上 下
10 / 11

町にかかる虹

しおりを挟む
 もさっとおじさんに、元町長さんが言いました。

「もどってきてくれて、本当によかった。町の人を代表して、言わせてほしい。この町には、きみが必要なのだ。どうか、またもとのように、この町で私たちと一緒に、暮らしてくれないか」

 頭を下げる元町長さんと、町の人たちを前にして、もさっとおじさんは、口をもごもごさせながら、でも、と言いました。

「町の人みんなが楽しそうにお仕事をしているのに、ぼくだけ働いていないというのは、ぼくとしても本当はつらいんです」

 うつむくおじさんの肩に、元町長さんがそっと手を置きました。

「その件についてだが、実はつい先ほど、この町に新しい仕事が一つ、必要になった。それは、町長秘書の仕事だ。なにしろ、このよつんばいでけむくじゃらの町長は、確かに最高にプリティでキュートでファンシーなのだが、人の言葉はしゃべれんだろう。それに、蝶ネクタイだって、自分では結べない。だから、きみに、町長につきっきりでお世話をしてくれる、町長秘書になってもらいたいんだ」

「えっ、こんなぼくが町長秘書だなんて、そんなこと、できるでしょうか?」

 不安そうなもさっとおじさん。元町長さんは、モフモフ犬の顔を覗き込んで、うかがいました。

「できるとも。そうですね、モフモフ町長?」

 難しい話で、モフモフ犬には、よく意味がわかりませんでした。

 わかったのは、これからはもさっとおじさんと、ずっと一緒にいられそうということだけでした。

 モフモフ犬は、ワン! と大きな声で鳴きました。

 元町長さんは、ポケットから、新品の真っ白なシルクの蝶ネクタイを取り出すと、もさっとおじさんに手渡しました。

「さあ、町長秘書くん。最初のお仕事を、よろしく頼むよ」

 もさっとおじさんは、照れくさそうに笑いながら、のろのろとした手つきで、モフモフ犬の首にその蝶ネクタイを結びました。そして、モフモフ犬に言いました。

「この蝶ネクタイ、最高に似合っているな。これからは、ずっと一緒にいられるぞ」

 それを聞いて、モフモフ犬は、千切れんばかりにしっぽを振りました。

 そして、ワン! ワン! ワン! と何度も鳴きました。

「てやんでい、やろうども、ぼさっとするない! 町長の号令だ! 新しい町長と、町長秘書どのを、胴上げしろい!」

 親方が言うと、お弟子さん達は、もさっとおじさんとモフモフ犬を、胴上げしました。

「モフモフ町長、ばんざーい! 町長秘書、ばんざーい!」

 その時です。それまで降り続いていた雨が、突然ぴたりと止みました。

 町の上を覆っていた雲の切れ目から、お日様が少しだけ、久しぶりに顔を出しました。

 もさっとおじさんも、町の人たちもみんな、ずぶぬれになりながら、宙を舞うモフモフ犬を見ています。

 だから、それに気づいたのは、モフモフ犬だけでした。

 町の上に、大きな虹が出ていたのです。

 それを見て、モフモフ犬は思いました。

 やっぱり、ここは天国だったみたい、と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三毛猫みー子の話

永山もか
児童書・童話
とある三毛猫:みー子の(本猫にとっては)長い一日と、(本猫にとっては)大冒険のお話です。 猫好きさんはもちろん、そうでない人にも楽しんでいただけたら幸いです。 ※カテゴリをとても迷いました。子ども向けに書いているわけではないけれど童話風味ではある、という感じです。 ※表紙は我が家の猫です。みー子のモデルになった部分もあったりなかったり。

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

Sadness of the attendant

砂詠 飛来
児童書・童話
王子がまだ生熟れであるように、姫もまだまだ小娘でありました。 醜いカエルの姿に変えられてしまった王子を嘆く従者ハインリヒ。彼の強い憎しみの先に居たのは、王子を救ってくれた姫だった。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

悪魔図鑑~でこぼこ3兄妹とソロモンの指輪~

天咲 琴葉
児童書・童話
全ての悪魔を思い通りに操れる『ソロモンの指輪』。 ふとしたことから、その指輪を手に入れてしまった拝(おがみ)家の3兄妹は、家族やクラスメートを救うため、怪人や悪魔と戦うことになる!

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

空をとぶ者

ハルキ
児童書・童話
鳥人族であるルヒアは村を囲む神のご加護のおかげで外の人間による戦争の被害を受けずに済んでいる。しかし、そのご加護は村の人が誰かひとりでも村の外に出るとそれが消えてしまう。それに村の中からは外の様子を確認できない決まりになっている。それでも鳥人族は1000年もの間、神からの提示された決まりを守り続けていた。しかし、ルヒアと同い年であるタカタは外の世界に興味を示している。そして、ついに、ご加護の決まりが破かれる・・・  

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

処理中です...