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パレード(雨天決行)
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次の日、カンパニュラの丘の真ん中に、特設ステージが用意されました。
ステージは、大工の親方とそのお弟子さん達特製の、屋根付きの立派なものでした。
そのステージの前に、町中の人が集まって、雨の中だというのに、まるでお祭りのようににぎやかです。
パン屋さんや喫茶店のお姉さんも、テントをはって、サンドイッチやハーブティを配っています(しかもタダで!)。
町の人が全員そろった頃合いを見計らって、町長さんがステージに上がりました。
「お集まりの皆さん。本日は、お足元のお悪い中、お集まりいただきまして、まことに恐縮でございます」
町長さんは、町の人たちに向かって、深くお辞儀をしました。
「さて、すでに昨日、お話をいたしましたが、改めて皆さんにお伝えしたいことがございます。本日、今、この瞬間をもって、私は、この町の町長をやめさせていただきます。長い間、大変お世話になりました」
元町長さんは、もう一度、深くお辞儀をしました。町の人は、拍手で町長さんをねぎらいました。
拍手が鳴りやまない中、一つの箱が、ステージに置かれました。そして、町の人ひとりひとりに、一枚ずつ、紙が配られました。
「ですので、さっそくですが、新しい町長になる方を、皆さんに選んでいただく必要がございます。お配りした紙に、新しい町長にふさわしいと思う方のお名前を書いて、この箱に順番に、入れてください」
しばらくの間、あたりはしんと静まり返って、町の人が紙に字を書く音だけがしました。
元町長さんは、思い出して、付け加えました。
「ああ、そうだ。まだ字が書けない子供達は、名前のかわりに、その方のにがお絵を描いていただいても、結構ですよ。皆さんがこの町で一番好きな方の、にがお絵を描いてくださいね」
それを聞いて、それまでぽかんとしていた小さな子達も、元気よくえんぴつで絵をかきました。
その後、町の人達は、順番に、箱の中に紙を入れていきました。
全員が紙を入れ終わると、元町長さんは、みんなの前で箱を開けて、中の紙を全部、ステージの上に出しました。
そして、そのうちの一枚を拾い上げると、そこに書かれていた名前を、読みあげました。
「モフモフ犬くん、一票」
歓声があがりました。元町長さんは、紙を一枚一枚拾い上げて、どんどん読んでいきました。
次の一枚には、几帳面でていねいな字で、「モフモフ犬さん」と書いてありました。
次の一枚には、いい匂いのするペンを使ったきれいな字で、「モフモフ犬ちゃん」と書いてありました。
次の一枚には、びしっと筋の通った元気な字で、「モフモフのワン公」と書いてありました。
その次も、そのまた次も、紙にはすべて、モフモフ犬の名前が書いてありました。
元町長さんは、最後に、にがお絵の描かれた紙をすべて集めました。どの紙にも、毛がモフモフっとしていて、目は黒目でくりっとしていて、しっぽはくるりんと巻き上がっている、犬の絵が描いてありました。
元町長さんは、集めたにがお絵を、ステージの前の子供達に見せながら聞きました。
「この最高にプリティでキュートでファンシーな、犬はどなたかな?」
子供達は大声で答えました。
「モフモフ犬!」
それを聞くと、元町長さんは大きくうなずきました。
「それでは、満場一致をもちまして、モフモフ犬くんを次の町長とすることに、皆さん、ご異議はございませんか?」
町の人は声をそろえて答えました。
「異 議 な し !」
元町長さんは、大きく息を吸い込んで、宣言をしました。
「ご異議ないものと認めます。よって、本日これより、モフモフ犬くんが、この町の町長となりました。さて、新しい町長が誕生したときには、盛大にお祭りをするのが、この町のしきたりでございます。これより、モフモフ犬くんを先頭に、パレードを行います。皆さん、一緒に歌いましょう!」
元町長さんが、うとうとしているモフモフ犬を抱いて、先頭を歩き始めました。
その後ろを、どんな楽器でも演奏できる音楽家さんが、たいことシンバルとトランペットをたった一人で、見事に演奏しながらついていきます。
さらにその後ろを、町じゅうの人が大声で歌って、踊りながら、ついていきました。
♪~
われらの町の 町長は
世にも珍し よつんばい
くるっと上がった 巻きしっぽ
まるで カンペキ クロワッサン
食べられないけど 触りにおいで
プリティ町長 待ってるよ
われらの町の 町長は
世にも珍し けむくじゃら
もふっとふくらむ 毛皮のコート
まるで カンペキ オートクチュール
貸せないけれど 触りにおいで
キュートな町長 待ってるよ
われらの町の 町長は
世にも珍し 真っ黒お鼻
くんと一嗅ぎ なんでもわかる
まるで カンペキ すいしょうだま
あげないけれど 触りにおいで
ファンシー町長 待ってるよ
ステージは、大工の親方とそのお弟子さん達特製の、屋根付きの立派なものでした。
そのステージの前に、町中の人が集まって、雨の中だというのに、まるでお祭りのようににぎやかです。
パン屋さんや喫茶店のお姉さんも、テントをはって、サンドイッチやハーブティを配っています(しかもタダで!)。
町の人が全員そろった頃合いを見計らって、町長さんがステージに上がりました。
「お集まりの皆さん。本日は、お足元のお悪い中、お集まりいただきまして、まことに恐縮でございます」
町長さんは、町の人たちに向かって、深くお辞儀をしました。
「さて、すでに昨日、お話をいたしましたが、改めて皆さんにお伝えしたいことがございます。本日、今、この瞬間をもって、私は、この町の町長をやめさせていただきます。長い間、大変お世話になりました」
元町長さんは、もう一度、深くお辞儀をしました。町の人は、拍手で町長さんをねぎらいました。
拍手が鳴りやまない中、一つの箱が、ステージに置かれました。そして、町の人ひとりひとりに、一枚ずつ、紙が配られました。
「ですので、さっそくですが、新しい町長になる方を、皆さんに選んでいただく必要がございます。お配りした紙に、新しい町長にふさわしいと思う方のお名前を書いて、この箱に順番に、入れてください」
しばらくの間、あたりはしんと静まり返って、町の人が紙に字を書く音だけがしました。
元町長さんは、思い出して、付け加えました。
「ああ、そうだ。まだ字が書けない子供達は、名前のかわりに、その方のにがお絵を描いていただいても、結構ですよ。皆さんがこの町で一番好きな方の、にがお絵を描いてくださいね」
それを聞いて、それまでぽかんとしていた小さな子達も、元気よくえんぴつで絵をかきました。
その後、町の人達は、順番に、箱の中に紙を入れていきました。
全員が紙を入れ終わると、元町長さんは、みんなの前で箱を開けて、中の紙を全部、ステージの上に出しました。
そして、そのうちの一枚を拾い上げると、そこに書かれていた名前を、読みあげました。
「モフモフ犬くん、一票」
歓声があがりました。元町長さんは、紙を一枚一枚拾い上げて、どんどん読んでいきました。
次の一枚には、几帳面でていねいな字で、「モフモフ犬さん」と書いてありました。
次の一枚には、いい匂いのするペンを使ったきれいな字で、「モフモフ犬ちゃん」と書いてありました。
次の一枚には、びしっと筋の通った元気な字で、「モフモフのワン公」と書いてありました。
その次も、そのまた次も、紙にはすべて、モフモフ犬の名前が書いてありました。
元町長さんは、最後に、にがお絵の描かれた紙をすべて集めました。どの紙にも、毛がモフモフっとしていて、目は黒目でくりっとしていて、しっぽはくるりんと巻き上がっている、犬の絵が描いてありました。
元町長さんは、集めたにがお絵を、ステージの前の子供達に見せながら聞きました。
「この最高にプリティでキュートでファンシーな、犬はどなたかな?」
子供達は大声で答えました。
「モフモフ犬!」
それを聞くと、元町長さんは大きくうなずきました。
「それでは、満場一致をもちまして、モフモフ犬くんを次の町長とすることに、皆さん、ご異議はございませんか?」
町の人は声をそろえて答えました。
「異 議 な し !」
元町長さんは、大きく息を吸い込んで、宣言をしました。
「ご異議ないものと認めます。よって、本日これより、モフモフ犬くんが、この町の町長となりました。さて、新しい町長が誕生したときには、盛大にお祭りをするのが、この町のしきたりでございます。これより、モフモフ犬くんを先頭に、パレードを行います。皆さん、一緒に歌いましょう!」
元町長さんが、うとうとしているモフモフ犬を抱いて、先頭を歩き始めました。
その後ろを、どんな楽器でも演奏できる音楽家さんが、たいことシンバルとトランペットをたった一人で、見事に演奏しながらついていきます。
さらにその後ろを、町じゅうの人が大声で歌って、踊りながら、ついていきました。
♪~
われらの町の 町長は
世にも珍し よつんばい
くるっと上がった 巻きしっぽ
まるで カンペキ クロワッサン
食べられないけど 触りにおいで
プリティ町長 待ってるよ
われらの町の 町長は
世にも珍し けむくじゃら
もふっとふくらむ 毛皮のコート
まるで カンペキ オートクチュール
貸せないけれど 触りにおいで
キュートな町長 待ってるよ
われらの町の 町長は
世にも珍し 真っ黒お鼻
くんと一嗅ぎ なんでもわかる
まるで カンペキ すいしょうだま
あげないけれど 触りにおいで
ファンシー町長 待ってるよ
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