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第一部 借金奴隷編
舞台裏5 ミマスのギルド
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ミハルが王都で冒険者となり、薬草採取と狩の訓練に励んでいた頃、ミマスの冒険者ギルドは大変なことになっていた。
依頼を終えたAランクパーティの雷光の隼が、報告のためギルドを訪れると、そこは、冒険者でごった返していた。
「何でこんなに混んでいるんだ? 何かあったのか?」
「最近人が増えてきたと思ったけど、今日は一段と多いわね」
「また後にするか?」
「いつ来ても同じよ!」
雷光の隼のメンバーはどうしたものかと、ギルドの中を見渡した。
「あ、ハベルトさん。こっちです!」
それに気付いた受付嬢のマリーがハベルトに手招きをする。
ハベルトは誘われるまま、マリーに近付き尋ねた。
「やけに混んでるが、何かあったのかい?」
「特に、何かあったわけじゃないんですが、最近仕事が多くてぇ」
「そうなのか。ところで、プランさんは? 姿が見えないようだけど、休みかい?」
「あれ、知らないんですかぁ、プーなら借金奴隷として売られていきましたよぉ」
「プランさんがかい?」
「そうですよぉ。この忙しい時にいなくなるなんて、全く迷惑な人ですぅ!」
「それは、プランがいなくなったから、忙しくなったんじゃないのか?」
ヤリスがマリーに向けて、棘のある言葉を向ける。
実際に、プランタニエが抜けた分の仕事を、順繰りに先送りにしていたが、仕事は溜まる一方で、ついに限界を迎えていたのである。
そんなこともあり、教会から黒髪の身元不明者の捜索に関して、通達が来ていたが、放置されたままだった。
ハベルトと話しているマリーに、サブマスのリーザから声が飛んでくる。
「ちょっと、マリー! 油売ってないで、こっちの仕事をしなさい!」
一般職員だけでは、二進も三進もいかなくなり、サブマスが陣頭指揮を取り、かろうじてやり繰りしていた。
サブマスがいなければ、とうに破綻していたことだろう。
だが、今はなんとか持ち堪えているが、それも時間の問題だった。
サブマスは、王都のギルド本部に応援を頼むか思案していた。
仕事の量に対して、明らかに人員が足りなかった。
それはプランタニエをクビにしたせいだとわかっていた。
しかも、人員の不足は、一人や二人でなく、この場をやり繰りするには、ベテランの職員を五人は欲しかった。
それだけプランタニエの能力は高かったのだ。
その人数を確保するには、本部に頼むしかなかったが、だが、それをしたら、自分の評価が下がってしまう。
まして、プランタニエをクビにしたことが、混乱の原因だとなれば、なおさらだ。
評価に傷を付けないためには、何としてでもこの難局を自力で解決しなければならなかった。
そんなサブマスの思いに反して、マリーは好き勝手にしていた。
「えー。私、ハベルトさんの対応している最中ですぅ」
そんなマリーの行動が、より一層の混乱を呼んでいく。
「おい、ハベルト! Aランクだからって、割り込むなよ!!」
マリーがハベルトへの対応を優先したのを見て、並んでいた冒険者がハベルトに文句を付けた。
「いや、そんなつもりはないんだ」
「そんなつもりはないって、実際、割り込んでるじゃないか! こっちは金を下ろすだけなのに二時間も並んでるんだぞ!!」
「なんだって、二時間も並んで、まだ下ろせないのか!」
ハベルトは驚いて、思わず大声を上げてしまう。
そしてマリーに確認する。
「今日中にお金を下ろせるのかい?」
「この混み具合だとぉ、今日中にお金を下ろすのは無理じゃないかしらぁ」
「おい! 聞いたか、金が下ろせないってよ!」
「え、そんなことないでしょ?!」
「でも、受付嬢が下ろせないと言ったぞ!」
「俺にも、下ろすのは無理だと聞こえたぞ!」
「そんな、お金を下ろせなくなるのは困るわ」
「おい、俺はギルドに預けてある金、全部下ろすぞ。早くよこせ!!」
「それなら俺も!」
「私もよ!!」
「ちょっと待ってください! お金は下ろせますから、順番にお願いします!!」
サブマスが声を張り上げるが、冒険者はお構いなしに受付に押し寄せる。
「なら、さっさと金をよこせ!!」
「そうよ! 何時間待たせるのよ!!」
パニック状態で収拾がつかなくなっていた。
ギルドがこんな状態のため、本当なら今日戻っているはずの、プランタニエの護送を担当していたパーティが、戻っていないのに誰も気に留めていなかった。
そして、当然、プランタニエがミハルと名前を変え、逃亡したことに気付く者は誰もいなかった。
依頼を終えたAランクパーティの雷光の隼が、報告のためギルドを訪れると、そこは、冒険者でごった返していた。
「何でこんなに混んでいるんだ? 何かあったのか?」
「最近人が増えてきたと思ったけど、今日は一段と多いわね」
「また後にするか?」
「いつ来ても同じよ!」
雷光の隼のメンバーはどうしたものかと、ギルドの中を見渡した。
「あ、ハベルトさん。こっちです!」
それに気付いた受付嬢のマリーがハベルトに手招きをする。
ハベルトは誘われるまま、マリーに近付き尋ねた。
「やけに混んでるが、何かあったのかい?」
「特に、何かあったわけじゃないんですが、最近仕事が多くてぇ」
「そうなのか。ところで、プランさんは? 姿が見えないようだけど、休みかい?」
「あれ、知らないんですかぁ、プーなら借金奴隷として売られていきましたよぉ」
「プランさんがかい?」
「そうですよぉ。この忙しい時にいなくなるなんて、全く迷惑な人ですぅ!」
「それは、プランがいなくなったから、忙しくなったんじゃないのか?」
ヤリスがマリーに向けて、棘のある言葉を向ける。
実際に、プランタニエが抜けた分の仕事を、順繰りに先送りにしていたが、仕事は溜まる一方で、ついに限界を迎えていたのである。
そんなこともあり、教会から黒髪の身元不明者の捜索に関して、通達が来ていたが、放置されたままだった。
ハベルトと話しているマリーに、サブマスのリーザから声が飛んでくる。
「ちょっと、マリー! 油売ってないで、こっちの仕事をしなさい!」
一般職員だけでは、二進も三進もいかなくなり、サブマスが陣頭指揮を取り、かろうじてやり繰りしていた。
サブマスがいなければ、とうに破綻していたことだろう。
だが、今はなんとか持ち堪えているが、それも時間の問題だった。
サブマスは、王都のギルド本部に応援を頼むか思案していた。
仕事の量に対して、明らかに人員が足りなかった。
それはプランタニエをクビにしたせいだとわかっていた。
しかも、人員の不足は、一人や二人でなく、この場をやり繰りするには、ベテランの職員を五人は欲しかった。
それだけプランタニエの能力は高かったのだ。
その人数を確保するには、本部に頼むしかなかったが、だが、それをしたら、自分の評価が下がってしまう。
まして、プランタニエをクビにしたことが、混乱の原因だとなれば、なおさらだ。
評価に傷を付けないためには、何としてでもこの難局を自力で解決しなければならなかった。
そんなサブマスの思いに反して、マリーは好き勝手にしていた。
「えー。私、ハベルトさんの対応している最中ですぅ」
そんなマリーの行動が、より一層の混乱を呼んでいく。
「おい、ハベルト! Aランクだからって、割り込むなよ!!」
マリーがハベルトへの対応を優先したのを見て、並んでいた冒険者がハベルトに文句を付けた。
「いや、そんなつもりはないんだ」
「そんなつもりはないって、実際、割り込んでるじゃないか! こっちは金を下ろすだけなのに二時間も並んでるんだぞ!!」
「なんだって、二時間も並んで、まだ下ろせないのか!」
ハベルトは驚いて、思わず大声を上げてしまう。
そしてマリーに確認する。
「今日中にお金を下ろせるのかい?」
「この混み具合だとぉ、今日中にお金を下ろすのは無理じゃないかしらぁ」
「おい! 聞いたか、金が下ろせないってよ!」
「え、そんなことないでしょ?!」
「でも、受付嬢が下ろせないと言ったぞ!」
「俺にも、下ろすのは無理だと聞こえたぞ!」
「そんな、お金を下ろせなくなるのは困るわ」
「おい、俺はギルドに預けてある金、全部下ろすぞ。早くよこせ!!」
「それなら俺も!」
「私もよ!!」
「ちょっと待ってください! お金は下ろせますから、順番にお願いします!!」
サブマスが声を張り上げるが、冒険者はお構いなしに受付に押し寄せる。
「なら、さっさと金をよこせ!!」
「そうよ! 何時間待たせるのよ!!」
パニック状態で収拾がつかなくなっていた。
ギルドがこんな状態のため、本当なら今日戻っているはずの、プランタニエの護送を担当していたパーティが、戻っていないのに誰も気に留めていなかった。
そして、当然、プランタニエがミハルと名前を変え、逃亡したことに気付く者は誰もいなかった。
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