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第10話 ポーターの女の子
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今日から坑道に行こうと思っていたのに、目が覚めたのは既に九時近かった。
昨夜もアロマキャンドルの影響か、それともミキと一緒に寝たせいか、ミキと何度も交わる夢を見た。
二人で溶け合って一つになるようで、すごく気持ちがいい夢だった。
だというのに、なぜだか目覚めは良くなく、起きた後も気だるさが残っている。
もしかすると、アロマキャンドルに問題があるのではないだろうか? 何せ兄が開発した物だから信用が置けない。
だが、ミキにはちゃんと効果があるようで、朝から元気で肌艶も良い。
まあ、体に不調があるほどではないので気にしないでおこう。ただ単に、枕が変わって寝付けないだけかもしれないし。
「ミキ、遅くなったけど、今から坑道に向かおうと思うんだけど」
「わかりました。支度をしますね。ところで、どの坑道に向かわれるのですか?」
「もちろん、初心者用のFランク坑道だけど、今はえーとF3坑道が開放されているみたいだから、そこだね」
ボクは昨日ギルドでもらった予定表を確認してミキに答えた。
「Fランクの坑道だと、どんな魔獣がいるのですか?」
「アングラウサギだね」
坑道は中に放たれている魔獣の種類によってランク分けされている。
アングラウサギならF、モグラオオカミならEとかだ。
「ウサギですか、可愛いですよね」
「ウサギといっても魔獣だからね。侮ったら痛い目を見ることになるよ」
「そうですね。気をつけます」
ミキが真剣な顔をしたが、むしろ、ポーターであるミキに危険が及ばないように、ハンターであるボクの方が気を引き締めてかからないといけない。
二人で準備を済ませてF3坑道に向かうのだが、なぜか周りからの視線を集めている。
「ミキ、やっぱり坑道に入るのにメイド服は変なんじゃないか?」
「そう言われましても、着慣れたこの服が一番動きやすいですし、汚れ難いんですよ」
「まあ、そういうなら仕方ないけど……」
まあ、ポーターだから戦うわけではない。荷物持ちならメイド服でも大丈夫だろう。
「それより、坑道の入り口に近付いたら子供を見かけるようになりましたが、何をしているのでしょうね」
「あれは多分臨時のポーターだな」
「そうなのですか、あんな小さい子もポーターをやるんですね」
坑道の中は狭いところもあるので、子供の方が重宝される場合もある。それに、Fランク坑道のアングラウサギには少し特殊な事情があった。
普通、魔獣を狩った場合、体内の魔石だけ取り出して他はその場に廃棄するのだが、アングラウサギの場合、肉が食用になるので狩ったらそのまま持ち帰ることになっている。
魔石だけ持ち帰ればいい場合に比べると当然荷物が多くなり、その分ポーターが必要になるのだが、それ以上に小さな子供でもポーターができるわけがある。
それは、アングラウサギの場合、一人当たり狩っていい数に、一日二トウ、一週間で六トウまでの制限があるからだ。
それにはポーターも頭数に入っているため、荷物をたいして持てない子供でも頭数として必要とされることになる。
ただ、ポーターをたくさん連れて行けば、たくさん狩ることができるが、ポーターもただではない。思ったように狩れなければ、ポーターを連れて行った分損をすることになるから、見極めが肝心だ。
「お兄さん! 私を雇わない? 前金三千、一トウ当たり一千でいいわよ」
ボクたちが子供の方を見ているのに気づいた女の子が駆け寄ってきた。
アングラウサギは、一トウ当たり一万リングが相場らしいから、二トウで二万リング、ポーターに払うのが合計で五千リングだから、差し引き一万五千リング稼げることになる。
もちろん、それだけ狩れればだが。
「いや、見てのとおり、ポーターは間に合っている」
「メイドのお姉さんはポーターだったの。でも、お兄さん、強そうだし、アングラウサギなら六トウくらい簡単に狩っちゃうでしょう」
お世辞にもボクは強そうに見えないと思うのだが、売り込みの決まり文句なのだろう。
「どうかな、ボクは初めてだから」
「初めてなの? なら、尚更慣れてるあたしを雇うべきだと思うな」
それは確かに一理ある。ボクもミキも、魔獣を狩るのも坑道に入るのも始めてだ。
「じゃあ、お願いしようかな」
「毎度あり。じゃあ前金三千リングね」
女の子はボクの目の前に腕を出してきた。その腕には、腕輪が嵌められている。
ああ、腕輪型リングか。
ボクはその腕輪に指輪を近付けた。
リンゴンと音がして、これで、支払いが完了したようである。
リングに感心していると、背後から声をかけられた。
「あら、これから入るの? 重役出勤だこと」
「アリサ!」
声をかけてきたのはアリサだった。坑道から戻ってきたところなのだろう。メイド服姿のレナさんも一緒だ。
どうも、メイドは坑道に入る場合もメイド服が普通らしい。
「その女の子どうしたの? まさか、買ったの! ロリコンなの!」
アリサの言葉を聞いて、女の子がサッとボクから距離を取った。
「変なこと言わないでくれるかな。ポーターとして雇っただけだよ」
「ポーターねェー。今から行ってそれだけ狩れるのかしらね」
「初めてだからわからないけど、初めてだからこそ雇ったんだ」
「初めて、初めてって……。まあ、いいけど、勝手にすれば」
アリサは何故か恥ずかしそうに拗ねた感じで去っていった。
もしかして、初めての狩でうまくいかなかったのだろうか?
アリサが去り際に「襲われて初めてを奪われないように気をつけなさい」と、女の子に言っていたが、お陰で、女の子がボクを見る目は、変質者を見る目になっていた。
それでもキャンセルすることはなく、ボクたちを先導してくれるのは、とても責任感が強い子なのだろう。
坑道の入り口にはブースが作られていて、そこで登録カードと荷物のチェックを受けてから坑道に入るようになっていた。
「なんだ、ククリ。今日は上手く騙くらかして、お情けに有り付けたのか?」
「失礼なこと言わないで、別に騙してないから」
持ち込む荷物のチェックをしていた係員とポータの女の子は知り合いのようだ。まあ、長くやっていれば当然だろう。
そういえば、女の子はククリというようだが、まだ自己紹介をしていなかった。
「そういえば、まだ自己紹介をしていなかったね。ボクはマレック」
「私はマレック様のメイドのミキといいます」
「あたしはククリよ。マレック様は貴族なの?」
「ボクは貴族じゃないよ。だから様は要らないかな」
「そうなの。じゃあ、マレックね」
「ところでククリ、騙してると聞こえたんだが?」
「そんな、騙してなんかいないよ」
「本当に?」
「うん、まあ……」
「二十五歳のククリさん。荷物のチェックが終わったぞ」
荷物のチェックをしていた係員が、チェックが済んだと言ってきたのだが、二十五歳?
「ちょっと、なんで年齢を付けて人のこと呼ぶのよ」
「別に事実だから、問題ないだろ、ハハハハハ」
ククリは係員に食って掛かる。
係員は意地悪そうに笑っている。
「事実でも女性の年齢を公表するなんて、有り得ないわ!」
「ククリ、本当に二十五歳なの?」
どう見ても十代前半にしか見えない。
「うっ。別に騙してないからね。そっちが勝手に子供だと勘違いしただけだから」
「マレック様、合法ロリですよ」
「そうか、合法であんなことやそんなことができるのか」
ボクがミキに合わせて冗談を言うと、ククリが慌てて距離を取った。
「あんなことって、何する気なのよ! このロリコン! 変態!」
「やだなー。冗談だよ、冗談」
ボクは笑ってククリに答える。
「え? あー、そうですよ。冗談ですよ」
「ちょっと、あんたのメイドは冗談じゃなかったみたいだけど」
「ソンナコトアリマセンヨ」
「ますます怪しいわよ!」
それにしても、二十五歳といえばアラサーじゃないか。ロリババーだったとは完全にだまされたな。
「マレック、何か失礼なことを考えていない?」
「イエ、ソンナコトナイヨ」
「どいつもこいつも失礼ね!」
昨夜もアロマキャンドルの影響か、それともミキと一緒に寝たせいか、ミキと何度も交わる夢を見た。
二人で溶け合って一つになるようで、すごく気持ちがいい夢だった。
だというのに、なぜだか目覚めは良くなく、起きた後も気だるさが残っている。
もしかすると、アロマキャンドルに問題があるのではないだろうか? 何せ兄が開発した物だから信用が置けない。
だが、ミキにはちゃんと効果があるようで、朝から元気で肌艶も良い。
まあ、体に不調があるほどではないので気にしないでおこう。ただ単に、枕が変わって寝付けないだけかもしれないし。
「ミキ、遅くなったけど、今から坑道に向かおうと思うんだけど」
「わかりました。支度をしますね。ところで、どの坑道に向かわれるのですか?」
「もちろん、初心者用のFランク坑道だけど、今はえーとF3坑道が開放されているみたいだから、そこだね」
ボクは昨日ギルドでもらった予定表を確認してミキに答えた。
「Fランクの坑道だと、どんな魔獣がいるのですか?」
「アングラウサギだね」
坑道は中に放たれている魔獣の種類によってランク分けされている。
アングラウサギならF、モグラオオカミならEとかだ。
「ウサギですか、可愛いですよね」
「ウサギといっても魔獣だからね。侮ったら痛い目を見ることになるよ」
「そうですね。気をつけます」
ミキが真剣な顔をしたが、むしろ、ポーターであるミキに危険が及ばないように、ハンターであるボクの方が気を引き締めてかからないといけない。
二人で準備を済ませてF3坑道に向かうのだが、なぜか周りからの視線を集めている。
「ミキ、やっぱり坑道に入るのにメイド服は変なんじゃないか?」
「そう言われましても、着慣れたこの服が一番動きやすいですし、汚れ難いんですよ」
「まあ、そういうなら仕方ないけど……」
まあ、ポーターだから戦うわけではない。荷物持ちならメイド服でも大丈夫だろう。
「それより、坑道の入り口に近付いたら子供を見かけるようになりましたが、何をしているのでしょうね」
「あれは多分臨時のポーターだな」
「そうなのですか、あんな小さい子もポーターをやるんですね」
坑道の中は狭いところもあるので、子供の方が重宝される場合もある。それに、Fランク坑道のアングラウサギには少し特殊な事情があった。
普通、魔獣を狩った場合、体内の魔石だけ取り出して他はその場に廃棄するのだが、アングラウサギの場合、肉が食用になるので狩ったらそのまま持ち帰ることになっている。
魔石だけ持ち帰ればいい場合に比べると当然荷物が多くなり、その分ポーターが必要になるのだが、それ以上に小さな子供でもポーターができるわけがある。
それは、アングラウサギの場合、一人当たり狩っていい数に、一日二トウ、一週間で六トウまでの制限があるからだ。
それにはポーターも頭数に入っているため、荷物をたいして持てない子供でも頭数として必要とされることになる。
ただ、ポーターをたくさん連れて行けば、たくさん狩ることができるが、ポーターもただではない。思ったように狩れなければ、ポーターを連れて行った分損をすることになるから、見極めが肝心だ。
「お兄さん! 私を雇わない? 前金三千、一トウ当たり一千でいいわよ」
ボクたちが子供の方を見ているのに気づいた女の子が駆け寄ってきた。
アングラウサギは、一トウ当たり一万リングが相場らしいから、二トウで二万リング、ポーターに払うのが合計で五千リングだから、差し引き一万五千リング稼げることになる。
もちろん、それだけ狩れればだが。
「いや、見てのとおり、ポーターは間に合っている」
「メイドのお姉さんはポーターだったの。でも、お兄さん、強そうだし、アングラウサギなら六トウくらい簡単に狩っちゃうでしょう」
お世辞にもボクは強そうに見えないと思うのだが、売り込みの決まり文句なのだろう。
「どうかな、ボクは初めてだから」
「初めてなの? なら、尚更慣れてるあたしを雇うべきだと思うな」
それは確かに一理ある。ボクもミキも、魔獣を狩るのも坑道に入るのも始めてだ。
「じゃあ、お願いしようかな」
「毎度あり。じゃあ前金三千リングね」
女の子はボクの目の前に腕を出してきた。その腕には、腕輪が嵌められている。
ああ、腕輪型リングか。
ボクはその腕輪に指輪を近付けた。
リンゴンと音がして、これで、支払いが完了したようである。
リングに感心していると、背後から声をかけられた。
「あら、これから入るの? 重役出勤だこと」
「アリサ!」
声をかけてきたのはアリサだった。坑道から戻ってきたところなのだろう。メイド服姿のレナさんも一緒だ。
どうも、メイドは坑道に入る場合もメイド服が普通らしい。
「その女の子どうしたの? まさか、買ったの! ロリコンなの!」
アリサの言葉を聞いて、女の子がサッとボクから距離を取った。
「変なこと言わないでくれるかな。ポーターとして雇っただけだよ」
「ポーターねェー。今から行ってそれだけ狩れるのかしらね」
「初めてだからわからないけど、初めてだからこそ雇ったんだ」
「初めて、初めてって……。まあ、いいけど、勝手にすれば」
アリサは何故か恥ずかしそうに拗ねた感じで去っていった。
もしかして、初めての狩でうまくいかなかったのだろうか?
アリサが去り際に「襲われて初めてを奪われないように気をつけなさい」と、女の子に言っていたが、お陰で、女の子がボクを見る目は、変質者を見る目になっていた。
それでもキャンセルすることはなく、ボクたちを先導してくれるのは、とても責任感が強い子なのだろう。
坑道の入り口にはブースが作られていて、そこで登録カードと荷物のチェックを受けてから坑道に入るようになっていた。
「なんだ、ククリ。今日は上手く騙くらかして、お情けに有り付けたのか?」
「失礼なこと言わないで、別に騙してないから」
持ち込む荷物のチェックをしていた係員とポータの女の子は知り合いのようだ。まあ、長くやっていれば当然だろう。
そういえば、女の子はククリというようだが、まだ自己紹介をしていなかった。
「そういえば、まだ自己紹介をしていなかったね。ボクはマレック」
「私はマレック様のメイドのミキといいます」
「あたしはククリよ。マレック様は貴族なの?」
「ボクは貴族じゃないよ。だから様は要らないかな」
「そうなの。じゃあ、マレックね」
「ところでククリ、騙してると聞こえたんだが?」
「そんな、騙してなんかいないよ」
「本当に?」
「うん、まあ……」
「二十五歳のククリさん。荷物のチェックが終わったぞ」
荷物のチェックをしていた係員が、チェックが済んだと言ってきたのだが、二十五歳?
「ちょっと、なんで年齢を付けて人のこと呼ぶのよ」
「別に事実だから、問題ないだろ、ハハハハハ」
ククリは係員に食って掛かる。
係員は意地悪そうに笑っている。
「事実でも女性の年齢を公表するなんて、有り得ないわ!」
「ククリ、本当に二十五歳なの?」
どう見ても十代前半にしか見えない。
「うっ。別に騙してないからね。そっちが勝手に子供だと勘違いしただけだから」
「マレック様、合法ロリですよ」
「そうか、合法であんなことやそんなことができるのか」
ボクがミキに合わせて冗談を言うと、ククリが慌てて距離を取った。
「あんなことって、何する気なのよ! このロリコン! 変態!」
「やだなー。冗談だよ、冗談」
ボクは笑ってククリに答える。
「え? あー、そうですよ。冗談ですよ」
「ちょっと、あんたのメイドは冗談じゃなかったみたいだけど」
「ソンナコトアリマセンヨ」
「ますます怪しいわよ!」
それにしても、二十五歳といえばアラサーじゃないか。ロリババーだったとは完全にだまされたな。
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