28 / 55
第一部 借金奴隷編
第22話 今日も草原
しおりを挟む
昨日に引き続き、私とマーサルは草原に来て、薬草の採取と狩の練習に励んでいます。
昨日と違い、武器屋に寄っていない分、午前中から十分時間が取れ、知覚強化と、隠れ身によって、順調に獲物を狩ることができています。
お昼にミーヤさんが持たせてくれたお弁当を食べている最中ですが、既に昨日一日分を超え、ウサギ五羽とキジ四羽を仕留めています。
昨日と違うといえば、朝、ギルドによった時に、掲示板を確認すると、黒髪の身元不明人を探す張り紙がなくなっていました。
これは、諦めたということでしょうか? それとも、何らかの有力情報が入ったのでしょうか?
とにかく、教会が何を考えて、私を探しているのかわからないことには、話になりません。
だからと言って、その理由を私が聞きに行くわけにもいかず、いくら考えても思い当たる点がございません。
「何を考え込んでいるんだい?」
お弁当を食べ終わったマーサルが、心配そうに見てきます。
「教会が黒髪の身元不明者を探していたことよ。いくら考えても、私、教会に目を付けられるようなことをした覚えがないの……」
「そうか、なら、僕を探しているのかもしれないね」
「そういえば、マーサルも元は黒髪だものね。何か心当たりがあるの?」
「いやないけど、この国に来て、初めて会ったのがミハルだし、その後直ぐに茶髪にしてもらったから、黒髪であるのを知っているのはミハルだけだね」
「そうよね。日本から捜索願いが出されている可能性はないかしら」
「ないだろうね。日本にいた時この国の名前を聞いたことないからね」
「それなら、なぜ、探しているのかもと思うのよ?」
「具体的な理由はないよ。『カン』かな」
「それ、あてになるの?」
「馬鹿にするもんじゃないよ、二者択一なら五割の確率で当たる!」
「当たり前じゃない!」
「つまり、探しているのは、僕の可能性も五割あるということさ」
「両方という可能性と、どちらでもないという可能性もあるわよ」
「それは考えなかったな。どちらにしろ、ミハルである可能性と僕である可能性は同じさ」
これは、自分ばかり心配する必要はないと、マーサルが気をつかってくれているのでしょう。
「ありがとう」
「お礼を言われるまでのことでもないよ」
そう言ってマーサルは立ち上がりました。
「それじゃあ午後の部を始めますか!」
マーサルは手を引いて私を立たせてくれました。
「午後からも頑張りましょう」
午後の探索を始めると、直ぐに、今までにない大物を感知しました。
「獲物を見つけたわ。これは、イノシシみたいだけど、どうする?」
「イノシシか。ウサギとキジで慣れてきたから、試してみても大丈夫かな?」
「イノシシは、ウサギやキジと違って、襲ってくるから気を付けてね」
「それで、どちらが先にやる?」
「私がグレイブで、首を斬りつけてみるわ。倒しきれなかったらお願い」
「わかった」
私たちは隠れ身でイノシシに近付き、様子を窺います。
イノシシはこちらに気付いた様子はありません。
私はイノシシの首を上から下に薙ぎ払うように斬りつけるつもりでしたが、イノシンの身体を覆う体毛が、近くで見ると硬そうだったので、突き刺してから、切り裂くことに考えを変更しました。
私は気合を込めて、引きつけたグレイブをイノシシの首に目掛けて突き出します。
「ブキィー!!」
刃の部分が首に刺さって、イノシシが泣き喚きます。
そのまま下方向に力を込めて切り裂こうとしましたが、力が足りないのか上手くいきません。
イノシシが暴れ出して、グレイブを弾かれてしまいます。
首から血を流しながらも、イノシシがあたり構わず暴れ回ります。
私にはとても手出しができない状態です。
私が仕留めそこなったため、マーサルが氷の矢を打ち出し、イノシシの額を撃ち抜きます。
イノシシはそのまま絶命してしまいました。
「マーサル、ありがとう。助かったわ」
「ミハルの力だと切り裂くのは難しいか」
「私の魔力量だと身体強化の魔法は無理なのよね」
「そうなんだ。じゃあ、武器を強化したらどう。もっと切れやすくするとか?」
「剣に炎を纏わせる魔法はあるけど、私には魔力量的に無理ね」
「風ならできるんじゃないの」
「できなくはないけど、切れ味は変わらないでしょ」
「できるなら、風を音よりも高速に振動させて、刃を共振で振動させられれば、切れ味は格段に良くなるはずだよ」
「そんな方法があるの? 共振とかよくわからないけど、やってみるわ。詳しく教えて!」
マーサルに教えてもらいながら、超音波を発生させます。振動の回数を増やしたり減らしたりしながら、近くにあった立ち木に対して、何度も試し切りをします。
そして、ついに、立ち木を滑るように切り倒すことに成功しました。
「やった!! やったわ。軽々と木を両断できたわ! これなら、私の力でもイノシシの首を落とせるかも!」
「やったな! それじゃあ、イノシシを探して試してみるか」
「そうしましょう! 『超音波振動カッター』の切れ味を目に物見せてあげるわ!」
意気込んでイノシシを探したものの、その日のうちにイノシシを見つけることはできませんでした。
ギルドでは、イノシシ一頭、銀貨五十枚になりました。
ウサギ、キジ、薬草も合わせると、今日の稼ぎは総額銀貨八十四枚になりました
昨日と違い、武器屋に寄っていない分、午前中から十分時間が取れ、知覚強化と、隠れ身によって、順調に獲物を狩ることができています。
お昼にミーヤさんが持たせてくれたお弁当を食べている最中ですが、既に昨日一日分を超え、ウサギ五羽とキジ四羽を仕留めています。
昨日と違うといえば、朝、ギルドによった時に、掲示板を確認すると、黒髪の身元不明人を探す張り紙がなくなっていました。
これは、諦めたということでしょうか? それとも、何らかの有力情報が入ったのでしょうか?
とにかく、教会が何を考えて、私を探しているのかわからないことには、話になりません。
だからと言って、その理由を私が聞きに行くわけにもいかず、いくら考えても思い当たる点がございません。
「何を考え込んでいるんだい?」
お弁当を食べ終わったマーサルが、心配そうに見てきます。
「教会が黒髪の身元不明者を探していたことよ。いくら考えても、私、教会に目を付けられるようなことをした覚えがないの……」
「そうか、なら、僕を探しているのかもしれないね」
「そういえば、マーサルも元は黒髪だものね。何か心当たりがあるの?」
「いやないけど、この国に来て、初めて会ったのがミハルだし、その後直ぐに茶髪にしてもらったから、黒髪であるのを知っているのはミハルだけだね」
「そうよね。日本から捜索願いが出されている可能性はないかしら」
「ないだろうね。日本にいた時この国の名前を聞いたことないからね」
「それなら、なぜ、探しているのかもと思うのよ?」
「具体的な理由はないよ。『カン』かな」
「それ、あてになるの?」
「馬鹿にするもんじゃないよ、二者択一なら五割の確率で当たる!」
「当たり前じゃない!」
「つまり、探しているのは、僕の可能性も五割あるということさ」
「両方という可能性と、どちらでもないという可能性もあるわよ」
「それは考えなかったな。どちらにしろ、ミハルである可能性と僕である可能性は同じさ」
これは、自分ばかり心配する必要はないと、マーサルが気をつかってくれているのでしょう。
「ありがとう」
「お礼を言われるまでのことでもないよ」
そう言ってマーサルは立ち上がりました。
「それじゃあ午後の部を始めますか!」
マーサルは手を引いて私を立たせてくれました。
「午後からも頑張りましょう」
午後の探索を始めると、直ぐに、今までにない大物を感知しました。
「獲物を見つけたわ。これは、イノシシみたいだけど、どうする?」
「イノシシか。ウサギとキジで慣れてきたから、試してみても大丈夫かな?」
「イノシシは、ウサギやキジと違って、襲ってくるから気を付けてね」
「それで、どちらが先にやる?」
「私がグレイブで、首を斬りつけてみるわ。倒しきれなかったらお願い」
「わかった」
私たちは隠れ身でイノシシに近付き、様子を窺います。
イノシシはこちらに気付いた様子はありません。
私はイノシシの首を上から下に薙ぎ払うように斬りつけるつもりでしたが、イノシンの身体を覆う体毛が、近くで見ると硬そうだったので、突き刺してから、切り裂くことに考えを変更しました。
私は気合を込めて、引きつけたグレイブをイノシシの首に目掛けて突き出します。
「ブキィー!!」
刃の部分が首に刺さって、イノシシが泣き喚きます。
そのまま下方向に力を込めて切り裂こうとしましたが、力が足りないのか上手くいきません。
イノシシが暴れ出して、グレイブを弾かれてしまいます。
首から血を流しながらも、イノシシがあたり構わず暴れ回ります。
私にはとても手出しができない状態です。
私が仕留めそこなったため、マーサルが氷の矢を打ち出し、イノシシの額を撃ち抜きます。
イノシシはそのまま絶命してしまいました。
「マーサル、ありがとう。助かったわ」
「ミハルの力だと切り裂くのは難しいか」
「私の魔力量だと身体強化の魔法は無理なのよね」
「そうなんだ。じゃあ、武器を強化したらどう。もっと切れやすくするとか?」
「剣に炎を纏わせる魔法はあるけど、私には魔力量的に無理ね」
「風ならできるんじゃないの」
「できなくはないけど、切れ味は変わらないでしょ」
「できるなら、風を音よりも高速に振動させて、刃を共振で振動させられれば、切れ味は格段に良くなるはずだよ」
「そんな方法があるの? 共振とかよくわからないけど、やってみるわ。詳しく教えて!」
マーサルに教えてもらいながら、超音波を発生させます。振動の回数を増やしたり減らしたりしながら、近くにあった立ち木に対して、何度も試し切りをします。
そして、ついに、立ち木を滑るように切り倒すことに成功しました。
「やった!! やったわ。軽々と木を両断できたわ! これなら、私の力でもイノシシの首を落とせるかも!」
「やったな! それじゃあ、イノシシを探して試してみるか」
「そうしましょう! 『超音波振動カッター』の切れ味を目に物見せてあげるわ!」
意気込んでイノシシを探したものの、その日のうちにイノシシを見つけることはできませんでした。
ギルドでは、イノシシ一頭、銀貨五十枚になりました。
ウサギ、キジ、薬草も合わせると、今日の稼ぎは総額銀貨八十四枚になりました
11
お気に入りに追加
272
あなたにおすすめの小説
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~
白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた!
もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する!
とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する!
ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか?
過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談
小説家になろうでも連載しています!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。
永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。
17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。
その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。
その本こそ、『真魔術式総覧』。
かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。
伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、
自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。
彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。
魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。
【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界は黒猫と共に
小笠原慎二
ファンタジー
我が家のニャイドル黒猫のクロと、異世界に迷い込んだ八重子。
「チート能力もらってないんだけど」と呟く彼女の腕には、その存在が既にチートになっている黒猫のクロが。クロに助けられながらなんとか異世界を生き抜いていく。
ペガサス、グリフォン、妖精が従魔になり、紆余曲折を経て、ドラゴンまでも従魔に。途中で獣人少女奴隷も仲間になったりして、本人はのほほんとしながら異世界生活を満喫する。
自称猫の奴隷作者が贈る、猫ラブ異世界物語。
猫好きは必見、猫はちょっとという人も、読み終わったら猫好きになれる(と思う)お話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる