1 / 11
1
しおりを挟む
それは、ある夏の日のことだった。小学生の私は、家族づれで、とある片田舎の温泉地にあるホテルに泊まることになった。同級生の友人と、その家族も一緒である。
温泉地へは、友人の父親の運転する車で向かった。高速道路を使って、三時間ほどで到着した。近場の観光地であったが、小学生の私と友人にとっては、それは夏のちょっとした冒険であった。
ホテルに着くと、互いの家族は部屋で少し休むこととした。しかし、子供の体力は無尽蔵である。私と友人は、さっそく連れ立って、探検にでかけることとした。
「ホテルの敷地からは出ちゃだめよ」
そう母親に言われ、私は頷いた。逆らう気もなかった。
ホテルはバブル期に造られた、時代遅れのいかめしい造りだった。廊下に貼られた赤いじゅうたんも、だいぶ多くの旅行者に踏まれて、ほぼ全体が白くかすれていた。ところどころ、完全に毛が剥がれて、下地が露出してしまっているところもあったくらいである。
私と友人とは、人気のない六階建てのホテルの中をくまなく探検した。おそらく今までに活躍したこともないであろう、赤さびだらけの非常階段に至るまで、隅々走り回った。
ホテル内の探索を終えた私と友人は、一階のロビーへと降りた。この時代に造られたホテルには、大型のホールや宴会場が備わっていることが多い。このホテルには、ステージつきのちょっとしたホールが、本館とは離れた場所に設置されていた。私と友人は、当然のように、そのホールへ向かった。
足を踏み入れた時、ホールには照明のたぐいが灯っておらず、真夏の昼間でもかなりの暗さであった。風通しもあまりよくないのか、少しかび臭い臭いがした。白塗りの壁に触れると、夏の湿気にあてられているためか、少しぬめっと湿っている感じがした。
しかし、ステージには、真新しい花輪や、豪華な生け花が飾られ、その上には、私達が開けた扉から入り込むわずかな光さえも、どん欲に受け止めギラギラと反射して輝く大型のミラーボールが設置されていた。そして、そのステージ脇には、一つの看板が置かれていた。
看板には毛筆で、ウィメンズ・ボディビル・コンペティション、と記されていた。
続
温泉地へは、友人の父親の運転する車で向かった。高速道路を使って、三時間ほどで到着した。近場の観光地であったが、小学生の私と友人にとっては、それは夏のちょっとした冒険であった。
ホテルに着くと、互いの家族は部屋で少し休むこととした。しかし、子供の体力は無尽蔵である。私と友人は、さっそく連れ立って、探検にでかけることとした。
「ホテルの敷地からは出ちゃだめよ」
そう母親に言われ、私は頷いた。逆らう気もなかった。
ホテルはバブル期に造られた、時代遅れのいかめしい造りだった。廊下に貼られた赤いじゅうたんも、だいぶ多くの旅行者に踏まれて、ほぼ全体が白くかすれていた。ところどころ、完全に毛が剥がれて、下地が露出してしまっているところもあったくらいである。
私と友人とは、人気のない六階建てのホテルの中をくまなく探検した。おそらく今までに活躍したこともないであろう、赤さびだらけの非常階段に至るまで、隅々走り回った。
ホテル内の探索を終えた私と友人は、一階のロビーへと降りた。この時代に造られたホテルには、大型のホールや宴会場が備わっていることが多い。このホテルには、ステージつきのちょっとしたホールが、本館とは離れた場所に設置されていた。私と友人は、当然のように、そのホールへ向かった。
足を踏み入れた時、ホールには照明のたぐいが灯っておらず、真夏の昼間でもかなりの暗さであった。風通しもあまりよくないのか、少しかび臭い臭いがした。白塗りの壁に触れると、夏の湿気にあてられているためか、少しぬめっと湿っている感じがした。
しかし、ステージには、真新しい花輪や、豪華な生け花が飾られ、その上には、私達が開けた扉から入り込むわずかな光さえも、どん欲に受け止めギラギラと反射して輝く大型のミラーボールが設置されていた。そして、そのステージ脇には、一つの看板が置かれていた。
看板には毛筆で、ウィメンズ・ボディビル・コンペティション、と記されていた。
続
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる