上 下
39 / 55
第一部 借金奴隷編

第32話 買取窓口

しおりを挟む
 私たちは、ギルドに着くとそのまま真っ直ぐに奥の素材の買取窓口に向かいます。
 すでに何回か来ているので慣れたものです。

「今日は少し多いけど、ここでいいかしら?」
「おう、構わないぜ。どんどん出してくれ!」

 窓口の男性は、マーサルがストレージ(本当はアイテムボックス)を使えるのを既に知っているので、構わず獲物を出していきます。

「先ずは、ホーンラビット十二羽ね!」
「今日は森に行ったのか? 森には強い魔獣もいるから気を付けろよ」
「そうね。今日も危ない思いをしたし、注意するわ」

 最初にシルバーウルフと戦った時は肝を冷やしました。
 初めて戦う相手には十分注意しなければいけません。

「次に、ファングボア四頭ね!」
「お、ファングボアも狩れたのか! それも四頭も。この切り口、そのグレイブか。嬢ちゃん見かけによらないな。まだ、Fランクだったよな。実力はCランクか?」

 窓口の男性は私の武器を見て感心しています。

「そして、最後にシルバーウルフ三頭!!」
「シルバーウルフも狩ったのか!! こりゃ実力は本物だな。それにしても、よくこれだけの量が入るな? お前さんの魔力も飛び抜けてんな!」
 まあ、確かにマーサルの魔力は飛び抜けてはいるが、それ、ストレージじゃなくて、アイテムボックスだから――。魔力関係ないチートだから――。

 ふと、横から視線を感じて私がそちらに振り向くと、隣の窓口に並んでいた、どこかで見たことのある大男と目が合いました。
 あれは、初めて薬草採取に出た時に絡んできた男です。
 ただの、チンピラかと思っていましたが、ちゃんと冒険者としての仕事もしているようです。

「随分と調子が良さそうじゃないか?」
 目があったのが気まずかったのか、男が顔を引き攣らせながらも話しかけてきます。
 余程、なんちゃってファイヤボールが怖かったのでしょう。

「おかげさまで!」
 私は笑顔で返します。男には悪魔の微笑みに見えているかもしれません。

「なんだ、モーブと知り合いか?」
 窓口の男性が私たちのやりとりを見て心配そうに声をかけてきます。
 あの男、モーブというのですね。初めて知りました。

「いえ、二、三度顔を合わせたことがあるだけです」

 窓口の男性は、それだけで状況を察したようです。
「そうだな。嬢ちゃんの実力なら心配する必要はないな。ワッハッハ」

 窓口の男が大笑いするので、私は注目を集めてしまいます。モーブはバツが悪そうで、こちらを向かず、ソッポを向いてしまいました。

 結局この日、ホーンラビット十二羽で、銀貨九十六枚。ファングボア四頭で、金貨四枚。シルバーウルフ三頭で金貨四枚と銀貨五十枚。合計で、金貨九枚と銀貨四十六枚の稼ぎになりました。

 この調子で毎日稼げれば、白金貨十枚でも、四ヶ月足らずで返してしまえます。

 勿論、稼ぎはマーサルとも分けなければなりませんし、生活費も食費もかかります。
 それを考えても、一年もあれば借金を返済できるでしょう。

 もしかすると、私は冒険者に向いていたのでしょうか?
 そんな自惚れも出てきてしまいます。

 まあ、それもこれも、マーサルがいてくれたおかげです。勘違いしてはいけません。
 マーサルのアイテムボックスと、レベルアップのチートがあればこそ、ここまで稼げるのです。
 マーサルと出会えたからこそ、今こうしていられるのです!
 それはまるで夢のようです。
 夢……。
 夢?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...