もさっとおじさんとモフモフ犬

居間一葉

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蝶ネクタイと町長さんの作戦

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 町長さんはその晩、眠らずにずっと、モフモフ犬のそばにいました。

 そして、じっと考えていました。

 どうしたら、ゴミの問題を解決できるのか。

 どうしたら、モフモフ犬を助けることができるのか。

 町長さんは、寝そべったままの、モフモフ犬の目をのぞき込みました。

 モフモフ犬は、寝そべりながらも、じっとドアを見つめていました。

 もさっとおじさんの帰りを、待っているのだと、町長さんは感じました。

 町長さんは、もさっとおじさんとの約束を、思い出しました。

『うんとうんと大切にして、必ず、必ず、幸せにするから』

 それを聞いた時の、もさっとおじさんの小さな笑顔も、思い出しました。

 町長さんは、もさっとおじさんに帰ってきてもらうしか、方法はないと思いました。

 もさっとおじさんに帰ってきてもらえば、焼却炉を使わなくても、ゴミを片付けてもらえます。

 それに何より、モフモフ犬の元気を取り戻すには、それしかないと思いました。

 町長さんは、もさっとおじさんは、この町に必要な人だったのだと、気づきました。

 仕事をしていなくても、不器用でぼーっとしていて力が弱くてのろまでおんちでも、モフモフ犬と遊んでばかりでも、この町にいてもらわなくてはいけない人だと、気づきました。

 けれど、もさっとおじさんが今どこにいるのか、わかる人は誰もいません。

 それどころか、もさっとおじさんの名前すら、知る人は誰もいません。

 それに、もさっとおじさんを見つけ出せたとしても、無理やりこの町に住んでもらうわけには、いきません。

 この町に、笑って住んでいてもらわなければいけません。

 それは、町長さんにとって、この町の町長としての、大事なお仕事でした。



 月が山に沈み、カンパニュラの丘の方から、お日様が顔を出し始めました。

 にわとりが鳴いて、パン屋さんの煙突から、モクモクと煙が出始めました。

 水を汲みに滝へ向かう、喫茶店のお姉さんの、ブーツの足音が聞こえます。

 カーン、カーン、という、大工の親方とお弟子さん達が、山の木を斧で切る音がします。

 町長さんは、まだ考えています。

 自分にできることはないか。

 町長の自分にできることはないか。

 町の人の笑顔のために。もさっとおじさんの笑顔のために。モフモフ犬の笑顔のために。

 自分が持っているものを全部使って、何かできないか。

 考えて、考えて、考えて……。

 やがて、子供達がモフモフ犬のお世話をしに、町長さんのおうちへやってきました。

 町長さんは、モフモフ犬の元気がないことを、子供達に説明しました。

 子供達は、町長さんの話がまだ終わらないうちから、目に大粒の涙を浮かべました。

 モフモフ犬がもうすぐ死んじゃう。最高にプリティでキュートでファンシーな、モフモフ犬が死んじゃう。

 子供達は泣きながら、それぞれの家に帰っていきました。

 わんわん泣いて帰っていく子供達を見送りながら、町長さんは、モフモフ犬がこの町の人気者であることを改めて思い知りました。

 そのときです。町長さんの頭の中で、ひとつの作戦が思いつきました。



 ……待てよ。

 ……こうして、ああして、もしこうなれば……?



 町長さんは、自分がつけていた蝶ネクタイを外すと、モフモフ犬の首にそれを当てました。

 モフモフ犬は最高にプリティでキュートでファンシーですので、それはぴったり似合いました。

 その姿を確かめると、町長さんは家を飛び出していきました。

 町長さんは、出会う人出会う人みんなに、事情を話し、自分の作戦を説明し、協力してほしいと頼みました。

 町の人たちは、最初はみんな、目を丸くして驚きました。

 ですが、町長さんの話を最後まで聞くと、全員が真剣な顔でうなずいてくれました。

 そしてその日は、町中のお店が、お休みとなりました。

 何よりも自分のお仕事が大事で大好きな、この町の人が、その日だけはお仕事を休みました。

 町長さんが考えた、作戦の準備のために。

 もさっとおじさんと、モフモフ犬のために。

 この町のために。
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