童貞とイタチと缶ポタージュ

居間一葉

文字の大きさ
上 下
10 / 14

「あったかくして」

しおりを挟む
 僕たちは手を繋いだまま、その場で会話をした。
 いや、会話というより、僕が一方的に喋っただけだ。イタチが、「何か話して」と僕に頼んできたのだ。
 気の利いた話など、僕は当然持ち合わせていない。今日この数時間に起きたことを、思いつくままに語った。
 ギョロ目という小デブのこと。主任のサボり癖。夜のサンバ。屋台のおでんに集まる団子虫。その小便事情。缶ポタージュを選んだ理由。
 イタチは所々で「それで?」と相槌を打った。そして、それぞれの話題の最後は必ず「ばかじゃん」で締めくくった。
 僕が喋る。イタチが相槌を打つ。また僕が喋る。「ばかじゃん」とイタチが笑う。いつからか僕も一緒に笑えるようになった。
 話題が尽きかけていた。僕たちはしばらく沈黙した。
 オリオン座の話でもしようかと、僕が口を開きかけた時だった。
「寒いね」
 イタチはそういうと、上半身を僕に寄りかからせた。
「手が、寒い」
 そして、その両手を、僕のコートのボタンの間から、中へと潜り込ませてきた。イタチの小さくて冷たい手が、コートとシャツの間で、僕の胸の下辺りと、臍の下辺りに、それぞれ押し付けられ、その場でもぞもぞと動いた。
「あったかくして」
 イタチは頭を僕の肩に乗せて、僕を見上げて言いながら、胸の下に当てていた手で、僕のシャツのボタンを一つ外した。そして、そのままその中へと手を滑り込ませてきた。ほんの一瞬の出来事で、僕は最初、何をされているのか分からなかった。
 僕ははっとして、腰を浮かせた。イタチのもう片方の手が、僕のズボンのファスナーを摘まんだのだ。
 僕は面食らった。イタチが何をしようとしているのか、おおよその予想はついた。無意識に、左手でコートの上から、股間を押さえた。イタチの小さな手が、ズボン越しではあるが、僕の粗末なものに密着した。イタチは目を丸くして、瞬きさせた。
 僕は赤面した。まさか、こんな展開になるとは。
 イタチは何のつもりなのだろうか。缶ポタージュのお礼として、そういうことをしてあげる、ということだとしたら、まずいことになったと思った。対価を伴う性的サービス、それは売春だ。営業の許可なく売春を行えば、売春防止法違反である。
「だ、だめ、法律が」
「ばかじゃん」
 僕の法律論はイタチに一撃でKOされた。緩んだ僕の手の下で、イタチの指がファスナーを下ろした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

坊主女子:スポーツ女子短編集[短編集]

S.H.L
青春
野球部以外の部活の女の子が坊主にする話をまとめました

処理中です...