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第一部 借金奴隷編
第19話 常宿
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私達はギルドで、薬草の売り上げを金貨二枚、大銀貨十枚で受け取ると、昨日宿泊した黒曜亭に向かいます。
私は別に他の宿でもよかったのですが、マーサルが気に入ったようですし、稼げたら戻って来ると言ってあったので、戻らないと稼げなかったと思われるのも癪に障ります。
金貨三枚、十分に稼いで、堂々の凱旋です!
ミーヤさんも喜んでくれることでしょう。
案の定、黒曜亭に着くとミーヤさんが大喜びで迎えてくれました。
「また来てくださったのですね! ありがとうございます。何か特別サービスをしたいのですが、何かご希望はありますか?」
「あ、そういうのいいから、余計なことしないで」
「はい。すみません……」
私が素っ気なくサービスを拒否しると、先ほどまでテンションマックスだったミーヤさんが、途端に項垂れてしまいました。
別に私が悪いわけではないのに、申し訳ない気持ちが湧いてきます。
「それで、今日から一月ほど泊まりたいと思うのだけど、大丈夫かしら?」
「一月ですか! 大丈夫ですけど。本当ですか!!」
「そう、大丈夫なのね? それじゃあ宿泊費、前金で金貨一枚と大銀貨五枚でいいわよね?」
私は今日稼いだお金の半分をミーヤさんに渡します。
「はい確かに、って。えー!! 本当に。前金でもらっていいんですか! ミハルさんたちが困りませんか!」
「今日は随分稼げたからね。心配せずに受け取って」
「ありがとうございますぅ(泣)。これで今月分の借金が返済できますぅ。このままだと、借金が返せないで借金奴隷にされるところだったんですぅ」
ミーヤさんが私の手を取り泣き出してしまいました。
しかし、そこまで切羽詰まっていたとは知りませんでした。
借金奴隷と聞かされると他人事とは言えません。
「借金奴隷にされるほど困っていたとは知らなかったわ」
「前のオーナーの時は常連客がいて、こんな路地裏でも十分にやっていけたようなのですが、私が引き継いでから、いろいろサービスしたのに関わらず、常連さんが離れてしまって、借金を返す目処が立たなくなってしまったんです」
「ああ、そうね。元いた常連さんは、静かに過ごしたかっただろうから、そのサービスは逆効果だったのでしょうね」
「えー! そうなのですか?!」
「ミーヤさんの場合、サービス過剰なのよ。静かに過ごしたいお客さんには煩わしいだけよ」
「そんなー! じゃあ、私は何もしない方がいいのですか?」
「それだと、今更、こんな路地裏までやってくる客はいないと思うわ?」
「それじゃあどうすればいいんですか?」
「私に聞かれてもね。それを考えるのもオーナーの仕事でしょ」
「ううう(泣)」
「ミハル、そんな意地悪言わないで助けてあげようよ。元ギルドの受付嬢だったミハルなら、いいアイデアが浮かぶだろ?」
先ほどから黙って二人のやりとりを聞いていたマーサルがミーヤさんの肩を持ちます。
私はマーサルの方に振り返ります。
「マーサル。まったくマーサルはミーヤさんに甘いんだから!」
「ミハルさん、私からもお願いしますぅ。どうかお助けくださぃ(泣)」
「仕方がないわね。マーサルも協力するのよ?」
「勿論!」
「ありがとうございますぅ」
そして、私たちは黒曜亭を盛り上げるための会議を始めました。
「前のオーナーの時は流行っていたなら、前と同じにすればいいんじゃないか?」
「さっきも言ったけど、それだと、一度離れた客はなかなか戻ってこないと思うわ。
第一、前のオーナーの場合、寡黙な態度がにあっていたかもしれないけど、ミーヤさんはそういうキャラじゃないでしょ。正反対じゃない。合わないわ」
「そうですね。私も、黙っているより、お客さんとお喋りしたいです」
「そうなると、新しい『黒曜亭』ならではの『ウリ』が必要だな」
「いっそ、名前から変えてしまうのはどう。『黒曜亭』とミーヤさんのキャラが合っていないわ。
もっとも、ミーヤさんが『黒曜亭』の名前にこだわりがあるなら、この案は却下だけど」
「別に『黒曜亭』の名前に拘りません。私に合う名前があればそれの方がいいです!」
「それじゃあ、名前は変更する方向で考えるとして、問題の『ウリ』は何かあるかな?」
「そうね。マーサルの国の料理なんかどうかしら? 確かこの国では珍しい料理があったわよね」
私は夢の中で美味しく食べた日本の料理を思い出します。
「異国の料理ですか? それは目を引きますね」
「確かにこの国にない料理はあるだろうけど、僕は料理をしないから、作り方がわからないよ。
それにカウンターしかない食堂じゃ、料理目当てにお客が来ても、困ることになるんじゃないかな?」
「確かに、このカウンターじゃね……」
カウンターは六人がけです。宿泊者全員分の席もありません。
「テイクアウトならどう? 座席がいらないし。
オニギリなら誰でも作れるんじゃない?」
「確かにいいかもしれないね。具材を工夫すれば色々楽しめるし」
「そのオニギリ? というのはどういう料理ですか?」
「中心に梅干しなどの具材が入るようにご飯を握ったものだよ」
「ご飯? ですか」
「えーと。お米を炊いたものだけど」
「お米?」
ミーヤさんが首を捻ります。
「そういえば、私、夢の中以外でお米を見たことないわ」
「てことは、この国にお米はないのかい?」
「多分、そうかもしれない」
「そうか、この国ではご飯を食べられないのか……」
何故か、マーサルがショックを受けています。
「マーサルさんの国から輸入できないのですか?」
「マーサルがいた国はね『ニホン』というのだけど、聞いたことある?」
「いえ、聞いたことありませんね」
「それだけ遠い国なの。だから無理だと思うわ」
「そうですか……」
結局、この後マーサルがショックから回復することもなく、新しい案も出てこなかったことから、各自で改善案を考えておくことで会議は終了となりました。
私は別に他の宿でもよかったのですが、マーサルが気に入ったようですし、稼げたら戻って来ると言ってあったので、戻らないと稼げなかったと思われるのも癪に障ります。
金貨三枚、十分に稼いで、堂々の凱旋です!
ミーヤさんも喜んでくれることでしょう。
案の定、黒曜亭に着くとミーヤさんが大喜びで迎えてくれました。
「また来てくださったのですね! ありがとうございます。何か特別サービスをしたいのですが、何かご希望はありますか?」
「あ、そういうのいいから、余計なことしないで」
「はい。すみません……」
私が素っ気なくサービスを拒否しると、先ほどまでテンションマックスだったミーヤさんが、途端に項垂れてしまいました。
別に私が悪いわけではないのに、申し訳ない気持ちが湧いてきます。
「それで、今日から一月ほど泊まりたいと思うのだけど、大丈夫かしら?」
「一月ですか! 大丈夫ですけど。本当ですか!!」
「そう、大丈夫なのね? それじゃあ宿泊費、前金で金貨一枚と大銀貨五枚でいいわよね?」
私は今日稼いだお金の半分をミーヤさんに渡します。
「はい確かに、って。えー!! 本当に。前金でもらっていいんですか! ミハルさんたちが困りませんか!」
「今日は随分稼げたからね。心配せずに受け取って」
「ありがとうございますぅ(泣)。これで今月分の借金が返済できますぅ。このままだと、借金が返せないで借金奴隷にされるところだったんですぅ」
ミーヤさんが私の手を取り泣き出してしまいました。
しかし、そこまで切羽詰まっていたとは知りませんでした。
借金奴隷と聞かされると他人事とは言えません。
「借金奴隷にされるほど困っていたとは知らなかったわ」
「前のオーナーの時は常連客がいて、こんな路地裏でも十分にやっていけたようなのですが、私が引き継いでから、いろいろサービスしたのに関わらず、常連さんが離れてしまって、借金を返す目処が立たなくなってしまったんです」
「ああ、そうね。元いた常連さんは、静かに過ごしたかっただろうから、そのサービスは逆効果だったのでしょうね」
「えー! そうなのですか?!」
「ミーヤさんの場合、サービス過剰なのよ。静かに過ごしたいお客さんには煩わしいだけよ」
「そんなー! じゃあ、私は何もしない方がいいのですか?」
「それだと、今更、こんな路地裏までやってくる客はいないと思うわ?」
「それじゃあどうすればいいんですか?」
「私に聞かれてもね。それを考えるのもオーナーの仕事でしょ」
「ううう(泣)」
「ミハル、そんな意地悪言わないで助けてあげようよ。元ギルドの受付嬢だったミハルなら、いいアイデアが浮かぶだろ?」
先ほどから黙って二人のやりとりを聞いていたマーサルがミーヤさんの肩を持ちます。
私はマーサルの方に振り返ります。
「マーサル。まったくマーサルはミーヤさんに甘いんだから!」
「ミハルさん、私からもお願いしますぅ。どうかお助けくださぃ(泣)」
「仕方がないわね。マーサルも協力するのよ?」
「勿論!」
「ありがとうございますぅ」
そして、私たちは黒曜亭を盛り上げるための会議を始めました。
「前のオーナーの時は流行っていたなら、前と同じにすればいいんじゃないか?」
「さっきも言ったけど、それだと、一度離れた客はなかなか戻ってこないと思うわ。
第一、前のオーナーの場合、寡黙な態度がにあっていたかもしれないけど、ミーヤさんはそういうキャラじゃないでしょ。正反対じゃない。合わないわ」
「そうですね。私も、黙っているより、お客さんとお喋りしたいです」
「そうなると、新しい『黒曜亭』ならではの『ウリ』が必要だな」
「いっそ、名前から変えてしまうのはどう。『黒曜亭』とミーヤさんのキャラが合っていないわ。
もっとも、ミーヤさんが『黒曜亭』の名前にこだわりがあるなら、この案は却下だけど」
「別に『黒曜亭』の名前に拘りません。私に合う名前があればそれの方がいいです!」
「それじゃあ、名前は変更する方向で考えるとして、問題の『ウリ』は何かあるかな?」
「そうね。マーサルの国の料理なんかどうかしら? 確かこの国では珍しい料理があったわよね」
私は夢の中で美味しく食べた日本の料理を思い出します。
「異国の料理ですか? それは目を引きますね」
「確かにこの国にない料理はあるだろうけど、僕は料理をしないから、作り方がわからないよ。
それにカウンターしかない食堂じゃ、料理目当てにお客が来ても、困ることになるんじゃないかな?」
「確かに、このカウンターじゃね……」
カウンターは六人がけです。宿泊者全員分の席もありません。
「テイクアウトならどう? 座席がいらないし。
オニギリなら誰でも作れるんじゃない?」
「確かにいいかもしれないね。具材を工夫すれば色々楽しめるし」
「そのオニギリ? というのはどういう料理ですか?」
「中心に梅干しなどの具材が入るようにご飯を握ったものだよ」
「ご飯? ですか」
「えーと。お米を炊いたものだけど」
「お米?」
ミーヤさんが首を捻ります。
「そういえば、私、夢の中以外でお米を見たことないわ」
「てことは、この国にお米はないのかい?」
「多分、そうかもしれない」
「そうか、この国ではご飯を食べられないのか……」
何故か、マーサルがショックを受けています。
「マーサルさんの国から輸入できないのですか?」
「マーサルがいた国はね『ニホン』というのだけど、聞いたことある?」
「いえ、聞いたことありませんね」
「それだけ遠い国なの。だから無理だと思うわ」
「そうですか……」
結局、この後マーサルがショックから回復することもなく、新しい案も出てこなかったことから、各自で改善案を考えておくことで会議は終了となりました。
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