童貞とイタチと缶ポタージュ

居間一葉

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一人と孤独の違い

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 「真正童貞心理」について、最近また考えるようになった。
 理論としての正しさはさておいて、あの夜から、僕の中で一つの疑問が湧いている。
 果たして、僕は本当に「一人にしてもらうことを何より好む人間」なのだろうかという疑問である。
 あの日、結局のところ、僕は一人になりたかったのか、そうでなかったのか、自分でも答えが出ないのだ。
 ギョロ目に実家住まいを揶揄されたときは、家族といることこそ人間の正しい姿だと思った。
 なのにあの日は、厳寒期の夜中であるにも関わらず、まっすぐ自宅に帰らず、この公園にやってきた。
 ここでイタチと出会い、放っておけばいいのに、缶ポタージュを振舞いたいという仏心を起こした。
 その結果、あまりに無様で滑稽な姿を晒し続けたのは、すでにご存じのとおりである。
 挙句の果てには、イタチの手によってあっけなく、恥ずかしい体液を放出した。その数時間前には、団子虫の小便姿に眉をひそめておきながら、より罪深い体液を、世間様に向けてぶちまけたのである。
 僕の一連の行動を、もし俯瞰している存在がいたとしたら、むしろ、人恋しく温もりを求める、ありきたりの普通の人間としか見ないだろう。
 逆説的だが、僕が好む「一人でいる」とは、「ただし、求めればいつでも温もりが得られる」という留保あってのものなのかもしれない。
 イタチがオコジョではなく、やはりイタチであるように、僕は本当の孤独にはとても耐えられない、ごく普通の人間なのだと、思い始めている。
 あの日、僕を苛立たせ、焦らせ、不安にさせた本当の原因は、ギョロ目の言葉でも、団子虫の小便でもなかった。
 自分自身が作った狭く凝り固まった理論と、自分こそ孤独を愛する孤高の存在であるという幻想とが、他ならぬ僕自身を苦しめていたのだ。
 それに気づくと、あの夜が一際懐かしく感じられる。
 年も暮れようとするあの夜に、孤独を恐れ、温もりを求めていたのは、多分僕だけではなかった。
 ギョロ目、主任、団子虫達、公園のカラス。そして、イタチ。
 皆、温もりが欲しかったのだ。  

 考えているうちに、空き缶の中の水は、全て流れ出ていた。乾ききった冬の地面に、深く、優しくしみ込んでいく。
 僕は空き缶を、再びベンチの下に置いた。ただし、今度は上下を逆さまにしてみた。
 こうしておけば、イタチの目に留まるかもしれないと思ったのである。
 僕は立ち上がった。
 もし、イタチに再会したら、何と声をかけようか。
 今から考えて発声練習しておかなければ、またカラスに笑われてしまうかもしれない。

「僕と一緒に、一人でいよう」

 思いついた言葉を、何度も呟きながら、僕は公園を後にした。
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