もさっとおじさんとモフモフ犬

居間一葉

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もさっとおじさんの奮闘努力

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 ある日、町長さんは、もさっとおじさんのところへやってきて、こう言いました。

「きみきみ、そんなパンの耳ばかりかじってないで、いっそパン屋さんで働く気はないかね。パン屋さんでしっかり働けば、最高に美味しいサンドイッチだって毎日食べられるよ。大丈夫。私がいっしょに行って、パン屋さんにお願いしてあげるから」

 もさっとおじさんも、評判の美味しいサンドイッチが毎日食べられると言われて、ちょっとやる気が出ました。

 その日のうちに、町長さんと一緒にパン屋さんに行きました。パン屋さんも、町長さんの頼みならと、こころよく承知してくれました。

 パン屋さんが昔使っていた、長くて白い帽子を借りてかぶると、おじさんのぼさぼさの髪も隠れて、見た目はなかなかかっこよくなりました。

 おじさんは、モフモフ犬にいいました。

「どうだい、この帽子は。なかなか似合うだろう。これからは、お前にもあのサンドイッチを食べさせてやれるかもしれないな」

 おじさんは上機嫌でしたが、モフモフ犬はあまり喜びませんでした。

 次の日から三日間、おじさんはおじさんなりに一生懸命働きました。

 ですが、おじさんは手先が不器用で、パンをうまく作れませんでした。

 石臼を使えば、小麦粉に小麦のカラが混じってしまいました。

 パン生地をこねる時も、うまくパンの形を作れず、生地を固くダメにしてしまいました。

 最悪なのは、オーブンから焼いたパンを取り出すときに、つまずいて、焼いたばかりのパンを全部床に落としてしまいました。

 パン屋のおじさんは、優しい人ですが、お仕事には一生懸命です。

 おじさんは、町長さんのところに来ると、帽子を脱いで、申し訳なさそうに言いました。

「町長さん。すまないが、彼はパン作りには向いていないみたいだ。他の仕事を探してやってくれないか」

 その夜、落ち込むもさっとおじさんの隣に、モフモフ犬がそっと寄り添いました。

 ちなみに、もさっとおじさんが床に落としたパンは、売り物にならないので、全部モフモフ犬が食べました。



 別の日、町長さんはまた、もさっとおじさんのところへやってきて、こう言いました。

「きみきみ、ちょっと失敗したくらいで、落ち込むんじゃない。そうだ、気分が落ち込んだときは、喫茶店のハーブティを飲むといい。いっそ、喫茶店で働いてみないかね。大丈夫。私がいっしょに行って、お姉さんに頼んであげるから」

 もさっとおじさんは、喫茶店のきれいなお姉さんと毎日一緒に働くのを想像しました。そうしたら、なんだかハーブティを飲まなくても、元気が出てきたようです。すけべですね。

 その日のうちに、町長さんと一緒に喫茶店に行きました。お姉さんも、町長さんの頼みならと、こころよく承知してくれました。

 お姉さんが昔使っていた、きれいな白いエプロンをつけると、おじさんのぼろぼろの服も隠れて、見た目はなかなかかっこよくなりました。

 おじさんは、モフモフ犬にいいました。

「どうだい、このエプロン。なかなか似合うだろう。これからは、お前も一緒に、お姉さんと遊べるかもしれないなあエヘヘ」

 おじさんは上機嫌でしたが、モフモフ犬はこいついやらしいなあと思いました。

 次の日から一か月間、おじさんはおじさんなりに一生懸命働きました。

 ですが、おじさんはぼーっとしていて、お客さんの注文どおりのお茶を作れませんでした。

 まず、お客さんの注文を間違えました。カフェ・ラッテを注文されたのに、カフェ・オレを出したりしてしまいました。

 ハーブティの効果とブレンドの割合も、覚えられませんでした。

 例えば、勉強をしに喫茶店にやってきたお客さんには、集中力を高めるローズマリーを多く入れなければいけないのに、間違えて、リラックス効果のあるカモミールをどっさり入れてしまいました。

 そのお客さんは、テーブルでスヤスヤ眠ってしまいました。

 喫茶店のお姉さんは、美人ですが、お仕事にはきびしい人です。

 お姉さんは、町長さんのところに来ると、エプロンを外して、申し訳なさそうに言いました。

「町長さん。ごめんなさい。私には、おじさんにお茶の入れ方を教えるのは難しいみたいです。おじさんには、何か別のお仕事が向いているんじゃないかしら」

 その夜、モフモフ犬は、ふてくされるおじさんと、ずっと遊んであげました。

 ちなみに、ブレンドの割合がめちゃくちゃのハーブティは、売り物にならないので、モフモフ犬の毛を洗うシャンプーのかわりに使いました。



 別の日、町長さんはこりずに、もさっとおじさんのところへやってきて、こう言いました。

「きみきみ、気持ちは分かるが、ふて寝ばかりしていてもいいことはないぞ。そうだ、どうせ寝るなら、そんな地面の上じゃなくて、ちゃんとしたベッドをこしらえて寝たらどうかね。大丈夫。私がいっしょに行って、大工の親方のお弟子さんに加えてもらえるように、話してあげるから」

 もさっとおじさんは、筋肉ムキムキのマッチョ・ガイになった自分を想像しました。そうしたら、なんだか無性に、身体を鍛え上げたくなりました。

 その日のうちに、町長さんと一緒に親方にあいさつに行きました。親方も、町長さんの頼みならと、こころよく承知してくれました。

 親方のお弟子さん達とお揃いの、小粋な白いねじりはちまきをつけると、おじさんの顔つきも多少しゃっきりとして、見た目はなかなかかっこよくなりました。

 おじさんは、モフモフ犬にいいました。

「どうだい、このはちまき。なかなか似合うだろう。そうだ、お前にも立派な犬小屋を作ってやろうな」

 おじさんは上機嫌でしたが、モフモフ犬は、自分はこのほら穴で十分だと思いました。

 次の日から半年間、おじさんはおじさんなりに一生懸命働きました。

 ですが、おじさんは腕の力が弱すぎて、木をまっすぐ切ることができませんでした。

 モフモフ犬の犬小屋も作ったのですが、そもそも木がまっすぐに切れないので、屋根は雨漏りするし、柱は曲がっているし、床は穴だらけですきま風がひどくて、ほら穴の方がまだマシという仕上がりになってしまいました。

 おまけに、釘などもちゃんと打てていないものですから、持って帰る途中で、犬小屋はひとりでにバラバラにくずれて、もとの板切れに戻ってしまいました。

 大工の親方は、面倒見のいい頼れる熱血漢ですが、お仕事にはこだわります。

 親方は、町長さんのところに来ると、ねじりはちまきをとって、申し訳なさそうに言いました。

「町長のだんな、おいらは今まで何十人も弟子を育ててきたが、あのやろうほど大工に向いてねえやつは初めてだ。すまねえが、別の仕事を見つけてやっておくれんかい」

 その夜、おじさんはとうとう、シクシクと泣いてしまいました。その涙を、モフモフ犬はペロペロ舐めてやりました。

 ちなみに、バラバラになった板切れは、モフモフ犬のおもちゃになりました。
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