上がって喜んでいる。本当なら、友達と跳びはねて遊んでいる歳だろうに、働かなければならないなんて、この子のために何かできないだろうか?

「ヨナちゃん、ボクたちもお母さんのお見舞いに行ってもいいかな?」
「お兄ちゃんが家に来るの?」

「ダメかな?」
「いいよ」

「それじゃあお邪魔させてもらうね」
 ヨナちゃんにとって一番いいのは、お母さんが早く元気になることだろう。
 そのために、ボクは一つ試してみたいことがあった。
 それは、身体強化魔法をかければ病気が早く治るのではないかというものだった。

 幸い、ここ数日でマナを操作する能力が上がっている。今なら、他人に身体強化魔法をかけることもできるだろう。
 体が強化されれば、病気への抵抗力も上がるのではないだろうか?

 すぐに治ってしまうということはないだろうが、毎日かければ、それだけ病気が早く治るのではないかと思う。

 坑道を出て、街に戻りお見舞いに果物を買ってからヨナちゃんの家に行く。

 ヨナちゃんの家は平家の集合住宅の一部屋だった。

「お母さんただいま」
「ヨナかい。随分と早かったね」

「うん。お兄ちゃんがパパッと片付けちゃったから」
「そうなのかい」

「それで、そのお兄ちゃんがお見舞いに来てくれたの」
「え?」
「お邪魔します。ヨナちゃんにポーターをしてもらったマレックといいます」

「ヨナが何か問題でも起こしましたか!」
「いえ、ヨナちゃんが頑張ってくれたので、お礼も兼ねてお見舞いに伺っただけですよ」

「そうですか、わざわざすみません」
「これ、果物ですけど、後でヨナちゃんと食べてください」

「すみません、お茶も出さないで」
「あ、病気なのですから、無理をなさらないでください。それで、お加減はいかがですか」

「まだ少し熱があって、暫くは仕事ができそうにありません」
「そうですか。ちょっと失礼」

 ボクは熱を測るふりをして、ヨナちゃんのお母さんの額に手を当てると身体強化魔法をかけた。

「確かにまだ熱があるようですね」
「は、はい」
 ボクの行動に戸惑っているようだが、何をしたかまではわからないだろう。
 説明してからかけるべきかとも思ったが、効果があるかわからない。下手に期待を持たせてはいけないし、説明しても胡散臭くて納得してもらえないだろう。

「それでは長居してもよくないでしょうから、ボクらはこれで」
「えー。もう帰っちゃうの?」
 帰ろうとしたらヨナちゃんに引き止められた。

「お母さんが疲れちゃうといけないからね」
「うーん」

「明日も坑道に行くから、よかったらまたポーターをしてね」
「わかった。また明日」

「それじゃあね」
「わざわざ、すみませんでした」

 上手く効果があればいいが、また明日も確認に来ることにしよう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...