上 下
26 / 55
第一部 借金奴隷編

舞台裏5 ミマスのギルド

しおりを挟む
 ミハルが王都で冒険者となり、薬草採取と狩の訓練に励んでいた頃、ミマスの冒険者ギルドは大変なことになっていた。

 依頼を終えたAランクパーティの雷光の隼が、報告のためギルドを訪れると、そこは、冒険者でごった返していた。

「何でこんなに混んでいるんだ? 何かあったのか?」
「最近人が増えてきたと思ったけど、今日は一段と多いわね」
「また後にするか?」
「いつ来ても同じよ!」

 雷光の隼のメンバーはどうしたものかと、ギルドの中を見渡した。

「あ、ハベルトさん。こっちです!」
 それに気付いた受付嬢のマリーがハベルトに手招きをする。
 ハベルトは誘われるまま、マリーに近付き尋ねた。

「やけに混んでるが、何かあったのかい?」
「特に、何かあったわけじゃないんですが、最近仕事が多くてぇ」

「そうなのか。ところで、プランさんは? 姿が見えないようだけど、休みかい?」
「あれ、知らないんですかぁ、プーなら借金奴隷として売られていきましたよぉ」

「プランさんがかい?」
「そうですよぉ。この忙しい時にいなくなるなんて、全く迷惑な人ですぅ!」

「それは、プランがいなくなったから、忙しくなったんじゃないのか?」
 ヤリスがマリーに向けて、棘のある言葉を向ける。

 実際に、プランタニエが抜けた分の仕事を、順繰りに先送りにしていたが、仕事は溜まる一方で、ついに限界を迎えていたのである。
 そんなこともあり、教会から黒髪の身元不明者の捜索に関して、通達が来ていたが、放置されたままだった。

 ハベルトと話しているマリーに、サブマスのリーザから声が飛んでくる。
「ちょっと、マリー! 油売ってないで、こっちの仕事をしなさい!」

 一般職員だけでは、二進も三進もいかなくなり、サブマスが陣頭指揮を取り、かろうじてやり繰りしていた。
 サブマスがいなければ、とうに破綻していたことだろう。
 だが、今はなんとか持ち堪えているが、それも時間の問題だった。

 サブマスは、王都のギルド本部に応援を頼むか思案していた。
 仕事の量に対して、明らかに人員が足りなかった。
 それはプランタニエをクビにしたせいだとわかっていた。
 しかも、人員の不足は、一人や二人でなく、この場をやり繰りするには、ベテランの職員を五人は欲しかった。
 それだけプランタニエの能力は高かったのだ。

 その人数を確保するには、本部に頼むしかなかったが、だが、それをしたら、自分の評価が下がってしまう。
 まして、プランタニエをクビにしたことが、混乱の原因だとなれば、なおさらだ。
 評価に傷を付けないためには、何としてでもこの難局を自力で解決しなければならなかった。

 そんなサブマスの思いに反して、マリーは好き勝手にしていた。
「えー。私、ハベルトさんの対応している最中ですぅ」

 そんなマリーの行動が、より一層の混乱を呼んでいく。

「おい、ハベルト! Aランクだからって、割り込むなよ!!」
 マリーがハベルトへの対応を優先したのを見て、並んでいた冒険者がハベルトに文句を付けた。

「いや、そんなつもりはないんだ」
「そんなつもりはないって、実際、割り込んでるじゃないか! こっちは金を下ろすだけなのに二時間も並んでるんだぞ!!」

「なんだって、二時間も並んで、まだ下ろせないのか!」
 ハベルトは驚いて、思わず大声を上げてしまう。

 そしてマリーに確認する。
「今日中にお金を下ろせるのかい?」
「この混み具合だとぉ、今日中にお金を下ろすのは無理じゃないかしらぁ」

「おい! 聞いたか、金が下ろせないってよ!」
「え、そんなことないでしょ?!」
「でも、受付嬢が下ろせないと言ったぞ!」
「俺にも、下ろすのは無理だと聞こえたぞ!」

「そんな、お金を下ろせなくなるのは困るわ」
「おい、俺はギルドに預けてある金、全部下ろすぞ。早くよこせ!!」
「それなら俺も!」
「私もよ!!」

「ちょっと待ってください! お金は下ろせますから、順番にお願いします!!」
 サブマスが声を張り上げるが、冒険者はお構いなしに受付に押し寄せる。

「なら、さっさと金をよこせ!!」
「そうよ! 何時間待たせるのよ!!」

 パニック状態で収拾がつかなくなっていた。

 ギルドがこんな状態のため、本当なら今日戻っているはずの、プランタニエの護送を担当していたパーティが、戻っていないのに誰も気に留めていなかった。

 そして、当然、プランタニエがミハルと名前を変え、逃亡したことに気付く者は誰もいなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界ハーレム漫遊記

けんもも
ファンタジー
ある日、突然異世界に紛れ込んだ主人公。 異世界の知識が何もないまま、最初に出会った、兎族の美少女と旅をし、成長しながら、異世界転移物のお約束、主人公のチート能力によって、これまたお約束の、ハーレム状態になりながら、転生した異世界の謎を解明していきます。

処理中です...