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2つの秘密
選ぶ道は…
しおりを挟む「エルファさん。…僕は、貴女の心がちゃんと開くまで待っています。…ずっと想いは変わりませんから…」
私は…
「あの…」
コンコン。
エルファが何かを言いかけると、ノックの音がした。
「皇子様、早急に書類にサインをお願いしたいので執務室へお戻りください」
リューディがやって来た。
「呼ばれてしまいましたね」
ヨシヨシと、シャルロはエルファの頭を優しく撫でた。
「お体、ご自愛下さい。無理をしないように」
それだけ言うと、シャルロは部屋を出て執務室へ戻って行った。
エルファは胸の奥の方から込みあがって来る想いを感じた。
(愛しています…ずっと…)
大好きな人の声。
その声は忘れているあの夜の人の声。
でもどこかシャルロに似ているような気がする…。
シャルロに触れられると、胸の奥の方からキュンと何かが込みあがって来る。
私は…皇子様を愛してしまったのだろうか?…
そう自分に聞いたエルファ。
でも…。
エルファはそっとお腹に手をあてた。
「ここには…あの夜の子供がいる…。この子は、皇子様の子供ではない…」
スッと立ち上がったエルファは、そのまま部屋を出て行った。
決意をしたエルファは、シャルロに離縁を申し出ようと決めた。
このまま騙し通してはいけない。
そう思って執務室へと歩いていたエルファ。
「あ、エルファさん」
廊下を歩いているエルファに、ジュニアールが声をかけてきた。
そっと会釈をするエルファ。
「体調は大丈夫ですか? 」
「申し訳ございません、ご心配をおかけして…」
「気にしないで下さい。慣れないお城の生活ですから、お疲れなんですね」
「すみません…」
「あ、そうでした。結婚式の写真が出来上がってきました。一緒に見ませんか? 」
「あ…はい…」
何となく返事をしたエルファ。
本当はシャルロに一刻も早く離縁の話をしなくてはならないのに…。
そう思いながら、エルファはジュニアールの部屋に一緒にやって来た。
日当たりの良い南向きの部屋に、クローゼットと本棚があり天井からはオシャレなシャンデリアが吊るしてある。
カーテンはシンプルなブルー系。
茶系のソファーに木材で出来たテーブル。
本棚には幸せそうに笑っているジュニアールとセシレーヌの、結婚式の写真が飾ってあり、シャルロぁ小さい頃お写真も飾っている。
見るからに暖かい部屋だ。
ソファーに座って、結婚式の写真を見せてくれるジュニアール。
シャルロとエルファが2人で並んで写っている写真。
シャルロは本当に幸せそうな笑顔で写っているが、エルファは何とか口元だけ笑いを浮かべている。
「とっても綺麗ですね。シャルロのこんな幸せそうな顔を見るのは、私も初めてなんです」
嬉しそうにジュニアールが言った。
「エルファさんのウェディングドレス。実はシャルロがとても真剣になって、選んだドレスなのですよ」
「え? ・・・」
「結婚式の1週間前だったと思います。もう、ドレスは決まっていたのですが。シャルロが「これはダメです。他のドレスを見せて下さい」って言いだしましたので、グリーンピアト中のウェディングドレスを見せてもらいました。その中で、このドレスを選んだのです」
エルファは改めて、自分の着ているウェディングドレスを見てみた。
露出が少なく、まるで短い髪を想定したかのように合わせた帽子。
露出を覆って隠してくれるようなレースに、オシャレなチョーカー。
後ろのリボンはエルファの可愛さを、さりげなくアピールしてくれているような・・・。
ヘッドドレスも、エルファの顔があまりハッキリとは見えないように隠してくれているようで・・・。
写真を見ていると、エルファの胸がチクリと痛んだ。
「エルファさんにとっても似合っているドレスで、私も驚いていたのです」
「はい・・・」
エルファは潤んだ目を見られたくなく俯いた。
「エルファさん。シャルロは、奇跡の子なんです」
「奇跡の子? 」
「私は、前妻を事故で亡くしていまして。セシレーヌとは再婚でした。再婚前に、私は心臓手術を受けまして、その時の担当医がセシレーヌだったのです。初めてセシレーヌに会った瞬間、とても惹かれましてね。前妻を亡くして10年、誰とも再婚はしないと決めてきたのですが。そんな思いも、いっぺんに消えてしまうくらいだったのです。でも、セシレーヌは、私との結婚をなかなか承諾してくれなかったのです。「私は、あんたの奥さんの命を奪った人間だから」と言ってましてね」
エルファはゆっくりと、ジュニアールを見た。
目と目が合うと、ジュニアールはそっとエルファに微笑んだ。
「初めてですね、目を合わせてくれたのは」
ハッとなり、エルファは視線を落とした。
「そうゆう所。セシレーヌとにていますね。…セシレーヌも何かを思いつめると、目を反らしてしまいますから。私を拒絶した時も、辛そうな目をしていました。言葉とは違う事がわかりましたが、結局セシレーヌは、前妻の心臓を移植してもらって命を長らえただけだったのです」
ぎゅっと、エルファは右手を握り締めた。
「前妻が脳死だったので。ドナー登録していた事から、タイミングが良く、セシレーヌに心臓が移植されたのですが。セシレーヌは、自分のせいで前妻が永遠に命を奪われたと思い込んでいたのです。実際は、そうではなく。ただ、命を紡いだだけだったのですよ。前妻がセシレーヌに命を紡いでくれたおかげで、私は命を取り留める事ができました。そして、前妻がセシレーヌに命を紡いでくれたおかげで、私はまた心から愛する人にであえました。…シャルロは、奇跡の子だと私は思っています。前妻の子ミディスとも、異母姉弟(きょうだい)であっても、紡がれた命で血が繋がっていますからね」
奇跡の子。
そんなにすごい人が、どうして私を選んでくれたのだろう…。
エルファは不思議に思った。
きっとシャルロは、沢山の人に護られている。
沢山の愛に包まれている…。
だから、いつもあんなに余裕なのかもしれない。
そんな人を裏切る事をしている自分に、とても罪悪感を感じた。
「エルファさん。シャルロが、貴女を選んだ事は間違っていないと私も思います」
ジュニアールはそっと、エルファの手に手を重ねた。
「貴女の中に、深い悲しみがある事。私も感じています。…その悲しみを、すぐに忘れる事なんてできない事も判ります。だからせめて、これからは何も隠し事はしないで、自分に正直になって欲しいのです。それが、あなた自身が幸せになる一番の道ですから」
重ねられたジュニアールの手から、とても暖かい温もりが伝わってくるのをエルファは感じた。
このぬくもりは、シャルロからも感じる。
隠し事…。
確かに隠している事がある。
シャルロに内緒で、名前も知らないあの夜の男性と電話で話している事。
そして、その男性の子供を身ごもっている事…。
こんな重い隠し事をしたまま、これ以上、シャルロと結婚生活を続けることはできない。
エルファはそう思った。
「国王様。有難うございます。…私は、一番自分に嘘をついていると思います」
ゆっくりと、エルファはジュニアールを見た。
「すみません。私、結婚するまで検事だったんです。なので、どちらかと言うと人を疑って、人の悪い所を探す事しかできないままだったのです。でも、一番疑っていたのは自分の事でした。自分の悪いとこを探して、それを人のせいにしていたと思います。…こんなに優しい人が、近くにいるのに。全然認められないなんて。父がいつも、どんなに悪い人でも、最後まで信じていた気持ちが今なら分かるような気がします…」
「エルファさん。初めて、自分の事を話してくれたのですね。嬉しいです」
満面の笑みを向けるジュニアールを見て、エルファはとても嬉しくなった。
「検事さんでだったのですね。それで、とてもしっかりしている目をしていたのですね。何も恥じる事なんて、ないじゃないですか。人を護る人もいれば、責めてしまう人もいる。貴女はそれを、両方とも学んできたのではありませんか。それだけ、人の気持ちが解るのですから。素晴らしいと思いますよ」
素晴らしい・・・。
シャルロもそう言ってくれた。
素晴らしいと言われるに相応しい人間でいたい。
だから・・・
こうするしかない。
エルファはジュニアールの部屋を後にして、シャルロがいる執務室へとやって来た。
執務室のドアの前で深呼吸をして、ノックをするエルファ。
「はい、どうぞ」
シャルロの返事を聞いて、エルファは執務室へ入った。
入って来たエルファを見て、シャルロは驚いた目をした。
「珍しいですね。貴女がここに来るなんて。何かあったんですか? 」
いつもの優しい笑顔で出迎えてくれたシャルロを見ると、エルファは胸がチクリと痛んだ。
「すみません、お仕事中に…」
「構いません。どうしたのですか? 」
エルファは少し落ち着くために、一息ついた。
そしてシャルロを見た。
「皇子様。…私と、離縁して下さい」
シャルロはきょんとなった。
突然の事に驚いているようである。
「ごめんなさい。これ以上、貴方と結婚生活は続けられません。…こちらから差し上げたお金は、一切お返し頂かなくて結構です。私の一方的な申し出なので…」
シャルロはようやく状況を把握したのか、ハッとなり自分なりに納得して頷いた。
「分かりました。貴女がそう望むなら、喜んで離縁しますよ」
いつもの笑顔で答えるシャルロ。
そんなシャルロに、少しだけ残念な気持を感じたエルファ・・・。
少し残念そうに俯いているエルファを、シャルロはそっと見つめた。
「エルファさん。これだけはお伝えしておきますね」
エルファに歩み寄り、そっと手を取るシャルロ。
優しい眼差しで見つめるシャルロを見ると、また、エルファの胸が痛んだ。
「結婚式の時、大聖堂のマリア像の前で貴女に伝えた言葉。あの言葉には、一切偽りはありません。心から愛している人は、生涯貴女だけです。そして、これからも貴女の幸せを祈っています」
とても優しいシャルロの眼差し。
この眼差しは結婚式からこの2ケ月、ずっと変わらないままエルファに向けられている。
「…ごめんなさい…」
そう言って、エルファは、机の上に指輪をいた。
「いいえ。僕こそ、ずっと苦しめていたようですみませんでした」
「…本日中に、荷物をまとめて出てゆきます」
「そんなに急がなくていいですよ。離縁にも時間はかかりますから」
「いいえ。では…失礼します」
部屋を出て行こうとしたエルファが、ドアの前で立ち止まった。
シャルロはそっと、エルファの背中を見つめた…。
「皇子様。短い間でしたが、私、とても幸せでした」
そっと、シャルロに振り向くエルファは、悲しそうな目をしていた。
「こんな私を、愛していると言って下さって、本当にありがとうございました…」
悲し気な笑顔を向けて、エルファはそのまま部屋を出て行った。
シャルロはしばらく、エルファが去った後を見つめたまま呆然としていた。
エルファの悲し気な笑顔が、何度も思い出される…。
「僕は…なにをしているんだ? …離縁なんてしたくないのに…。なんで、あんな言葉を…」
シャルロは机の引き出しを開けて、携帯電話を手にした。
「思い出さなくたっていい…。僕は、あの夜エルファと結ばれたんだ! 」
携帯電話を握りしめたまま、シャルロは立ち上がり、そのまま部屋を出て行った。
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